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キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
2章 アルハザールの空の下で
13/98

リン・エスタードとの旅路  リンの借金生活 開幕!

「さてと、落ち着いたところで、移動するか。いけるか?」


 リンに提案する。

 盗賊たちを倒したといえ、敵の本拠地であった場所だ。

 何が起こるかわからない、早々に出発したい。


「ん、大丈夫。少しふらつくけど、時間が経てば回復すると思うわ。

 でも、装備品やアイテムは取り返したいわね」


「武器は何を使うんだ?」


 ナイフとかだったら返さないとなーと思いつつ、リンに尋ねる。


「槍よ」


「へーエルフって、弓矢だと思ってましたよ、私。現実は違うのですねぇ」


 アルは感心したように呟く。


「弓矢も一応使えるわよ。ただ、私は槍のほうがしょうにあってね」


「んじゃ、宝物庫へ向かうか。そこに槍がおいてあったはずだ」


 俺達は盗賊達の宝物庫へと向かう。

 リンはお目当ての槍を見つけ、笑みを浮かべた。

 他に必要な物や、リンの私物をみんなで探す。

 するとリンが急に焦りだした。


「無い!ギルドカードが無い!」


「ギルドカード?」


 アルが尋ねる。


「ええ、手のひらよりちっさいくらいの金属の札なんだけど、見つからないの」


 このぐらいと指でサイズを示しつつ、リンは答えた。

 そのような物を、見たことは無い。


「無くなるとやばいものなのか?」


「再発行の料金がものすごく高いの。場合によってはランクにも影響するし」


「いくらだ?」


「金貨1枚だったかな……」


 リンはしょんぼりしながら、うなだれた。

 確かに、金貨1枚となると高価だ。


「…………」


 少し、迷う。

 助けるかどうかを。

 今懐にはあぶく銭とも呼べる、盗賊達から奪った金貨がある。

 命をかけて盗賊達と戦い手に入れたお金だが、汗水流して手に入れたお金ではない。なら、いっそ……。

 そこまで思った時、アルが耳元で「アポロさん、アポロさん」と小さな声で呼びかけた。


「ん?」


 何だと聞くと、それは、


「アポロさん。ここでリンにお金を貸して、膨大な利息を取って、一生ただ働きさせましょうや!所詮、異世界人。リボ払いとかローン金利とかの損得計算できねぇですぜ」


 外道の道へ誘う悪魔の囁きだった。

 びっくりの提案である。

 

「ならば、俺が立て替えといてやるよ」


「ついでに利息は……って痛い、痛いです」


 アルの頭を掴みながら俺はリンに提案。

 頭を掴まれながら、アルはバタバタと手と足を動かしている。

 助けてーとか、児童虐待ですよ、これと喚いているので、まだアルには余裕があるみたいだ。

 少し力を強める。


「いいの?」


「リンさん、私!?私を助けて!?お金の話は後でで!」


 リンの視線はアルに向いている。

 だからリンの言葉の意味はアルの頭を掴んだままで良いのという意味だが、俺の手がアルの視界を塞いでるからアルにはわからなかったようだ。

 アルはリンがお金を借りることに対して、いいの、と発言したと思っている。


「ハハッ、良いんだ。今ちょうど小金持ちだしな」


 まぁ、それも。

 わかったうえで俺はお金の話に戻すんだが。


「お金より命! ノーマネー!ノーウォー!」


「うるさい」


「クハっ……」


 少し手に力を入れると、アルの体が力を失った。

 勿論、演技だ。

 力を入れたといっても少しで、絶命させるほどではない。

 本当にアルはなんというか、芸人魂あるな。

 ぽいっとアルを後ろへ飛ばして、リンの瞳を見る。


「困っているんだろ?」


「でも助けてもらって、その上でなんて……。

 自分で何とか……」


 翠色の瞳が迷いで揺れる。

 俺の視線から逃げるようにリンは伏し目がちに断りに言葉を言おうとした。


「交換条件でもないが、こっちもお願いがあるんだ」

 

