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遅咲き冒険者(エクスプローラー)  作者: 安登 恵一
第一章 冒険者の憂鬱
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第二話 ベテランとニューカマー

 バルドルがこの街を去っておおよそ一ヶ月。


 冒険者ギルドはいつもと変わらない。冒険者が一人、二人引退したところでなんの影響も出ることはないだろう。


 出て行く者が居れば、やって来る者が居る。そして人は歳を取っていく。


「っと、あぶねぇ!」


 目の前にせまってきた剣を慌てて避ける。


 戦闘中に他の事を考えるは危険だ。一旦間合いをとって相手を見据えた。


 相手は子供のような身長に赤黒い肌を持った魔物、ゴブリンだ。手にしている片手剣には赤錆が浮かび、全く手入れがされていないのがよく分かる。


 冒険者の愛しきお相手。代表的なモンスターを言えばゴブリン、オーク、コボルトと言ったところだろう。中でもゴブリンは数が多いだけで能力的には一番低い。一般人からすれば数だけで十分な脅威ではあるが。


 俺は相棒の片手半剣を構え直す。よく手入れをしてある自慢の一品だ。


 片手半剣とは片手、両手どちらでも扱える剣である。普通の片手剣や両手剣と比べ、扱いが難しいので使う奴は滅多にいない。たまに珍しいのか見知らぬ人間に話しかけられたりもする。中途半端の代名詞。たまに雑種剣などと皮肉を込めて言われたりもするが、扱いこなせるようになるとそこまで悪いものでもない。魔物たちと戦うときは他の武器とあまり変わらないが、盗賊などと戦うときには重宝する。盗賊の大半が冒険者崩れや兵士崩れだ。相手の慣れてない武器というのはそれだけでアドバンテージになる。間合いがわからなかったり、独特の動きで翻弄出来るのだ。


 なんでこんな武器を使い始めたかというと――英雄が使う伝説の聖剣が片手半剣だからだ。


 最初はそんな幼稚な理由だったが、何年も共に過ごして来れば愛着の一つも湧く。


 考え事をしているうちにゴブリンは仲間を呼んだのか、奥の茂みから新たなゴブリンが三体ほど現れた。


 連携という言葉を知らないゴブリンが少しくらい増えようが冒険者にとっては美味しい餌だ。ありがたい。


 さて、さっさと終わらせよう。


 目の前のゴブリンに向けて走る。ゴブリンは慌てて剣を振るうが、腰も入っていないへっぽこ剣術では俺は捕まえられない。左へと抜ける際、身長的に一番狙いやすい首を狩る。スマートとはいえないが勢いを込めて叩き潰すのが一番楽な戦い方だ。浮足立った残りのゴブリンたちも同じように力技で屠っていく。


 勝敗はあっという間に着いた。この程度の魔物に負けるようでは冒険者などと名乗れない。


 片手半剣についた血糊を拭って鞘へと戻し、剥ぎ取り用の短剣を代わりに腰から抜くと、ゴブリンの胸へと刺し入れる。胸を大きく切り開くと、人間でいうところの心臓部に当たる場所には鈍く光る石が存在していた。


 魔石と呼ばれるそれは、魔物たちの核であり、冒険者にとっては魔物の討伐証明。そして一般人からすれば便利な魔道具の元になる素材である。


 ゴブリンから取れる素材は魔石だけだが、中には肉が絶品だったり、毛皮を加工して服などにできたりする魔物も数多く存在する。


 計4体のゴブリンから手慣れた手付きで魔石を取り出すと、腰の皮袋に突っ込んでおく。


 一息つくと近くの川に向かった。ゴブリンの血に塗れたままだととても気持ちが悪い。何日もかかる冒険なら多少は我慢もするが、今いる周辺は俺の庭のようなものだ。大体の場所は把握できるし、いざとなれば街にもすぐ戻れる。


 立ち並ぶ木々を抜けると小さな川にたどり着く。


 辺りを見回すと三人の冒険者達が居た。少年二人に少女が一人、見かけたことのないパーティだった。多分ギルド登録したばかりだろう。川辺で仲間たちと騒いでいるのを見ると同郷で組んだパーティなのかもしれない。


 冒険者になったばかりの頃はパーティを組むのが一番いい。金は儲からないが、何より大事な経験が安全に手に入る。更に言うならある程度経験を重ねたベテランの下につければ言うことがない。わざわざ新人と組むような奇特な人間は必要な知識を一から叩き込んでくれる。中には厳しくしすぎて新人が逃げ出してしまうという奴も居るが。


 まあ邪魔をしても悪いかと離れた場所でゴブリンの血を洗い始める。


 芽吹きの季節になったばかりの水はやや冷たい。これから徐々に暖かくなってくるだろう。


 一通り洗濯を済ませて立ち上がろうとした瞬間、魔物の殺気を感じた。俺には向いていない。となると新人たちに向けて、か。


 素早く態勢を整え、先程まで新人たちが居た方向へと走りだす。


「うわああああ!」


「きゃああああああ!」


 同時に悲鳴が響いた。


 声の方向に向かって行くとピンク色の魔物の姿が視界に入った。


 言うなれば二足歩行の豚。それがオークだ。ゴブリンと比べて力はあるが動きは遅い。冷静に対処すればなんの問題もない魔物である。


 新人たちは殺気に気づけなかったのか、どうやら奇襲を受けたらしい。三人のうち一人の少年が倒れこんでいる。力だけはあるオークに頭を撃ち抜かれたみたいだ。言うまでもない、即死だった。痛みに苦しまなかっただけ幸いと思うことにする。


