へたれ患者さーん、1番の窓口までお越しくださーい
主人公 絶賛混乱中。
買い物を済ませ、町の外へと出る。
町の南側へと向かう。元々異世界に着いた場所はミシェロの町から見て北側に存在し、森を抜けたら山があったりなかったりする存在する場所だ。
南側は平原地帯であり、街道の整備も十分であるため安心できる。初めての討伐クエストなのだからいくら慎重にしても良いだろう。
一日歩き通したが、今回のクエストのゴブリンやウォードッグは発見できなかった。代わりに、数は少ないがポーションの原料となるカラミ草等のアイテムを採取した。さらには角ウサギも発見し、討伐した。これで、晩御飯は肉が食える。しかし、安全な旅であったが考えごとに集中してしまい、凡ミスが多くリンに怒られた。
空の色が塗り替えられ、世界がまるで黒色へと変化していった。
地球にいた頃は夜といっても明るかったのだと今更ながら地球の便利さに気づく。
これ以上歩くのは危険なので今夜は野宿することになった。枯れ木にリンの精霊魔法で火をつけてもらう。
俺はリンに、すぐそばにある小川に水をくみに行ってくると言ってその場に離れる。
「ふぅ…………」
水を汲んだ帰りの途中、俺は立ち止まった。
ぼんやりと色々なことを考える。
浮かんでは消え、消えては浮かんでの繰り返し。完全消滅とはいかないのだ。忘れようと思っても、ふと瞬間に頭に出現する。
アイテムボックスのように異次元に仕舞えたら良いのに。
「ふっ」
自身の思いつきに笑いながら、俺はアイテムボックスを出現させる。黒い渦が目の前に現れ、そこに手を突っ込む。
ゴソゴソと探って石を取り出した。何の変哲のない拳大の石。考え事をするときに手持ち無沙汰を紛らわすために取り出したのだ。
石を空中に投げようとしたその瞬間だった。
「えぇぇぇーーーーー!」
辺り一帯を響かせるような大声が聞こえたのは。
「………え?」
横を見ると、そこにはいるはずがないと思っていたリンの姿が。
信じられないと、口に手を当てながら、もう片方の手を俺に向ける。人差し指のさす場所は手にある大きな石。
「も、もしかして、アイテムボックス!?」
「うわっ……」
見つかってしまった。
ぼんやりしすぎていたのか、リンが近づいてきたことに気がつかなかった。いや、意識の範囲外だった。火の番をしていると思って油断していたのだ。
「も、もしかしてこれって珍しいのですか!?」
黒い渦がアイテムボックスということを俺は認めた。
だが、最後のあがきとして、聞いてみる。
緊張で表情が硬直しながらも俺は口を開く。
自然にリンに聞くことができただろうか。無理だろうなぁ。
今までアイテムボックスの話をしたことはない。する機会がなかったとも言える。予定ではこのクエストで世間話のついでにアイテムボックスについて聞こうと思ったのに。こんな突発的に聞くことになろうとは……。
「珍しいってもんじゃないわよ。どっかの国で秘匿される技術とか闇魔法の最高魔法だとか神様に与えられたものだとか眉唾ものの話の品とか言われてるものよ。一体何者なのアポロって」
「そこまでのものですか……」
キャラメイクでは20ポイントのはずだがなぁ……。100ポイントある内の五分の一だから高いポイントだと言えるが、眉唾ものと言われる位の凄いチートアイテムだったのか、これ。
確かに使ってる人はいないし、アイテムというにはおかしな点がある。人に譲渡なんて出来ないし。
「ねぇ。アポロが秘密って言ってたのはこれ?」
「……これもある」
リンがジト目でこちらを見つめてくる。まるで意思を持つ宝石のようだ。
こんな状態でも、俺を見つめる翠色の瞳を綺麗だと思ってしまうのは緊張感が欠如しているのだろうか。
そんなことを考えてるとリンが先に折れた。折れたといっても、こちらは現実逃避していただけだが。
「はぁ……もういいわ」
「いいのか?」
「いずれ秘密を全て喋ってくれるんでしょ?」
「あぁ、その時には全て話すと思う」
「なら、いいわ。私はアポロを信じるって決めたから、待つわ」
「助かる……」
リンの侠気に感謝した。
いっそここで洗いざらい喋るのが正しいのかもしれない。だが、せっかくの関係が壊れてしまう可能性がある以上、俺はその選択が出来なかった。せめて、もう少しこの居心地がいい空間を享受したかった。
「ね、アイテムボックスってどうやって手に入れたの?どこにあったの? 話せる範囲でいいから教えてよ」
干し肉を食べながら、それまでのシリアスな空気を払拭するかのように明るい声でリンが聞いてきた。隠そうとしているが、かなりウズウズしている。かなり興味があるようだ。御伽噺的なものだからなぁ。気にならないのがおかしいのか。