 遮るように俺は言う。


「お願い?」


 リンの顔が上向く。

 そして、緑色の瞳と向かい合った。


「ああ」

 

 俺は力強く言った。

 その脇で、アルが小声で、処女だ!処女をよこせ!と腕を振り上げながら提案してくる。飛ばし方が甘かったらしい、気がついたら戻ってきていた。

 アイテムボックスにアルを入れられたら便利なんだがなー。


「金を返すまででいいから、旅に同行してほしい」


「それだけでいいの?」


 そんな簡単な条件でとリンは言う。


「ああ。俺は田舎者だからな。常識にうとい。町の生活や施設のこと、色々な物を俺は知らない。そして、アルは役にも立たない存在だ」


「最後の一言いりませんよねぇ!つか、私大活躍ですよ!」


 この世界のことを俺は全然知らない。

 ナビゲーターの存在は貴重である。それも裏切らない存在の。

 リンは俺に恩義を感じている。だから俺がどんなに世情に疎くても、リンは怪しみながらも丁寧に教えてくれるだろう。

 我ながら嫌になる利己的な考えだ。

 俺は俺の目的のため、リンを助けてお金を貸すのだ。


「………わかった。それでいいなら借りるわ」


 リンは迷った後、頷いてくれた。

 後で聞くとリンとしても願ったりかなったりだったらしい。どうせ目的が無い旅だ。今回、盗賊に捕まったのも、ソロであったことが原因だ。仲間の存在は嬉しい。それに、自分を助け出した存在だ。信頼できるだろうとのこと。


「あと、ギルドのことを教えてほしい。どうやって入るんだ?

 というより、入った方が良いよな、やっぱり?」


 ファンタジーといえばギルドだ。

 ギルドに入らないと収入を得る手段が思いつかない。

 俺はリンに聞くと、リンは豆鉄砲を食らった鳩のように目と口を大きく開けた。


「ギルドのこと全然知らないの? 入ってすらなかったの?」


 リンは盗賊を一人で殲滅したこととポンと金貨1枚出せる財力なので、ギルドにもう入ってる実力者だと思ったとのこと。

 ギルドカードの存在を知らなかったことは頭から抜け落ちてたみたいだ。


「あぁ。生活費を稼がねばならないからな。

 仕事のイロハを教えてくれたら嬉しい」


「ええと……」


 コメントに困るという風にリンは言葉を濁す。

 うん。わかる。

 金貨持ってるのに、何でそんななのという気持ちが。

 だが、怪しんではいるが聞いてこない。

 命の恩人という俺の立場に感謝だ。


「さてと、いつまでもこんな辛気臭い洞窟にいたくないし、行くか」


 そのまま話を入れ替える。

 リンも気にはなっても追及せず、そうねと同意した。

 洞窟を出ると、光がまぶしい。


「とりあえず、町へ行くか。一番近い町というと……」


 手で太陽を隠しながら、俺が言うと。


「ミシェロね。ここからだと2日くらいよね」

 

 リンはある方向を指差した。

 その方向にミシェロの町があるらしい。

 さぁ、いきましょうと、音頭をとってリンは歩き出す。俺はその後ろへ。正直先導してくれたほうが助かる。


「リンさんって、処女ですよね?なんで襲われなかったんですか?」


 道の途中で、アルが聞きにくいことをズバッと聞いてきた。

 リンはぶふぁと乙女にあるまじき音を立てる。

 話題を選べと思うが、ツッコミを入れる空気ではない。


「な、なんでそんなこと知ってるのよ?」


 手で顔を拭きながら、リンはアルを睨む。

 顔が、耳が真っ赤だ。

 あと、チラチラと俺を見ないでほしい。

 悪いのはアルだ。 


「盗賊たちを偵察してたとき、やつら話してました。ちくしょー。処女じゃなけりゃ楽しめるのにって」


「な、なるほどね。襲えなかったのは、私がエルフってことだからだと思うわ」


「エルフだと襲われないんですか?」


「売るためにね。奴隷商人に売るとき、処女のほうが高く売れるのよ。あと、精霊魔法の使い手だからね。暴れられたら困るから、首輪をつけるまで厳重に監禁されてたのよ」


「精霊魔法?」

 

