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キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
2章 アルハザールの空の下で
12/98

エルフとの出会い2 正々堂々なぞドブヘ捨てちまえ

 俺達は北へと向かった。盗賊達のアジトを強襲するためだ。


「響さん、本当にアジトに向かうのですか?」


「ああ。なんか問題あるのか?」


「いえ、なんかアグレッシブだなーと」

 

 盗賊退治は、ギルドとかで請け負う仕事ではないでしょうか。異世界転生後すぐにすることではないでしょうとアルは言った。レベル上げて、経験値を貯めた後にボス戦のはずです。それが最初からボス戦とか。流石は、神様に気に入られた人物ですね、とも。


「それは褒めているのか?」


 にこやかに聞くと。


「いえ。まったく露ほどにも」


 打てば響くというほどに、アルは即答した。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 無言で見つめると、アルは根負けしたのか、


「…………だって、死ぬ危険があるじゃないですか」


 ぼそっと小さな声で本音を吐き出した。

 拗ねたように言うその声は俺の心にひびいた。


「そうか……」


 否定的なのは、俺をためを思っての発言なのか。


「気にするな、俺は死なん」


 暗く沈み込んだアルの顔面にデコピンを打つ。


「あいたっ!」


 アルの顔が俺の指に押され上を向く。

 俺はアルの目を見て言う。


「何度でも言ってやる。俺は死なない。

 さっきは知人の死にナーバスになってただけだ。俺には目的がある。それを果たすまでは死なない。だから気にするな。いつものアルでいろ」


 半分は俺に言い聞かせるように俺は言う。

 アルの瞳をしっかりと見ながら、ゆっくりと。

 アルは俺の言葉に呆然として、やがて、クスッと笑った。


「いつものって何ですか。会ったのは数時間前じゃないですか」


「ハッ、確かに。しかし昔なじみみたいに思う時がある」


「私も!私も!

 もしかしたら、生き別れた親戚の親戚?」


「それ他人だろ!」


 顔を見合わせて笑う。

 うん、これでいい。

 暗いのは俺達には似合わないのだから。


「盗賊を倒すのには目的があるんだ。

 盗賊が言ってただろ。エルフを捕らえてると。それが気になってる。だから、無茶するんだ」


 俺の言葉にアルはポンと手を合わせる。


「わかりました、響さん。盗賊達の代わりに犯すのですね!?」


「違う!

 お前は一体俺をどういう風に見てるか、一回詳しく話さなければならないな」


 元の調子に戻ればこれだ。

 ハッと知らずに口角が上がる。


「冗談。冗談ですよ。わかってますって、正義のためですね。囚われの姫が震えながら助けを待っている!われらが主人公の響さんが助けないでどうする!出陣じゃぁ!ってなわけですね」


「なんでそう極端なんだ。まぁ、人助けだな。ここで、恩を売っておけば、色々手助けしてくれるだろう。異世界の常識に疎いからな。ナビゲーターが欲しかったんだ。それに盗賊達のため込んだお宝を手に入れれば一石二鳥だ」


「うわー」

 

