外伝 綾瀬美香の物語
本編と関係ないお話です。
見なくても大丈夫です。
最悪、後ろのあとがき読めば内容は理解できます。
これは、アポロこと新城響の物語ではない。ある一人の少女の物語だ。
ただ、平和に生きた彼女のお話である。
名を綾瀬美香という。修学旅行で鍾乳洞見学に参加しているメンバーの一人だ。彼女はよくいえば物静かな性格、悪く言えば主体性のない人物だった。
鍾乳洞に参加したのは、自身の選択ではなく友人に流されるまま決定したのだ。本当は、シュノーケリングに参加したかった。彼女はそれを友達に言えなかったのだ。このことを彼女は強く後悔した。
彼女の目の前には神様と自称する金髪の少年、そして、キャラクターメイキングをするためのモニター。
彼女は異世界に転生したくは無かった。趣味は料理や編み物で、ゲームはほとんどしたこと無い。異世界には何も魅力を感じないのだ。
異世界については、神様の言ったとおり知識がある。綾瀬は思わず、身震いする。本当なら、自分が知らない情報なのだ。頭をいじくられた。嫌悪感で彼女は泣きそうになる。だが、泣けない。スーッと感情が冷めるのだ。そして思うのだ。キャラクターメイキングをしなければと。時間は有限だと。
綾瀬は指示通りにまずQ&Aをじっくり見る。そして、種族を選ぶことにする。
エルフに心惹かれ、それにチェックを入れようと思った。美形が多いというのも心ひかれた一因だ。
しかし、思い出す。Q&Aでは人間が無難と書いてあった。綾瀬はしばし考え、エルフのチェックを外し、人間にチェックを入れる。神様がすすめたのだ。ならば、そうしようと。
しかし、それは逃避だった。神という存在にすがっただけなのである。
パラメーター項目へ移る。自身のパラメーターの数字は分かるが、強いのかどうかもわからない。とりあえず、美形にチェックをいれる。そして、バストサイズを5cmあげておく。もうちょっと欲しかったのだ。満足して、次の項目へと移るとする。保有ポイントはまだまだある。
スキルの項目は大量にあった。見にくいうえに大量にあるのだ。嫌悪感を覚える。
綾瀬は吟味しながら選んでいく。まずは、料理だ。そして、裁縫。それらを選んだ理由は、異世界で生活するからには自分のしたいことをすればいいのだと思ったからだ。戦闘はしたくない。平穏に生きたい。綾瀬はそれを願った。だが、Q&Aで戦闘スキルを取っといたほうが良いとあった。綾瀬は戦闘スキルを選んでいく。杖術、火魔法、買値低下を次々と選んでいった。後一つ選ばないといけない。綾瀬は後でいいかと思い、次の項目へと移る。
装備も数が多く、選ぶのが大変だった。武器から木の杖、防具からローブを選ぶ。その他から旅セットと異世界のお金(大)を選ぶ、消費ポイントは高いが、一年は暮らせるのだ。欠かすことが出来ない。
時間はあと7分ほどあった。綾瀬はスキル選択に戻り、スキルを決める。なんでもいいのだが、何でもいいからこそ決められない。綾瀬は迷う。そしてQ&Aの書かれていた内容を反芻しながら、何かいいのがないか探していく。危険察知の文字を見つける!これだと声をあげる。
あとはスキルのレベルを決める。料理をレベル4にして、あとは2とか3にする。ポイントはそれで使い切った。
キャラメイクが終わると、荒野に飛ばされた。
説明が終わり、みんなはグループを作っていた。綾瀬は友人を探すが、見つからない。キャラメイクを終えてないのだろう。
愕然としながら、周りを伺う。他の人は思い思いにグループを作っている。
綾瀬は困った。知っている人がいないのだ。自身が社交的ではないことを理解している。だが、どこかに加わらねば。
グループは3つできていた。男性だけのグループ、女性だけのグループ、男女混合のグループ。それぞれのグループに問題があった。男性だけのグループは論外にしても、それぞれのグループに綾瀬の苦手な人がいるのだ。
女性だけのグループには女王様タイプの女性が存在していたのだ。高校では自身を頂点として、ピラミッド型の組織を作っていた。気に食わないものは排除したり、いじめたりしていた。もしこのグループに入ったらこき使われるだろう。最悪、いじめの標的にされるだろう。
