エルフとの出会い1 同郷との出会いと別離
「響さん、色々盗賊から聞いてましたけど、これからどうするんです?」
アルが俺に問いかける。
俺は少し思案して、答えた。
「……まずは、槍の持ち主のところへ行こうと思う」
「死体の荷物あさりですか?
さっきの盗賊達がもう取ってると思いますよ?」
「違うわ!ちょっと気になることがあってな」
「気になること?」
「あぁ……」
どうも気になるのだ。力量に伴わない装備。血に怯える様子。
もしかして、転生者ではないのか……。
「っと、その前にステータス確認しとくか」
先ほどの戦闘で、どのくらいの変化があったのか知りたい。
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名前:新城響
種族:吸血鬼とのハーフ
残りポイント3
レベル2
HP110/110
MP13/53
STR:60
DEF:60
INT:35
AGL:45
DEX:45
スキル
剣術 レベル1 熟練度16/50
調教 レベル1 熟練度0/30
鑑定 レベル3 熟練度1/150
隠蔽 レベル4 熟練度0/200
索敵 レベル3 熟練度1/100
火魔法 レベル4 熟練度1/300
精霊魔法 レベル1 熟練度1/50
精神異常耐性 レベル2 熟練度0/100
直感 レベル7 熟練度---------
吸血 レベル1 熟練度---------
装備
鉄の剣
布の服
皮のズボン
アイテムボックス
仲間
アルテミス(契約)
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レベルが2になっていた。
そして、熟練度が微妙だが上昇している。
だが、それよりも気になる項目があった。
今までにはなかったもの。
それは……。
「残りポイントって何だ?」
新しく出現したそれをタップしてみると、パラメーターに割り振ることができるとわかった。
このポイントを振ることでキャラメイクをしていけってことらしい。力特化にするのも素早さ特化にするのも自由というわけか。
「MPが少ないから、MPに割り振るか」
「………………………………ファイナルアンサー?」
アルの言葉を無視して、MPの項目へ割りふる。
無視は酷いですよぉぉぉと泣き声らしき声が聞こえてくるが、気のせいだろう。
MPが13/53→19/59となった。
1pで2上昇するらしい。
「さてと、向かうか……」
「あいあいさー」
泣いてたのは何処へやら、俺の台詞に腕を高らかに上げるアル。
足早に目的地へと向かう。
最初は歩いていたはずだが、小走りに、最後には走りだすほど急いで。
そうして、俺は目的地へと到着した。
「うわぁ……」
アルがその光景を見て顔をしかめる。
それは戦闘の跡だった。
至る所で木々が傷つき、戦闘があったのだと思われる場所だった。
そこには、男が二人倒れていた。
「死んでます……よね?」
盗賊達の仲間なのだろう、先ほどの盗賊達と似た服装の男が胸に穴をあけ倒れ伏していた。
そして、もう一人。
血で汚れていても分かる背中に漢字が描かれているデザインTシャツを着た男。
地球の服と一目で分かる服装だったが、唯一地球の頃と違うのはその耳だった。
地球人ではありえないほど長く、尖った耳。
エルフと呼ばれる種族が持つ身体的特徴。
「エルフを選んだか……」
誰だかわからない。
だが、種族をエルフを選んだ男が死んでいる。
では、吸血鬼を選んだ男は……。
「ナムナム」
アルが両手を合わせながら、エルフに対して黙祷する。
「…………」
そのエルフは至る所に怪我を負い、腕と足は片方しかなかった。
赤い血は土と酸化によってどす黒く汚れて、見るのも嫌になる。
俺は意を決して、エルフを選んだ男をひっくり返す。
うつ伏せから仰向けへ。見えなかった顔が正体を表わす。
「吉岡……」
クラスは違うが、知っている人物。