 実直な物言いにアルはわざとらしい非難の声をあげた。


「文句あるのか?」


「いえ、そういう目的ならわかりました。

 なら、色々聞き出して後に奴隷にしちゃいましょうよ、親分。

 助かりたかったら奴隷になれって、みたいな?」


 小首をかしげ、可愛らしくアルは言う。

 口に出した内容は全然可愛くないのだが。


「お前は俺に何をさせたいんだ……」


 無論、冗談とわかっているが、アルのキャラがわからなくなりそうだ。

 俺を鬼畜キャラにさしたいのかと疑ってしまう。

 歩きながら、ステータスを確認する。


============================

名前:新城響

種族:吸血鬼とのハーフ

残りポイント0


レベル2

HP110/110

MP21/59

STR:60

DEF:60

INT:35

AGL:45

DEX:45


スキル

剣術 レベル1 熟練度16/50

調教 レベル1 熟練度0/30

鑑定 レベル3 熟練度1/150

隠蔽 レベル4 熟練度0/200

索敵 レベル3 熟練度1/100

分析 レベル1 熟練度0/30

詠唱破棄 レベル1 熟練度0/50

火魔法 レベル4 熟練度1/300

精霊魔法 レベル1 熟練度1/50

精神異常耐性 レベル2 熟練度0/100

直感 レベル7 熟練度---------

吸血 レベル1 熟練度---------


装備

鉄の剣

布の服

皮のズボン

アイテムボックス


仲間

アルテミス(契約)

============================= 


 MPが若干回復してきた。時間経過で回復するらしい。


「あーさっきの男に吸血しとけばよかったな?」


 吸血のスキルを見ながら呟く。

 吸血鬼は定期的に吸血しなければならないのだ。それなら、早めにしといたほうがいい。

 キャラクターメイキングの説明で、吸血鬼は血に目覚めてから定期的に吸血しないといけないらしい。

 しかし、血に目覚めてからというのがやっかいだ。タイミングがわからない。こちらで音頭を取ったほうがいいのか?吸血すればおのずと血に目覚めるだろうから。

 どうするか……。

 吸血するなら盗賊のアジトですべきか。しかし、エルフに見られると厄介だ。吸血鬼は迫害されてる人種だ。できるだけ秘密にしたい。見られたら最悪消すことを考えないといけない……のか?


「え、男に吸血とかBLですか?私はノーマルですので、ノーサンキューですよ。響さんは男好きで、つい襲ってしまうかもしれませんが、私に見せないようにしてくださいね。親しき仲にも礼儀ありで・す・よ!」


「アルは本当にシリアスの雰囲気を壊すのが上手だなぁ」


「ちょギブです。ギブ。首はこれ以上そっちの方向には曲がらない!」


「大丈夫。やれば出来る。360度首がまわると便利だぞ」


「無理。無理ですって!!」


 ふぅと息を整える。

 ま、なるようにしかないか。

 それに、出来るなら女性にしたい。むさくるしい男の首なぞ吸いたくない。

 ふとアルをじーっとみる。アルも視線に気づき反応する。


「もしや、私を吸血するつもりですか!無理ですよ、サイズ的に」


「や、アルの血を何度か絞りつくせばいけるんではないかと」


 アルに流れる血液を全て絞れば。

 俺の視線にアルは距離を取って、自分の体を守るように抱きしめる。


「怖っ!響さん怖っ!ちょっと洒落にならないんですけど!」


「冗談だ、冗談」


 やだなぁと手を振って冗談と伝えるが、アルは暫くの間ガクガクと震えていた。


「あ、それから名前を変えようかと思う」


 思っていたが、言い出す機会がなかったことを俺はやっと口に出すことが出来た。

 本当はスキルの確認の後に言うつもりだが、盗賊達が来てそれどころではなくなって言い出す機会を失ったのだ。


「なんですか?

 自分に相応しい名前でも思いついたんですか?