男女混合グループは、いうなればリア充グループだった。明るいものが集まっている。綾瀬とは違う毛色を持った人達だ。その中の一人に問題の人物がいた。不良と噂される男である。綾瀬がその人物が怖かったのだ。良い噂を聞かないのである。暴力をふるったとか、煙草をすっているとかそういう話を聞く。明るい性格だと思うが、それでも綾瀬は怖かったのだ。
どうするべきか綾瀬は迷う。
一人では困る。勇気を出して、参加しようかと思った。その時であった。端っこのほうに男子が一人だけポツンと存在していた。彼は崖から外を見ていた。
藁にもすがる気持ちでその男子に近づく。近くで見ると、インテリっぽい細身の男子だった。足が長く、せっかくの格好がいい顔なのだが、ニヤニヤと笑っていて気味が悪く感じがする。
「ねぇ、パーティー決まってないの?よかったら…」
「ん?なんだい君は?」
「私まだパーティーが決まってないの。お願い、私と組んで」
「へぇ・・・・・・」
ニヤニヤしながら、その男は綾瀬の顔と胸を見る。
あまりの不躾な視線に、綾瀬はたじろぐ。
だが、綾瀬に選択の余地は残ってない。時間が残り少なくなってきた。
「お願い」
再度、綾瀬は彼に頼む。
「どうしよっかなぁと」と彼はのらりくらり綾瀬の懇願をかわす。
そして、彼は決断をくだした。
「ごめん。考えたけど、無理だ。俺はソロでやりたいんだ。別の人と組んで」
彼は朗らかに笑って言った。
綾瀬は愕然とした。だが、呆然としてる暇なんて無い。
時間が無いのだ。
彼女は恥も外聞も捨てて、他の人達の下へ頼み込もうとした。
だが、時間がそこで終了した。
「では、時間が来たので終了します。よい異世界生活を」
戦乙女の声がし、辺りの景色が一変した。
その場所は、草原だった。周りには彼女しかいなかった。
綾瀬は泣いた。あまりにひどいと。
原因である彼を恨んだ。罰が当たればいいのに、彼女は祈った。
しばらく泣いた後、綾瀬はステータスを調べた。
キャラメイクで決めた内容とほぼ同じだった。ただ、選んでない暗算スキルがあった。これが、ボーナススキルなのだろう。綾瀬は高校生なので簡単な暗算は可能であり、計算式を使えば暗算を使わなくても計算可能であるので不必要なスキルといえた。
綾瀬はアイテムを取り出し、装備する。ローブと杖だなんて魔術師みたいだ。
自分の格好を見て、綾瀬は笑った。
草原を歩いていくと、遠くから馬車が綾瀬のほうへ近づいてきた。
綾瀬は立ち止まる。あちらも気がついてるようで逃げることすら出来ないのだ。
馬車が綾瀬の目の前で止まる。馬車には男性がのっていた。30代中盤ぐらいの男性だった。なにより目を引くのは身長だった。小学生ぐらいの身長しかないのだ。そんな彼が、綾瀬に話しかけてきた。
「嬢ちゃん、一人か?よかったら町まで乗っていくか?」
「いいんですか?」
「いいぜ。ただし、護衛頼むな。嬢ちゃん、魔術師だろ」
そう言って男は笑った。
綾瀬は礼を言い、馬車に乗った。
そこで色々話した。彼は商人で町に帰る途中だということ。
男は親切な人なのだろう。彼は綾瀬の質問に嫌な顔をせず答えた。
そこからは、とんとん拍子だった。
無事町について、宿に泊まる。綾瀬にはお金が十分あったのだ。
次の日には、ギルドに登録した。
ギルドのクエストでは、危険なクエストを避け、町の中で済ませられるクエストにした。料理店の手伝いだった。
そこで彼女は人気者になった。美形でスタイルも良い。日本人の気質も影響したのだろう。愛想も良く、丁寧な仕事ぶりなのだ。人気が出ないわけが無い。
クエスト終了後も、働いてくれと店の主から頼まれた。綾瀬もそれでいいかと思い、了承した。
店で働いていると、まかないを作ることがある。それを食べた他の店員に驚かれた。スキルの効果である。彼女がスキル持ちと分かると、料理をまかされ、最終的にはお店を持つことになった。
常連は多く、綾瀬のファンになる人は少なくなかった。
綾瀬は、性格が良く、爽やかな男性と恋に落ちた。
そして、その後幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
異世界の転生は普通に暮らしていくなら問題は無いとも言えます。スキルどれを取るにしても。基礎ステータスが高いのでなんとかなるのです。
それが言いたいだけのお話でした。
あ、質問があったので追記
異世界共通語と異世界共通文字は初期スキルとして持ってます。表示はされません。