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suicide magic
作:リープ



第36話 「被害者の会」


 僕らは突然、武内の発案で遊びに行くことになった。
 なんでも武内の話では、坂本亜由美の友達である門脇健児が謎の失踪をとげ、彼女が、酷く落ち込んでいるかららしい。
 僕は毎日のように坂本と会うが、別にそんなことは感じなかった。
 しかし、武内がやたら主張するので、しょうがなく了承した。

 最初は僕と坂本の二人で行けと言われたが、さすがに彼女と二人きりになるのは気が引けたので(また、詰め寄られるような告白をされても困る)、武内も行くことを条件にした。
 正直、僕は武内の心配している。
 あの日(ホウキでの飛行)以来、彼女は目に見えて明るくなった。
 でも、それが悲しさの裏返しなのでは? と疑問だ。
 僕の心配をよそに、武内は次々と遊びに行く場所や日時を決めていく。
 実際、坂本を誘ったのも武内だ。なんだか今までになく積極的。

 場所を聞いたら遊園地へ遊びに行くという。
 僕はそんな子供っぽいところ行けるかよと抗議した。
「ホントはお店適当に回って、ファミレスよって、カラオケでも良かったんだけど、遊園地にしちゃった」
「どうして?」
「行った事ないから」
「小さい頃は?」
 すると武内は教室の窓から外を眺めて、遠い目をしながら答えた。
「私の両親はあんまり日本にいなかったから、家族でどこかへ行くって事自体が少なかったの」
「えっと……」
「だから、遊園地行きたいは私のワガママ」
 それ以上何もいえなかった。
 と同時に遊園行きが決定したのだ。

 そして当日。
「二人とも遅い!」
 武内はやたら張り切って、後ろを歩く僕らをせかす。
「そんな急がなくても、遊園地は逃げないぞ」
「何、言ってるの!!時間は逃げちゃうもん!!」
 肩まで伸びた髪を左右に踊らせて、どんどん先へ歩いていく武内。
 ため息混じりに坂本を見ると、彼女も首かしげながら僕を見ていた。
「彼女、なんかキャラ、変わってない? それとも、今までがウソだったの?」
「それを僕に言われてもなぁ……」
 僕と坂本はお互いに苦笑し合う。
 三人でどこかへ行くということも珍しいので、やれやれと僕は肩をすくめた。
 そして坂本は肩に掛かった髪を軽く手で払うと、僕に微笑みかけた。
「でも、広野君と、こうして休日にまで会えるなんて嬉しいな。」
「えっ、ああ……」
 こういう彼女の直球な発言に、僕は応えることができない。
 せいぜい照れながら視線を反らすことぐらいだ。
 すると坂本は僕の目の前に顔を近づける。
 大きな瞳が僕を映しながら、見つめている……恥ずかしい。
「照れた?」
「ま、まさか……」
 とか言いながらも完全に動揺していた僕は、顔を赤らめていたのかもしれない。
 坂本は僕をまじまじと見た後、ようやく視線を外し解放してくれた。
 そして一言呟く。
「へぇ。私に対しても照れてくれるんだね」
「お前なぁ……」
 僕は人差し指で頬をぽりぽりと掻きながら、誤魔化した。
 するとまた、前方から元気な声が聞こえた。
「二人ともなにやってんの!? 早くぅー!」
 武内、はしゃぎ過ぎだ。