前のめりになって目を輝かせるリンに、外見以上の幼さを感じて微笑ましく感じてしまう。
「わからん。生まれつきとしか言いようが無いな」
苦笑しながら俺はリンに言う。
「へー、アイテムボックスって生まれつきのものなのかしら?」
「それもわからん。俺はかなり特殊だからなぁ」
違う世界で死んで、キャラメイクで手に入れたものだ。このアルハザールという異世界ではどうなっているかはわからないのだ。
「じゃあさ、アイテムボックスってどんなの?眉唾物の話ばっかりでどれが本当なのかわからないのだけど」
それは隠すことでも無いので、話せる範囲内で説明した。
俺がわかっているのは以下の通りだ。
アイテムボックスは黒い渦を出現させ、そこにアイテムを出し入れすることが出来るものであるが、積載量は決まっている。ただ積載量は最初の頃より増えたような感じがするのでレベル依存で決まる可能性があるみたいだ。アイテムボックスは、鞄の中であろうと、袋の中、空間であろうと渦を出現させることが出来る。渦の中に手を突っ込んで欲しいものを念ずると、目当てのアイテムを取ることができる。そして転生者だけかもしれないが、システムウインドウを出すことでアイテムボックスの中身を見ることも出来る。何を入れたか忘れてしまった時に便利な機能だ。アイテムというより、スキルっぽいが……。
これらのことをいくつかリンに伝えた。
「なるほどねぇ、色々便利なのね」
説明が終わるとリンが感想を述べた。
その感想に俺も同意する。
「けど、それは他の人にばれたらまずいわよ」
「あぁ、分かってる」
便利な存在ゆえ、悪用できる。
世の中、善人ばかりではないので気をつけていきたい。
夕食を食べ終えて、火の番をすることになった。
最初は俺とアル、次にリンという順番だ。
リンが最初に火の番をしたいと言ったが、却下した。考え事があるので、眠れそうになかったからだ。寝る順番が遅いほうが助かるのだ。
「……………」
焚き火に枯れ木を入れながら考える。
幼馴染のことを。
どうしたらいいのかわからない。一度悩みだしたら止まらない。
幼馴染のことを考えていたから、アイテムボックスのことがバレてしまったという醜態ぶりだ。
今夜は静かな火の番だった。
原因は俺だった。アルと雑談する余裕がないからだ。
すると、それまで静かだったアルが話しかけてきた。
「アポロさん、どうしたんです?今日一日変ですよ、心ここにあらずというか」
「ああ……ちょっとな」
「私でよければ相談にのりますよ?」
アルは心配そうに俺を見る。俺はその顔に弱い。その気遣うような、痛々しい顔をアルにさせたくない。アルはいつものように天真爛漫に笑うのが似合ってるのだ。
だからだろうが、俺はアルに事情を話すことにした。なんでも良いのでアルの表情を変えたかったのかもしれない。
「……神が夢に出てきて、幼馴染の伝言を伝えてきたんだ」
「なら、なんで悩んでいるんです。まさか……」
最悪の想像をしたのか、アルは言いよどんだ。
慌てて訂正する。
「いや、そういうのではない。ただな……」
「ただ……」
「『正妻じゃなくていいから、2番目でも、3番目でもいいから自分の席を取っといてくれ』と言ったんだ」
「は?」
「いや、だから『正妻じゃなくていいから、2番目でも、3番目でもいいから自分の席を取っといてくれ』と言ったんだ」
「いや、繰り返さなくても内容はわかってますから。分からないのはアポロさんがなぜ悩むのかということです。ハーレム公認なんでしょ、別にいいじゃないですか。幼馴染さん一筋なら、それを貫き通せばいいだけの話ですし」
アルが理解できないという表情で俺に告げる。
言外に、何でそんな簡単なこともわからないのですかと言ってる気がする。
「いや、俺は幼馴染に恋愛感情を持ってなくてな」
アルに幼馴染と俺の関係を説明する。
幼馴染は俺に好意を持っているが、俺は兄妹みたいに思っているため恋愛感情がないことを。そして、どうすればいいのかわからない。会わなければいけないのだが、会うのが怖い。俺の感情が彼女を傷つけてしまうかもしれないから。幼馴染のことは大切だ。無二の人物だ。だからこそ、誠実でありたい。もし、仮に付き合ったとしてもこんな気持ちでは彼女を傷つけてしまうかもしれないから。
「なるほど……わかりました、アポロさん」
「アポロさん、貴方は考えすぎです。良いところでもあるんですが、今回裏目にでてます」
「そ、そうなのか……」
