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キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
2章 アルハザールの空の下で
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試される覚悟 初めての戦闘

 上機嫌なのだろう。3人の男たちは大きな声で喋っていた。


「しかし、お頭やりましたね」


「あぁ。アザムは残念だったが、戦果を考えれば上出来だ」


「しかし、この槍。金貨何枚になるんでしょうね。持ち主はあれでしたが」


「血を見た途端、ぶるって戦えなくなったからな。貴族にしては、こんな場所に一人でいるのもおかしいし。本当に変な奴だったぜ」


「いいじゃないですか。はやく、アジトに戻りましょう。エルフが待ってますよ。くけけけけ」


「がはは。そうだな。あの強情なエルフの泣き叫ぶ姿が今から楽しみだ」


 聞こえてくる会話から判断するに、どうやらこの人物達は盗賊らしい。

 ならば、どうするか。アルと盗賊を見ながら考える。

 盗賊との戦闘するなら、命の危険がある。しかし、情報を手に入れる機会でもある。


「……………」


 両者を天秤にかけ、判断する。そして、覚悟を決める。

 胃がキリリと痛む。


「響さん?」 


 心配そうに俺を見るアルに、何でもないと首を振る。


「アル、やつらの前方に隠れることが出来るか?」


「出来ますけど、どうするんです?」


 作戦を話す。

 アルは反論せずに頷いて、盗賊の前方へと向かった。

 そして、盗賊の前方で、ガサガサと音が鳴った。


「何者だ!」

 

 盗賊たちは前方の音を警戒し、剣を取り出した。

 俺は盗賊たちの後方で魔力を練り、呪文を唱える。


「火の力を願い。我は乞う。

 求めるは、敵を貫く火の軌跡。

 『ファイアーアロー』」


 狙うはお頭と呼ばれた。一番体の大きい人物。士気を削ぐにも、当てる的にも申し分ない。

 火の矢が放たれる。

 俺が放った魔法は狙い通り、お頭と呼ばれた人物の胸元に当たる。

 当たった胸を中心として火が燃え盛る。上半身を全て燃やし尽くすかのように火が猛る。


「あぢぃぃぃぃぃぃぃぃ」


 火の燃やされながら、お頭と呼ばれた男が絶叫する。


「お頭ぁ!」


 子分たちは、燃え盛る火にどうする事もできず右往左往するばかりだ。

 そして、火が当たった瞬間、動いていた。

 剣を持ち盗賊のもとへと走る。

 盗賊たちは俺の足音に気づいて、こちらに振り向いた。

 剣を振る間合いには一歩届かない。

 ならば!

 俺は盗賊たちの後方に視線を向け、大きな声で叫んだ。


「アル!今だ!」


 盗賊は、その声につられ、後ろを振り返った。

 そして混乱した。

 いると思った敵が誰もいなかったのだ。いや、目を凝らすといる。20cmくらいの妖精がいる。

 何をするつもりだ。盗賊たちは思ったのだろう。

 俺はその瞬間を見逃さず、近づき相手の首もとへ剣を向ける。スパッと嫌な音を立て、盗賊の首が離れる。

 残りは一人。

 剣を捨て、相手の懐に近づいた。未だ反応できずにいる男の腰をつかみ、自分の足を軸にして相手の足を引っ掛けるように投げる。そして投げ下ろし、がら空きになった胴を踏みつける。グフっと音を出し、盗賊は意識を失った。