学校では目立たないキャラだが、頭は良かったはずだ。そんな噂を聞いたことがある。自分の知っている人物の死。俺は衝撃を受けた。
覚悟はしてたはずだ。死ぬかもしれない世界だと。だが、こうも目前に見せられると冷静ではいられない。次にこうなるのは自分かもしれないと……。
「うぅ…………」
「吉岡!?」
微かなうめき声が。
吉岡はまだ生きていた。ファンタジーだからどうかはわからない。普通なら死んでいるはずだ。生きてるのが奇跡と思える怪我なのに。吉岡は薄く目を開けてぎょろりとする黒い瞳で俺を見た。
「吉岡!」
吉岡に声をかけた。
吉岡はぼそぼそと声をあげた。小さくて聞き取れない。吉岡の口元に耳を寄せ、吉岡の言葉を聞こうとした。
「い……たい……も……うやだ…こ……ろ…かえり……たい」
思わず顔をしかめる。
どうすることも出来ない。
一縷の希望を託して、アルを見る。
アルは厳しい顔で首を横を振る。どうにもできない。
吉岡はうわごとのように、痛いと繰り返す。声が未来を暗示させるかのように聞こえる。
俺にはどうすることもできない。いや、一個だけできることがある。
これでいいのかわからない。この考えは逃げかもしれない。
だが、もう見てられない。
大きく息を吸い、覚悟を決める。
「吉岡。今、楽に……する、からな」
俺は剣を両手で掴み、吉岡の心臓に突き立てた。
「アッ……」
吉岡の体がビクリと痙攣して、両目が開く。
「くっ」
その死に様が強く瞳に焼き付く。
両目が開いたのは反射だったのかもしれない。だが、信じられないと俺を見つめるように感じてしまった。
吉岡はそのまま絶命した。バタリと力無く首が横に倒れる。確認しなくてもいい。死んでいる。
「響さん……」
「何も言うな……」
気遣うようにアルが俺に声をかけるのが、何とも痛く感じてしまった。
その優しさが辛いのだ。
俺がやったことは自己満足だ。
せめて、苦しみの時間を短くすることしか思いつかず、殺してやることしか出来なかった。
涙が頬に伝う。
涙が落ちた理由はわからない。
自分の無力か、同郷を殺したことか、理不尽なこの世界か。やるせなかった。許せなかった。しかし、どうすることも出来なかった……。
そんな時、どこからかシステム音が鳴った。
「詠唱破棄のスキルをゲットしました。転生者による異世界での初めての同郷殺人による特典として、さらに彼のスキルをもう一個追加します。
……分析のスキルをゲットしました」
突然のプレゼントだった。
ステータスを開いてみると、詠唱破棄と分析のスキルが入っていた。
しかし、喜べなかった。喜べるはずが無かった。
「あのガキーーーーーーーーーーーーーー!」
何なのだ。何なのだ、これは。
神の試練というのか。俺達に何をさせたいのかまったくわからなかった。最悪の場合、スキルの奪いあいで同郷の殺し合いになる。誰も信じられなくなり、疑心暗鬼になる。最悪の結末が脳内によぎる。
「……きっと大丈夫と思いますけど」
アルはおずおずと口を開く。
「神様、地球のゲームやっているときに言ってました。キャラが死んだときクリスタルとなって技能を継承する。個人の思いが生きるってやつだね!って感動してました。参考にしただけなので、そう悪いことにはならないと思います」
納得はいかなかった、いかなかったが、否定する材料も肯定する材料もない。いくら考えてもわからないものだ。時間のあるときにでも考えればいい。緊急を要することではない。自分を言い聞かせ、落ち着ける。
そしてアルを見る。こちらを心配してる顔が見てとれた。その顔を見ていると落ち着いていくのが感じられた。自分を見失い、こんな小さなやつに心配させるとはふがいないな……笑ってしまう。
「……ありがとな」
「で、でれた!響さんがでれました!」
シリアスなムードが一変に霧散した。
吉岡を埋葬し、次なる目的地へと歩き出す。
後ろは振り返らなかった。