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suicide magic
作:リープ



第20話 「掴んだもの」


「武内さんのために何かしてあげたいんだ」
 この一言が私を変えた。”友達”とも縁を切り、私は新たなスタートを切ったといえる。

 あの日以来、私の高校生活は土屋君中心に回り始めた。これからは誰にも気兼ねなくいつでも彼に話しかけることができる。今まで生きていた中で一番楽しかった時期だった。
 土屋君が言った内容を真に受ければ、ずっと一緒にいてくれるものだと思っていた。でも、彼には彼の人間関係がある。私はその中に入ってまで行動を共にすることができなかった。
 私はどうしてもお話がしたくて近くまで行くけど、学校にいる間、土屋君は男友達とお話しをしているので遠巻きに見ているだけしかできない。たまに男友達が気を利かせてくれて話す機会があったけど、なんだか冷やかされているようであまり話が出来るような環境ではなかった。
 とはいえ、一人でいる時間も土屋君と次にお話しするときの話題を考えたり、彼と目が合ったら軽く手を振ってみたりして過ごしているので特に孤独を感じることは無かった。
 結局、二人でお話が出来るのはお昼休みだとか、下校の時間なんかに限定された。お話できる時間は貴重で短く思えた。
 お話の内容だってくだらない。これはある日の会話。
「僕、最近家の人にビデオの撮影頼まれてさ、あれ結構画面の遠近を合わせるの大変だよね」
「家の人って? ご両親? 兄弟?」
「僕一人っ子だから両親に頼まれたんだよ。両親が仲良くってさ、大抵僕が撮って二人が映るみたいな感じかな」
「へえ……」
 普段両親がいない私にとってはうらやましい話だった。仲の良い両親、友達の多さ、屈託の無い笑顔、どれも私が持っていないものだった。
 だから余計に惹かれたのかもしれない。
「土屋君、じゃあさ……」
「なに?」
 こうやって楽しく話せるようになって土屋君との距離は確実に縮まっていったと思う。
 だからこんな冗談も言える。
「よかったら今度私も撮ってね」
「えっ? な、何を!? ええー!?」
 すると土屋君は顔を真っ赤にして大慌てしてた。
「あはは、冗談だよ、冗談」
 カッコいい外見もさることながら、言動やしぐさも微笑ましかった。
 だから私はすごく満足だった。
 初めの頃は……

 しかし、そんな私にもだんだん「欲」が出てくる。
 たしかに土屋君は私を友達として扱ってくれる。だけど私はそれ以上のものが欲しくなった。つまり、恋人という関係に憧れだしたのだ。もっと一緒にいたい。
 実際はそう思うけど、なかなか意思表示はできなかった。私は彼との関係では完全に「待ち」の体制になっていた。

 その理由としてある噂があげられた。
 この頃からクラス内で私と土屋くんの関係に関して、良くない噂が流れていた。簡単に言えば、私が土屋君に付きまとって迷惑を掛けている、という類のもの。
 私は少し動揺したけど、土屋君は「気にしないよ」と言ってくれた。私も周りがどうであれ自分が幸せなのだからいいじゃないと思い直すことにした。本当に土屋君の言葉は安心ができる。私にとっては魔法の言葉だ。
 ただ、この噂で私は必要以上に意識してしまい、自分から行動を起こすことに億劫になってしまった。

 そしてもうすぐで一学期も終わろうかというある日、私はいつものように土屋君と一緒に帰るべく校門で待っていた。土屋くんはクラス委員ということもあり、学校の用事で遅くなるという話で、私に「待たなくていい」と言い残していた。
 だけど、一日だって一緒にいる時間を無駄にしたくないので私は待つことにした。そんな自分がこそばゆくもあり、好きになれた。
 下校する人がまばらになり、やがて校門で私は一人になった。本当に待ちどおしい。でも同時にだんだん心細くなっていく。土屋くんの存在が私の中でどれだけ大きいか思い知らされた。私は俯き、ため息をつく。

 と同時に聞き覚えのある声が聞えた。
「なぁ、アレって土屋君の背後霊じゃないの?」
「ホント、つくづくストーカーだよね。迷惑だって分からないの?」
 これは確かに私に向けられた言葉だった。一瞬にして自分の血の気が引いていくのを感じた。
 顔を上げるとすでに至近距離まで数人が私を囲むようにして近づいていた。
 よく見るとそれは私の元”友達”達。
 瞬間的に身の危険を感じた私はそこから逃げ出そうと走り抜けようとした。でも、彼女たちは私へと一気に集まり、身動きが取れないように囲んだ。
「なんで逃げようとしてるの?」
「やましい事でもあるんじゃね?」
 私は身を守ろうとカバンを胸に抱くように丸くなろうとした。
 すると誰か私の制服の胸倉を掴んで顔を無理やり上げさせる。
「痛っ」
 視線を上げた先にいたのは美咲だった。
「ストーカーには職務質問する必要があるよね?」
 彼女達と別れてから間接的な嫌がらせはよくあった。上履きを隠されたり、私の携帯へ一斉に中傷のメールが届いたりなんて典型的なものだったりしたので、気にしないことにしていた。
 だけど、この日初めて私は直接的な暴力によるイジメにあうことになった。。

