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キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
3章 ミシェロの町でのギルド活動
26/98

種はまいた。後は野となれ山となれ 中編

 朝食を食べ、部屋に戻る。

 そして、木材の加工をしながら考える。

 今日は何をするべきかを。


「ひとつ削っては、未来のため~」


 雨粒が壁を叩く音をBGMにしながら木々を削る。

 本日、一日中雨也。以て、如何とす。

 晴れならば、いつもどおりギルドのクエストをすればいいのだが、雨だとやる気がでない。お金もそこそこ貯まった。無理して、金を稼ぐ必要はないのだ。


「ふたつ削っては、自分のため~」


 しかし、部屋に閉じこもってばっかりなのも勿体無い。

 

「みっつ削っては……」


「アポロさん、何を変な歌を歌ってるんですか?怖いんですけど……」


 顔をあげると、アルが目の前に浮かんでいた。

 さっきは俺のベッドでゴロゴロしてたはずだが……。


「怖いって、ただ無音で作業するのも苦痛だからな、歌をうたって気を紛らわしてたんだが」


「なんか怨念を込めてるように聞こえたんですが」


「失礼な」


 多少邪念が入ってるのは認めるが、そこまで言う必要は無いだろう。


「で、アポロさん。何を作ってるんですか?」


 アルは人差し指をさして問いかける。

 アルの指差す先には、正方形に切断された木の板と3~4cmくらいに丸く、くりぬかれた大量の木片がある。手作業ゆえどれも歪だが、使う分には問題はないだろう。


「ちょいとした暇つぶし道具をな」


 茶目っ気を込めて返答すると、


「はぁーー。暇つぶしのための暇つぶしに木材加工するとは……。

 遊んでくださいとお願いしたら、私が遊んであげますのに。

 勇気を出してください、アポロさん! 断りませんから。さぁ言うのです!

 遊んでください、偉大なるアル様と」


 変な風に勘違いされ、同情された。それも上から目線で。

 ほとばしるパトスの赴くままアルを折檻する。

 折檻後、アルがピクピクと痙攣してるが、生きてるので問題ない。

 静かになったアルを捨て置きながら、作業に戻る。

 そして、作業も一段落してアルが聞いてきた。


「お昼ご飯どうします?女将さんに頼みます?」


 宿の食事は朝夕は無料だが、昼は料金がかかる。


「いや、外で食べるか」


「この雨の中をですか?」


 アルは外を一瞥して問いかける。

 雨は強くはないが、降っている。

 わざわざ外食する必要はないと言いたいのだろう。


「たまにはいいだろう。好きなもん頼んでいいからさ」 


「そんな子供だましに騙されませんよ。

 ……さぁ、行きましょうアポロさん。

 ジュースが我らを待っている!」


 前後で矛盾した発言をしている気がするが、いつものことなのでスルーしておく。

 せっかく乗り気なのに、こじらせてもやっかいだ。

 雨用の外套を着て、外に出る。

 雨が外套にかかり重みが増していく。そして、むき出しの顔にも雨粒が降り注ぐ。

 外に出たことを後悔しはじめたが、戻るわけにもいかない。

 傘があればまだマシなんだがなぁ。

 前に市場で探したが、傘らしきものはなかった。異世界ではまだ傘が発明されていないらしい。それか、あったとしても高級品で市場にでないか。

 普及しないのは、仕組みとしては単純かもしれないが、作るのは高い技術力が必要だからなのだろうか。それとも、魔物が出る世の中で片手をふさぐものは必要ないからか。

 色々と考えてるうちに目的地に着いた。目的地は酒場。この町には色々な酒場があるが、評判の良いこの店を選んだ。

 扉を開けると、むわっとした酒の臭いが鼻腔を刺激する。

 中に入ると、店の中は長方形の大きさだった。席はカウンターしかない。横幅は広いので圧迫感がない。

 店内には、カウンターの中でグラスを拭いてる男の人と、奥のカウンター席で酒を飲んでる男がいた。

 グラスを拭いてる人はこの店のマスターなのだろう。壮年ながらも、年齢を重ねただけの渋さがあった。ダンディというのはこういうことを言うのだろう。

 そのマスターが「いらっしゃい」と小さく声で俺達を迎え入れる。


「ん……何だ?」


 その声に反応したのだろう、酒を飲んでうなだれていた男がこちらを見た。

 男は20代中盤ぐらいの年齢で、元はかっこいい男なのだろうが、酒を飲んで、赤くたるみきった顔は三枚目としか言いようが無い。剣をもっているところを見ると冒険者なのだろうか……。


