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suicide magic
作:リープ



第31話 「奇襲」


 武内がブツブツ何か言いながら病室から出て行く。
 坂本はそれをじっくり確認すると、僕を手で制した。
「ちょっと待って」
 すると坂本は病室のドアを開け、顔だけ外へだして辺りを伺っている。
 僕は不思議になって訳を聞いた。
「何やってるんだよ」
「よし……邪魔者はいないと」
 とか言いながら坂本は病室のドアを閉める。
 僕はその行動にピンと頭に来るものがあった。
「……お前まさか、さっきはそこで覗いてたんじゃないだろうな」
「ま、まさか、おほほほ」
「笑い方がワザとらしいな」
「そ、そう? まぁ、いいじゃない。さっ、お話しましょ」

 そしてベッドをはさんで、僕と坂本はイスに座って話をすることにした。
 武内の時みたいに間違いが起きないとも限らないからな、お互いに。
「やっと、まともに広野君とお話できるね」
 確かに坂本とは会ってまだ日も浅いし、初めて会った時も告白されて飛び降りだったから、まだまともに話をしたことは一度もないに等しい。
 一体彼女はどんな話をしてくれるのだろうか?
「あっ、そうだ。これ……」
 と言って坂本はリュックを漁りだした。
 また何かとんでもないものが出てきそうな予感がする……
 僕は少し身構えた。
 夕方の勢いで迫られたらひとたまりもないぞ。
「はい、これ」
 しかし、予想に反して坂本が差し出したのは数冊のノートだった。
 表紙には「英語(G)」だの「現国」とか書いてある。

「何これ?」
「各教科ごとにまとめたノートだよ。今、期末テストでしょ?」
「あっ……」
 忘れてた。そういえば僕は今入院してるから、退院後、追試組と一緒に期末テストを受けるんだった。
「まぁ、クラスも違うし、教科の先生も違うから、テスト対策になるかわからないけど、覚えることは一緒だしね」
「あ、ありがとう」
 漫画やご飯(これはどうかと思うけど……)にしろ、テスト対策のノートにしても坂本は本当に僕を気遣ってくれる。
 まったく、手ぶらで来てリンゴ食べている奴に一言言ってやりたいよ。
 ベッドに置かれたノートを手に取り開いてみると、確かに各教科ごとのテスト範囲について内容がまとめられていた。
 それはポイント別でまとめられていて、読み易いものだった。
「坂本、これ……」
「気にしないで。私がテスト対策に使ったものだから」
 んなわけがない。『坂本先生のワンポイントアドバス』なんて書いてあるし。
 しかも、坂本のクラスを担当していないはずの先生が言ったことまで網羅されている。
 明らかに僕宛に書かれたノートだった。
「これ調べるの大変だっただろう?」
「そうそう、広野君と同じクラスの知り合いがバカで全然授業聞いていないもんだから、大変だったよ」
 僕と同じクラスで坂本と仲のいい馬鹿なんて聞いたことはないけど、誰だろ?

 さらに坂本はため息混じりに話を続けた。
「しょうがないから、武内さんに聞きながら作ったし……」
「は? 武内と一緒に?」
「あっ……」
 すると坂本は「しまった」と言わんばかりに口元に手を当てて視線をそらした。
 分かりやすい奴だ。
 にしても、僕は二人協力してノートを作り上げた事が信じられなかった。
「何だかんだ言って、お前たち仲良いのか?」
「あっ……いや、これは違うの! そう、利用しただけです!」
「別に恥ずかしがらなくていいだろ」
「そういうわけじゃ……でも、あの子には一個貸しを作ったのは確かね」
 坂本はバツが悪そうに瞳を泳がせていた。
 僕はさっき勘違いをしたのかもしれない。
 さっき病室の外を気にしたのはこの事を気にしてたのかもしれない。
 自分が武内に感謝してるなんて知られたくなかったのだろう。
「まぁ、武内もバカだから大変だったろ?」
「うん、でも大体ノートは完成してたし、私これだけが取り得だから」
 と、言いながら坂本は自分の頭を指差した。
 そういえば彼女が学年トップの成績だったことを思い出した。
「今のところ彼女に勝てるのこれぐらいだし……」
「ん? なにか言ったか?」
「ううん、何でもない。あの……ノート喜んでもらえた?」
「もちろん」
「よかった!」
 坂本の表情は一気に変わり、柔らかな笑顔に変わった。
 その笑顔は月明かりに照らされて、素直に綺麗だと思えた。

