表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
1章 キャラクターメイキング
1/98

プロローグ この理不尽な現実の中で

最初は重いですが、最初だけです。

2016年10月

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

死亡時のトラウマは神様によって消されています。

 新城響は混乱していた。わけがわからない。

 胸中はその思いで一杯だった。


「パソコン室……」


 響は小さく呟いた。

 自分が今いる場所。いる場所でないはずなのに、見知った場所かと思ったぐらいに高校の授業で使用したパソコン室にそっくりだったのだ。似ていたのだ。

 辺りを見渡すと、椅子に座った学友、机、机の上にあるモニター、マウス、キーボード。

 情報の授業が今から始まってもおかしくはない。

 だが、それには一点おかしなものがあった。

 それは、教卓にいる人物だった。

 本当の授業ならば先生がいるべきなのだが、そこには中学生らしき金髪の少年がぷかぷかと教卓の上を浮いていた。胡坐を組み、表情はニヤニヤと笑いながら、こちらを観察していたのだ。


「う、浮いてる…」


 思わず立ち上がろうとしたが、椅子に縫い付けられたかのように立てなかった。周りの学友達も同じようだった。


「立てねぇ!」


「なんだよ、あれ…!」


「ここどこだよっ!」


 声が重なり、誰が何を言ってるのかわからなかった。ただ理解できることは、一つ。この状況を理解してる人は誰もいないのだ。目の前の人物を除いて。


「あーうっさいなぁ。説明するからだまってよ」


 少年が指をパチリと鳴らすと、それまでの悲鳴、怒声、困惑、いずれの声も消失した。

 響も喋ろうとしても唇が開かず、一切喋れなくなった。


「よし、静かになったね。んじゃ説明するよ。君たちどこまで覚えてるかな?」


 にこやかに目の前の人物は語る。

 

「…………」


 笑顔だが、有無を言わさぬ圧力がある。

 響は急かされるように思い出す。

 確か、そう。修学旅行中だった。旅行は二日目。10個ある観光スポットの中から一つ選び、その場所で観光やら体験学習をするはずだった。修学旅行の中では、異例ともいえる自由度。普通、クラスや班単位で行動するのだが、これは各人が自由に選択でき、他のクラスの友人たちと一緒に行動できるのが好評だった。

 響はどれでも良かったのだが、幼馴染に半強制的に選ばされた。確か……鍾乳洞探索だったはずだ。どうでも良かったので些か記憶に自信がない。

 鍾乳洞はどこかの島にあるために、船に乗らねばならない。港に行くまでにバスに乗ったはずだ。

 そして……。


「うん、うん。思い出したかな。そう君たちはバスに乗ったんだ。そして、不幸な事故にあった。かわいそうにねぇ。居眠り運転のトラックに正面衝突。そして、横転。場所が悪かったねえぇ。そして、崖下へ転落。どかーん!

 ……てなわけで君たちは死んだんだ。あ、大丈夫。君たちが死ぬ原因を作った居眠り野郎は、死んじゃったけど、それではぬるいと思ってね、僕が魂もろとも消滅させといたから。仇はうった!……てなやつだね!」


 何が面白いのか、ケタケタと笑いながら金髪の少年は説明した。

 響は愕然とした。自分たちは死んだということと目の前の人物の存在に。

 目の前の人物は何なのか。

 人間以上の力を持つ者の存在。


「おっと勘違いしないでね。僕は死神とかちゃちな存在じゃないからね。無論、仏様でもないよ。神様ってやつだ。偉いんだぞぅ」


 クツクツと喉を鳴らしながら自称神は宣言した。

 姿は中学生。悪餓鬼といっても差し支えない。そこには、神と呼べる威厳はまったくなかった。


「輝かしい修学旅行!さんさんと輝く太陽に青い空!絶好の旅行日だ。幸せの絶頂期ともいえるそんな日に事故にあったのだ!居眠り野郎のせいで!許されるか!他の生徒も旅行どころではなくなってしまうだろう…。記念日となるべき修学旅行が思い出したくない日へと変貌してしまった。ならば、なんとかしてやろうというのが神様ではなかろうか!慈愛の心に満ち溢れたこの僕が!一番の被害者に対する君達へ!あぁ…アガペー(笑)」