「お、なんだなんだ。ここはガキの来るところじゃねぇぞ」


 ジロジロと見てしまったせいだろうか、酔っ払いが反応した。

 しまった、どうするべきかと思案していたら、アルが進み出た。


「はっ、見た目で判断したら怪我しますよ。

 マスターさん、とりあえず彼の顔に酒をぶっかけてください。安い酒でいいので。

 あと私達にジュースを。甘くてすっきりとしたやつが好みです」


 それに対し、無言で頷くマスター。

 ぶっかけるのだろうか?

 

「あ?喧嘩売ってんのか?」


「それはこっちの台詞ですよ。

 いいんですか?友好的に私たちと接するならば、さっきマスターに頼んだ酒をぶっかけるのじゃなく、貴方に進呈しますよ。

 で、聞きますけど、喧嘩売ってるんですか?」

 

 酔っ払いは2、3秒考え、マスターのほうを向く。

 マスターは3つのグラスにジュースと酒を注ごうとしている。

 それを見て……。


「すまなかった。酒をめぐんでください」


「わかればいいんですよ、わかれば。

 マスターさん、その酒は彼にあげてください」


「おぉ、ありがとう。えぇと……」


「アルです。親しみを込めてアルさんと呼んでください。

 そして、こちらは主人のアポロさんです」


「わかった。よろしくな、アルさん、アポロ。さっきはすまなかった」


「いえいえ。分かってくれれば無問題です。

 さぁ、酒の席で湿っぽい会話はやめましょう」


「おう!」


 絡まれていたはずが、友好的ムードへ変化していった。

 なんというか、アルのコミュ力というかクレーム対応力は凄まじいものを感じてしまう。

 そして、飲み物が運ばれ、食べ物を注文する。

 アルと俺は角ウサギのシチューとパン。酔っ払いは燻製肉等の酒のつまみを。

 酔っ払いの名前はダスティというらしい。冒険者でそこそこの腕を持つらしいが、金遣いが荒いみたいで、いつも貧乏だとか。


「で、こんな雨のなかどうしたんだ?」

 

 ダスティが出てきた酒をチビチビと飲みながら聞いてくる。

 俺はパンをちぎりながら、ダスティに答える。


「雨だからさ、暇になってな。宿にいるのも億劫になって出てきたのさ。

 ダスティは、こんな雨の中なんでここで飲んだくれてるんだ?」


 本当の理由としては、情報集めだった。

 ここのマスターは良い人だと聞いたので色々話を聞こうと思ったのだが、この男のせいでご破算になった。現在マスターは話に加わらず、己の仕事をしていてこちらに寄り付かない。

 ある意味、酒場の主人として正しい職務行動だと思うが、助けてほしかった。俺は酔っぱらいより素面の人と話したいのだ。 


「俺はなぁ……酒が好きなんだよ。雨が降ろうが関係ねぇ。酒があれば何もいらねぇんだ俺は」


 アルコール中毒者の発言だ。無性に帰りたくなった。

 ほんと、マスターと話したい。


「剣を持っているところを見ると、冒険者なんですか?」


 アルが食事の手を止めて、ダスティに質問する。


「まぁな。酒代を稼ぐには嫌でも働かなくてはならないからな。穴あき財布のダスティ様とは俺のことよ!すげぇだろう!」


「別の意味で凄いな」


「同情するなら金をくれ!」


 まさか異世界でその文言を聞くとは思わなかった。


「同情する余地がないんだが……」


「ち……しけてるな。アルさんを見習えよ、アルさんを」


 その酒の代金は俺の財布からでているのだが……。

 アルがドヤ顔でこちらを見ているのに軽くいらっとするが無視する。


「で、ダスティは冒険者なんだよな?」


「おう」


「俺は冒険者になったばかりで勝手がわからないのだが、色々教えてくれないか?」


 リンに聞きたいのだが、今は護衛クエストのためミシェロの町にいない。それに、リンに聞いたことはどちらかというと生活関連についてだったため、その手の知識が欠如している。


