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 渓流の谷にて、オレ達はギャロップとドードリオに襲われた。
 奴らは勝手にオレ達を恨んでくるし、セナはやたらと判断をミスするし。なんか、ムシャクシャするな。
(語り:ホノオ)
赤色の章~オイラと決意と過酷な現実と~
第15話:波乱と衝突と──その3
「……なぁ」

 声を振り絞り、セナはギャロップとドードリオに問いかけた。

「あんた達の、弟って……ハァ、ハァ……も、もしかして……」

 “炎の渦”に体力を奪われ、喘ぎながら話す。セナがそこまで話を進めると、ギャロップが憎悪の念を瞳に宿らせ、返答した。

「あぁ。俺とドードリオの弟はな、家の近くの川が氾濫した時の洪水に巻き込まれて死んだんだ」

「くっ……。それが……オレ達と、どう関係があるって言うんだ……」

 表情を歪めてギャロップを睨みつけるホノオ。彼の言葉に答えたのはドードリオだ。

「誰が洪水を起こしたと思っているんだ、人殺し! お前達のせいでガイアに災害が起きてな! 俺達の弟以外にも多くのポケモンが命を落としているんだ! 洪水の犠牲者だって、弟達、2人だけじゃない! もっと多くのポケモンが死んでるんだぞ!!」

 ドードリオの3つの頭が口々に怒鳴る。しまいには皆が涙ぐみ、それを見ると、胸が痛むセナだった。
 本当にみんな、オイラ達が災害の原因だと思っているんだな……。でも、思えばそうじゃない証拠なんて、どこにもないしな……。次第に弱気になってゆく。

「ふざけるな……」

 ふと、セナの隣から声が聞こえる。ホノオは怒りで震え、低い声で話し始めた。

「オレ達が災害を起こしてる元凶だとか……“破壊の魔王”だとかいう証拠なんて……どこにもないだろ? それなのに……お前達はオレ達のせいにして──オレ達に罪をなすりつけて……。それで、オレ達が死ねば満足か!? もしてめーらの行動が間違ってたら……どう責任とるんだ人殺し!!」

 満足に息が吸えなかったが、そのことすら忘れてホノオは力の限り怒鳴る。
 言い終わった直後に激しく咳き込み、そしてすぐに、ギャロップが使っていた“炎の渦”の効果が切れた。炎が静かに消滅すると、セナとホノオは地面に倒れ込んだ。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 しばし、2人の荒い息づかいのみがその場に響く。渦からは解放されたものの、照りつける日差しのせいで息苦しさが続く。

 少し考え込んでいたギャロップだが、静かに話し出す。

「別に俺達は、独断でお前達を災害の原因だと決めつけているわけではない。スイクンからの依頼で──」

「スイクンだからか? ……スイクンが言ったことなら何でも本当で、証拠がなくても認められるのか?」

 ギャロップの言葉を遮り、威圧的な声でそう言うホノオ。少し体力が回復し、セナもホノオもふらふらと立ち上がった。

「黙れ! お前らみたいなクソガキの言葉なんかより、スイクンの言葉の方が信憑性が高いのは当たり前だろう!!」

 ドードリオの、3つのうちの1つの頭が早口で怒鳴りつけると、もう2つの頭が鋭いくちばしでセナとホノオを思い切り突いた。

「うわあーっ!!」

 体がゴツゴツとかたい岩肌に押し付けられ、そのまま坂を下るように引きずられた。仰向けだったので、ホノオの背中が酷く痛む。甲羅があるセナは、後頭部や手足を傷つけた。

 やがて体が止まり、2人はゆっくりと起き上がる。少し動くと痛みが走り、顔を歪めた。
 そんな2人のもとに、ギャロップとドードリオが近づいてくる。その顔からは、はっきりとセナとホノオを消す意志がうかがえた。

 今度こそ、戦って逃げなくては。そう決意し、セナは敵を見据えて大きく息を吸い込む。
 ホノオは強く拳を握り、自らの体から激しい炎を出した。──ホノオの技、“火炎車”だ。セナが使った“日照り玉”の効果がまだ持続しているので、通常よりも強力である。

「ハァ、ハァ……。てめーらみたいな腐った奴、ぶっ潰してやる!!」

 ホノオがそう叫ぶと、思わずセナはドキリとして攻撃準備をやめてしまった。ホノオが、憤慨してしまった。我を忘れてしまった。目的が──オイラ達が敵に攻撃する目的が、ホノオの中では変わっちまった。

