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第四章『それぞれの裏、さまざまな真実』5
  ★飛矢折★
 十六歳?
 ひよりさんが言った言葉に、あたしは思わず黒樹君の手のマッサージを止めてしまった。
 直ぐに再開し様としたけど、
 「………飛矢折さん。もうマッサージはいいです……その……ありがとうございます大分楽になりました」
 そう言ってく、黒樹君は硬直していた手を開いたり閉じたり見せてくれた。
 ………これなら大丈夫そうね………それにしても、黒樹君はひよりさんの言葉に驚いていないみたいね………予想していたってこと?……でもどうして?
 あたしの視線に気付いた黒樹君は、少し考えて、
 「………鬼走人骸は忘却剤………ひよりさんに使われた薬の事で、使うと一瞬で全てを忘れる薬だと頂喜武蔵は言っていました………っで、それを主力商品にしていたようですから………だとすると、売った相手がまた使いたくならないといけません」
 「えっと……それって、どういうこと?」
 「………多分、軽い使用なら少しの間の忘却で、例え大量に使用したとしても、生活するのに支障が出る領域まで完全忘却しない様になっているんでしょう。でなければ、リピーターが付きませんし……依存性の強い危険薬物などはそう言う相手を商売相手にするそうですから…………要するに、思い出は消しても、知識は消さない薬だと言うことです………まあ、それでも、ひよりさんはかなりの量を吸わされたみたいですから………見た限り、思い出に関する記憶は幼稚園児ぐらいまで、知識に関する記憶も一部を忘却している可能性がありますね………じゃないとこうなっている理由の説明が出来ません」
 そう言って、黒樹君はひよりさんに幾つかの質問をした。
 小中高校生が習う事を順に聞き、その全てにひよりさんは答え、答えたひよりさん自身も驚いている様だった。
 「すごいすご~い。何で分かるんだろう。どうして?どうして?」
 何だか楽しそうに周りに聞いているけど………どう答えたものだろう?
 正直に話す?あなたは思い出を失ってるって………でも、そんな事を今の彼女に言って理解出来るのかな?……そもそも、そんな事を言って大丈夫なのかな?
 芽印とさゆりさんを見ると、あたしと同じ様に困った表情をしていた。
 そして黒樹君を見ると、
 「………不思議だね」
 え!?黒樹君!?
 「うん!不思議ぃ~」
 ………あ……それでいいんだ。
 若干困惑した様子のさゆりさんに「不思議ぃ不思議ぃ」と連呼するひよりさん。
 「………まあ、子供は単純ですから………」
 ぼそっとあたしに聞こえるか聞こえないかの声で黒樹君はそうつぶやいた。
 そりゃそうかもしれないけど………でも、
 「思い出と一部の知識が無くなっただけで幼児化するものなの?」
 「………さあ?」
 さあ?って………
 「さっき理由の説明が出来ないとか言ってなかった?」
 「………俺は専門家ではありませんし、さっき言ったのは、ひよりさんの様子と、俺の知り得る限りの知識から導き出した素人考えです。ですから、本当にそうなのかは正直言って………分かりません」
 「でも、素人だったとしても、少なくともあたしよりは正しい考えだと思うけど?」
 「………俺の知識はほとんどが漫画とかゲームとからから得られたものです。そんな知識から導き出された答えなんて……信憑性に欠けるでしょ?」
 「……そうかな?」
 あたしの心からの疑問に、黒樹君は力無く苦笑した。
 ………この自信の無さ………いつかどうにかなるのかな…………何だか心配になる。
 「………本来なら、すぐにでも精神科医見せるべきなんでしょうか………」
 芽印に視線を向ける黒樹君。
 黒樹君の視線に、撮った写真をチェックしていた芽印は、黙る黒樹君に首を傾げる。
 何だか躊躇しているように見えた………何を?
 「………今……町はどうなっていますか?」
 その黒樹君の問いに、撮った写真のチェックをしていた芽印は、少し考えて、
 「ん~ここでその話をするより、とりあえず、みんなの所に行かない?」

 芽印の案内で、無数に枝分かれしたトンネルの中を進む中、あたしは自分の身に起こった事を黒樹君に説明した。
 赤井さんの頭の怪我の事や、病院に行く途中で見たおかしな様子の自警団の人達、そして、病院で武風委員長の武霊により催眠術らしきものを掛けられた事を。
 「………笛の音を聞いた途端に意志が奪われた……そう言う事ですよね?」
 あたしの話を聞き終わった黒樹君は、そう言って、先頭を行く芽印を見た。
 「………雨合羽の集団が自警団員で、耳にはイヤホン……俺が頂喜武蔵を倒した後に町内放送から流れ始めた笛の音………そして、この場に笛の音は聞こえないから、飛矢折さんは催眠から解放された………なるほど」
 思考をまとめる為か、独り言をつぶやく黒樹君………何がなるほどなんだろう?
 「………さゆりさん達は、どうしてここに?」
 「黒樹君が行った後、芽印ちゃんが来て……瞬間移動なのかな?で、ここに連れて来てくれたんだけど………高木さんが」
 言いよどむさゆりさん。
 高木さんって事は、あの後黒樹君達と合流したんだ………
 「………先生がどうしたんです?」
 「急ぎの用があるからって、町の外に出てってしまったの」
 ?……急ぎの用?あの状況で?ん~?………よっぽど大事な用だったのかな?
 「………まあ、町の外に出たのなら、先生は間違いなく無事なんでしょう………」
 そう言って、黒樹君は再び芽印を見た。
 ………なんか妙に芽印を気にしている様な………なんでだろ?……………まあ、芽印は本性を隠していれば、見た目だけは美人さんだし、気になるのは無理も………ないかな?……………何だか…………えっと………ん~………。

 しばらくして、たどり着いた先は、広いドーム状になった場所だった。
 その場所には、芽印がさっき言った通り、五十人ぐらいの星波学園生徒と一部の教師が思い思いに座っていて………なんなんだろこの人達?ざっと見た限り、この場にいる人達の間に何の関連性もないように見える。小学生・中学生・高校生・大学生・教師。全く違う部活・委員会の面々。普段そんなに接点がなさそうな人達がこの場に集まってて………何だかものすごく不自然に見える。
 そして、その不自然な集団の中心に琴野統合生徒会長がいた。
 「やっほぉ~沙羅ちゃん。やっぱり催眠は解けてたよぉ~。でもって、二人連れてきたから」
 「ご苦労様ですわ。芽印さん。黒樹様。飛矢折様。お二人だけでも御無事だったのは、本当に何よりですわ」
 統合生徒会長は、座っていた折り畳み椅子から立ち上がり、あたし達に若干疲れが見える微笑みを向けた。
 「起きて早々に申し訳ないですけど、お二人には現状の説明をしますので、ここにお座りになってください」
 そう言って、他の生徒が用意してくれた折り畳み椅子に座る事を促す統合生徒会長。
 あたしが促されるまま座ろうとすると、黒樹君が一歩前に出て、手で座る事を制した。
 「黒樹君?」
 「………その前に、いくつか確認したい事があります」
 明らかに警戒した様子の黒樹君。
 ………もしかして………さっき芽印を気にしてたのって………
 「何でしょうか?」
 黒樹君の警戒する様子に、戸惑った微笑みを浮かべる統合生徒会長。
 「………あんた達は一体何者なんだ?」
 その黒樹君の問いに、あきらかにこの場の空気が変わったのをあたしは感じた。


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