「アポロさんは幼馴染さんに恋愛感情を持ってないんですね?」
「ああ」
「では、もし幼馴染さんが他の男と付き合った場合どう思いますか?」
「え……」
「もう一度言います。もし幼馴染さんが他の男と付き合った場合どう思いますか?」
「……他の男と?」
「そうです。アポロさんではなく、他の男とイチャイチャしてるんです。想像してください。幼馴染さんが他の男と腕を組んで仲良く家に帰ってる姿を。貴方は後ろで寂しくそれを見ているだけの姿を」
盲点だった。それは考えてもいなかった。いや、考えないようにしていたのかもしれない……。安心しきっていた。幼馴染は俺のことが好きだからということで思考停止をしていた。
想像してみる。俺ではなく他の男と付き合っている姿を。
俺は幼馴染のことを大切に思っている。ならば、彼女が幸せならいいと思う。
何も問題はない。そのはずだ。
「…………ッツ」
だけど、なんだろう……この気持ちは。
チクリと心に棘が刺さったような痛みと違和感を覚える。
喪失感?妹をとられたように感じるからか。
独占欲?それまで、一番幼馴染と仲が良かったのは俺だったのにと思う気持ちなのか。
嫉妬心?俺が見たことが無い幼馴染の表情を別な男が見るからか。
わからない。様々な感情が心に立ち現れるが、その感情がなんなのか明確に説明できずに消えていく。心に残ったものは、もやもやとした黒いなにかだった。
「………………」
俺はアルの問いに答えられなかった。
何を言うべきなのかわからなかった。
「いいんですよ。思ってることを言ってください。支離滅裂でも抽象的でも構いません。私は貴方が思っていることを知りたいのですから」
アルが優しい声音で、俺をいたわる様にゆっくりと言った。
焚き火がゆるやかに燃えている。見渡す限りの闇の抱擁から俺達を淡く照らしていた。
火の熱がゆっくりと心の壁を溶かす。俺はアルに胸のうちを全て説明した。
パチパチと枝が燃え弾ける音がした。
アルは目を閉じて、俺の言葉を整理しているようだった。
目を閉じ、考えている姿が火の光を浴びて映し出される。陰影がアルを普段見せる顔とは違う姿へと変化させる。
不謹慎にも、その姿は神々しく思えた。
首を振ってその考えをどかす。相談してもらっているのに、何を考えているんだ俺は。
アルが瞳をゆっくりと開けて、俺を見た。
「わかりました……アポロさんは幼馴染さんに全て話せば良いのです。1から10まで全て。不安も恐れも。貴方が感じている思いをありのままに」
「だけど……」
自分にもちゃんと言葉にできないことを伝えることができるのか。矛盾した思いを伝えても意味があるのか。自分だって理解できないものを他人に理解してもらうのか。
「それでも、です。さっきも言ったとおり、アポロさんは考えすぎなのです。恋愛は理屈ではないんです。感情なんです。矛盾するのは当たり前です。好意、不安、嫉妬、嫌悪、欲望、憧憬、共感、畏敬、友愛、色々な感情が入り混じって織り成すのが恋愛なんです。色々な思いがあっても、それでも好きだと言えるのが恋や愛なんです」
アルは俺に理解できるようにゆっくりと、幼子を諭すように優しく語った。
「幼馴染さんは知りたいと思いますよ。貴方が何を思ってるのかを。どれほど、自分のことを思っているのかを。
貴方の気持ちを知って、それでも納得できないなら喧嘩して、お互いの意見や感情をすりあわせていくんです。それが恋愛です。今のままじゃ喧嘩もできないじゃないですか。お互いがお互いのことを大切に思っているのに、それじゃ不幸すぎます」
アルはそこでニコッと笑い、少し茶化すように言った。
「それに付き合えない理由が兄妹だからっておかしいですよ、現代国語のテストの問題だったらその回答は×ですよ。私が採点者でしたら、『なら近親相姦しろや!義理の兄妹なら法律的にもオッケーやろうが!』って言いますもん」
「いやいやいや……」
それはおかしいだろう。何が間違ってるかわからないが、正しくないと思う。
でも、最後の言葉以外は正しいのかもしれない。
かっこわるくとも、情けなくとも俺の思いを伝えるべきなんだろう。
観客はいない。舞台にのぼる演者は俺と幼馴染のみ。
恥ずかしがることは無い。ただ誠実に……。
「もし、幼馴染さんと会うことができれば、頑張ってくださいね。大切な存在なんでしょう」
「ああ。ありがとうな、アル」
「いえいえ、アポロさんのためですもの。
そして、幼馴染さんのためにもハーレムを作らないといけないのです」
「え、なんで?」
一応、悩みは解決したと思ったら、別の問題がでてきた。
つながってなくないか、それ?