 星の海と書いてスターライトカーニバルとか読ませるみたいに。ププッ」


「違う。このままの名前では目立つからな、変更するんだ」


 アルのボケを無視して、答える。

 日本式の名前は異世界では目立つ。

 それに、転生者にまるわかりなのは危険かもしれない。

 ボケを無視されたアルは頬を膨らませるが、何かを思いついたようだ。笑顔を浮かべ、俺の肩を親しげに叩く。


「わかりやしたぁ、響さん。このアルに命名してほしいのでやんすね」


「…………それもいいな」


「え!マジですか」


 まさか、本気にされるとは思わなかったのか、アルは目を見開いて驚愕の声を上げる。


「何が良い?」


「ごんざえもん!……冗談です」


 目が怖かった。あれは折檻する目でしたよ。

 アルは小さくぼやきながら、腕組みして考え始めた。


「……アポロなんてどうです?」


 考えながら歩くと言ってもアルは飛んでいるが、一分くらい経った頃。

 アルは言った。

 不安と戸惑いに揺れる表情で俺に聞く。

 俺はアルの視線から目を離し、前を見て歩く。

 そして、アポロというアルの考えた名前を頭の中で何度も繰り返す。


「……ん、そだな、それでいくか」


 そして、俺はアポロで生きていくことを決めた。


「あっさりしてますねぇ。

 第二の名前ですよ。ペットではないんですから、もうちょっと真剣に考えたほうがいいのではないでしょうか?」


「や、考えて結論出したよ」


「考えたって言っても数十秒じゃないですか。

 こういうのは大事なことですよ! 名前を決めて、他の人の意見を聞いて、画数判断をして自分に合うか決めないと!?」


「それ自分の娘や息子の名前を決める時じゃね?」


「そんな他人事じゃなく、自分の名前なんですよ!」


「娘や息子は他人じゃねーよ!」


 勢いで決めたんじゃない。

 俺はそう言ったが、アルは信じない。


「アルが真剣に考えてくれたのだろ?

 なら受け入れるさ」


 だから、俺は笑って本音を言った。


「…………くはっ」


 俺の言葉に、アルはよくわからない声を上げた。


「もしかして、照れてるのか?」


 よく見るとアルの耳が薄っすらと赤くなっている。


「照れてますよ!

 何ですか、その直球!

 私の好感ゲージが一上がっちゃいましたよ、今!

 どうしてくれるんですか!」


「怒っているのか、怒ってないのかどっちなんだよ……」


「知りません………………アポロさんなんか!」


 アルはぷいっと横を向いて、俺の新しい名前を言った。


「くくっ!」


「こら、そこ!笑わないでください!」


 こうして、俺こと新城響はアポロと改名した。

 ステータスを表示してみると、名前のところが変化していた。

 名前:アポロ(新城響)

 無駄に便利だ。


「着いたな」


「着きましたね」


 1時間と少し歩くと、森の出口に到達した。森を抜けた先は山の斜面になっており、崖と表現したほうがよいほど垂直にそびえたっていた。目を凝らすと西のほうに穴があいていた。そこが盗賊が言っていたアジトのことなのだろう。森の方へ戻り、対策を考える。


「アポロさん、どうするんですか?

 華麗に侵入して、盗賊たちを成敗するのですか?」


「それは避けたいな。相手の規模や洞窟の状況がわからん。うかつに動くのはまずい」


 盗賊の話では五人らしいが、その話を鵜呑みにするのは危険だ。

 それに多人数と戦闘をして、勝てるかどうかもわからない。最初の戦闘、あのときは、不意をつけたから勝てただけだ。冷静に慎重に行動しなければならない。ふと、アルを見る。期待した表情でこちらを見ている。

 そのアルを見て、ある考えが浮かんだ。


「アルがいるではないか!」


「いきなりどうしたんです?どっか頭打ちました?」


「アル ちょっと、洞窟行ってきてくれ」


「アポロさん、短い間でしたが有難うございました。

 今まで、楽しかったです。……じゃあの」


 アルは謎の言葉を言い、去っていこうとする。


「コラコラ。盗賊たちを倒せと言ってるんではない。偵察してこいと言ってるだけだ。人数や状況を確かめてくれ。無理そうなら戻ってくればいい」


 アルは妖精だ。浮いてるし、体長も20cmしかない。

 見つかりにくいだろう。


「……分かりました。

 襲われそうになったら、助けてくださいよ。武器ないんですよ、私」


 ちょっと迷った後、アルは渋々だが行ってくれることを了承してくれた。


「あぁ、そのときは助けに行く」


 ふよふよと、肩を落としながらアルは洞窟に向かう。

 10分ほど待っていると、アルが戻ってきた。

 安堵した。遅くなったので捕まったのか心配したのだ。


「アポロさん。ただいま戻りました」

 

