表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
3章 ミシェロの町でのギルド活動
37/98

ドワーフとのほのぼの会話

朝食を食べた後、ゼペットさんの鍛冶屋に向かうとする。


「しかし、目立ちますね」


「そうね」


「そんなことより、まだつかないのか……」


 抱える両手には布に包まれた2mはありそうな得物。

 オーガの剣だ。

 鞘が無く、抜身の状態だったので布にくるんで輸送中だ。

 アイテムボックスで運べば楽なんだが、取り出す時に他の人にバレたら問題になるので宿から持ち歩くことになった。

 宿からならバレないように気をつけるのは簡単だ。


 で、その剣を俺が一人で運んでいる。

 STRをアップしといて本当に良かった。

 今のこのSTRでもキツイのだ。前の状態だったらどうなってたのやら。

 2mもあるから背負うことも出来ず、抱えるしかない。

 しかも横に寝かせて抱えているために、持ちにくくてしょうがない。それに人に当たらないように気を使わなくてはいけないため余計に疲れる。


「くそぅ、アルが小さくなかったら、アルに持たして、雑事を任して、そればかりかクエストを押し付けて宿で優雅に食っちゃ寝出来るのに」


「生活の殆ど全てですよね!」


「いや、食っちゃ寝は譲らん。アルの分まで寝るので、代わりに俺の分まで仕事を頑張ってくれ」


「凄い等価交換ですよ、それ!」


「ほら、馬鹿なことやってないで。もうすぐ着くわよ」


「やっとか……」


 リンに言われた通り、ちょっと歩いたらゼペット武具店に着いた。

 武具店の奥、工房ではカンカンと金属音が聞こえる。


「ちわー、アルですよー」


「ふん、ようやく来おったか」


 武具店のカウンターに座っていたのはこの店の名を冠するゼペットさんだった。


「すいません。クエストがあったので遅れました」


「ふん」


 修理にかかるのは2日。

 クエストにかかったのが3日。

 怒られるほど待たせているわけではないが、先に折れるのが人生をうまくやっていくコツである。


「で、その荷物はなんだ」


 ゼペットさんは俺が持っている布にくるまれた物に視線を向ける。


「クエストの際オーガに出会いまして、そいつが持っていました」


 そう答えて、カウンターの上に剣を置く。

 布を取り、剣を裸にする。


 ゼペットさんは剣を手にとって検分する。


「凄いですね」


「ああ」


 片手でやすやすと持ち上げているのだ。

 ドワーフだからだろうか。

 リンの方を見ると、首を横に振った。

 どうやらドワーフだからではなく、ゼペットさんだからなのか。

 丸太のような腕はそれすべて筋肉なのか。


「アポロさんは脳筋キャラを目指しても、体形はアポロさんのままでいてくださいね」 


「脳筋キャラ目指してないんだが。それに失礼だぞ」


 恐る恐るゼペットさんを見る。

 ふん、と鼻息が聞こえるだけで怒っていはいないようだ。


「アポロったな。お前がこの剣の持ち主を倒したのか?」


「リンと一緒に倒しました」


「ほとんどの手柄はアポロだけどね」


「………………」


 それっきりゼペットさんは黙った。

 そして、また剣の見分に戻った。

 しばらくして、剣をカウンターの上に置いた。


「で、この剣をどうするんだ?」


「売ろうかと」


「なら金貨2枚だす」


「そこまでの剣なんですか……?」


「剣自体はな。黒鉄石で作られてる。だが、手入れしてないおかげでボロボロだ。一回溶かしてやり直さないと使い物にならん」


 面倒かけさせやがってと、ギロリとこちらを睨む。

 俺のせいではないんですが……。


「で、売るのか?」