 

 まるでたちの悪い演劇を見ているようだった。響はげんなりしながら、演技がかった神の独白を聞き続けた。


「そんなわけで君達には、異世界に転生してもらいます!」


 どんなわけでそうなるのかまったくわからなかった。

 だが、反論することもできない。


「ま、いきなり飛ばすのもアレなので、準備してからぶっ飛ばすよー。君達が行く世界はわかりやすくいうと、ファンタジー世界に似ているね。剣あり、魔法あり、モンスター、貴族のような特権階級、ギルド、精霊、スキルなんでもござれだ!心躍るよねぇ。地球上の人物なら一度は願ったはずだ。あぁ…アガペー(笑)」


 響はなんとなく理解した。ようはゲームや小説、漫画の世界に飛ばされるようなものと。しかし、学友の中にはわからないやつもいそうだと思った。特にそのような娯楽に疎い女性陣は。


「あ、皆様ご安心を。事前知識に差があったら困るから、ファンタジーについて知らない人はその手の知識をぶっこんどいたから。ありすぎるのもカットしといたし。やっぱ、ゲームはフェアじゃないと面白くないからねぇ」


 なんでもないように言ってのけた。怪しい人物だと思っていたが、響はその瞬間目の前の人物を神と理解した。人間技ではない力。恐ろしい力を持った存在だと…。


「んで、てきとーにランダムに力与えようと思ったけど、それってあれジャン。本人の希望を無視するわけだからかわいそうジャン。優しい、優しい僕としてはそれは駄目だと判断したのさ!」

 

 変な抑揚をつけながら神は言う。

 自分に酔っていると思えば変ではないのだが、目だけが違った。冷静に自分達を見ているのだ。

 喜ぶ人物、戸惑う人物、憤る人物、理解を放棄して流されたままになっている人物。

 学友の様々な表情を観察しているのだ。

 神は響に目が合うと、ニッコリと微笑んだ。


「…………ッ!」


 響の目が大きく開く。

 まるで考えを読まれたかのような圧迫が神と目が合った瞬間押し寄せてきた。

 だが、響の動向を気にすること無く、神は説明を続ける。


「では、どうするのだ。神様は考えた。そして思いついた!そうだ、自分達に決めさせよう!キャラメイキングだ!目の前のモニターを見てくれ!」


 神様が言い終わったその瞬間。

 ブンと音を立ててモニターがついた。そこには以下のような項目が存在した。


==============================


・種族

・各種パラメーター

・スキル

・装備

・Q&A

・時間延長  


==============================


 画面の右上には『30:00』と『保有ポイント:100』の文字があった。


 響は詳しく見ようとマウスを動かすも、ポインタは動かなかった。


「おぉと。まだ動かせないよ!抜け駆けご法度さ。説明を開始するよ。一度しか言わないからよく聞いてね。一番上の項目『種族』はそのまんまさ。人間やエルフ、はてはゴブリンまで色々な種族の中から自分自身の属する種族を選択するのさ」


 そして、神は二本は指を立てる。

 

「二番目『各種パラメーター』は自分の性別や美醜、能力を変更できる。デフォルトは大体その種族の一般人の平均パラメーターの1.3倍~2倍ぐらいになってるよ。厳密にではないけどね。普通の種族より能力が高いと思ってくれればいいよ」