冗談かと思ってアルの顔を見たら、いたって真剣な表情だった。
「アポロさんがこうなった原因のひとつは、恋とはどういうものかわからないと思っているからです」
「……確かにそれは言えるな」
彼女と俺との思いの差異が、思いの質が俺を躊躇させる。
恋とはなんぞや。
「もし、今の状態で他の女性に告白されても断るでしょう」
「当たり前だ。彼女のことがあるのに、他の女性にうつつ抜かすわけにはいかないだろう」
「それですよ。それがいけないことなんです」
「なぜだ」
誠実だと思うが。
アルは真っ直ぐ俺の目を見た。その瞳は俺を貫くかのように鋭かった。
「だって、それは幼馴染さんを言い訳にしてるのですから」
「なっ!!」
静かな声音で呟かれた言葉は、何よりも大きく俺に響いた。
その声の小ささに反抗するためなのか、知らず俺の声は大きくなった。
声を大きくしなければ、立ち向かえないかのように。
「言い返すことができないでしょう、アポロさん」
「俺は!俺は、あいつに誠実であろうと……」
「はっ!誠実!?好きと言われて、付き合ってと言われて、イエスやノーも言えない返事が誠実なのですか!?逃げてるだけじゃないですか!?失礼ですよ、告白した相手に!理由にされた幼馴染さんに!」
好きかどうかもわからないなら言い訳に使うなと。
吐き捨てるようにアルは言った。
俺は何も言い返すことが出来なかった。
「アポロさん、恋愛は突き詰めて考えれば、好きかそうじゃないかですよ。相手が欲しい返事もそうなんです。だからこそ、告白されたら答えなきゃいけないのです。別の言葉や言い回しで逃げちゃ駄目なんです」
「だけど……」
俺の口から逆説の言葉が漏れ出たが、続く言葉が出てこなかった。
「アポロさん、イエスかノーで答えてください」
「…………」
「リンさんやリサさんのことは大切ですか?」
「い、イエス……」
「では好きですか?」
「それは……」
「逃げないでください!イエスかノーで答えてください。
どっちなんですか、好きなのですか、嫌いなのですか!」
「す、好きです?」
「つまり、イエスですね」
「……イエスです」
満足そうにアルは微笑んだ。
「それが大事なんです、アポロさん。その気持ちが。
その気持ちが愛なのか恋なのか、はたまた友愛なのかは私には分かりません。けれど、彼女達のことが大切ってことは覚えててくださいね」
「……わかった」
「だから、もし他の女性に告白されたら、真剣に考えてくださいね。好きかどうかを。もし、好きならば付き合えばいいのです。もしかしたら、幼馴染さんの伝言の真意はそれかもしれませんよ?」
「前向きに検討させていただきます。善処する所存ではありますが……」
「なんで政治家っぽい返答なんですか。これだけ言っても分からないとは、アポロさんは地球の考えに毒されてますね。二股、三股どんとこいの気持ちでいてくださいよ」
「や、それは倫理的に……」
「倫理って、ここは異世界ですよ!郷に入っては郷に従え。ハーレムどんとこい精神です。
というより、殺人はオッケーでハーレムが駄目とか意味分からないんですけど」
驚いたことに、このアルハザールでは一夫多妻制は許されている。詳しくは知らないが、全ての女性に愛を注ぐなら許可されるらしい。
しかし、殺人は正当防衛と言おうか、脅威を取り除くためにするのであって、好き勝手に殺してるわけではないのだが……。
無論、人の思いが人の命より重いとは言えないが……。
「アポロさん。覚えておいてください。人を好きになることは素敵なことなんです。好きになることを恐れないで。恋を否定することで貴方は不幸になる」
「ああ……」
実感はまだできない。だけど、肝に銘じておく必要があるのかもしれない。俺と一緒に居続けたアルの言葉なんだから。
「ま、アル先生のお悩み相談はこれでおしまいです。私の言葉をよく考えといてくださいね」
「ありがとう。なんか指針が見つかった気がする」
お互い、ふふっと笑った。
焚き火のは変わらず、緩やかに燃えている。
無言の空間だが、決して気まずくなんかない。
だけど、何かアルと会話を続けたい。
言葉を捜そうとしてもなかなか見つからない。
だから、さっきの話題が終わったのに、ほじくりかえすことにした。
「なぁ、アル」
「ん?なんですか、アポロさん」
「さっきなんで、リサさんが出てきたんだ?」
リンは仲間だからわかるが、リサさんはギルド職員だ。
アルが気に入ってるからか?