「お願いします」


 金貨1枚を貰う。

 1枚は頼んでいた武器の代金に。

 ゼペットさんは店の奥に戻っていった。

 こちらに戻ってきた時には、手には黒い鞘に納められた剣があった。


「ほら」


 それを俺に渡してきた。

 ゼペットさんから剣を受け取り、鞘から出す。


「おぉ!綺麗ですね」


 鞘から抜くと剣は鈍い光を放つ。

 時代劇のチャンバラで見るようなギラギラさは無い。渋く、重さを感じさせるような色合いだ。よく見ると微かに黒っぽい?この色は……。


「気がついたか。お前がさっき持ってきた剣と一緒の材質だ。お前は黒鉄石に好かれてるんだな」


「いい武器なのですか?」


「鉄の仲間の金属では一番いいやつだ」


「よかったですね、アポロさん」


「ああ」


「お前ちょっと振ってみろ」


「え?」


「調整のためだ。俺が作ったから万が一はないが。旅に出てる間にお前が変わったのかもしれないからな。振って確かめろ」


「わかりました」


 店の一角に何もない広い場所がある。

 そこに移動して、剣を鞘から抜く。

 正眼に構え、振る。

 最初はゆっくりと、次第に早く。

 剣を振って止めるとき、柄を強く握る。

 その時の感触が手に吸い付くようだ。

 今までにない感触。

 結果、剣の戻りが早くなる。


「ん、良いですね」


 と、ゼペットさんを見る。

 だが、彼は渋い顔をしている。

 何かまずいことをしただろうか。


「貸せ。調整する」


 俺から剣を奪い、店の奥の工房の方へ。


「何かまずかったのか?」


「さぁ?」


「筋肉質って言ったのがまずかったのかと」


「言ってないし、それらしきことを言ったものはアルだからな」


 待っている間に他の店員に防具の修繕を頼んだり、投げナイフを買ったりと時間を潰す。

 用事が済み、しばらくしてからゼペットさんが戻ってきた。

 そして、剣を俺に渡し一言。


「振ってみろ」


 言われるまま、先程と同じように振ってみる。

 気のせいかもしれないが、振りやすくなったのかもしれない。

 何度か振って、ゼペットさんを見ると、彼は一度頷いた。


「持ってけ」


 と、お許しを得た。


「良かったですね、アポロさん」


 既成品では無く俺専用武器。

 オーダーメイドというやつだ。

 ちょっと嬉しいものがある。

 で、オーガの剣と修理だけがゼペット武具店に来た目的ではない。

 もう一個ある。

 リンが自身が持っている布で包まれたもの、その布を取ってゼペットさんに見せる。


「ゼペットさん。この槍を見てもらいたいのですが」


 俺が渡した吉岡の槍。

 何の槍かわからなかったので専門家に聞いてみることにした。


 ゼペットさんは食い入るように槍を検分している。

 その様子はオーガの剣を見ていた時のそれより真剣だ。

 というより質が違うような気がする。

 オーガの剣の時は、俺のことも見ていたが、槍の時は槍だけを見ている。

 そして、ゼペットさんは面をあげた。


「この槍はお前の物なのか?」


 リンは俺を一度見て、それから躊躇いがちに頷いた。


「ええ。だけど、何の槍かわからないの。凄いということはわかるけど」


「こいつは精霊石で作られた物だな」


「精霊石!」


「知っているのか、リン?」


「精霊が力を与えた鉱石と言われてるわ、でも……」


「それも精霊石の中では上物だ。槍の意匠にしても、武器としてだけではなく鑑賞用にも堪える品だ。作り手が拘った品だろうな」


「もし、ゼペットさんが売るとしたらいくらぐらいになりますか?」


 アルがゼペットさんに聞く。

 そうだな、と顎に手を置きゼペットさんは考える。

 やがて、彼の重い口が開いた。

 