 神は三本目、人差し指、中指、薬指を立てる。


「三番目『スキル』剣術、魔術、料理とか、いろんな技能があるから選んでね。ここが一番時間かかるかもしれないなぁ」


 そして、そこに小指を加え。


「四番目『装備』は無一文で送りだすのもあれだからね。色々と道具や武器防具を用意してるわけだ。自分が必要だと思うやつを選んでね」


 最後に五番目、親指を足して、神はもったいぶって言う。


「五番目『Q&A』は神様の慈悲さ!何をしたらいいかわからない!どれを選らべばいいかわからない!と言う人もいるはず。そんな疑問、質問のために、質疑応答を入れといたよ。最初にみといたほうがいいかもね。参考になるよ。わが道を行く人は参考にしなくてもいいけど」


 そして、神は両手を叩いた。


「あと、言うことはアレだね。『時間延長』右上を見てほしいね。『30:00』と『保有ポイント:100』の文字があるだろ?左は残り時間。右は残りポイントさ。ポイントは能力を変更したり、スキルを得たり、装備をゲットすると対価としてポイントが消費されるのさ。無数の時間とポイント与えてもつまらないだろ?制限下での努力が大事なのさ!世の中そんなものだろ?だけど、時間が足りない人のために、ポイントと引き換えに残り時間が増えるのさ!神の優しさってわけだ」


 ふぅと長時間喋って疲れたのだろう。

 神は深呼吸する。

 息を吐いた後、神はにこやかに響達を見回す。

 自分の説明が伝わったのを確認すると、頷き、


「さぁ、とりあえずの説明はすんだね。なにか質問はあるかい?っていっても、一人ずつ答えるのは嫌だからね。サクサクいこうよ」


 指をパチリと鳴した。

 すると、何もない空間から白い箱が出現した。

 神はそこに腕を突っ込んでかき回しはじめた。中からがさごそと音がする。どうやら中に入っているのは紙やその類らしい。

 くじびきでもしてるみたいだなと響は思った。


「よーし。これに決めたっと!相浦みきちゃん。すたんだーっぷ!」


 神は箱の中から一枚の紙を取り出し、その紙に書かれた言葉を呼んだ。

 そして、いきなり指名された相浦は自分の意思とは無関係に立ち上がった。

 どうやら、くじびきで間違ってなかったらしい。紙に書かれているのは響達の名前であるような。


「さぁ、なにか質問があるかな?」


 笑いながら神は言う。

 相浦はわけがわからず「え、えっと。え…」と呟くのみで混乱している。


「さぁ、さぁ早く言おう。時は金なり。

 カウントダウンしちゃうぞ。ごーー、よーん」


 相浦はそれでも答えられない。混乱が混乱を呼び。何を発言すべきかわからなかった。疑問に思ったことはあるが、浮かんでは消え、言葉にでてこないのだ。元々、相浦みきは内向的な性格なのだ。このような衆人慣習のもとで発言することなどできるわけがない。


「さん、にい、いち、ぜろっと。残念。良い質問が思い浮かんだら発言しなきゃ。恥は一時。後悔一生ってね。んじゃ、次いこう! んーほいっと。門脇幸子ちゃん。すたんだーっぷ!」


 神はそんな相浦の態度には気にすること無く、再度箱に手を入れて紙を取り出した。


「え、えっと……………し、死んだらどうなるのですか?」


「おぉ!これまた良い質問だね!死んだらそれまでさ。これは、ゲームであっても、遊びではないってね。ただの現実さ。ただ現実世界がファンタジーの世界になるってだけだ」


 神はそう答え、次々と別の人を当てていく、

 そして8人目が過ぎたあたりだった。


「ん。他の人のモニターは黒くなって見れないようになってるよ。カンニング防止ってわけさ。他人の真似をするなんて真似される人にとっては嫌なことだろ。プライバシーは守らなきゃね。くっくっく。んじゃ、そろそろラストといこうか。どぅぅぅぅるるる。記念すべきラストは新城響君だぁ!だぁ!だぁ!」


 謎のドラムロールを口ずさみ、神は響を指名したのは。

 無論、響はこれまでの質疑応答を聞きながら、自分が質問されたときのために考えていた。そして、今までの神の発言を分析していた。


「神様、質問があります。(神様、質問があります。)