「………ふぅ」


 息をととえながら、辺りを見渡す。道を外れたところに、お頭と呼ばれた人物は焼け死んでいた。


「ちょ、響さん。最後かっこよかったんですけど!なんていう技ですか、あれ」


 柔道の払い腰と呼ばれる技だ。学校は一年時、柔道が必修であったため、そこで覚えた唯一の技だ。他は忘れた。

 他の技は忘れたが、柔道の本質を理解していた。大事なのは相手の重心を崩すことだ。そうすればちょっとの力で相手を投げられる。それを使い相手を倒したのだ。

 自分の手を見た。盗賊の首を切り飛ばした時の嫌な感触が残っているようだった。


「響さん……」


 アルは心配そうにこちらを見上げている。

 首を振って大丈夫だと答えた。アルを不安にさしては駄目だなと思った。

 不安も後悔も後で。今出来ることを優先に。


「そんな顔するな。いつものようにグヘヘと涎をたらしながら白目を剥いて笑っていろ」


「しませんよ!白目を剥きながら笑うって怖すぎますよ!」


 そんな漫才をしながら、盗賊たちの荷物をあさり、縄を見つけた。それを使い生き残っている最後の男を捕縛する。


「アル、こいつを見ててくれ」


 盗賊を指差し、荷物あさりを続ける。

 盗賊を倒したのに、自分が盗賊になっている気分だ。

 時折アルがこちらに視線を向けてくるが、羞恥心にも似た感情があるため目をあわせられない。

 3人の荷物をあさると水や食料、銀貨や銅貨が出てきた。

 盗賊たちの武器や道具をアイテムボックスや袋に入れる。全てアイテムボックスに入れたいが、積載量に限りがあるため無理のようだ。

 そして、俺が立派な槍を手に取った。

 これが盗賊達が言っていた槍だろう。観賞用にも成りうる立派な装飾がついたこの槍は何か不思議な力を感じる。

 試しに、鑑定スキルを使ってみた。


『????の槍』


 レベルが足りないのだろう。わからない。

 しばらく考え、アイテムボックスに入れた。

 俺が持っても、宝の持ち腐れだと考えた。使いこなせなければ意味が無いので。

 荷物あさりが終わり、気絶している男に近づいた。

 このまま待つのは危険すぎるか。


「水の精霊よ、力を」


 精霊魔法を唱え、水を出す。

 そして、気絶している男の顔へ落とした。


「ぶはぁ。なんだ!ここどこだ?」


 水が盗賊に当たり、意識を取り戻した。

 盗賊は首を振り、辺りを見渡す。


「起きたか……ならば質問だ。自分の命が惜しかったら、答えろ」


 盗賊たちから奪い取ったナイフを相手の首に押し当てながら脅した。


「た、助けてくれ!」


「質問に答えたらな」


「お前の名前は何だ?」


「……アビラといいます」


 一瞬の逡巡の後、男は喋った。

 黙っていても意味がないとわかったのだろう。

 あっさりと喋ることに内心、安堵しながら尋問を続ける。


「この槍はどうした?」


「先ほど手に入れたんでさぁ」


「どこで?」


「南に10分ほど歩いた場所です」

 

「お前の住んでいた村は?廃村になった村はあるか?」


 世間話のような会話やら町へのこと、盗賊たちのことについて様々な質問をした。

 盗賊は最初混乱していたが、世間話や自分達に関係のないことを聞かれ、次第に落ち着いていくのを感じた。

 しかし、俺はそれを許さなかった。要所ごとに盗賊たちの事を聞き、相手を殴り、ナイフで切り、嘘を言うことを許さず、相手に緊張を与えた。


「最後の質問だ。アジトの場所と構成員について答えろ」


「それを答えたら、助けてくれるんですか?」


「あぁ」


「西に1時間ほどいった場所に洞窟があります。そこに仲間が5人います」


 俺はその答えを聞き、ナイフを相手の手のひらに刺した。


「いだぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 ナイフが肉を抉る嫌な感触が伝わる。

 俺は低く、冷たい声で男の耳元で囁く。


「嘘をつくな。そして、エルフもいるんだろう」

 

 当てずっぽうだった。だが、効果はあった。

 男はビクッと体を揺らし硬直する。

 そして、喋った。


「す、すいません。北です。北に1時間ほど行ったところにあります。エルフは奴隷にしようとして、捕らえたところです。貴方様にさしあげますので助けてください」


「本当だな」


 念をおした。そして、目は嘘を許さぬぞという気迫を込めて盗賊を脅した。


「ほ、本当です」


 盗賊は何度も首を縦に振った。


「とりあえず聞きたいことは終わったな」


「なら!」


 盗賊は顔を輝かせた。これで自由になると思ったのだ。

 その瞬間首に力がかかる。ボキッとした音がなった。

 何の音か理解できぬまま、そこで盗賊の意識は無くなった。

 永遠に。


「響さん、外道ですね」


 アルはこちらをじとーっと見ながら、非難した。

 本気の非難ではなさそうだが、多少気まずく感じる。

 心苦しいのはアルに心を許し始めてるせいなのか。

 そんなつまらないことを考えながら、アルに返答する。


「ああするしかなかったからな」


 盗賊の首を折ったのには理由がある。

 そうしないといけなかった。


「このまま自由にさして、仲間に連絡されては困るし、恨みをもたれ、後で復讐されたらやっかいだ。情けは人のためならずだ。心を鬼にして悪を成敗したのだ」


「いや、それ意味違いますからね。

 しかし、響さん。あっさり殺しましたね。

 地球の倫理的にもっと戸惑うと思ってました」


 ピシャっとツッコミを入れながらアルは言う。


「俺もそう思った。恐らく、神がそこらへんの倫理観を制御してるんじゃないかと思う。この世界は人を殺さなくちゃいけない世界だからな」


 無論、それを逃げ道にするつもりはないが、必要とあれば殺人は辞さない覚悟がいる。

 じゃないと自分の命すら守れなくなりそうだから。

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