「売れないな」


「ええぇ!どういう意味ですか?」


「エルフの嬢ちゃん、お前ならその意味がわかるだろう」


「ええ」


 リンは神妙な顔で頷いた。


「どういうことですか、リンさん?」


「この槍はね、眠っているの」


「眠っているとは?」


「精霊石で作られた物は精霊に親和性があるの。それを持っていると精霊が寄ってくるわ」


 だが、リンはこの槍についてそのことを言わなかった。

 それが意味することを。


「その効果を発揮していないの、この槍は」


 その説明で満足したのか、ゼペットさんが引き継いだ。


「だから不完全なんだ、この槍は。売り物にしたくねぇな」


「どうやったら眠りから覚めるのですか?」


「知らん」


「知らんって…………」


「俺からは槍に認められるようになれとしか言いようがないな。武器にしても何にしても、本当に良い物は意志が宿る。

 嬢ちゃん、頑張って腕を磨け。そうしたら、いつか認められるようになる」


「ええ、そうなるよう努力するわ」




 そうして俺達は店を出た。

 昼食時ということもあり、テラスのあるお店に入った。


「残念でしたね、リンさん」


 パンを食べながら、リンに話しかける。

 リンは卵と野菜のサンドイッチを。

 俺は角ウサギの煮込みとパンを。

 俺とリンは食べ終わり、果実のジュースを飲んでリラックスしていた。

 俺はテラス席から、雑踏の町並みを眺めながらアルとリンの会話を聞いていた。

 日本ではレストランやカフェのテラス席に魅力を感じなかったが、実際座ってみると中々いいものである。

 柔らかな日差しの中、時たま風が吹き、涼しさを運んでくる。町の景色は人の移動によって様変わりし飽きさせない。


「そうね。でも意地でも認めさせるわよ」


「え?」


「ん?」


 アルとリンの会話が何やら食い違ってたらしい。

 互いに顔を見合わせる。

 リンは果実のジュースを飲んでいたところだったため、少々間の抜けた感じがした。

 俺の視線に気がつくと、頬を紅潮させ、咳をした。

 俺も見なかったことにして、視線を外に向けた。


「槍の本来の姿のことじゃないの?」


「槍の本来の値段じゃないんですか?」


「「……………………」」



 それっきりお互いが沈黙した。

 俺は会話には参加せずに外を見続けた。

 何かアルから視線を感じるが、気が付かないことにする。

 テーブルに肘をつき、そこに顔を載せ、ボケーッと外を眺める。

 平和だ。アルとリンが何かを話し始めたが頭に入ってこない。

 ここに来て、10日ぐらいだろうか。密度の濃い日常を送っていたため、こういう何気ない平和な時を愛おしく感じる。 

 テラスって素晴らしい。

 日本にいた時も食わず嫌いをせずテラス席での優雅な一時を楽しむべきだったか。

 と思ったが、少し考えて首を振った。

 春は花粉が飛び交い、夏は日差しが暑く、冬は乾燥して寒い。マシな時期は秋しかない。外に自動車が走っていたら、排気ガスで何か嫌な感じがする。それに、冷房の整っている室内を出て食事するなんて考えられないな、やっぱり。

 こんなことを考えていたら、声が聞こえなくなった。

 リンとアルの会話は一段落ついたみたいだ。

 決着はどうなったのかわからないが、アルに任しておこう。

 ネタに走る部分が多いのだが、俺のことを思い、俺のために動いてることは確かなんだ。

 アルのバランス感覚は目を見張るものがある。越えてはならない一線は越えない。だから、信頼してアルに任しても大丈夫だろう。

 

 外の景色から内の景色へ。

 アルの方を見る。

 すると、アルもこちらを向き、にっこり笑って言う。


「やりましたよ、アポロさん。リンさんは槍(完全体)の値段の2倍のお金を払うことになりました!」


「何話したらそうなるんだよ!」


 ちょっと目を離して考えにふけっていたら、恐ろしいことになっていた。

 誰だ、アルを信頼していいとか言った奴は。

 リンは目を虚ろにしながら、大丈夫、大丈夫とぼそぼそ呟いていた。

 自分に言い聞かせているのだろうが、その姿は魂の抜けた状態だ。

 その光景を見ると、大丈夫じゃないよと思わずにはいられない。


 慌ててその話は無かったことにする。値段も槍の真価もまだわかっていないうちにあれやこれやと決めるのは危ない。

 


 お店を出て、宿に戻ることにする。

 なんか、どっと疲れた。


「……と………御仁」

 

 俺達はどんよりとした空気を纏っていたと思う。

 俺は気疲れ。

 アルは俺に躾をされ。

 リンは先程の話合いのダメージが抜けきれず。

 だから、俺に声をかけられても気が付かなかった。


「そこの妖精と金色の美しい髪のエルフを引き連れた御仁!」


 大きく快活な声が後ろから聞こえてきた。

 一瞬自分のことを言われているとは理解できなかった。

 慌てて声のする方へと振り向く。


「やっと気づいてくれましたか。探しましたぞ、御仁」


 そう言って俺を呼び止めた女性は朗らかに笑った。

 台詞の中の探したという言葉。

 だが、俺にはこの女性は見覚えは無かった。

 宝石のように輝く銀髪に、日本では滅多に見ない褐色の肌と尖った耳。その肌は太陽の恵みを一身に受けたように生命力に溢れ、美しかった。ムチッとした肉体感がありながらも、スベスベとした感触がしそうな滑らかな肌。華奢な感じがするリンとは対照的に肉付きは良く、それでいて背は高く、俺と同じくらいの大きさだった。だが、ガシッとした肉体ではなく、女性的な良い意味で丸みをおびた体形だ。腰は美しい曲線のくびれを描き、それでいて胸は果実を思わせるように大きかった。

 着ているものは肌の露出が多かった。赤を基調とした和服は肩はおろか胸の半分までしか保護していない。胸の大きさから、激しく動けば零れ落ちそうだ。だが、不思議とその露出の多きさに比べ、いやらしさは感じない。


 転生者なのかと思った。

 別の人種として生まれ変わった同郷の者。

 あの神曰く、転生者同士なら誰なのかわかると言っていた。だが、俺は彼女が誰かわからない。

 転生されたのはクラス単位ではなく、学年の中からなので俺の知らない生徒がいたとしてもおかしくは無い。それに、俺はツアーの参加者の顔ぶれを注目していなかった。それどころでは無かったからだ。

 だから、誰がいたのかイマイチわからない。


「もしかして………」


 転生者かと聞こうと思った時、俺の言葉を引き継いだのは、この世界の出身者であるリンだった。


「ベクトラ!!」


 どうやら、この褐色のエルフはリンの知り合いみたいだ。

 安堵の溜息が漏れる。緊張した分、どっと疲れが。


「なんかキャラが濃そうですね。私、なんだかワクワクしてきましたよ、これ」


 アルがテンションを上げながら呟いた。

 それに反して、転生者じゃないとわかっても、俺のテンションはだだ下がりだ。何か面倒な予感がする。逃げる準備をしておこう。

 あぁ、喉が渇いた。宿に帰って水でも飲んで眠りたい。  

等価交換が等価交換になってないのは仕様です。

時間という意味では等価ですが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