「はっ、同業者か。いいぜ。酒おごってくれるならな」


「はいはい。マスター、ダスティに水を」


「おい!」


「うっせぇ。質問が終わったらおごってやるから、我慢しろ」


 ただでさえ赤い顔をしてる酔っ払いだ。いつ呂律がまわらなくなるかわからない。なので、酔い覚ましの意味を込めて水を頼んだ。ダスティは不満そうな顔をしていたが、アルに説得され、しぶしぶ納得した。


「ちぇ、わかったよ」


 アルの言葉には素直なんだよなぁ。

 少し釈然としないものを感じるが、それは心の中に抑えておく。

 それより先に聞きたいことを聞かねば。


「スキルについて聞きたいんだが」


「スキル?」


 何聞いてんだ、お前はという、うろんな視線でダスティは俺を見てくる。

 スキルは冒険者にとって基礎であり、常識でもある。それをわざわざ聞くのかということだ。


「あぁ、俺は田舎の出だからな。スキルについて知っていることがほとんどないんだ。だから冒険者の先輩に教えてほしいんだ」


 なるべく、自然に怪しまれないように理由を話す。


「はぁ、んなの別の人物に聞けよ。まぁ、酒奢ってくれるから答えるけど」


 ダスティの性格なのか、酒のせいなのか、怪しまれずに話してくれた。

 しかし、酒を奢らないと答えないのか、コイツは。


「スキルつーのは二種類に分類されるんだ。一つは能力証明。もう一つは加護と呼ばれるやつだ。能力証明つーのは文字通り、基本的にこの人は何々する力がありますよという証明になるだけ、そんだけだ。ただ、ステータスに表記される場合もあれば表記されない場合もある。ただ、スキルレベルが高ければ補正が加わる場合もあるから、スキルレベルが高ければステータスやギルドカードに表記されることが多い」


「なるほど。表記されるされないって、それはいい加減ではないか?」


「俺も思うが、まぁスキルが列挙されても見にくいだけだからじゃねというのが一般の見識だ。一々、この人は料理出来ますよ、掃除出来ますよとか説明されたらウザいだろ」


 まぁ、俺も人づてに聞いた話だから正しいかわからんがなとダスティは言う。


「わかるような、わからないような」


「レベルが高くなれば補正がかかるからな。能力証明つっても馬鹿には出来ん。あるだけで大したもんだ。加護スキルとは違うが、神様の贈り物と言う奴もいる」


 例えば、料理にしても同じ技量でも料理スキルがある人が作れば、その人の料理の方が評価されるということだ。

 ただし、補助効果はスキルレベルがある程度高くないと出ないそうだ。


「なるほどな」


 喉の乾きを覚え、水を飲み干す。

 グラスを置くと、マスターが水を注ぎに来た。

 それをまた飲み干し、ダスティの話を聞く。


「加護スキルつーのは、なんだ、魔法スキルや種族特有のスキルみたいなものだ。

 普通では信じられない力で、まるで神から与えられたような力。だから、加護スキルと呼ばれる。

 能力証明のスキルは努力や運で取得出来る場合が多いが、加護スキルは無理だ。本人の生まれつきしかない。

 アポロは何か魔法スキル持ってるのか?」


「火魔法がレベル2だ」


 本当はレベル4だが、ギルドカードは隠蔽スキルを使いレベル2にしている。なので、ダスティには嘘のレベルを言う事にした。


「レベル2か。まだ初級レベルだな」


「確かスキルレベル1~3までが初級で、4~6が中級、7~10が上級だったよな?」


「分類としてはそうだな」


「分類としてはってことは、実際は違うのか?」


「ほんと何もしらねぇな、てめぇは。かなり面倒なんだが……」


 ダスティはめんどくさそうに頭をかきながら説明してくれる。

 