 テストの事は本当に忘れてたし、感謝してもしきれない。
「知り合ったばっかりの僕に、ここまでしてくれてありがとう」
 すると坂本は首を振った。
「これで少しでも昔の恩返しができたら嬉しいし」
「昔?」
「実は私、高校に入学する前に広野君と会ってるよ」
「い、いつ!?」
「中学二年生だよ」
 そんなに前から坂本は僕のことを知っていたのか……
 僕はまったく坂本の存在に気付かなかった。
「あの時はありがとう」
「何だよ突然」
「広野君には二度、助けられたから。一度目は中学の時、二度目は屋上から飛び降りた時」
 屋上のことは、ばれていた。考えてみれば当たり前か。
 それにしても中学校の時に坂本に会っていたのだろうか?
 しかも、中二といえば父が死んだ年でもある。

 すると坂本はベッドを机代わりに頬杖をついた。
「私、中学校の時、通り魔に会ったの。その時、広野君と広野君のお父さんが魔法で助けてくれた」
 なるほど。だから魔法のことを知っていたのか。
 あの頃は父さんと一緒になって、いろんな人を助けたからなぁ。
 少しだけ僕はあの時の「正義の味方」ぶりを思い出して、ニヤついてしまった。
 それをみて坂本は「かわいい」と言った。
 ……て、照れくさい。

 気づけば、病室は静まり返っていた。
 聞こえるのは、僕と坂本の声だけ。
「通り魔事件の後、実は私、少しだけ人と会うのが怖くなったの。誰にも近づくことさえできなくてね。それで、すっかり病室に閉じこもりっきりになっちゃって……」
 坂本が病室に閉じこもりっきりということは、その通り魔事件とは相当心の傷になったというわけだ。
 元気そうに見える坂本にはそんな過去があるのだな、と僕は他人事のように感心してた。
「でも、その時心の支えになってくれた人が広野君、貴方なの」
「僕が!?」
「まるで、正義の味方みたいに颯爽と現れて、去っていった。時間にすればほんの少しだけど、今まで会ったどんな人よりも強烈に私の記憶に残った」
 そして坂本が顔にかかった長い髪をかき上げる。
 頬杖をつきながら彼女はニッコリ微笑んだ。
「だから……私の憧れ」
 坂本は結構ハッキリ物を言うタイプなので、ストレートに憧れと言われるのになれていない僕は、なんだか気恥ずかしくなった。
「言いすぎだぞ」
 坂本は大きく首を振る。月光で艶が増した黒髪がふわりと舞う。
 それほど近くにいるわけじゃないけど、いい匂いがほんのり香る
「違う。だってあの頃、斜に構えてがんばる事を馬鹿にしていた私を変えくれたもの」
「そ、それはお前の努力であって……」
「広野君の好みの女の子になろうと努力したの……そして、努力は報われた」
「えっ……?」
「だって今、広野君は私の目の前にいるから」
 ……僕は思わず生唾を飲み込んでしまった。
 なんだかこのまま告白されても変じゃない雰囲気だ。
 そして、僕も雰囲気に流されつつある……
 
 しかし、坂本は表情を変え、僕からは苦笑しているように見えた。
「あ〜あ、ここで『好きです』とか言ったら雰囲気出るんだろうけど。でも、今回は言わないね」
 僕はなんだか意外に思った。
 猪突猛進がモットーのような彼女が意外に慎重だった。
「へぇ、てっきり言うのかと思った」
「だって、本気の告白って勇気がいるし……また振られるって結構怖いんだよ」
 すると坂本は俯いてしまった。
 明るく能天気に見える坂本は、本当はかなり繊細な女の子だった。
「今だって二人きりだから、なんだか緊張して……」
 確かに髪をかき上げる手は、心なしか震えている様に見えた。
 僕はなんだか坂本が直視できなくなって、視線をそらす。
 やばい、僕は彼女を意識し始めている。
「もっと広野君好みの女の子になって告白するって決めたから、今日はなし」
 ふと横目で坂本を盗み見る。実は結構自分の理想に近いじゃないか?
 考えてみれば、黒髪で綺麗なロングだし、頭も良いし、なにより甲斐甲斐しく僕の心配をしてくれる。
 初めてそこで坂本と二人きりで病室にいることを完全に意識した。
 ……というか、なんでこう僕は気が多いのだろう。
 さっきまで武内といい雰囲気だったじゃないか。
 それなのに今、この女の子から目が離せない。
「坂本、あのさ……」
 僕は身を乗り出して、ベッドの向こうにいる坂本へ近づいた。

 その瞬間、大きな音が僕達を襲う。
 突然、すごい音をたてて、窓ガラスが割れたのだ。
「きゃあああぁぁぁっ!!」
 坂本が悲鳴を上げる。僕はとっさにベッドをまたいで、彼女をかばう。
 ガラスの破片が辺りに散らばり、月明かりで光っている。
 さらに割れた窓ガラスからは、誰かが侵入してくるのが見えた。
 僕は息を呑んだ。












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