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キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
3章 ミシェロの町でのギルド活動
27/98

種はまいた。後は野となれ山となれ 後編

目覚めると、そこは白い世界だった。

地面も、空も、地平線さえもなにもかもが白かった。

「夢か……」


 明晰夢というやつかもしれない。睡眠中に見る夢で、自分が夢であるとわかるやつだ。

 意識ははっきりしている。そして、自分の姿は宿で眠りについたときの格好だ。

 自分だけが、この白い世界から浮いていた。

 いや、もうひとつだけ違うものがあった。

 30メートル先だろうか。

 そこにはテーブルと椅子が置かれており、椅子の上にはどこかでみたことがある金髪の少年らしきものが見えた。距離が遠いので確信が持てない。というより、あれが神だと思いたくない。


「ふぅぅぅぅ」


 大きく息を吸って、吐く。深呼吸大事。

 寝る前に明日の天気を祈ったら、神っぽいのがでてきた。

 なにそれ、怖い。

 適当に祈るだけで、神にエンカウントするとか、恐ろしすぎる。

 ただ漠然と祈るだけで現れるなら、これからどうやって生きていけばいいのか。夢だとしても嫌すぎる。

 なんか神っぽいやつが笑いながら手招きしてる気がするけど、気のせいだ。

 無視するのはあれなので、タイムのジェスチャーを送って後ろへ振り向く。

 そして、この夢の世界からおさらばするため、頬を強く捻る。


「いてぇ……」


 じんじんと頬から痛みが伝わるが、この世界から脱出できない。

 ならば次なる手は……。


「現実逃避は終わった?」


 声がすぐ後ろから聞こえてきた。タイムアップという言葉が脳裏にちらつく。

 世の無常さを儚いながら声のしたほうへ振り向くと、すぐ目の前にテーブルセットと神がいた。

 俺がいつの間に移動していたのか、それとも神ウィズテーブルセットがこちらに来たのかはわからないが、これだけは言える。

 なんでもありだな、と。

 動く音も気配もしなかったのに、まるでそこにあったかのように存在している。


「あぁ、俺は逃げも隠れもしない!」


「はは、さすが響くんだね。椅子に座って話そうさ。

 何か飲む?紅茶?コーヒー?緑茶?なんでもあるよ」

  

 俺のボケを軽く流しながら、神は俺に椅子に勧める。


「コーラを」


 俺は椅子に座りながら、飲み物を注文する。


「くくっ……了解さ」


 せっかくなので異世界では飲めないものを注文した。人として普通の判断のはずだが、神にはツボに入ったようだ。口元を緩ませながら、頷いた。

 そして。神がパチンと指をならすと、輝いてみえるほど綺麗な赤褐色の液体と氷が入ったグラスが目の前に出てきた。


「おお!」


 凄い。

 万物創造とでもいうのか、チートを貰うのならその能力が欲しかった。

 せっかくなので、一口飲んでみる。


「うめぇ……」


 アメリカ原産のコーラと違い、甘ったるさが無い。口の中ではじける炭酸、舌を優しく包み込むほどよい甘さ、そして飲み終わっての後味のよさ。

 今まで飲んだどのコーラよりおいしい。全力で味わいながら、いっきに飲み干す。

 飲み終わり、名残惜しいと思いながらグラスを置くと、空のグラスが時計を巻き戻すようにコーラが入った状態のグラスになっていた。


「ふふ……喜んでくれてなりよりさ。おかわりでもどうぞ」


 神が驚き戸惑っている俺を笑いながら優しく言った。

 ならば、俺の言うべきことも決まっている。



「ついでにカレーライスも頼んじゃっていいっすか?」 



 ずうずうしくもメニューにない品を追加注文を出してみる。

 食欲には人間勝てないのだ。

 異世界に飛ばされて思うことは多々あるが、名残惜しく思うのは地球の料理が食べられないことだ。異世界の料理もおいしいのだが、多種多様性は地球が一番だ。

 それに、カレーは飲み物という言葉があるように、頼んでも問題ないはずだ。

 建前大事。けど、カレーを頼んでルーだけ来たら嫌なので、ちゃんとカレーライスと頼む。


「くく……わかったよ」


 俺のずうずうしい注文に、神は苦笑しながら了承した。

 厚かましい俺のお願いに、機嫌を悪くした様子はない。


「おお!言ってみるもんだ!」


 目の前には頼めば何の料理でも出すことが出来る神がいる。

 カレーライスを食べたら何を頼むのか考えなければいけない。

 断られるか?