 精霊魔法。

 気になる単語だ。

 リンは俺の言葉が合いの手だと判断したのか、話を続ける。


「そ、エルフに許された魔法。精霊魔法。

 精霊を介し、魔法を放つの。

 だから、猿轡されて、声も出ないようにされたの」


「精霊魔法はエルフにしか出来ないのか?」


「ええそうよ。お御伽話知らない?精霊王がエルフに精霊魔法を授けたお話」


 そう言って、リンはお伽話を紡ぎだす。

 しかし、俺はそれどころではなかった。

 こんなところに、落とし穴があったのか。

 キャラメイクには確か精霊魔法についての記述があった。

 確か……。

『精霊を介して扱う魔術。エルフが得意とする。中位以上の魔法は精霊との契約が必要となる。上級者向けスキル』とかなんとか。

 間違っては無い。ああ、間違ってはない。嘘は言ってない。ただそれだけだ。もし、他種族が使えるとなったら大騒ぎだ。最悪、科学者とかそういう人物に拉致監禁されそうだ。一人の時以外使わないようにしよう。心に決めた。


「……でね。精霊王がね……」

 

 リンの話が耳から耳へ、頭に入らず突き抜けていく。

 どうしよう、どうするで頭がいっぱいだ。

 

「……ってなわけなのよ。わかった、アポロ?」


 どうやらリンの話は終わったようだ。

 どこか自慢気に聞いてくるリンに、


「……ああ、わかった。精霊魔法はエルフにのみ許された魔法。ソレイガイノモノハツカエナイ…」


 俺はそう答えるしかなかった。

 

「ええ、そうよ。って凄く汗かいてるけど、大丈夫?」


 大丈夫だ。と、手を振って応える。キャラクターメイキングで高いポイント消費してゲットしたのに、使えないとか。神の高笑いが聞こえてくるようだ。本当に性格悪いな、あのガキは。


「ほんと、性格悪いですね。聞いてください、アポロさん。私がちょっとミスしただけで、いじめるんですよ。笑いながら。ちょっと重要な書類をどっか紛失さしたぐらいで」


 アルはうんうんと頷きながら俺にだけ聞こえるように言った。

 重要な書類を紛失させたら駄目だろ。

 そうこうしてるうちに夜になった。

 魔法で火を灯し、野宿の準備をする。

 

「夜の見張りは任して。洞窟内では寝てたから一晩中でも大丈夫よ」


 リンは言った。少しでも恩返ししたいとのこと。


「や、大丈夫だ。ここにいるアルは寝なくても大丈夫な生き物だから」


「ええええぇぇぇぇ!ちょ、それ初耳なんですけど」


「本人、すごく驚いてるわよ」


「芸人だからな。ギャグに命かけてるんだ。すごいだろう」


 爽やかに、胸を張って言った。


「いやいや、そんな面白生物ではないですから。花も恥らう乙女ですから」


「な。面白いだろ」


「おいこら、アポロ。ちょっと裏こいや………ちょ、いたっ、すいません。冗談ですって。まじで。手を離して!」


「アルは睡眠が必要なのか?」

 

 アルの頭から手をどけて、聞いてみる。

 面白生物だから睡眠は不要だと半分くらい思っていたのは事実だ。

 まぁ、実際アル一人に任すのは心配なので、冗談で言ったわけだが。


「いりますよ!人間と同じです。食う!寝る!遊ぶ!必須です」


「なら、最初俺とアルで見張りやるから、先に寝ててくれ」


「いいわよ、アポロは疲れてるでしょ。私がやるわ」


「疲れてるのはリンだろ」

 

