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suicide magic
作:リープ



第34話 「悪い奴等」


 どうみてもただのCD-Rだろ? オレは不思議に思った。
 すると坂本は汚いものでも扱うかのごとく、CD-Rを指先でつまんで、オレによこす。
 オレも同じようにして受け取った。
「何で? 自分で処分すればいいじゃん」
「なんか気持ち悪いのよ。影響されそうで……」
 影響されそうだという坂本の表情は暗く、本当に自分では処理したくないという気持ちが伝わった。
「へー、気の強いお前がねぇ。とすると相当ヤバイ代物なんだな」
「別にそういうものじゃないけど、許せないのよ」
「許せない?」
「私を一時的とはいえ、その気にさせた、このCD-Rが。人生狂わされた人だっているし……」
 言いながら坂本の表情が少し険しくなったことをオレは見逃さなかった。
 それにしても坂本がその気になるCD-R。興味ある。
 加えて「その気」って何だ?
 と、同時にオレは頭の中である人物が浮かんだ。

「もしかして、これって広野がらみ?」
 すると坂本は急にオレから視線を反らし、黙ってうなずいた。
 正直、こういう坂本は見たくなかった。
 女なのだが、男気があるような部分が好きだったオレにとって、今や坂本は完全に「女の子」になっているからだ。
 こいつの頼みだから聞いてやりたいし、実際、処分することぐらい簡単だ。
 でも、広野がらみであれば話は別だ。
「どうしようかなぁ……」
「お願い、広野君には知られたくないから」
「どうして?」
「こんなことに影響されて、飛び降りたなんて知られたくないから……」
 下唇をかみながら、少し瞳を潤ませて坂本は俺を見ていた。
 坂本はきっと、好きな人に自分をさらけ出すことが怖いんだな。
 こいつきっと処女だ……いや、すまん。余計なことを考えすぎた。
 しかし、広野の話を聞くと自然にきつい事を言いたくなってしまう。
「お前、本当に広野が好きなのか?」
「え?」
「本当に好きだったら、なんでも言えるんじゃないか?」
「……そうかもしれないけど」
 我ながらなんてくさい台詞を吐いたものだ。
 しかし、予想以上に坂本へは効き目があったらしく、だんだん思いつめた表情になる。
 こんな弱い坂本をこれ以上見ていられなくなった。
 広野に告白する前はこんなじゃなかったのに。広野、ますます許すまじ。
 以前の坂本を返してくれよ。

 その時、オレは良いことを思いついた。
「処分してやってもいいぜ」
「本当!?」
「ああ。ただし条件がある」
「なに?」
「来週、オレと遊びに行くこと」
「はぁ!?」
 坂本はあからさまに嫌な顔をした。そこまでハッキリとした態度をとることないだろ。
 これは以前のお前を取り戻すためなんだ。
「いや、もちろんオレだけじゃなくてさ。渡辺と夕子ちゃんを呼んでさ、久しぶりに皆で遊ぼうぜ」
「うーん……でも、広野君の家にも突撃したいし……」
「そんなのいつでも出来るだろ! それともこのCD-R処分して欲しくないのか?」
「わ、わかった。でも、これは浮気じゃなくて遊びに行くだけだから」
「大げさだな、お前……」
 何にしても坂本との約束は取り付けた。久しぶりに遊ぶぞっ!
 その前にこのCD-Rを処分しなくちゃな。

