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suicide magic
作:リープ



第29話 「真夜中の侵入者」


 さすがにあの二人がいなくなると静かになった。
 と同時に何もすることが無くなった僕は自然に色々なことを整理し始めた。

 それにしても今日は武内と坂本を追い出せたけど、明日もこんな煩い日が来るかもしれないな。
 なぜ、女の子が集まればあんなにうるさくなるのだろう。正直、巻き込まれる男の身にもなって欲しい。
 ……なぜか不意に今、僕はとてつもなく贅沢な悩みを持っているのではないか、とも思えたがその辺はあまり追求しないことにしようと思う。
 にしても今の僕は、周りの人間と距離を保っていた以前と比べれば大違いだ。
 これが、良い方向に進んでいるのか? と聞かれれば「?」だか、悪い方向に進んでいるとは思えない。まぁ、そういった結論は後から分かるものだと思う。

 元をたどれば、僕が武内を助けなければ、こんなことにはならなかった。
 しかし、それを言っても始まらない。あいつのお陰で楽しい思いもしたし、しんどい思いもした。こんなに起伏のある生活は、父さんが死んで以来なかった。
 武内に出会わなければ、おそらく、『なにもない』高校生活をただ、『こなしていた』だけだったと思う。
 それに最近じゃあ、魔法を使うのも悪くない、なんて思ったりする。もちろん車にぶつかるのは嫌だけど。
 とにかく本当に武内には幸せになってもらいたいと思う。
 土屋と、よりを戻すにしろ、しないにせよ、彼女の望む通りになってほしい。
 それ以上の感情は無いはずだ……多分。
 こんなことを言ったら坂本に怒られそうだけど。

 坂本亜由美……僕に告白してきた女の子だ。
 好きだと言われるのはもちろん、あんなに積極的に迫ってくる人間と出会ったのも初めてだ。煩わしくもあるけど、居ないならそれで寂しかったりもする。
 それに積極的な坂本を見ていると、うらやましくなる時がある。自分の気持ちを真っ直ぐぶつける事が、僕の付かず離れず上手くやっていくやり方とは大違いだからな。
 最近は特にいつもテンション高いけど、あんな子でも落ち込む時がくるのだろうか?
 ……なさそうな気がする。なんでも正面からぶつかりそうな子だからな。なんせ、南さんが現れただけで、睨みつけるなんて僕にはありえない。

 にしても、南さんはどういうつもりで、僕に会いに来たのだろうか。
 実は車にぶつかった瞬間から引っかかっていたことがある。
 それはぶつかる瞬間、運転席に座っていた南さんは笑っていたような気がしたからだ。
 ……こんなことを考えるとネガティブになる。もう寝ようかな。いつの間にか僕はウトウトし始めていた。

 そして夜になり、すぐ消灯時間になった。
 普段使わない頭を使ったのが悪かった。消灯時間までに軽く寝てしまったために今、完全に目が覚めている。
 暗くなった室内でベッドのライトを付けるのも嫌だった僕は、カーテンを開けることにした。今日は満月のはずだ。
 カーテンを開けると案の定、綺麗な満月が空に浮かんでいた。月明かりはうっすらと室内を照らし、なんだか幻想的な気分にさえなった。
 ……とか、考えていたのも一、二分の話で、いつのまにか僕はベッドの上でゴロゴロしていた。自分の事ながら、風流を感じない男だとつくづく呆れた。

 ひとしきりゴロゴロして、ベットに仰向けになって一息つく。
 あ〜、後何時間たったら眠れるんだろう。なんとなく目を瞑り、そんなことを考えていた矢先、気のせいか窓を軽く叩いた音が聞えた。
『(コン、コン)』
「ん?……気のせいかな」
 仰向けのまま目を開け、辺りをうかがうけど何の気配も無い。
 まぁ、きっと風か何かだろうと思い、再び目を瞑った。
 やっぱりさっきの物音は気のせいだったのか、病室は静かになった。
 第一、ここは二階だし、何もあるわけが無い。
 僕は溜息をつきながら壁側に寝返りを打った。
『(ゴン、ゴン)』
 すると同時に今度はさっきよりも強く窓が叩かれる音が聞えた。
 明らかに人が叩いた音だ。
「……まさか幽霊?」
 寝返りを一つうてばその窓があるのだが、動けない。
 たしかに病院にはそういった類の噂はあるものだけど、まさか自分が幽霊に遭遇する羽目になるとは……考えた末、出た答えは唯一つ。
 ……よし、ここは無視だ。
 僕は目を瞑り無理やり寝ることにした。