 遊園地に到着しても、僕達は武内にかき回された。
 坂本の手を引っ張って、次々とアトラクションに乗る。僕は主に荷物持ちだ。
 さんざんアトラクションに乗った挙句、二人はベンチに座ると武内が僕を指差す。
「あー、つかれた。広野っち、ジュース買ってきて」
「誰が『広野っち』だ! それに僕はパシリか!!」
「似たようなもんじゃない。早く買って来て! のど乾いたー!」
 武内はすまし顔で「早く〜♪ 早く〜♪」なんて歌い始めている。
 坂本は半ば呆れ顔で、僕と武内交互を見比べていた。
「あっ、じゃあ私も行く」
「駄目、坂本さんはここにいないと」
 立ち上がろうとした坂本の腕を武内が掴んで、再びベンチに腰をかけさせる。
 坂本は「きゃっ」と小さな声を上げてベンチに座らされる。その反動で、ふんわりと髪が舞った。
「ちょ、ちょっと、武内さん!?」
「駄目だよ。それじゃあ、何のために男手を連れてきたのかわかんないもん。お金払うことは男の子に華を持たせなきゃ」
「え!? そうなの!?」
「坂本、騙されるな。絶対違う」
 僕と武内は顔を歪ませながら微妙な笑顔でにらみ合った。
 そんな二人に坂本はため息をついた。
 痺れを切らした武内は、人払いをするかのように手を振って、僕を追い出そうとする。
「さぁ、行った、行った。私、炭酸系で。坂本さんは?」
「えっと、じゃあ、お茶で」
「……了解」
 僕はしぶしぶジュースを買いに行くことにした。
 すぐに近くの自販機を見つけ、お金を入れる。
 それにしても……いくら坂本を元気付けるためとはいえ、武内のテンションが高すぎる。
 坂本だって若干引いてるじゃないか。
 つーか、彼女はいたって普通だし、落ち込んでるようには見えない。

 ジュースを買った僕はブツブツ文句をいいながら急いで戻る。
 やがてベンチに座る二人の後姿が見えたので、声をかけようとした。
「あっ……」
 でも、僕は走るのを止めてたちどまった。
 それは武内が坂本にハンカチを渡し、それを受け取った彼女は自分の目頭にあてていたからだ。
 坂本……泣いてるか?
 さらに二人が何か話しているので、入り込めなくなったのだ。
 こうして武内と坂本が面と向かって話をするなんて……
 しかも、坂本が涙を見せている展開に、僕は不覚にも好奇心が抑えられなくなり、ベンチ近くの植え込みに隠れて盗み聞きをすることにした。

「どう? 少しは気が晴れた?」
「ちょっとね……さすがに広野君の前では限界だったから」
 僕の前では限界? なにが?
 武内は包み込むような優しい微笑みを浮かべながら話しかけている。
 それに対して坂本はを瞳潤ませて赤く充血させながら、ハンカチで涙を拭っていた。
「なかなか難儀な性格だね」
「アナタみたいにすぐ泣いたり、弱みを見せたり、これ見よがしに自傷行為できればいいのだけど。私には無理」
「……ええっと、それに関してはノーコメント」
「というよりは、本当、アナタの幼児的行動には困るのよ」
「幼児的行動?」
「それよ。そういう無知を披露するのが、かわいいと思ってるわけ?」
 なんか、僕には一触即発の会話に聞こえる。
 さらに二人は見つめあいながら少しの沈黙した。
 しばらく緊張した雰囲気の中、時間が過ぎる。僕は当事者でも無いのにやけに緊張していた。
 そして、とうとう沈黙を破り、坂本はポツリと言った。
「ゴメン、言い過ぎた」
「うん、今日は許すよ」
 武内はさっきの会話をちっとも怒っていなかった。
 むしろ、笑顔を絶やさない彼女は、いたずらっ子を見守る先生のようにも見える。
 それが悔しいのか、少しふくれっ面で坂本が口を尖らせる。
「本当はアナタがうらやましいだけ。私の真っ直ぐな気持ちって、嘘が多いから」
「これからは好きな人の前でも本心を言えるといいね。辛いときは辛いって」
「ありがとう。……一応、お礼はいっておく」
 そう言うと照れたのか、坂本は視線を反らすように上を向いた。武内も空を見上げる。
「門脇くん、見つかるといいね」
「……うん」
 やはり武内の言ってたことは当たってた。
 本当に坂本は門脇のことで落ち込んでいたのだ。
 僕は自分の鈍感さにあきれ、武内の他人を思いやる目に感心する。
「私が門脇に変な頼み事をしなかったら、こんな事にはならなかったかも……」
 坂本は下唇を噛んで、再び俯くとハンカチを目にあてる。
 それほどひどく落ち込んでいたのだ。
 こんなに落ち込んでいたのに僕は気付かなかったのか……
 にしても、頼みごとってなんだろう。失踪とは関係あるのだろうか?
「何があったか知らないけど、きっと元気な顔して戻ってくるよ」