「それじゃあ、私は行くけど……」
「えっ!? もう行くの?」
「広野君のテスト勉強対策するから」
「……ちっ」
「まあまあ、そう僻まなくてもいいじゃない」
「ああ? 誰がだよ!」
 オレの態度に笑い始める坂本。ちょっとムカついたが、コイツが笑えばそれでいいかと納得した。
 屋上のドアへさしかかった坂本は、最後に振り向いてオレに忠告した。
「これは音楽CDじゃないから、パソコン持ってないアンタには無用なものなの。いい?  間違ってもCD-Rの映像は見ないこと」
「つーか、そんなものをオレに預けるのかよ!」
 オレの抗議に坂本は人差し指を顎につけ、「うーん」とか言いながら上を向いて考え事を始めた。
 そして独り合点がいったように、ぽんと手を打った。
「だって、門脇は私の”危険物処理班”なんだから、当たり前でしょ?」
「ふざけんなっ!! そんなの命がいくつあっても足らんわ!」
「あはは。アンタなら大丈夫だって。じゃあ、来週楽しみにしてるから」
「えっ……ああ、しょうがねえな」
 そして坂本は「任せた」といって屋上を去った。
 くそ……完全にパシリ扱いだ。
 でもいいか、坂本の頼みだし。

 独りになった屋上で、受け取ったCD-Rを眺めてみる。
 『CD-Rの映像は見ないこと』という忠告が気になった。
「う〜ん、よし。見てやろう」
 どうせ捨てるんだし見ても構わないだろう。
 決して好奇心じゃないぞ。
 これは調査だ。坂本を苦しめた代物に対する調査だ。

 その後、教室に戻ると、渡辺がニヤニヤしながら待っていた。
 頭を少し下げて、笑顔を絶やさず上目遣いでオレを見る。
 本当にコイツはパシリ面してるなぁ。
「どうでした? 亜由美さんからの呼び出しは?」
「ただ、頼まれごとを受けただけだよ」
「なぁんだ。二人っきりで呼び出しなんててっきり……」
「んな訳ねぇだろ」
 すると渡辺は斜め上を見て、独り言のように呟いた。
「オレは結構あってると思うんですよね」
「何が?」
「門脇さんと亜由美さん」
「お前……分かってるじゃないか」
「恐れ入ります」
 時代劇なんかで悪巧みする二人組みのような会話だな……
 だが確かに渡辺の言うとおり、俺と坂本は相性が良いと思っている。
 優等生と不良って典型的だよな?
 ……と悦に浸ってもしょうがない。オレは本題を渡辺にぶつけることにした。
「ところでお前、パソコン持ってる?」
「オレですか? 嫌だなぁ。いつも門脇さんと一緒にいるのに、持ってるわけないでしょ」
「そうだよなぁ……」

 オレはパソコンを持っていない。
 近頃、パソコンが使えて、インターネットなどをやっているのが普通みたいだが、オレには関係なかった。
 街に行けばもっと面白いことがある。万引き、強盗、喝あげ、喧嘩、ナンパ、楽しいことが一杯だ。第一、携帯電話で十分じゃないか。
 それに自分がパソコン使えることを鼻にかけて使えない奴を小馬鹿にするし、引きこもってウジウジしている奴を見ると、腹が立って金を巻き上げたくなる。
 ということで、パソコンなど使うやつは大っ嫌いだ。(坂本は別)
「門脇さん、どうしてパソコンが必要なんですか?」
「あぁ。ちょっとCD-Rの中身を見たいと思ってな」
「エロっすか?」
「坂本が持ってたCD-Rだ。んな訳が無い」
 いや、むしろエロだったら、どれだけ嬉しいことか!
 どうせ生真面目で眠くなるような内容だろう。世の中の貧困なんかを映した偽善に溢れたクソみたいな番組に違いない。
 だが「CD-Rを見たい」という衝動には逆らえず、どうしようか考え込んでいると、渡辺が何かを思いついたように「あっ」とか言った。
「そういえば確か、土屋がパソコン持ってたような気がします」
 土屋か……アイツとは武内を襲った一件以来ずっと話をしていない。
 優等生面して、誰にでも優しい優柔不断野郎……ホントにムカつく。
 なにより一時とはいえ、坂本と付き合ってたのだ。
「よし、渡辺。放課後、土屋を呼び出せ」
 オレは坂本に対する鬱憤を奴で晴らすことに決めた。
 調子こいて女どもに媚を売るバカに天誅を下すのだ。