 焦ってホノオに話しかけようとしたが、間に合わなかった。

「“火炎車”!!」

 ホノオは叫び、まずは先ほど自分達を突いたドードリオに向かう。燃え盛る炎を身にまとい、弾丸のような速さで突進した。

「ぐあっ……!」

 ホノオの攻撃で思い切り突き飛ばされ、ドードリオは苦しげな声を上げた。

「この! “大文字”!」

 それを見て黙ってはいられず、ギャロップは炎タイプの大技、“大文字”をホノオに放つ。炎で描いた巨大な“大”の字を相手にぶつける技だ。
 それを鼻で笑うと、ホノオは正面から技をぶつけた。

「“火炎放射”!」

 大粒の火の粉が辺りに飛び散る。少しの間押し合うが、やがてホノオの“火炎放射”が“大文字”の大きな大の字を引き裂き、ギャロップの頬を殴るように突き飛ばした。

 現在ホノオの体力はかなり削られているが、特性の“猛火”──自分がピンチの時に、炎タイプの技の威力が跳ね上がる特性──が発動して逆に有利になっているようだ。本来、純粋な技の威力だけなら“大文字”は“火炎放射”よりも上なのだが、先ほどホノオの“火炎放射”が打ち勝ったのはそれも影響しているようだ。

「ホノオ、今のうちだ! 逃げるぞ!」

 敵がよろめいているすきに、セナは逃げようとする。しかし、ホノオに声をかけるが応じない。
 彼は拳に炎をまとわせ、起きあがろうとしているドードリオに迫ったのだ。

「うらぁ! “炎のパンチ”!!」

 ドードリオの胴体に、灼熱の拳がめり込む。

「うがあぁっ!!」

 声にならないような叫び声をあげ、ドードリオは気を失う。それでもなお、ホノオはドードリオを睨みつけ、何度も何度も同じ場所を殴る。
 彼の瞳に宿る殺気に一瞬ゾッとしたが、すぐにセナは止めにかかった。

「やめろ、ホノオ! とっとと逃げるぞ!」

 ホノオの利き腕の左腕にしがみつき、必死に攻撃をやめさせようとした。
 そんなセナに向けられたのは、ホノオの殺気立った眼差し。

「放せ役立たず!!」

「わあっ!!」

 左腕を思い切り振ってセナのバランスを崩させると、右手でセナの頬を殴りつけた。ホノオの利き手ではないが、セナを突き飛ばすには充分な威力だった。

「役……立たず……?」

 座り込み、セナは呆然と呟く。オイラは──役立たず? ホノオの言葉の意味を、よく考えた。
 痛む頬に、そっと手を当てる。痛む心に、当てるものはなにもない。ギャロップに再び向かってゆくホノオを──遠ざかる彼を、引き止めるのが怖かった。

「くっ……“炎の渦”」

 ふらふらとよろめきながら、ギャロップはホノオを束縛しようと“炎の渦”を放つ。しかしそれをさらりとかわし、ホノオは自身の左足に強い炎を宿した。

「“ブレイズキック”!」

「がぁっ……!!」

 ギャロップの腹部を下から思い切り突き上げた。ギャロップの体は宙を舞い、かたい地面に叩きつけられた。
 そんな彼に残酷な笑みを向け、ホノオが近寄る。ギャロップが逃げようと少しもがくが、起きあがる前に彼の腹部に再び強い衝撃が──。

「オレはなぁ、てめーらみたいな連中が大嫌いなんだよ。偉い奴に従ったら偉いん? ……なぁ?」

「うっ……ぐ……」

 何度も腹を蹴りながら、ホノオがギャロップにきつい言葉を浴びせる。ギャロップのうめき声が、セナの心に響く。
 怖い。ホノオを止めるのが。でも、もっと怖い。ホノオが誰かを殺してしまうことが。

 勇気を振り絞り、再びホノオに向かった。

「やめてくれ、ホノオ!」

 ホノオの体に思い切り突進し、バランスを崩させた。セナもバランスを崩し、そのまま2人で地面に引きずられた。

「くっ……。何しやがるんだ、バカセナ……」

 気持ちがカッと熱くなるのを感じた。セナの考えが、ホノオには理解できなかった。頭の中が、真っ白になった。目の前の存在が、全て、倒すべき敵のように思えてしまった……。
 ホノオはセナにつかみかかり、手加減なしに首を絞める。ホノオの指が、跡がつきそうなほどにセナの首に食い込んだ。

「お前はどっちの味方なんだ……。どうしてオレの邪魔をするんだ?」

「……っ」

 ホノオに問いつめられるが、首を絞められているのに言葉が喉から出てくるわけがない。苦しくて目をきつく閉じているので、ホノオの顔が見えない。表情が、分からない。

 ホノオとセナのやりとりを、薄目をあけて見るギャロップ。現在地面に倒れている彼だが、セナがホノオを押し倒したお陰で、彼ら2人はギャロップの口元付近にいた。
 チャンスを見つけ、深く息を吸う。