「……なんだかいつもと反対で嫌だな。まさかアンタなんかに慰められるとはね。私も焼きが回ったかも」
「いやいや、それほどでも」
「でも、アンタも自分にないキャラに無い事をして疲れたでしょう?」
「ううん。そんなことないよ。私も楽しんだし」
 武内も照れたのか、必要以上に明るく振舞う。
 それを見て坂本は前髪を少しかき上げて、武内へ微笑んだ。
「本当にありがとう。もう、元に戻っていいよ」
「……うん」
 そして武内の肩が少しだけ力が抜けたように下がった。

 僕は植木にもたれながら、反省した。
 『自分だけが無理をして過ごしているわけではない』
 んな事わざわざ言われなくたって分かってるけど、本当に理解して相手を労わっている人間がどれほどいるんだ。
 綺麗ごとって実践できない負い目から、否定することが多い。
 でも、この二人は自然にお互いの事を考えて行動していた。知り合って間もない間柄なのに……

 しばらくして、武内は急に居住いを正して、大袈裟に咳払いを始めた。
 それを見た坂本が首をかしげながら彼女を見つめる。
「坂本さん、話があります」
「な、なに? 急にあらたまって。楽にしたら?」
 すると武内は一気に脱力するかのように体全体を下げた。
「前から聞きたかったことがあるんだけど、聞いていい?」
「別にいいけど、何?」
「どうして、広野君のこと好きなの?」
「ええっ!?」
 すると坂本は口を開けて目を丸くした。
 僕も同じく、口を開き目を丸くした。
 同時に自分の心臓が高鳴るのを感じずにはいられなかった。
「私の目から見ても、たいして、他の男の子と変わんないんだけど……」
 お前はそんな目で見てたのか……
 そんな僕をよそに、武内は少し俯いて坂本を伺うように上目遣いで覗き込む。
 当の坂本は目を瞑り、腕組みを始めて少し考えている。
 ……即答できないの?
「う〜ん。こんなこと言っても、信じてくれないと思うからなぁ」
「え? 何、ナニ?」
 楽しそうに坂本の答えを待つ、武内。
 腕組みのまま片方の瞳をあけて、うなっている坂本。
 そして意を決したかのように、坂本が武内に顔を近づけ、内緒話をするように話しかけた。
「実は……広野貴明は魔法が使えるの」
「うん、知ってるよ」
「え!? ウソ?」
 坂本の決意した告白を武内は即答した。
 どうやら、坂本は僕の魔法を自分だけが知っている秘密だと思っていたらしい。
 ぽかんとしたままの坂本に武内が説明を加える。
「本当だよ。だって、私が飛び降り自殺しようと思ったのに、広野くんに”無理やり”魔法で助けられたもん」
 ”無理やり”は余計だ!”無理やり”は!
 武内の話を途中から顎に手を当てて聞いていた坂本は考え込んだ後、うなずいた。
「広野君ならありえる話だよね」
「坂本さんはどうやって広野君の魔法を?」
「えっと、私は中学生の時、通り魔に襲われたの。その時、広野くんと彼のお父さんが魔法で助けてくれて……」
 なんだか魔法体験発表会みたいになってる気がするのは僕だけだろうか?

 そして坂本の話で僕は思い出していた。
 中学の頃、父親がまだ生きていて楽しかった時代。
 僕ら二人は所かまわず『正義の味方ごっこ』をしていた。
 魔法を使って、困った人を「密かに」助けるというもので、僕らの魔法の性質上、その後当然のように二人は不幸な目に会う。
 でも、父親と二人なら不幸は不幸でなかった……楽しい記憶。

