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背中を押すということ

作者: たれねこ

 私は今までずっと誰かの言うままに生きてきた。

 進学も就職も親をはじめ周囲の言葉の指し示す方向に流されここまでやってきた。

 だからか、就職して仕事にも慣れてきたが自分が何をやりたいのか、何がやりたかったのかわからなくなってしまった。生きる理由、意味というものを見失っていた。

 周囲もこんな私の人間性を知っているため、何かしら相談をしてくるということも今までなかった。

 私は本当の意味で誰からも必要とされていないのだと思うようになった。


 誰一人の役にも立てないのだから、生きていることもない。ならば、いっそのこと自殺してしまおう。


 私は初めて自分自身で決断できたことを内心誇らしく思っていた。

 そして、自殺するために遺書を片手に高層ビルの屋上に足を運んだ。

 しかし、そこには先客がいた。初老の男性だった。彼は私に気づき、止めても無駄だと牽制してきたが、止めるために来たのではないと説明をすると、最期にと私に愚痴をこぼし始めた。

 彼は今まで誰かのために会社のためにと長年、一生懸命身を粉にして働いてきたのだという。

 しかし、誰にも正当に評価されることなく、最後は上司のミスの責任を押し付けられ、いともあっさりとクビになったそうだ。年齢的にももう一度何かをしようという気もおきず、行き場もやりがいもすべて奪われた彼はいっそ自殺しようと考えここに来たそうだ。

 彼は一通り話し終えるとすっきりしたようだった。そして、またビルの角に立ち、そのまま立ちつくしていた。すっきりしたことで気持ちが晴れ、自殺することに対して躊躇しているようだった。


 だから、私は彼の背中を押してあげることにした。


 私は初めて誰かの役に立てたのだと思った。人の背中を押すということはこんなにも人の人生を左右するものだと逆の立場になって改めて気づかされた。

 そんな重い決断を私のためにしてくれて、今まで背中を押し続けてきてくれた人に感謝をしながら、私はこれからも生きていこうと思う。

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[良い点] なかなかの ブラックユーモア いいですよね このさらっとしたオチは シュートショートは 数書かないとなかなか 作者の本質が見抜けませんが このストーリーは 一作で作者の(ただ者で無さ)…
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