 仲間の惨状を見て、残りの二人は混乱状態だ。このままだとマズい。


 オークは緩慢な動きで残りの冒険者達に襲いかかる。俺は短剣を取り出し、オークに向けて投げつけた。的が大きい分、狙いなんて適当でも当たる。


「ぐおぉぉぉぉ!」


 背中に刺さった短剣にオークは悲鳴を上げる。そして何事かとこちらを振り返ろうとする瞬間、オークの首は宙を舞った。


「大丈夫か」


 混乱状態の冒険者に声をかける。


「えっ! あっ、はい!」


 なんとか助けられたことがわかったのか、生き残った二人のうち、少年が返事を返した。


「取り敢えず落ち着け。女の子の方を頼む」


 そう言って俺はオークの魔石を取り出した。オークは食用としても人気なので持ち帰るため、血抜きをしておく。


「あ、あの……ありがとうございました」


 やがて時が経つと冷静になったのだろう、二人の冒険者は俺の前にやってきて頭を下げた。


「まだ魔物の気配を感じ取れないのなら見張りを立てておくべきだ。そうすれば今回の奇襲は防げただろう」


 落ち込んでいる彼らにムチを打つ。ここで甘やかしたら少年の死が無駄になる。


「冒険者をしている以上、ひとつのミスが命取りになる。仲間がやられたからといって冷静な判断が下せなくなるのは冒険者失格だ」


「……はい」


 二人は俺の言葉にひどく落ち込む。これで少しでも成長してくれればいいのだが。


「取り敢えず街に戻るぞ」


 戦闘場所に長く留まってはいけない。これは冒険者たちの基本ルールだ。血の匂いに釣られて新たな魔物が現れる場合がある。


 俺は処理して軽くなったオークの肉を肩にかけて歩き出す。その後ろで新人たちは仲間の遺体を悲痛な表情で運んでいた。




「討伐お疲れ様でした」


 冒険者ギルド受付で戦利品を積み上げていると新人時代から馴染みの職員のマルシアが声をかけてきた。金髪に細長い耳が特徴のエルフだ。ギルドの職員は多種多様、どんな種族も平等がギルドの基本精神。この世界における種族は大きく分けると人間族、獣人族、精霊族、魔族の4種族だが、エルフは精霊族に属する種族になる。


「それと新人たちの保護、ありがとうございました」


 マルシアはペコリと頭を下げる。


「俺も新人時代はよく助けられたからな。恩返しなどというつもりはないが、昔の俺を見ているようであまり放ってはおけん」


「誰にでも無鉄砲な頃はありますからね」


「ああ、誰かさんもよく冒険者に喧嘩売ってたからな」


「むぅ、あの時は若かったんですよ!」


「俺は誰とは言ってないぞ。なんだ、心当たりでもあるのか?」


「相変わらずイグニスさんは意地悪です」


 マルシアはジト目で俺を見る。いつもの軽口だ。


「ああそうだ、今日の報酬の中からオークの魔石と肉分は奴らに回してやってくれ」


 その言葉を聞いてマルシアは「はい」と笑顔を見せ、報酬計算を始める。


「魔石がゴブリン4体にオーク1体。それにオークの肉で合計銀貨7枚ですね。オーク関係は除いて銀貨4枚渡しますね」


 貨幣価値は銅貨一枚でおおよそパン一枚。時期によってある程度変動するが基本的なレートは銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚といったところになる。


 俺の一日の稼ぎは大体銀貨6~8枚だ。全力で狩れば倍くらいは稼げるが、常に全力を出すのは後先を考えない馬鹿のすることだ。


 この街では宿代の銀貨一枚と食費の銅貨数十枚あれば一日暮らせる。それで十分だ。


「イグニスさんにはもっともっと稼いで欲しいんですけどね」


「なんでだ?」


「このギルドの筆頭ベテランの稼ぎが悪いとギルドの威信が落ちちゃいますから」


「何だ筆頭ベテランて」


「今まで筆頭ベテランのバルドルさんが引退しちゃったじゃないですか。そうしたらその後輩のイグニスさんが相応しいかなと」


「あいつ……そんなこと言われてたのか」


 思わず頭を抱える。まあ何も考えてなかったんだろうな。バルドルの事だし。


「俺より年季のある奴なんてまだ居るんだし、そんな称号そっちにまわせ。それに俺も冒険者をいつまで続けるかわからんからな」


「ええっ!! もしかしてイグニスさんも冒険者引退するんですか!」


 マルシアはいきなりガバっと受付から身を乗り出してきた。


「いや、今すぐにと言う訳じゃない。まーもう10年もやってるからな、俺も」


「でも! イグニスさんて故郷を憂うほど愛郷心持ってないし、将来性ないし、お嫁さんもいないじゃないですか! 引退したって仕事もなく野盗にでもなって有名冒険者に狩られちゃいますよ」


 ゴンとマルシアの頭に拳骨を落とす。


「取り敢えず叩くぞ」


「せめて叩く前に言ってください……」


 非難の声を上げ、頭をさするマルシア。完全に自業自得だと言っておこう。


「なんでお前に将来を憐れられねばならんのだ。しかも何故具体的なんだ」


「それは……色々妄想しちゃってまして」


「人を勝手に弄くるな」


「じゃあ変わりに私を弄っていいですよ」


 俺ははぁと溜息を付く。なんか狩りより疲れたぞ。


「いい加減今日の報酬をくれ」


「えー……はいどうぞ」


 不満気に銀貨を投げてきやがった。金で遊ぶな。後でギルドマスターにチクっとこう。



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