 あっという間に放課後になり、オレは屋上で渡辺が来るのを待っていた。
 なんでいつも待ち合わせは屋上なんだろう。
 もしかしたら、ここには人を呼び寄せる負の力があるに違いない。
 ……なんて、バカみたいなことを考えていると、屋上のドアが開く音がした。
「門脇さん、連れてきましたよ」
「おう、ご苦労」
 土屋は渡辺に腕をつかまれて、無理やりオレの前まで引っ張りだされた。
 渡辺の上目遣いとは違う、恐れを含んだ目つきで俺を覗き見る。
「何の用?」
「まぁ、そう警戒すんなよ」
「はい、土屋ちゃん。もっと前に出てね」
 渡辺が背中を押すと、よろけるように前に出る土屋。
 背はオレよりも高いが、華奢で威圧感は全然感じない。
 しかも、くせっ毛の前髪からのぞく大きな瞳はなんの苦労も知らない王子様のよう……つまり、軟弱ですぐにもぶっ倒せそうなザコということだ。
「土屋、お前パソコン持ってたろ?」
 すると、土屋は恐る恐るといった様子でゆっくりと答えた。
「う、うん。持ってるけど……」
「実はさ。このCD-Rなんだけど……」
 オレは上着のポケットからCD-Rを取り出して土屋に見せた。
 ヤツはそのCD-Rを不思議そうに眺めた後、オレへと視線を移す。

「このCD−Rが何?」
「お前のパソコンでさ……」
 俺の言葉と同時に土屋は怪訝な表情へと変わった。
 まるで「嫌なことを察してね」と言わんばかりの顔つきにオレは腹が立つ。
「ごめん。今、僕のパソコン故障中で……」
 くだらない嘘だ。
 日常生活じゃあ見逃してもらえる言い訳かもしれないが、そうはいかない。
 なぜなら、もしそれが本当なら、CD-Rを見せる前から言うはずだからだ。
「いーじゃねーか。ちょこっとでいいからさ、ちょこっとで」
「駄目だよ……そのCD−Rに変なウィルスが入ってる可能性だってあるし……」
「なんだよ、さっきは壊れたとか言いながら、今度はこっちのモノのせいか?」
「いや、そうじゃないけど……」
「じゃあ、なんでパソコンが使えないんだよ」
「それは……」
 オレはしつこく食い下がったが、土屋はかたくなに拒否する。
 ここまできてオレは頭にひらめくものがあった。
「それともあれか? お前のパソコン、エロ画像が一杯あんのか? エロ画像」
「え!? ないよっ! そんなもの!」
 ビンゴ。はい、決定。
 コイツ、見られてはいけないものがパソコンにはある。
 土屋の評判を落とす大チャンスだ。

「ごめん。悪いけど、CD-Rなら学校のパソコン使えばいいと思うよ」
「そっか。じゃあ、しょうがねえな。無理言ってすまなかったな」
「え!? ……う、うん。それじゃあ」
 土屋はオレがアッサリ引いたことに関して驚いている様子だった。
 別に諦めたわけじゃない。正攻法を止めただけだ。
 その後、開放された土屋は逃げるように早足で屋上を去って行った。
「いいんですか、門脇さん?」
「ああ。構わない」
 オレの出した結論はいたってシンプル。
 土屋の家に忍び込む。ガサ入。
 今の興味はCD-Rから土屋の評判を落とすべく、パソコンのエロ画像へ完全にシフトした。考えてみれば土屋の言うと通り、CD-Rは学校のパソコンを使えばいいだけの話だからな。
「とりあえずは渡辺、お前に頼みがある」
「はい? なんですか?」
 オレは口を歪め、自分でもバカバカしいぐらいの悪者顔をして渡辺に答える。
「今からの土屋の予定を調べろ」
「あぁ、なるほど。そういうわけですか。了解っす!」
 渡辺もオレへ応えるように悪者顔で答えた。
 本当にオレ達、悪代官と越後屋みたいだな。












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