 いや、土下座すれば、追加注文を了承してくれるのだろう。

 土下座をするのは嫌だが、プライドを捨てないと一生食べられなくなるのだ。恥を捨てて利を取る場面だ。

 目の前でいきなり土下座する奴には勝てまい。

 きっと追加注文を認めてくれるはずだ。認めてくれなければ神では無い。


「何か変なことを考えてない?」


「別に?」


 素知らぬ顔で神の問いに首を振る。

 しかし、カレーライスではなく、カツカレーにしとけばよかったか?

 しかし、カツにあうのはトンカツ屋のソースかポン酢だ。カレーソースは3番手以下だ。ここでカツカレーを頼むのは愚考すぎる。そして、カツといえば……


「おぉ!」

 

 神が指を鳴らすと、目の前にはカレーライスがポンと出てきた。

 テーブルにはカレーライスとコーラ。

 福神漬けもらっきょも完備。至れりつくせりだ。

 楕円型の皿に盛られた白く輝くライスとそれを包み込むように重ねられたダークブラウンのルー。ルーには、大きくカットされた牛肉、人参がゴロゴロと入っていた。湯気が、スパイスの香りが食欲を刺激する。牛肉にスプーンを入れると、まるでスプーンが聖剣のような切れ味で肉を真っ二つになる。想像を絶するほどの柔らかさ。肉ではなく豆腐といっても信じそうだ。

 カレーを食べてみる。

 まず最初に来るのが旨み。複数の野菜と肉を炒め、形がほとんど残ってないほど煮詰めたのだろう、この複雑な味は。それでいて人参は大きく存在しているのがにくい。別に作ってカレーに入れたのだろう。

 次に来るのが辛味。カレーを作るその日にスパイスをひいて作らないとこの味と香りは出ない。

 そして、最後に来るのは、ほのかな甘み。野菜と米の甘みが辛さを払拭するかのように舌を最後に刺激する。一陣の風のようだ。その爽快さ、また味わいたくなる。

 旨み、辛味、甘み、三つの味が複雑に絡み合い、共演しカレーを作り上げる。まるで中毒者になったようにカレーを求めてしまう。

 キリストが最後の晩餐でカレーを食べていたという説を小説で読んだことがあるが、それは本当なのかもしれない。俺もレオナルド・ダ・ヴィンチの絵にカレーが無いのは書き忘れという説を支持したい。