 時間切れの場合保有ポイントはどうなるのですか?消えるのですか?(他人のモニターは見えなくなるのは本当ですか?)」


 響は発言しながら、心の中で別の質問をした。


「Yes!その通り!みんな良い質問ばかりで困るよ。さぁ、答えようか。時間切れの場合はポイントは消去される。だから頑張って使い切ってくれ」


 神は響を見てにやっと笑って答えた。

 それは今までとは違う笑い方だった。歓喜と言っても良い。口角がヒクヒクと動き、演技じみた笑いではなく、心底嬉しそうな喜びの笑いかただった。

 表情は笑っているが、目だけが瞳の奥を見通そうとするほど強い威圧感をはなっていた。


「…………」


 響はその威圧に負けじと握った手に爪を食い込ませて耐えた。

 威圧よりも重要なことがわかったからだ。


 神は心の中が読めるのだと。


 今までの質疑応答で神の発言はおかしな点があった。なぜ、最初に当てられた相浦は質問していないのに、神は『残念。良い質問が思い浮かんだら発言しなきゃ』と言ったのか。

 二番目の質問のときは『これまた良い質問だね!』と言った。この二つことを考えるに、相浦は心の中では質問内容が浮かんだが、発言できなかったといえば不都合がない。

 そして、神はなぜわかったのか。

 心を読んだ。そう考えればおかしくない。神と言うからにはそのくらいできるのだろう。


 そして、響は考えた。人を食ったような態度で接するこの神はどのような性格なのだろうか。

 フェアと言ったように、万物平等で慈愛に満ちた存在なのか、否かを。

 質問内容はどうでもよかった。心の中で言った質問に答えるかどうか。それが知りたかった。

 神は二種類の質問に気づき、答えた。みんなに心の中で言った質問を伏せながら、響にわかるように。前半の『Yes、その通り』は心に思った質問に対する答え、後半は実際に喋った内容の答えなんだろう。


「…………はぁ」


 響はため息をついて、辺りをみわたした。周りをみてみると、これからの出来事を夢想して、不安がってる人もいれば、ワクワクした人、口元に笑みを浮かべ、周りと喋っている人がいた。ゲームの世界が現実に、それも若干チートな能力を与えられるからだ。

 響は、そんないいものではなさそうだと言いたかった。むしろ、あの修学旅行に戻してくれと思った。ほのぼのと平和に暮らしたいのだ。人を殺すかもしれない世界に行きたくはない。


「…………」


「…………」


 遠くの席を見てみると幼馴染が座っていた。幼馴染もこちらを向いており目が合った。響は幼馴染を見て、ひっそりとモニターを指差しながら厳しい表情を作った。そして、また幼馴染を見た。

 何かを伝えねばと思ったのだ。声を出すことはいつのまにかできるようになっていたが、意義のあることを伝えるのは不可能だ。あの神様は許すことはしないだろう。だから表情で伝えることにした。届くかはわからないが、なにもしないよりましだろう。


「さぁ、そろそろ静かにしようね。ゲームがはじまるよ!

 準備はいいね?決心はついたかな?

 さぁ、キャラクターメイキングスタートだ!」


 神は指を鳴らした。

 そうして、物語は始まった。



 

2016年10月8日に宝島社から書籍化しました。

書籍版とは細かな部分が違いますが、大筋のストーリーは変わりません。

ただ、面白くなるように設定や主人公の活躍、仲間の設定を変えております。WEB版より主人公が主人公らしく活躍しています。よろしければ書籍版もお願いします。


*書店では品薄になっておりますのでアマゾンなどの通販で手に入れるのが楽かなと思います。

 勿論、書店での取り寄せも大歓迎! 

*2017年6月30日現在、アマゾンでの1巻が在庫切れをおこしています。書店での注文か楽天、honto等の通販がオススメです。


挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