閑話 とある神様の雑談
時系列的には、キャラメイク直後のお話。
「全員行ったかな、レナス」
そう発言するのは金髪の少年。外見から判断すると中学生に見える。最悪、小学生にも見える。ニヤニヤと笑う顔が悪ガキを印象付ける。
「行きましたね、神様」
そう応えるのはレナスと呼ばれた人物。
純白の翼を宿し、見るものを魅了するような美しい蒼色の鎧を纏っていた。美しさもさることながら、意思の強そうな瞳が見る人を魅了する。そんな女性だった。
「誰か気になった人はいましたか?」
レナスは気になって尋ねた。神様は上機嫌なのだ。その理由を知りたいと思った。
「あぁ。色々な人物がいたけどね」
恋人と離れ離れになったカップル、思慮深い人物、これは夢だと思い行動した人、こちらの罠に全てひっかかった人、ある特定の目的のためにキャラメイクをした人。
面白い人や、気になる人は沢山いた。
だが、一番気にいった人と言えば……。
「彼だね」
「彼?」
「最初の異世界転生のときに僕の横にいた人さ。新城響くん」
「あぁ。隠し項目を見破った数少ない人ですね」
限られた時間、あの危機的状況で隠し項目を見つける人などいるはずがない。
キャラメイクが始まる前、レナスはそう思っていた。他の職員も同じはずだ。だから、神様が気になっているのだろう。
レナスはそう判断した。だが、続く神の発言によってそれは否定された。
「彼、響くんね。僕と同じことを言ったのさ」
「同じこと?」
「これは神の恩恵ではなく試練だって」
「え……」
キャラメイクの時、あまりに制限時間が短すぎるのではないか。スキル等に落とし穴があるのはひどいのではないかと職員で話題になった。
その時神は言ったのだ。
「これは神の恩恵じゃなく試練だ」
レナスはさらに神の言葉を思い出す。
「ただ漫然と富を受託するのが良いことなのか?悲劇にあったという理由だけで、力を貰い、異世界で自由に力を振るっていいのか?何も考えず、動かず、享受するだけ。人が人たる理由は考えることにある。人は考え、理想に一歩でも近づくように努力する。だからこそ、文明が発達してきたのだろ。ただ、与えるだけでは駄目なのだ。異世界転生はゲームではない、現実なのだ。考え、行動する。そんな人に僕は力をあげたい」
神はそう言って、職員の反対を押し切ったのだ。
「響さんは、本当に……そう言ったのですか?」
信じられない。レナスは思わず口ずさんだ。
「あぁ、僕の発言や行動、考えを読んで、そう結論したらしいよ。このキャラクターメイキングは神の試練だって」
神は響の発言を思い出しながら、クツクツと笑う。転生者のほとんどは素直に喜ぶか、時間の少なさにイラつき神を恨むだけだった。
「嬉しかったよ。まさか理解してもらえるとは思わなかったよ。それもキャラメイクの当事者だよ。心臓止まるかと思ったほどにね」
「だから、アルをつけたのですね」
アルは神様のお気に入りの子だ。
それを貸し与えたのだ。
「ああ。死んでほしくないからね」
「死にそうなスキル構成なのですか?」
スキルには落とし穴がいっぱいある。格好良さそうなスキルは罠と思ったほうがいい。神の性格の悪さがにじみでてるのだ。
一例をあげると『賢者』だ。
これは説明文では『何かをやり遂げ、冷静沈着となった者。心を落ち着かせる効果がある』となっているが、効果はただの性欲激減だ。欲に惑わされないから良いといえば、良いものなのだろうが。限られたポイントで取るものではない。
変なスキルや罠スキルが存在する。それを響が取ったのだろうか。レナスは思案する。
「や、そんなことないよ。スキルに罠があると考えたんだろうね。あんまり意味のないスキルも取ってたけど、結構考えてたね。ただ……」
「ただ?」
「種族が吸血鬼とのハーフなんだ。バレたら迫害の危険性もある」
「ダンピールですか……」