 アルはビシッと敬礼し、そう報告した。


「よく戻った。おかえり。で、状況はどうだった?」


「囚われのエルフは処女みたいです!」


「何を調べにいってたんだ、お前は」

 

 10分もかけてそれを調べに行ってたとしたら、心配した気持ちを返せと言いたい。


「大事なことでないですか!」

 

 アルは心外だとも言わん表情で言い返す。


「で、ほかには」


 サクッと、アルの言葉を無視して本題へ。

 アルも、本題が大事だとわかっているので話に乗る。


「盗賊の人数は5人です。酒飲んでました。

 親分がなかなか帰ってこないせいか、イライラしてました」


「なるほどな。洞窟内はどうなっている」


「洞窟内入って20mほどは一本道、そこから左右の道に分かれます。右にはエルフが捕らえられてます。目隠し、猿轡、手枷、足枷。ちょっと興奮してしまいました!

 で、左は大部屋でしょうかね、5人がたむろしてました」


 サクサクとアルが集めた情報を聞く。

 そのやり取りが数度続き、


「……助かった。情報ありがとう」


 聞きたいことは全て聞けた。

 途中いらない情報が混じったが、非常に役に立つ情報だった。

 さて、どうすれば楽に無力化できるのかを考える。


「盗賊たちは酒を飲んで、いらだっていたんだな?」


 確認を込めて、聞きなおす。 

 

「はい、その通りです」


 アルは大きく頷く。

 ならば……。 


「んじゃあ、待つか」


「寝静まるのを待つのですか?」


 アルが聞く。

 俺はその問いに首を横に振る。


「いや、洞窟内から出てくるのを各個撃破する」


 酒を飲んで苛立ってるだろう、なら、親分を心配して出てくるかもしれない。それに、トイレに出てくるかもしれない。

 そこを叩くのだ。

 洞窟という密閉空間で、トイレをする場所はないはず。十分勝算はあるはずだ。

 それに待つ時間が増えるほど、魔力が回復し、勝率が高くなるという利点もある。


「…………来たッ!」


 30分ほど、待っていると。男が一人出てきた。

 足元をふらふらさせながら森のほうに近づいてきた。森の中へ男が入ってきた。


「…………」


 俺は息を殺し、男の背後へ近づき、剣を振るう。

 スパッと音がして、男の首が胴体と離れた。

 一瞬の出来事だった。男は悲鳴をあげることもできず崩れ落ちた。


「しかし、凄いな」


 ステータスの高さのおかげか、地球では考えられないことができる。まるで、剣の達人みたいにスパッと首が切れる。この性能の高さは種族特性が大きいのかもしれない。

 ダンピールの選択は間違ってなかったといえる。

 ……少なくとも、この時点での話だが。

 さらに10分ほど待っていると男が2人出てきた。さっきの男を捜しに来たのだろう。森へ向かってくる。そして、彼らは発見した。

 俺が殺した男の亡骸を。


「ザ、ザイル!」


 死んだ男の名前なのだろう。2人の男は死体を目にし、声をあげた。


「ハッ!」


 呆然としてる男たちに、後ろから襲い掛かる。


「ギャッ」


「グッ!」


 一人は袈裟斬りに、そして返す刀でもう一人を。男達は大きな声をあげることなく絶命した。

 ふぅと息を吐き、洞窟へ向かう。

 まだやるべきことがあるのだ。


「おーい。こっちへ来てくれー」


 盗賊の声を装い、洞窟内へ呼びかける。

 殺した男達は大きな声は上げなかったが、無言というわけでもなかった。その声を聞かれてないかドキドキと不安になりながら、相手の返答を待つ。


「なんだぁ?親分がどうかしたのか?」


 賭けに勝った!