『(ガタガタガタッ)』
「な、何だ!?」
 今度は明らかに窓を揺すった音だとわかる。
 僕は反射的に窓を見た。
 すると長い髪の毛を揺らし、幽霊が窓に張り付いていた。
「わあああっ、だ、誰だ!? ……ってあれ?」
「早く、開けて!」
「坂本!!」
 なんと窓に張り付いていた黒髪の幽霊は坂本だった。
 僕は急いで窓に駆け寄り、サッシを開けると坂本は急いで病室へ入る。
 彼女は窓から病室に入ると、すぐに窓を閉めて鍵をかけた。
「これでよし……と。はぁーっ。死ぬかと思った」
「『死ぬかと思った』じゃない! 何してんだよ!!」
 すると坂本は肩に掛かった髪をさっと手で払いながら答えた。
「え? 雨どいを登ってそれから――」
「そんなこと聞いてるんじゃない!!」
「だって……広野君の看病がしたくて」
 僕が怒っているにもかかわらず、坂本は平然と笑顔で言った。
 さも、それが当たり前のように。

 その直後、再び窓がたたかれる音がした。
「なんだ!?」
「あっ、忘れてた」
 坂本が少しだけ舌を出しながら言う姿に、僕は一抹の不安を覚えた。
 恐る恐る窓に近づくと、そこには見覚えのある人物がまた窓に張り付いていた。
「早く〜、開けて〜!」
「た、武内!?」
 僕は急いで窓を開けると、武内は急いで病室へ入る。
「ふーっ、さすがにちょっとヤバかったかも」
「『ちょっとヤバかった』じゃない!! 何してんだよ!!」
「え? 雨どいを登ってそれから……」
「そんなこと聞いてるんじゃない!! 二人とも何やってんだよ!!」
「「だって……」」
 二人そろって言うな。

「だって、さっきのリンゴ食べたかったんだもん!!」
 僕が怒っているにもかかわらず、武内は果物のカゴを漁っている。
「リンゴぐらいその辺で売ってるだろう!!」
 リンゴを手にして満足げな武内の隣で、坂本はせっせと寝袋を用意していた。
「坂本もだ! 家の人が心配するだろ!」
「大丈夫!! 友達の家に泊まるって言ってあるから。それに、いまさら家に帰っても家の人もう寝てるし、私、カギ持ってないし」
 ニコニコしながら言う坂本に、さすがにウソだと分かる。
「嘘だろ」
「うん」
 あっさりと認めた……すっかり開き直ってる。
 すると、坂本は僕に近づき、瞳を細めながら小さくささやいた。
「……好きなんだからしょうがないでしょ?」
「うっ……」
 さすがに坂本の方が一枚上手だ。僕は何も言えなくなった。
 なんでこんな恥ずかしいことをあっさり言えるんだろうか。
 まぁ、僕の武内に対しての発言を考えれば人このことは言えないがな……

 一方、武内の方はリンゴに息を吹きかけている。
「お前は帰るよな?」
「帰らないよ。別に家で待っている人もいないし」
 うわ〜、「帰れ」って言いづれ〜!
 困惑する僕に武内はリンゴを手で拭きながら、俯いた。
「それに……」
「どうした?」
「私のところへ見舞いに来なければ、車にぶつからなかったわけだし……」
 武内の言葉に僕は目を丸くした。
「もしかして、責任を感じてるのか? お前がぁ?」
 すると武内は顔を真っ赤にして、そっぽを向いてリンゴをかじる。
 そんな後姿を見て僕は噴出しそうになった。

 あ〜あ、どいつもこいつも……
 結局、僕は諦めることにした。どうやってもこの二人は帰らない。
 それに僕も時間をもてあましていたことだし、話し相手ぐらいにはなるだろう。
「しゃーねえな。じゃあ、話し相手にでもなってくれよ」
「は、話をするだけだからね。変なことしないでよ」
「するか!!」
 武内は少しうれしそうにした。
「そうそう、変な事するわけ無いでしょ! だって広野君は紳士だからね」
 坂本もうれしそうに返事をした。












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