「そんなにいい子ぶりたいのか? オレらの命よりそれが大事か!?」

 不満をセナにぶつけるホノオ。カッとなったあまりに、セナの頭を地面に思い切り叩きつけた。

「あっ……!!」

 首締めからは解放されたが、岩に頭が打ちつけられる痛みは酷いものだった。
 薄く目を明けてみる。ホノオの顔を見ると、明らかに自分が敵視されていることがわかった。
 友達が……。仲間が、おんなじ人間が、とても怖かった。

 そんなセナにとっては、その一撃が救いとなった。

「“大文字”!!」

 忘れ去られたギャロップが、灼熱の大の字をセナとホノオに押し付けたのだ。

「ぐあっ……!!」

 すでにボロボロのセナとホノオは、悲痛な叫び声を重ねた。体が地面に叩きつけられ、そのまま炎の大の字に押さえつけられる──。

 攻撃が終わると、自分達を、息を切らせたギャロップが見下ろしている。特にホノオには、一段と鋭い眼差しを向けていた。

 セナもホノオも、体に力を込める。しかし、セナはホノオによる攻撃、ホノオは怒りにまかせて体を酷使したせいで、もう起き上がれなかった。

「ハァ、ハァ……。ようやく、俺達は、依頼を成功させられる……。犠牲者のために──!」

 すでにボロボロのあちらも、途切れ途切れ、言葉を話す。

「クソっ……!」

 悔しげなホノオの声が、セナの耳にも届く。諦めたら、駄目だ。そう決意すると、セナは少しずつ体を動かし、アイテムが入っている青いバッグに触れる。──手探りで適当なアイテムを使っても、先ほどの“日照り玉”のように失敗してしまう。バッグの底を掴んでひっくり返し、セナは地面にアイテムをばらまいた。
 木の実やグミ──。多くのアイテムが地面に転がった。その中でも、球体をしていて転がりやすい、様々の“不思議玉”。ゆっくりと、セナとホノオの顔の前に転がってきた。

「むっ……!」

 何かたくらんでいる。そう悟り、ギャロップはとどめを刺そうと急いで息を吸う。しかし彼の体も無理はできぬ状態。先ほど腹を何度も蹴られた影響か、思い切り咳き込んだ。その拍子に、細かな火の粉がセナとホノオに降りかかる。

「っ……! ホノオ……」

 火の粉のわずかな熱で顔をしかめながらも、セナは声を振り絞りホノオに指示を出した。

「お前の、目の前に、転がった……“払いのけ玉”……。使って、くれないか?」

 暗い青色の“不思議玉”を見ると、ホノオはそれを乱暴に掴み取る。すぐに仰向けに寝転がると、上空に向かって高々と放り投げた。深い青色が不思議な光を放ち、辺りを照らす。

 落ち着いて深呼吸をするギャロップだが、“払いのけ玉”から放たれた光に照らされるとフッと姿を消す。それと同時に、倒れていたドードリオの体も、光がおさまる頃にはなくなっていた。
 ──決して、彼らを消滅させたわけではない。ホノオが使った“払いのけ玉”には、近くに迫った敵をどこかへワープさせる効果があるのだ。

 難が去り、ホッと一息つくと、セナは精一杯手を伸ばして近くにあった回復アイテム“オレンの実”を1つ掴んだ。まずはそれをホノオに与えようとすると、やはりホノオはセナの手からそれを乱暴に奪い取り、かたい木の実をガリガリとかじる。ほんの少しだが、セナは寂しさを感じた。
 もう一度周りを見回してみるが、自分の手が届きそうな範囲に“オレンの実”はもうない。遠のく意識を、もう引き止めようとは思えなかった。セナは目を閉じ、ゆっくりと体から力を抜いた。

 しかしその直後、頭にコツンと当たる何かが、セナの意識を引き止めた。

「ん」

 傷が癒えたホノオが、セナにそれを取るように指図する。立ち上がっている彼の体勢から判断すると、どうやらホノオはそれを蹴ってセナによこしたようだ。
 再び手を伸ばし、それを掴んでみる。青色で、かたく、小さな実──“オレンの実”だった。

「ありがと……」

 言葉がうまく声にならないが、こう言ったつもりだった。

 セナが“オレンの実”を食べ始めたのを確認すると、ホノオは冷たく顔を背ける。そして、ゆっくりとだが、どこかへと歩き出す。

 急いで“オレンの実”を口に詰め込むセナ。甘さ、苦さ、酸っぱさ、辛さ、渋さ……。様々な味が混ざったその実を噛み砕くと、体の傷が癒えてゆく。──涙のせいだろうか? ほんの少し、しょっぱい味がしたような気もした。

 食べ終わると、遠くなったホノオの後ろ姿を追いかけた。しかし、彼に近づくのは、少し怖くて──5メートルほどの距離を空け、2人は身を隠すための岩を見つけるために歩き出した。


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