 カレーのほとばしるスパイスとコクの深さの共演に舌鼓をうちながら感動していると、神が話しかけてきた。


「くくっ、神である僕にカレーライスを注文したのは君が初めてだよ、響くん」


「大丈夫。他にも注文するから」


 断るなら、こちらは土下座の準備が出来ているぞ。


「本当に君は僕を楽しませるね。

 気にならない?僕が君を呼んだ訳を」


「気にならないといえば嘘になるが、そっちが勝手に喋るだろう。

 あ、次はカツ丼と味噌汁を。飲み物はお茶で」


 ジャブ気味に次の注文を言ってみる。

 勢いだけで乗り切って見る感じだが、神はあっさりと、あいよと了承してくれた。

 土下座はいらないらしい。


「理解が早くて助かるよ。転生者には全員面会して話を聞いてるのさ。

 異世界はどうですかー?ってね」


「なるほどねぇ。問題は特に無いな。幼馴染に会いたいのだが……」


 カレーを食べる手を止めて神を見ると、神はニコッと笑う。


「それは自分の力で見つけてほしいね。せっかく伝言したんだし」


「ま、そこまでは甘くないか」


 その答えは予想してたので、落胆はなかった。

 手はまたカレーを口に運ぶ作業に戻る。

 その後、俺は色々と食べながらだが神の相手をした。

 細々と異世界について質問され、機械的に答えた。

 味わって食べたいのに、邪魔される。

 しかし、さすが神だ。出された食べ物はどれも今まで食べたことがないくらいにおいしい。

 神の妙技を味わった。

 どら焼きうめー。

 ケーキうめー。


「うん。ご協力ありがとう」


「質問数がえらく多かったんだが、他の転生者にも同じことを聞いてるのか?」


「まぁね。といっても聞き取り役は僕じゃないけどね。

 そこまで暇じゃないからね、僕は」


「なら、なんで俺は?」


 こうやって神と話をしてるのだろうか。食べ物をもらえて嬉しいのだが、なにが起こるかわからない神の相手は出来れば勘弁して欲しいのが実情だ。

 神に色々注文しておいて、何を言ってんだかだが、それはそれである。


「本当は別の人にやってもらうことになってたけどね。アクシデントというか罰があってね」


 歯切れ悪そうに神は言う。なんか俺を複雑そうに見ている気がするが気のせいだろうか。


「アクシデント?」


「ん?こちらの話さ。聞かないでおいてくれると嬉しいね。デコピンしたくなるから」


「……わかった」


 触らぬ神に祟りなし。

 俺はその話題について触れるのをやめた。


「…………」


「…………」


 沈黙が、白い空間に流れる。

 俺は特に神に聞く内容が思いつかないし、神は俺に何も聞いてこない。

 気まずい空気が俺と神の間に流れる。

 お茶を飲むズズズという音だけが辺りに響く。

 神は空気を変えるかのように、ゴホンと咳をして、



「……で、アルとはどう?」


 変なことを聞いてきた。


「なんだその聞き方。コミュニケーション取れていない息子に対するお父さんみたいな聞き方だぞ」


 どうって言われて、どう答えろと。

 漠然としすぎてる。


「なに、せっかくアルを君につけたんだ。どう思っているか聞きたくてね」


 笑いながら、こちらを見通すように聞いてくる。

 気まずい雰囲気はいつの間にか霧散していた。


「まぁ、助かってはいるな」


 相手にペースを取られないように、お茶を飲んで態勢を整えようとすると、


「くくっ、そうだね。

 ま、いいけど。あんなに熱い告白を見れたからさ。

 いやぁ、アレには驚いたし、感動したさ。

 他の人達も赤くなったり、青くなったりして大絶賛さ。

 しかし、アルがいない響くん物語も見てみたかったなぁ……」


「ぶふぅ!」


 神が恐ろしいことを言った。思わず飲んでいたお茶を噴出した。


「きたないなぁ、もう。せっかく出したんだから飲んでよ」


「かかってないだろ、許せ。それに、噴くと分かってて発言しただろう」


 神に向かって噴出したのに、お茶は神にかからなかった。まるでお茶を噴出した事実がなかったかのように、テーブルの上にも水滴は存在しなかった。恐らく、空気中で消滅したのだろう。


「で、アレってなんだ?他の人ってなんだ?」


 なかば答えを予想しながら、それでも一縷の希望を望みながら神に聞いてみる。


「くくっ、わかってるくせに。あの仲間になってくれとアルに頼んだシーンだよ。

 これは独り占めしては駄目だと思ってね。部下達にも見せたのさ」


「………おい」


 肖像権は?プライバシーは?

 恥ずかしさと一抹の苛立ちが熱を生み、体中を駆け巡る。


「でさ、その時さ、響くん面白いこと言ったよね」


「面白い、こと?」


 つい聞き返してしまった。

 なにか嫌な予感がする。

 やばいと思った時は遅かった。言葉が口から出た後だった。

 ニヤッと神は笑った。よくぞ聞いてくれたといわんばかりに。


「うん。僕を相手に戦いを挑むとかなんとかってね。

 それって本気?」


 神は笑いながら問いかける。

 その問いかけの威圧に、背筋が凍る。

 今までと同じ柔和な笑顔だが、それは外側だけだ。

 無邪気な問いかけにも見えるが、その薄皮を剥ぐと違うものが見えてくる。

 

「ねぇ?僕を相手にして勝てると思ってるの?