 私は引きずられるように人気の無い校舎の裏に連れて行かれた。さらに突き飛ばされた私は転んでしまい四つんばいになる。手を地面につくと日影ということもあり、ひんやりしてた。すぐにわき腹へ誰かの蹴りが入り、私は息がつまり体を丸めた。丸めた背中には何度も誰かの蹴りが入る。鈍い痛みが何度も襲う。
 殴られたり、蹴られたり、たしかに痛みはあった。でも、それよりも「こんなことをされる自分」が情けなくて、可愛そうで心の方が痛かった。衝撃が来るたびに震える体に涙が流れた。

 どれぐらい時間がたったのか分からないけど、空はオレンジ色に染まっていた。
 誰もいなくなった暴力の現場で私はただ呆然とうずくまっていた。
 涙はもう乾いている。背中や手足はまだ痛む。心は空っぽだった。
 その日から私は学校を休んだ。

 休み始めてから一週間、誰も心配することはなかったし、土屋君も見舞いに来なかった。部屋の中で脱ぎ散らかされている泥だらけの制服を見るたび私の心はどん底に落ちた。どこまでも深く底のない沼に沈んでいるような感覚に襲われる。
 やっぱり嫌われたかな。そうだよね、いじめられる様な私だもん。浮かれていた自分が情けないよ……
 そして8日目。まったく学校に行こうという気になれない。断続的な眠りから目を覚ますと16時を過ぎていた。なんだ……もう今日も終わりか。なんて思った矢先、玄関のベルが鳴った。
 もしかして!? 私は一気に期待に胸が膨らみ、ベッドから飛び起きた。今までの落ち込みがどこへやら、軽く身だしなみを整えて玄関へ急ぐ。少し緊張しながらも玄関のノブをまわし、訪問者を招き入れた。
「来てくれたんだ!」
「あっ……」
 土屋君は私の顔を見ると緊張した面持ちで無言で立っていた。
 やっと土屋くんが来てくれた。私はすごく喜んだが、どうも様子がおかしい。
 私は彼を見て喜んでいたし、実際笑顔で対応したはずだ。
「土屋君、久し振りだね」
「うん……」
「元気にしてた?」
「そうだね……」
「とにかく入って」
「うん……」

 土屋君を家の中へ招き入れる。後ろから付いてくる彼の足取りは重そうだ。これではどっちが学校を休んでいたか分からない。
 それでも私は嬉しかった。だってここまで来てくれたんだもん。
 そして私の部屋へと入ってもらうと適当な場所へ座ってもらった。しばらく、雑談などをしたが、彼の言葉は歯切れが悪く、ハッキリしない。
 私は堪らず、土屋くんに訊ねた。
「どうしたの? 具合でも悪い?」
「えっ、いや……」
 すると土屋君はうつむいて黙ってしまった。
 未だ元気の無い理由は分からないけど、なんだか私は複雑な気持ちになった。この状況を不安視する反面、なんだかおかしな気持ちになったからだ。
「土屋君、なんだか……反対になっちゃったね」
「……反対?」
「だって、初めて会ったときは私が黙ってばっかりで、土屋君に心配かけたでしょ?」
 変な感じだな。見舞いに来たはずの土屋くんを私が積極的に話しかけている。
 私の言葉に土屋くんは再びうつむいた後、しばらくして話し始めた。。
「僕……君に悪い事をしたんじゃないのか? 僕さえ何も言わなかったら、今ごろ女子の輪の中でそれなりに楽しくやってたと思うんだ……」
「そんな……」
 いつの間にか土屋君は正座をしていた。太股に置かれた拳がぎゅっと握られている。
 どうやら土屋くんは、何処からか私がイジメにあった話を聞いたらく、さらにそれを自分のせいと思っているみたいだ。
 申し訳なさそうに肩を震わせてる。どうしてこうなったのだろう。
 イジメのせい? ううん、違う。
 きっといつまでもウジウジと悩んでいる私のせいだ。

「そんなことない!」
 私は大声を出して土屋君に近づき、彼の握られた拳の上に手を置く。
 何悩んでたんだろう私。自分以上に悩んでくれた人がここにいたんだ。
 元気を出さなきゃ、いつまでも色んなことで自分の殻に閉じこもってる場合じゃないよ!
「私、土屋君といるときが一番幸せ」
「武内さん?」
 土屋君は私の勢いに少し面食らっているようだ。だからって止めるわけには行かない
 もう気を使って遠巻きで眺めたり、会えない時間を我慢するなんて嫌だから。
「もっと、もっと話がしたいし、一緒にいたい……」
 待ってるだけじゃ駄目なんだ。
 私から動かなきゃ、空いた手は誰も掴んでくれない。
 そのまま土屋君へと体を預けた。
「私、土屋くんが好きだよ」
 ついに言ってしまった。
 それだけじゃなく今私は土屋くんを抱きしめている。
「武内さん……」
「私じゃ駄目かな?」
 私は土屋君へ体を預けたまま目を瞑って返事を待った。すごくドキドキしてる。きっと土屋君にも伝わっているに違いない。恥ずかしいだとかそういう問題ではなく、私の頭は熱くて真っ白だった。
「僕は……その……」
 その時、ゆっくりと何かが私の背中に触れた。間違いなくそれは土屋君の手だった。さらにいつの間にか彼の腕が私の背中にまわって、私は抱きしめられていた。
 抱きしめられることで体が引き寄せられ、直接触れ合うと彼の心音が良く分かった。よかった土屋君も緊張してるんだ。
「駄目じゃない。僕も武内さんが……好きだ」
 その日、私と土屋くんは初めての夜を過ごした。
 次の日も私の家で一日中、一緒にいた。私の手はもう空をきることはない。土屋君にしっかりとしがみついたのだから……












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