「スキルレベルが初級、中級、上級で分けられるのは事実だ。だが普通のスキル場合、レベルが3の奴が初級者に分けられるかというと話は別だ。実際は中級者とみなされる」


「なんでだ?」


「色々理由があるが、一番は魔法スキルのせいだ。あれはレベル4、レベル7と壁がある。だからそれが世に広まったんだ。ま、他のスキルも4と7を境に性質が変化することもあるからな」

 

 ややこしいな。


「そして、魔法スキルはレベル3までなら努力でなんとかなるが、それだけではレベル4になることはできない」


「ならば、どうしたらいいんだ?」


「知らん」


「は?」


「知らんもんは知らん。というより、解明されていない。学者の中には才能やら、魔法への理解やらと言う奴がいるが、真相はわからない。そして、壁を越えた者だけが中級や上級魔法を使うことができる」

 

「レベル3が中級魔法を使うことが出来ないのか?」


「馬鹿か、中級レベルになったから中級魔法を使うことができるんだろう」


「なら、中級魔法はどうやって覚えるんだ?」


「俺はなったことがないから分からないが、聞いた話だとレベル4になると自然に使えるようになるらしいぞ。だから加護スキルと言われる。使い方が自然とわかるんだ」


「…………」


 ここまでの話を整理すると、スキルは2種類に分かれるみたいだ。

 能力の証明として証となるスキル、または能力を与えらるスキル。

 後者が魔法スキルみたいだ。

 『レベルがあがって、○○という魔法を覚えた!』なんてゲームみたいだ。

 ゲームっぽい部分と現実っぽい部分が入り混じり分かりにくくなる。


「なるほど。では魔法は置いとくとして、一般的に初級者、中級者、上級者はどのくらいのレベルで分けられるのだ?」


「武術スキルでいうなら、おおよそレベル1、2は初級者、レベル3、4は中級者、レベル5、6は上級者になるな。Aランクに属するやつらは大概上級者に属するな」


 キャラメイクの時に、火魔法スキルの場合レベル3に必要なポイントは8.レベル4ならば16だった。レベルがあがるにつれ、必要ポイントが二倍ずつあがるとはいえ、3と4の間には必要なポイントは跳ね上がる。そして、レベル7になるには128ポイント必要。初期ポイントが100のため、普通ならレベル7をとることは無理だ。ならば、転生者は中級者レベルの力が与えられて、この世界に飛ばされたということになるのだろうか。


「なら、レベル7以上はどうなるんだ?最高が10なんだろ」


「レベル10が最高と言われてるが、本当かどうか眉唾だ。レベル10になったというやつなんか聞いたことねぇからな。レベル7に到達できる奴さえ、Sランクにいるかどうかだ。ま、あえてレベル7以上を定義するなら」

 

「定義するなら?」


 ダスターはちびっと酒を飲んで、言った。


「化物と、俺はそう呼ぶな」


 外の雨は一層強くなり、酒場の建物を強く叩きつけていた。雨の音とマスターがグラスを拭く音が酒場にこだまする。





 その後、冒険者に必要なことを色々聞こうとしたが、途中で酒だ、酒だとうるさくなって、酒を与えたところ、ダスティの呂律が段々おかしくなり、しまいには泥酔して寝やがった。

 どうやら与えた酒は度数が高かったらしい。

 マスターがよくあることなので置いといていいと言ったので、おごった分を払って酒場をでた。雨の勢いは弱くなっていて宿に帰るには今がちょうどよい。予定より、ずいぶん長居した。ダスティのせいだな、これは。酔って間延びした口調とループする会話。酔っ払いの相手は疲れることこのうえない。

 帰りしな、塗料を買って宿に戻る。

 宿に戻ったら、夕食を食べる。

 夜はいつもどおり訓練したり、文字の勉強をする。

 そして、いつものようにベッドに入り、眠りの世界へ旅立つことにした。

 明日は晴れてますように。

 そう祈りながら目を閉じた。

 眠りはすぐに訪れた。






 目覚めると、そこは白い世界だった。

 地面も、空も、地平線さえもなにもかもが白かった。


2015年5月17日

スキルについて修正しました。



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