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キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
4章 誰がための再建か
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将棋とは一対一で玉を攻め合い、そして最後に羽生が勝つゲーム

 ペチリと木材と木材が重なりあう音が部屋に鳴り響く。

 結局、ベクトラは同じ宿に泊まることになった。

 夕食を一緒に食べ、各自部屋に戻った。


「うぬぅ……ならばこっちです」


「ほいと」


 ペチリとペチリとリズム良く音が鳴る。

 俺とアルはひとつの板に向かい合っている。


「ちょ、そんな手が……」


「ギブアップか?」


「まだです。まだなのです……」


 アルは真剣な表情でウンウン唸り、俺は余裕を持ってアルを眺めている。

 その態度が戦況の差でもあった。

 手元の駒を弄りながら暇を潰す。

 五角形の木材で出来たそれは、中々の出来だ。自分で作ったので自画自賛だが。


「アポロさん、どうすればいいと思います?」


「対戦者に聞くなよ。諦めればいいと思うが」


「諦めなければ、隕石が落ちてきて勝負がウヤムヤになるかもしれません」


「スケールが大きいな。無理だと思うが」


 9×9のマス目で描かれた木の板。

 マス目にあるのは五角形の木の駒。

 駒には漢字が一文字ずつ書かれている。

 そう、俺は今アルと将棋をさしている。

 リバーシの次に作ったものが将棋だ。


「しかし、作ったはいいが……」


 つい不満が口に出る。

 ウンウン唸って頭を抱えていたアルが顔をあげる。


「なんです?この将棋のことですか?上手に出来てると思いますが」


「出来として俺もそう思うのだが」


「だが?」


「漢字を書いたのは微妙だな。こっちの世界の人は理解出来ないだろう」


「ああ、それはそうですね」


 作っている時は何も思わなかったが、字を入れた後に気がついた。

 これ日本の文字だと。

 作り直すという案もあったが、異世界の文字で書いたら変な感じがするんだよな。なよっとするというか、へにゃっとするか。

 漢字だからこそ将棋は将棋だと思う。記号として通用するのかねぇ、これは。リンと遊ぶ時に感想でも聞いてみるしかない。


「作るのはチェスにすればよかったか……あれなら文字は関係ないし」


「ほんと、アポロさんは器用ですね。チェスの駒を彫るとか考えるだけで大変そうなんですが」


「ボードゲームは趣味でもあるからな、作る苦労はなんのそのだ」


 会話をしながら、駒を動かしている。

 あと数手で詰みだ。


「あ、私は囲碁が得意ですよ!囲碁なら負けません!」


「囲碁かぁ……」


「なんです?アポロさんは囲碁は打てないのですか?ププッ」 


「いや、打てるが……」


「チッ……本当になんでも出来ますね。若い人で囲碁を打てる人ほとんどいませんよ」


「あれを作るのが本当に大変だからな」


「あぁ……」


 細かいのだ。

 将棋の盤面は9×9ですむが、囲碁になると19×19となる。それに合わせて、碁石を用意しなければならない。

 線を引くのも嫌だが、碁石を用意するのはもっと嫌だ。

 囲碁は線の交点に打つのだから石の数は361個。交点全てに打つのではないわけではないから、361個も必要ではない。でも白石、黒石各150はいるなぁ……。将棋と違い、相手の石を取っても使えない。コウ争いした場合、石の消費は激しくなる。

 碁石の材質ははまぐりが一般的だ。プラスチックやガラスもあるが、異世界で作るのは無理だ。作り方がわからない。いや、蛤でもわからないのだが。貝殻削ればいいの、あれ?

 最悪木材で作って色を塗ればいい話だが。


「作ってもルールがなぁ……」


「そうですねぇ……」


 アルは俺が言いたいことがわかったようだ。

 囲碁のルールは簡単なようで難しい。

 陣取りゲームをするだけなのだが、実際やってみるとそう簡単なものではないのだ。

 初心者には勝負の最中、大差で負けていても自分が勝っているのか負けているのかさえわからないのだ。

 19の線で描かれる領土争い、それは広大で果てしないのだ。

 

「俺とアルがやるぶんには問題がないが、そこまでしてやりたいと思わないんだよなぁ」


「13路盤や9路盤はどうです」


「13路盤は考えてみるか。作るとしても後の方になりそうだが」


 13路盤は13×13、9路盤は9×9の線の碁盤だ。

 元々囲碁は9路盤程の大きさが最初で段々と大きくなり、19路盤に落ち着いた。だが、19路盤は時間がかかり疲れる。

 初心者が囲碁をやるには、9路盤や13路盤は最適な道具とも言える。


「9路盤は作らないのですか?」


「あれは味気がなさすぎる」


「それもそうですね」


 9路盤は本当に初心者向けだ。ちょっとやっている人にとってはその盤面で争うのは窮屈でしょうがない。線の数で言えば将棋と同じだが、将棋の戦いの場は広大に感じ、囲碁の戦いの場は窮屈に感じてしまう。どちらも同じ広さなのに。