 強い調子で断言する。

 リンがビクリと体を震わす。


「真っ暗な洞窟の中、助けが来るかどうかも分からない状況だったんだ。

 周りに味方はいない、敵ばかり。辛かったはずだ。怖かったはずだ」


 自分の未来は絶望しかなかったはずだ。盗賊達の慰み者にされるかもしれない、奴隷にされて、誰かの慰み者になるかもしれない。決して良い未来を想像できなかったはずだ。それでも耐えぬいたのだ。

 そして、今もまだ耐えている。


「大丈夫、俺達が守る。安心して疲れを癒してくれ」


 リンが少しでも楽になれるように言う。

 包み込むように暖かい声音で。


「で、でも……」


「それに、かっこつけさせてくれ。一応俺は男だ。囚われた姫に寝ずの番をさせるなんて外道の行いだろ」


 冗談交じりに述べる。少し、照れくさかったのだ。


「アポロさん、さりげなく私も番することになってるのは、なんでですか?アポロさん一人でいいのでは?」


「俺が起きてるのに、お前が寝てるなんて不公平だろ?どうせアル一人では番できないんだ。話し相手ぐらいにはなれ」


「ちょ、アポロさん。まじ外道!」


 アルの絶叫が響き、リンは笑った。


「…………寝たみたいだな」


「ですね。お疲れだったでしょうね」


 リン横になると、すぐに寝息を立てた。


「だな。気を張ってはいたが、いっぱいいっぱいだったんだろ」


 リンは少女だ。

 我慢するのにも限度がある。


「ですね。顔が青白かったですもの」


「できるだけ寝かしておいてやろう」


「優しー! アポロさん、優しー!」


「茶化すな」


「でも、寝かすなと言ってもアポロさんも寝なきゃ駄目ですよ?」


「え?」


 徹夜しようと思っていた。だが、アルはそれは駄目だと強い調子で言った。

 冗談を言っている目ではない。

 アルはチラリとリンが寝ているのを確認して、


「アポロさんもお疲れですよ。ここに来て、緊張の連続でしたもの。

少しは寝ないと明日頑張れないですよ」


 言った。


「でも、徹夜が一日あったぐらい……」


「アポロさん。貴方が徹夜した日と今日という一日は同じですか?

 気がついてはなさそうですけど、アポロさんも顔色が少し悪いですよ」


 思わず顔を擦る。

 アルの言う通り、全然気がついていなかった。


「男の子の意志です。リンさんを多めに眠らすのはいいのですけど、アポロさんも三時間ぐらい寝た方がいいです。それだけは寝てください」


「…………分かった」


 アルの俺を気遣った言葉に反論することはなかった。

 そして、その時間が来るまでアルと他愛もない話をしたのだった。






「……………もう」


 リンは起こされたときは、夜も明けようかとした時だった。

 普通、睡眠時間は半々が暗黙の了解なのに。

 かなり寝かせてもらった。


「……ずるい」


 言葉とは裏腹に、リンの口調は優しさに満ちていた。

 リンはアポロの寝顔を飽きずに眺め続ける。

 アポロの横顔を眺めながら、リンは思う。

 不思議な人だと。

 アルは妖精だ。ならばアポロは魔物使いだということになる。しかし、彼が使役できるのがアルだけだという。アルは彼が言うとおり戦力にはならない。ということは、彼一人で盗賊を殲滅したことになる。自分でも難しいと思う。それなのに戦闘は苦手。ほとんどしたことが無いと言っていた。疑問に思うことは多々ある。

 多々あるが……。


「ま、いいか」


 ささいなことだ。リンはそう判断した。信頼できそうな旅の仲間。それだけで十分だ。

 彼に秘密があっても関係ない、必要なら旅をしていくうちに教えてくれるだろう。

 このアルハザールの空の下で。

 リンは笑った。

 さぁ、もうすぐアポロ達を起こさなければ。楽しい旅のはじまりだ!




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