 意味があるの?無駄死にするの?せっかく拾った命を」


 甘く優しい声音で、幼子を諭すように。

 神は嗤う。

 俺を見ながら。

 雑談だった会話が、断頭台での遺言を述べる場所へと変貌する。

 目が。

 雰囲気が。

 問いかける、その姿が。

 嘘を断罪し、審判をくだす。

 それこそまさに神話の中で語られる神の姿だと証明するかのように。

 俺に返事を求める。


「ねぇ、答えてよ?」


 答えさせる気なんてない、神の圧力が俺を重ずる。

 目がチカチカと点滅し、体から意識が根こそぎ取られ崩れ落ちそうになる。

 唇を噛み、皮膚に爪を立て、自分の足の指を力いっぱい踏みつける。

 倒れそうになる体を痛みで立て直す。

 そして、俺は口を開く。


「……本気だ。撤回するつもりはない」


 神の審判に。

 返す言葉はこれしかなかった。

 アルに言ったことは本気の言葉だ。

 都合のいい言葉で、アルを誤魔化そうとしない。

 何よりそれは、彼女への最大の裏切りだ。

 アルが悩んでいたことを、心にも思っていないことで救済しようとは思っていない。

 あの時に発言した言葉は、勢いのせいで誇張された部分もあろうが、本心だ。

 ならば、神がアルを弄ぶのなら。

 アルが戦いの意思を示すなら。

 俺は神と戦おう。

 負けるとわかっているが、俺のアルに対する気持ちは示すことができる。

 ならば意味があるだろう。

 道を踏み外しかけていた、壊れかけていたかもしれない俺を救ってくれたアルへの感謝を。


「…………ふーん」


 神は真意を問いただすかのように俺を見定める。

 数秒だろうか、永遠だろうか。

 それほどの時間の後に。

 神は俺の目を見て微笑んだ。


「よし!」


 今まで見たことが無い種類の笑みだった。

 苦笑や、嘲笑、人を喰った笑み、ニヤニヤとした笑みとは違う何かだった。

 それがなんなのか俺にはわからなかった。

 だが、それまであった圧力が消えた。

 消えると同時に自身の手に汗があったことに気がつく。

 手を握ると、まるで水で洗ったかのような水量だった。

 いや、手だけではない、体中から汗がでている。


「そっか。ってそんな目で見ないでよ、響くん。

 まるで僕が君をいじめてるみたいじゃないか。

 ちょこっと聞きたくなっただけだよ」


「嘘をつけ、嘘を。体中冷や汗かいたぞ」


「おちゃめなジョークじゃないか。

 安心してよ。敵対する気なんかないよ。

 趣味は慈善事業な僕がひどいことするわけないじゃないか!」


 手をひらひらとふりながら、まったく信用できない言動をした。

 だが、敵対する気がないとは本心だろう。

 神にとって俺は取るに足りない存在だ。虫を相手にするようなものだ。

 本気かどうか聞きたかっただけなんだろう。

 なら、あんなことをせず普通に聞けと言いたい。

 確実に寿命が縮んだと思う。


「せっかくだからアルも呼ぼうか?」


 くつくつと笑いながらそう提案する。なんか機嫌よさそうだな。

 こちらの返答なんかお構いなしに、神は指を鳴らす。

 すると何もない空間からアルが出現した。


「ふぇ?なんですか?寝てたはずけど?ここどこ?一面真っ白だし! 

 精神とか時をなんとかする部屋ですか、ここは!?

 って神様!?それに、響さんも!?え、なんでですか!ドッキリ?

 うわ、ケーキ食べてる!ずるいです!何食べてるんですか!?

 独占禁止法違反ですよ!分け与えましょうよ!

 一人は皆のため、皆さんは私のために!さぁ!さ……」


 神は再度指を鳴らす。

 アルの姿は消し飛んだ。


「うん。うるさくなりそうだし、やめとこっか」


 アルを呼んだことはなかったことになったらしい。

 藪を突いて蛇を出す気はないので、ツッコミは入れないでおく。

 しかし、アルって気が動転すると響って呼ぶなぁ。

 自分でつけたのに、気に入ってはいないだろうか。

 紅茶を飲みながら一息を入れる。


「それで響くん、何か聞きたいことはあるかい?

 お詫びも込めて何でも答えるよ」


「本当か?」


 答えてくれると言うのならば、聞きたいことが出てきた。

 それならば……。


「あ、でも注意してね。夢から覚める、つまりこの世界から出て行くと、ここでの記憶がなくなるからさ。記憶を封印ってなもんだ」


「意味あるのか、それ……」


「うーん、自己満足にはなるかな」


 ははっと笑いながら神はのたまう。

 ツッコミ待ちだろうか、はたいていいのか、これ。


「お詫びというなら別のものにしてくれ。

 とりあえず、北京ダックを食べたい。あれ食べたことないんだよ。一度食べてみたかった。あとフカヒレ、キャビア、フォアグラ、トリュフ!」


 かなり気になるのだが、質問することはやめておくことにした。

 いくら食べても満腹にならないこの世界で、俺は贅を極めることにした。

 神の力を借りて我が野望をなさん!