「……負けました」


 盤面でアルの王は動くことができなくなった。

 つまり、詰みだ。

 アルは駒を初期の配置に戻し始めた。どうやら、もう1ゲームやるつもりらしい。


「アポロさん。強いよね。序盤、中盤、終盤、隙がないと思うよ。だけど私は負けないよ」


「いや、さっき負けただろう」


「あれはあれですよ」


 あれとは何なのか。アルは答えない。


「えー、こま、駒達が躍動する私の将棋を、皆さんに見せたいね」


「むしろ蹂躙されてる気がするんだがなぁ」


「そこはアポロさんの力で、ね?」


 可愛らしくアルが首をかしげる。

 手加減しろということらしい。

 アルの戦法は王を端に寄せ他の駒で守る居飛車穴熊。

 俺が使える戦法でそれに有効なのは、四間飛車の戦法である藤井システム。

 どうしようか。

 ただ将棋で遊んでいるだけではない。

 将棋を指しながら、ベクトラのことを考えている。相手が長考すると考える時間が増える。だが、アルから手加減しろと要求されている。

 アルが涙目になるのは見ていて面白いのだが、どうしよう。


「ふむ」


 俺は銀将をまっすぐ進ませることからついた戦法、棒銀にすることにした。この戦法は即効性に優れ、破壊力も有る。だが、狙いは単純であるために受けの対策を取りやすい。

 受けを間違えると殺すぞというメッセージを込め、アルを見る。

 アルはブルリと震え、盤上の戦いに没頭した。


 静寂の中に木材がぶつかる音が響く。

 本当にベクトラのことはどうしようか。

 考えても、いつも同じ結論に辿り着き、また最初に戻る。


「アポロさん?」


「…………ああ、すまない」


 俺が指す番か。

 考えに没頭し過ぎたようだ。

 駒を動かし、相手の陣地に攻め入る。

 戦況はアルが優勢だ。穴熊は強靭な守りの戦形なので、突き崩すのは難しい。

 パチリ、パチリとまたリズムよく音が鳴る。

 その軽快な音が止まる。

 アルがこちらを見る。

 そして、口を開いた。


「ベクトラさんのことを考えているのですか?」


「ああ、迷っている」


 どうやらアルにはお見通しらしい。


「迷う必要はないと思います。あの胸ですよ、すごい大きさですよ!」


「判断基準は胸なのか」


「あとは褐色のみずみずしい肌。リンさんは折れそうな儚さがありますけど、ベクトラさんは生命力溢れる感じがしますからね。リンさんとはまた違う味わいがあると思いますよ」


「継ぎ足せと言ってるんじゃないのだが。それにベクトラにその気はないと思うぞ」


「なに、最初だけですよ」


 クククと邪悪な笑みを浮かべ、アルは駒を盤上に打つ。


「アルは誰の味方なんだ。性別は女性なのに……」


「アポロさんの味方ですよ」


 打てば響くという感じでアルは即答する。

 その対応に少し気恥ずかしくなる。真正面からの純真な気持ちに顔が紅潮するのが自分でもわかる。

 ごまかすように俺は自軍の将軍を足早に動かす。


「アポロさんが何を考えているか当てましょうか」


 ポツリとアルは言った。

 視線は盤上のままで、俺を見ていない。

 だが、その言葉は俺に正面から突き刺さった。


「アポロさんは自分の目的のためにベクトラさんを巻き込むのを嫌がってますね」


「…………そうだ」


 楓を探すために、いつか危ない橋を渡るだろう。無関係の人をそれに巻き込んで良いのか。リンだけではなく、ベクトラまでも。

 俺の秘密を知る人が増える。その危険性はあるかもしれない。だが、それよりも俺は……。


「考えすぎですよ」


 パチリとアルは駒を動かす。

 急所だ。

 応手を間違えると詰まれる恐れがある。


「考えすぎ?」


 考えられる最善手を指して、危機から脱出する。それが本当に正しいのかは後の結果次第だ。


「巻き込むってアポロさんは何様ですか。ベクトラさんは望んでアポロさんの仲間になろうとしてるんですよ。ある程度の危険なんて承知のうえですよ」


 会話をしながら将棋を指す手は緩めない。

 止めることは許されないかのように駒を突き動かす。


「命を落とす危険性があってもか」


「ええ。アポロさん、ここは異世界ですよ。地球のルールとは違います。自分の命は自分で守る。その気持ちを持っていなければなりません。アポロさんもそう考えてるはずです。だけど、他の仲間の人は例外なのですか?

 アポロさんは高校2年生です。何もかも背負わなくてもいいんですよ。リンさんもベクトラさんも年上です。甘えればいいんです」


「甘えればか……」


「なに、我々は頓死してしまいましたとならなければいいのです。

 すぐには難しいかもしれませんが、頭の隅に置いといてください」


「……わかった」


 背負わなくていい。その言葉は魔法のように俺の重圧を軽くした。


 将棋も終盤を迎えた。アルの王の囲いを破れず、自軍の王は相手の軍勢に囲まれている。どうやら俺の負けのようだ。

 負けましたとアルに頭を下げる。

 駒を片付けて、席を立つ。


「じゃあ、行くか」


「どこにです?」


「ベクトラを仲間にしに」


 同じ宿にいるのだから、わざわざ明日あの喫茶店に行く必要はない。

 今から行動しよう。


アル能力補足

超能力を使って、身近にある軽い物なら動かすこともできる。

神の力で誰も超能力のことを不思議なことと思わず、自然なこととして受け入れてしまっている。勿論アル自身も。日常生活のみ使うことができる能力でもある。将棋はこの能力を使用して駒を動かしている。

余談だが、アルが浮いてるのはこの力。羽で浮いているわけではないので、疲れない。自由意志で上下左右に移動できる。音もしないので、うるさいと潰される心配はない。

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