 洞窟内からカランカランと石を蹴る音とともに、声が聞こえてきた。その呑気な声は何があったのか気がついてはいないことを雄弁に教えてくれた。


「火の力を願い。我は乞う。

 求めるは、紅蓮の炎」


 俺は洞窟から距離を取る。

 そして、魔力を練り、タイミングを計りながら小さな声で詠唱を開始した。

 洞窟内部には呪文は聞こえないはず。

 祈るように、俺は呪文の詠唱を続ける。

 


「逃れえぬ業火がその身を焦す。

 我は其を焼打し、煉獄の宴を望まん。

 『イグニッション!』」

 

 中級火魔法イグニッション。

 対象に火弾を放つ魔法・威力は高く対象を燃やし尽くす。それを全力で放った。できれば2人両方を同時にしとめるために。

 目論見は半分あたり、半分外れた。

 火弾は男の右胴体に当たり、燃え盛った。余波でもう一人の腕を燃やす。


「あちぃぃぃぃぃぃ」


「……チッ」


 舌打ちし、再度魔法を唱える。

 炎が燃え盛っているため、近づくのは危険だ。

 魔法でけりをつける。


「求めるは、相手を燃やす紅の玉。

 『ファイアーボール』」


 今度は下級火魔法を唱える。威力より、速度を優先した。スキルの詠唱破棄のおかげで一部省略して唱えられた。火の玉は男の心臓辺りに当たる。男は地面に倒れ、ごろごろ転がり、やがて動かなくなった。



「………フウ」


 戦闘は終了した。戦闘中は吸血のことなんか頭から消えていた。別に必須というわけではないので良しとしておく。欲張りは失敗の元だ。

 辺りは肉が焦げる嫌な臭いが鼻孔に入る。

 その臭いに耐えながら俺とアルは洞窟内へ入っていた。


「…………」


「…………」


 情報どおり、洞窟は一本道でしばらく歩くと左右の道に分かれた。

 そこで立ち止まる。

 どちらに行けばいいんだっけと、アルを見ると。


「エルフを助けにいくのですね?」

 

 アルは俺に聞こえるかどうかの声量で聞いてきた。アルの視線は右の道へ。視線の先はエルフの捕まっている部屋へと続いているのだろう。

 俺は首を振り左の道へ向かった。

 通り抜けた先は16畳くらいの部屋だった。辺りには酒瓶がおいてあり、酒の臭さと汗の臭いが充満していた。


「なんでこっちにきたんです?」


 アルは小さな声で理由を尋ねた。


「この先に部屋があるんじゃないかと思ってな」


 アルは、この部屋まで偵察できたが、この先はどうなってるかわからなった。見つかる恐れがあったので、中を詳しくみることができなかったそうだ。もしかしたら、この先に部屋があり予備兵力がいるのかもしれない。それになにより……。


「やっぱりあったか」


 言ったとおり部屋には一本の通路があった。そして、そこを抜けると部屋があった。

 宝物庫なのだろう。武器や食料、水、酒等の道具が無造作に置かれていた。適当にそれらをあさり、いるものを袋やアイテムボックスに入れておく。

 ふと、端のほうに隠すように置かれた木製の小さな宝箱を見つけた。20cmくらいの大きさで鍵がかかっている。

 しばし考えて、宝箱をふると、チャラチャラと金属音が鳴った。


「よし、いけそうだな」


 剣で宝箱をゴツンとぶつける。

 宝箱は割れ、中身が床に落ちた。


「なんばしよっとねぇ!」

 

 アルがツッコミを入れてきた。


「宝箱を開けただけだが?」


「ファンタジー世界ですよ。

 何、力技で開けてるんですか!?」


 怒ってはいるが、小さな声で。

 器用だなと思いながらも、俺は理由を言う。

  