「ははっ、わかったよ。ならあとはお食事タイムとしようか。

 というより、アルに似てきたね?それとも、それが本来の君の姿なのかな?」


「恐ろしいこと言うな。謝罪と賠償を求めるぞ」


 指を鳴らし、料理が出てくる。

 今度は神も食べることになった。

 一緒に食べながら、雑談する。

 食事や文化、ゲームや漫画の話。

 取るに足りない話だが、面白かった。




 ここで過ごしたことは忘れるだろう。

 もし、記録を残しておけるなら残しておきたい。

 そして、伝えたい。



 世界三大珍味はたいして美味しくないと。

 美味しかったといえば美味しかったのが他に比べるとね。

 正直期待はずれだ。


 そして、この世界を去る直前。


「あ、幼馴染さんから伝言承ってるの忘れてた」


「おい!」


「はは、思い出したからいいじゃん。

 聞くかい?」


 無言で頷き、発言を促す。


「では、『ひーくん、本妻なんて贅沢言わないから、2番目でも3番目でもいいから席を残しておいてください』だってさ。愛されてるね、ひーくん」


 頭が痛くなってきた。

 ひーくんってなんだ。昔のあだ名だろうが、なぜそのあだ名で呼ぶ。


「待て、俺の何を言ったんだ?」


 言付けの返信がこの内容だとおかしすぎる。


「や、彼女が君のことを聞きたがってたからね。

 慈愛の心満ちあふれて困っている僕は、その願いを聞き届け、君の近況を言ったのさ。

 エルフやら妖精やら他の美少女を篭絡してる最中だって」


「冤罪だ!偽りの真実だ!弁護士を1ダース呼んでくれ」


「ははっ、裁判官は僕だから意味無いさ。ギルティってね。

 けど、いいじゃん。他に女性作っても文句ないらしいよ」


 聞かなかったことにしよう。

 幸いこの場所をでたら忘れるらしいのでこの会話もなかったことになるのだろう。

 胃が痛くなるような爆弾は知らずに過ごしたい。

 神の配慮に感謝した。


「あ、最後の会話は記憶に残しておくので感謝するようにね。

 それじゃあ、またね。転生者に幸があらんことをってね」


 ウインクしながら、神は言った。


「ちょっととまてやぁぁぁぁ、こらぁぁぁぁぁあぁぁ!」



 意識が遠のきながらも、声を大にして訴えた。

 こうして、俺の白い世界で過ごした時間は終わった。







 響が去った後、白い世界に残る神。

 すると、どこからともなく真紅の鎧をまとった戦乙女が現れた。


「終わりましたか、神様」


「うん。終わったよ。予想外に楽しめたかな。

 アーリィ、君はどう思う、響くんのこと?」


 アーリィと呼ばれた戦乙女は半ば不機嫌そうに答えた。


「まったく許せません。神様にあの口のききかた。あまつさえ、神様を便利なものと勘違いしているように思えます。わざわざ神様が相手する必要はなかったはずです!」


「ははっ、響くんは一応言葉を選んでるよ。僕が無礼と思わないから、タメ口にしてるのさ。便利なってのは否定できないけどね」


「なら!」


「しかし、僕の機嫌が悪くならない絶妙なラインで攻めてくるよ。ここまで見事だと称賛に値するね。他の転生者を見てみなよ。異世界に飛ばした相手に萎縮せず、混乱せずに取り乱さずにいるだけで凄いよ。そして、自分の欲求を要求するとなれば褒めるしかないね」


「しかし、無駄な要求です! わざわざ虎の尾を踏むかもしれないことを要求する意味はありません!」


「ま、君が相手だったらアウトだったね。僕ならオッケーだったけど。アーリィ君にも同じ態度で注文してたかな? ちょっと興味あるよ」


「なら、神様ではなく私がやっても!」


「僕が売られた喧嘩だよ?

 買う権利は僕が一番最初に持ってるんだ」


 神の表情は一変する。

 微笑から、冷たい笑顔に。

 その笑顔にアーリィは背筋が凍るを感じた。


「それは……」


 神はニヤッと悪ガキを彷彿とさせる笑顔で答えた。

 神から生じていた圧が消えた。

 怒りが無理やり鎮火されたこともあって、アーリィは屁理屈と分かりながらも反論が出来ない。


「ま、いいじゃん。否定も撤回もしないとは予想外だったけどね」


「…………」


 人が悪い。

 アーリィはそう思った。威圧に耐えられる可能性があったから、響を試したのだろう。

 だが効果はあった。

 元々、響を優遇しすぎだとの反発も一部だがあったのだ。それが、今回のことで実績ができた。

 神が響を試し、威圧に耐え、己の意思を通したのだ。それを神が認めたのだ。

 もし、強硬に反論するには同じように神の威圧に耐えねばならないのだろう。

 威圧に対抗できる人物がどれほどいようか。


「さぁ、響くんにいたずらでもするとしようか」


 神は意地悪く笑った。

 響の受難はまだ続いていたのだ。

コメディ回?シリアス回?

そして幼馴染の性別がやっとでてきました。誰も男と思ってなさそうですが。



2014年4月27日

名前変更。アウグス→アーリィ。

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