強い種族だが、説明文で迫害の恐れがあると書いてあるので、選んだ人はいないと思っていた。
それを彼が選んだのか。
思慮深さを見せていただけに、奇妙に思える。
「何か考えがあってのことですか?」
レナスは聞くと、神はいやと答えた。
「選んだのは直感みたいだね」
「直感ですか?スキルにもあった」
「そう、その直感。彼はスキルにも選んでた」
直感はあのスキル群で1、2を競うほど良いスキルだ。
異世界でもスキルを取得できるが、難しい。だが、よほどの運と根気があれば手に入ることが出来る。まぁ、可能といった話なだけだが。
しかし、直感は異世界では取得できないスキルの一つだった。選ばなかったら、それでおしまい。ぽつんと置いてあり、スキルの説明文もわかりにくくされていた。
効果はレベルにもよるが、『本人にとって有利な展開を感じ取る能力』だ。
戦闘においては大変役に立つし、生活にも役に立つはずだ。たとえ、低レベルでも。
「彼はダンピールが危険だと十分わかってた。だが、直感にかけたんだ。すごいよね。信じられるかい?種族をだよ。自分の一生を決める問題だよ。理性ではなく直感に託すなんて、並の心臓じゃないよ」
ケラケラ笑いながら神は言った。
「キャラメイクの時、彼は直感のレベルを何レベルにしたと思う?」
レナスは考える。直感が有用スキルといっても、キャラメイクでは分からないはずだ。神様の発言から、響は頭が切れると読み取れる。ならば、戦闘系のスキルに多く割り振るはずだ。だが、レナスに聞いた意味を考えると直感は高いレベルなのかもしれない。
「普通に考えたらレベル3、高くてもレベル4ではないでしょうか」
レベル3ならばポイント消費は8。
これならば初期ポイントの150pを考えると、高いポイントではない。
レベル4になると16になる。躊躇する値で、レベルを高めたいと思ってもここが限度だろう。
「残念。レベル5だよ」
「レベル5!?」
消費ポイントはレベル4の倍となる32p。信じられない。狂気の沙汰だ。有用かもわからないスキルにそこまで力をいれるのか。彼は何を思ってそこまでしたのか。
「彼は自身の直感に自信を持ってたし、持ちたかったみたいだよ」
「持ちたかったのですか?」
直感に自信を持つのはいいが、持ちたかったというのはおかしな話だ。普通、どちらかだろう。
「だから異世界では少しでも自信を持つためにレベルを高くしたのさ」
「まぁ、だからおせっかいにもレベル7にしといたよ。彼にはその資格がある。ま、代わりにダンピールの種族特有スキルを抜き取ったり、吸血のレベルを1にしといたけど」
レベル7といえば上級スキルのレベルだ。破格のレベルだ。レベル6ではなく、7にしたというのは神が余程響を気に入っているということだろう。
しかし、ダンピールのスキルを勝手に変更されるとはかわいそうだ。選んだ利点が減った気がする。でも、それが神様なりの優しさなのかもしれないとレナスは思った。
「ま、僕は響くんのことが楽しみだからね。アルをお目付け役にしたのさ」
一陣の風が吹く。風は二人の髪をなびかせる。
「だけど響くん、アルをどうにかするのは君次第だよ。最高の仲間になるのか、役立たずのうざい仲間になるのか。それとも、愛想をつかされるのか。君の未来を楽しみにしてるよ、響くん」
神は祝福の言葉を投げかける。
転生者に幸あらんことを。
同時刻。その言葉が届いたのだろうか、響はぶるっと体を震わせた。
「響さん、急にどうしたのですか?」
「や、なんかどっかから、呪詛を受信した」
直感は主人公補正でもあります。ある特定の年齢以上しかプレイできない、つまり選ばれし者のみがプレイできる恋愛ゲーム。その主人公でもそうですよね。限られた選択肢の中でハッピーエンドを掴み取っていく。あれ一個でも選択肢間違えたら、終わりなものもありますから。