「またまたぁ。アポロさんの良心と言われた私がちゃーんとわかってますから」
「いや、俺が分からないのだが。それと、それ言ったの誰だ?名誉毀損で殺されても文句言えないぞ。他意はないから、それを言った奴を教えてくれ」
後半部分を無視して、アルは答えた。
ふふんと指を立てながら、まるで自分は名探偵とでも言うように。
「無意識に行動にあらわれてますからね、恋は。それを私は見逃さないのです」
「行動?」
「ええ。前にリサさんにペンダントをあげたでしょう。それです。その行動が、特別扱いが、アポロさんの無意識的意識なのです!」
「あれは、ギルド職員と仲良くなっとけば得するかな、と……」
「え?」
アルの動きが停止する。
「クエストとかを手配する人だからな、仲良くなっといたら便利かなぁと思ってな」
「れ、れんあいてきな、したごころは?」
「ないかなぁ……」
アルが絶望したというな風で地面にうなだれる。
それを見ていると、何も悪いことはしていないはずなのに罪悪感を覚えてしまう。
「アポロさん、狐耳がいいと思わないのですか!?あの巨乳が素晴らしいと思わないのですか、リンさんには無い胸の膨らみですよ!そんなに絶壁が好きなんですか!?」
地面を叩きながら、アルがほざく。
すごい肉欲的発言だ。
さっき、好きとか愛とか言ってたのと同じ人物なのだろうか。
さりげなくリンをディスってるし。
「くそぅ!アポロさんがどう思おうが関係ない!私がハーレムに入れてやります!」
「おい……」
アル流の冗談なのだろう。場の空気を軽くするためにあえて言っているのだろう。
きっとそうだ。
でも、アルの顔は見ないでおく。顔を見たら本気かどうかわかるから。
夢は夢のままで。
きっとそれがいいんだ。だから「思いなんか関係ねぇ!」とか聞こえるのは幻聴なのだ。
頭上を見ると、満天の星がアルハザールの大地を照らしている。
煌く星々は、どれも異なる強さで光っている。まるで共鳴してるみたいだ。
地球の星座とは違うから、星の名前はわからない。
けど、わかることがある。この星空は綺麗なのだと。
俺の語彙では他に言葉が見つからない。
けれど、それでいいのかもしれない。
明確な言葉にすると、カチッとその言葉の意味にはまってしまうから。
漠然と綺麗だと言ったほうがいいのかもしれない。
全てを説明できるほど、言葉は万能ではないと思うから。
気がつけば、アルも星空を眺めていた。
それから俺達はずっと星空を眺め続ける。
星空を見ながら、アルが尋ねた。
「ねぇ、アポロさん」
「ん?」
視線は星空のまま、会話をする。
「幼馴染さんの名前って何と言うのですか?」
「九条 楓」
「ふふっ……幼馴染さんにぴったりの名前ですね」
「……ああ。俺もそう思う」
綺麗な夜空を見ながら思う。
幼馴染はこの星空の下で何を思い、何を願っているのやら。
主人公の心にハーレムという種が埋め込まれました。
明日投稿しようと思いましたが、はやめました。
その分次の投稿が一日遅くなるかも。