「や、鍵かかってたから」


「鍵をさがせばいいでしょう」


「面倒なので。あるかどうかもわからないからな」


「面倒って……」


 男たちの中に持っていた奴がいたのかもしれない。焼いた奴もいるので、鍵が変形してるかもしれない。ならば、壊したほうがいい。音から察するに壊れ物ではないし。


「お……金貨だ」


 出てきたのはお金だった。金貨が4枚だった。

 盗賊を尋問したときに話を聞いたが、大体 鉄貨10枚で銅貨1枚。銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨10枚で金貨1枚。金貨100枚で白金貨1枚となる。白金貨は大口契約のときに使われるので、普通の生活ではまずみないらしい。

 地球のお金で比べると、鉄貨は大体百円ぐらいの価値があるみたいだ。つまり、銅貨は千円、銀貨が1万円、金貨が10万円、白金貨は1000万円となる。

 つまり俺は40万を得たのだ。


「しかし、やりやしたねぇ、親分」


 ゲヘヘと笑いながら、アルが発言する。

 アルの頭をコツンと叩き、ツッコミを入れる。


「馬鹿なこと言ってないで、行くぞ」


「あいあいさー」


 元の通路へと戻り、右の部屋に行く。

 そこは6畳ほどの部屋だった。地べたに少女が放り出されていた。金色の髪をし少女だった。洞窟に寝かされて土で汚れてはいるが、キラキラと輝く金色の髪は綺麗だった。

 少女は目隠しされ、猿轡、布で手や足が縛られていた。


「うわっ、誰かが捕まってる!大丈夫か、今助けるぞ!」


 まるで、エルフが監禁されてると知らないように演技しながら声をかける。

 無論、後で怒られないためだ。監禁されてると知りながら、一目散で宝物庫向かったと知ったら気分が良くないだろう。お互いのためだ。気分良くいこう。


「ほんとだ!少女が捕まってる!

 今助けますからね。じっとしといてください」


 アルも真意に気づいたのだろう。

 俺の発言にのっかって、エルフの少女に声をかける。


「目隠しを外すぞ」


 少女が頷くのを確認して、俺は目隠しを取った。

 すると、翠色の綺麗な瞳があらわとなる。

 その新緑を思わせるような綺麗な翠色の瞳につい見とれてしまった。

 じっと少女の瞳を見つめる。

 その瞳には何かの感情があった。

 それは怯えと……驚愕?


「アポロさん?」


「あぁ、すまない」


 アルに問いかけられ、はっとする。

 目隠しは取れた。

 次に口。そして、手、足と順次解放していく。


「あ、ありがとう。助けてくれて」


 エルフの少女は礼を言った。

 監禁されて、怖かったのだろう、体が少し震えていた。


「や、人として当然のことをしたまでだ」


 キリッと表情を引き締めて、俺は少女に言う。


「アポロさん、うさんくさすぎます」


 演技が抜けきっていなかった。

 ゴホンと咳をして、空気を入れ替えてから少女に向き直る。


「喉は渇いてないか?お腹はすいてないか?」


 そう言って、俺は袋から水や食料を出していく。


「あ、ありがとう」


 エルフの少女は礼を言って、水をごくごく飲んだ。

 喉が渇いてたらしく、一息で飲んだ。

 水分補給をした後、エルフの少女が落ち着いたと判断して、自己紹介をすることにした。


「俺はアポロ。こちらはペットのアルだ」


「だれがペットですか!

 アポロさんの子分のアルテミスです。アルって呼んでください」


 ペットと子分どう違うのだろう。

 疑問に思いながら、エルフの少女の発言を待った。


「私は、リン・エスタードと言うわ。

 助けてくれてありがとね」 


 そう言って、リンは笑った。

 朗らかに笑う、彼女の初めての心地良い笑顔。

 その笑顔は後になってもずっと覚えていた、印象的な笑顔だった。

 そして、これが俺とリンの初めての出会いだった。

 

名称変更は最初から決まってました。違和感を感じますでしょうが、ご了承ください。主人公の名前を何にするかは決まってないので悩みました。新城響はすぐ思いついたのに……。


ボブ→ザイルに変更しました。


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