 坂本の話を聞き終わると武内は突然ベンチから立ち上がった。
 状況が飲み込めない坂本へ両手を腰に当てながら、嬉しそうに武内は言う。
「なーんだ。じゃあ、二人ともあの男の被害者なんだ!」
 待て、僕は犯罪者か!?
 それを聞いた坂本は「はぁ?」とでも言いたげに眉を寄せた。
「私は別に被害者じゃないけど。むしろ命の恩人。ってかアナタもでしょ?」
「違う、違う! つまり、うーん」
 武内は適当な言葉が見つからないのか、うんうん唸って考えている。
 僕と坂本は場所は違えど、怪訝な顔で彼女を見つめる。
 ようやく、何か見つかったのか、武内は一つ手を叩いた。
「そうだ! 二人ともアイツのせいで人生変わっちゃった、ってこと!」
「人生変わった?」
「終わったはずの人生を『無理やり』再生させられたんだから、被害者仲間なの!」
「……なるほど。それいいかも」
 坂本まで何を言い出すんだ。
 納得する坂本に満足したのか武内は何度も頷いた。
「坂本さん、じゃあ、被害者の会結成〜っ! ってことで」
「うん」
 すると今度は坂本がベンチから立ち上がる。
 不思議そうに見つめる武内へ向くと手を差し出した。
「私達、いい友達になれそうね」
 武内は目を丸くし、差し出された手と坂本の顔を交互に見つめた。
 あきらかに彼女は戸惑った様子だった。
「えっと……私なんかでいいの? クラスでも広野くん以外、話す人がいない様な人間だよ?」
 自嘲気味に笑う武内に坂本はさらに自分の手を突き出した。
「悪いけど、私は周りの評判や噂なんかに振り回されるほどバカな人間じゃないから」
「でも……」
「私は、自己判断でアナタを友達と決めたの。同じ被害者仲間として」
「被害者仲間?」
「だって、アナタさっき言ったでしょ?『二人とも被害者ね』って」
「あの、私……」
「さぁ、握手して。じゃないと手が疲れるでしょ?」
「……いいの?」
「もちろん!」
 最初は困った顔をしていた武内の表情が次第に明るくなっていく。
 坂本もそれにつれて笑顔になっていった。
「ありがとう!」
 と叫ぶと、武内は満面の笑みで坂本の手を両手で握った。
 硬く握られた握手。
 僕はその光景に、少しやきもちを焼いた。

 このまますぐに二人へ駆け込んで行きたい気分だったけど、僕はもうしばらくここにいることにした。
 そうしないと二人を祝福しそうだったから。立ち聞きがバレるじゃん。

 ベンチの二人も余韻を愉しむかのように静かに並んで座っていた。
 二人の間の距離はさっきに比べてずいぶん縮まっていた。
 すると武内がポツリと呟く。
「坂本さんの話ばかりで不公平だから、私も秘密を打ち明けます」
「え? なに?」
「私、土屋君に……」
「あぁ。アナタが諦められないでいる、土屋君のこと?」
 坂本の言葉に黙ってうなずく武内。
 そして武内は言葉を続ける。
「彼にお別れを言おうと思って……」
「お別れ? 告白じゃなくて!?」
 坂本は驚きながら、武内を見つめる。
 彼女はまた黙って頷いた。
 僕は驚きを隠せない。
 あんなに土屋、土屋、って執着してたのに……
 坂本はさらに僕の先を心配していた。
「お別れってまさか、じさ……」
「しない、しない。自殺するとかじゃないから。私の区切りとして……って、土屋君からしたら、もう終わった話かもしれないけど……」
 
 武内は僕の知らないところで、また成長していた。
 それは嬉しくもあり、少しだけ寂しい気もした。
「うんうん、それが良いよ。あんな奴、振っちゃえ」
「あんな奴って言うにはもう少し時間がかかるかな」
 坂本は武内を優しく肩を抱いて引き寄せた後、頭を優しくなでた。
 武内はされるがままに坂本へ身を寄せた。
「……あっ、でも広野君は渡さないから」
「要らない。あんな奴」
 武内、僕には『あんな奴』って言えるんだな。
 ……もう何も言うまい。
「そうだ武内さん、後で三人の写真取らない?」
「うん、撮ろう、撮ろう」
「……にしても遅いね、広野くん」
 僕はようやく我に返り、慌てて二人の元へ戻った。

 その後、僕らは写真を撮った。
 少しだけ皆の心が近づいた写真。
 この写真はきっと三人にとってかけがえのない写真になるに違いない。
 何もかもが上手く進んでいるような気がした。
 そう、武内が土屋へさよならを言うまでは……












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