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suicide magic
作:リープ



第3話 「2年前」


 父は魔法を使って死んだ。

 2年前――
 僕は走っていた。まだ走れば間に合うはずだ。
 絡まりそうになる足を立て直しつつ走る。中学生の頃の話。
 僕は病院へ急いで走っていた。父は魔法を使おうとしている。
 それもただの魔法ではない。死にかけた人間を救う魔法だ。

 僕の家系と契約した精霊の力を借りた魔法(少なくとも僕のはそうだ)は使用者の幸福と引き換えによって魔法が実行される。
 実行される魔法の難易度によってリスクは比例して増大し、引き換えにする幸福は膨れ上がる。
 そして魔法を使用した後、行った魔法の埋め合わせとして、不幸が使用者の身に降り注ぐ。さらに魔法の中でも人の命に直接かかわるものは、魔法の使用者の全幸福をもって実行される。
 つまり、命に関わる魔法を使えば、あらゆる不幸が起こり死ぬことになるのだ。

 父の友人は末期のガンで死ぬはずだった。
 しかし、父は諦めない。魔法を使い、友人を助けようとしているのだ。僕はそれを阻止すべく走っている。 
 季節は秋。すっかり葉の色も変わっている。少し寒い季節。その中で僕は汗だくだった。

 僕は父を尊敬していた。今迄だって、魔法を私利私欲のために使わず、人のために使ってきた。(そりゃあ、魔法を使えば自分が不幸になるからということもあるけど)
 この頃、父と僕は僕自身の魔法の修行として、人助けをしていた。困っている人を助ける自体あまり好きではなかったが、父と一緒というのは楽しかったと記憶している。父は僕いつも僕のお手本だった。魔法の使い方、人との接し方、生きていく上での常識。
 そして、人を想いやること、何でも教えてくれた。

 病院に着き、たくさんの人を掻き分け集中治療室へと急ぐ。僕は集中治療室のドアの前に立つ父を見つけ、急いで駆け寄る。
「待ってよ、父さん!」
 僕の呼びかけに父は振り向いた。父は少し前まで会っていたのに、すごく痩せたような気がする。
「貴明……」
「魔法を使うの止めてよ!! いくら友達だからってそこまでしなくてもいいだろ!」
 父は黙った。僕は立て続けにしゃべる。
「これは運命なんだよ!天地の法則なんだ! 死ぬ運命の人は決し生きることはできないんだよ!」
「そうだな」
 この言葉に父が僕の意見を了承してくれたものだと思った。

「運命か……確かにそうかもしれない。でもな、運命は変えられる、いくらでも。だだ、今回それが出来るのは魔法だけなんだ」
 父の手は震えていたし、足だって震えている。
 それを見た僕は言わずにいられなかった。
「父さん、震えてるじゃないか。怖いんでしょ?だったら止めようよ」
「でもな、貴明。今は分からないかもしれないが、父さんには微笑んで欲しい人がいるんだ」
 僕はなんだか泣けてきた。父の目も潤んでいる。
「お前が来てくれて助かったよ。おかげで自分の気持ちの整理がついた。だが、お前には本当に悪いと思っている。父さんのわがままを聞いてくれ」

 父は微笑んでドアのノブに手をかけ病室の中へ入っていく。
 ただ見送るだけで僕は何もできなかった。
 三日後、周りの人間からは奇跡だと言われながら、父の友人は死の淵から生還した。その代償に父が原因不明の病気にかかり死ぬことになる。
 僕はその時、父は自分を犠牲にして人の命を救う英雄のように思えた。

 しかし数年後、父の友人は僕の母と結婚する。
 助けられた恩も忘れて(本人は知らないのだが)、僕の家庭に入ってきた。
 それから、僕は家の人達とは、ほとんど口を利かない。
 父が望んでいたものはこんなものだったのか?何のための犠牲だったんだ? 
 この事で人のために魔法を使うことがどれだけ危険でバカらしいか思い知らされ、僕は他人との距離を保つために結界を張ることになる。人と深くかかわりあい、情けを掛けて面倒なことになるなんてのはゴメンだ……


 そして現在。場所は屋上。
 僕の両腕にはさっき屋上から飛び降り自殺をはかった女の子、武内亜也がいる。ついつい魔法で武内亜也を助けてしまった。
 とりあえず無言で彼女を空中から屋上へ戻す。呆然と僕を見つめている彼女に気づいてはいたけど、僕は見ないようにした。
 だが、この状況をごまかすために何か言わないといけない。
 うーんと、えーっと……思い浮かばない。
「こ、このことは誰にも言うなよ」
 こんな言葉しか浮かばねーっ! なんだこのありふれたセリフは!
 恥ずかしくなった僕は屋上を去ることにした。

 案の定、僕はその直後、階段から転げ落ちた。魔法で使った幸福の埋め合わせに不幸が僕に訪れたのだ。高速移動、空を飛ぶ魔法を使ったにもかかわらず、この程度で済んだのはある意味ラッキーだったと思う。
 そして、午後は何事もなく過ぎていった。武内も教室に戻り、何事も無かったかのように普通に授業を受けている。僕は安心した。












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