第12話 「王子様へ告白」
2組まで来ると近くの人に頼んで、さっきの話の情報源を呼び出す。
情報源は軽薄な雰囲気を漂わせて、へらへらとやって来た。
「これはこれは5組の超優等生、坂本亜由美様じゃないですか。どうしたのですか? ま、まさか俺に会いたくなったとか?」
「うるさい、黙れ、バカ。そんなことよりも門脇、広野君のウワサって本当なの?」
「っちぇ、ノリ悪いなぁ。それに人に黙れって言っておいて質問するなよぉ」
門脇は以前、私に声をかけてきて以来、なんとなく気が合うし、広野貴明と同じクラスという理由でとりあえず友達としてよく話をしている。
あまり評判の良くないヤツだけど、話してみるとそんなに悪いやつでもない。憎まれ口だって挨拶の一つに過ぎないし。
門脇は男にしては割と長い髪の襟足を指でもてあそびながら私の質問に答えた。
「広野? あぁ本当、本当。アイツに昨日電話して武内の話をしたらさぁ、ムキになっちゃってさぁ、なんか笑えたんですけど」
「ちっ!」
私は無性に腹が立ってきて門脇のスネを蹴る。
「いってーなっ! テメェ、犯すぞ!」
「人を小馬鹿にした罰よ。前みたいに上からタライが落っこちてこないだけでもありがたいと思いなさいよ」
「そうなんだよ! 今考えても訳わかんねぇ、だいたいなんであんな所にタライが……」
私は門脇の話を無視して教室内を見渡し、広野貴明がいることを確認した。
彼を見るだけで少し緊張したけど、意を決して門脇へ話しかける。
「門脇。アンタに頼みごとがあるんだけど」
「頼み? 何だよ一体?」
「放課後、広野君を屋上に連れてきてほしいんだけど」
私の言葉に門脇はおどろいた顔をした。
けどその後すぐにニヤニヤしながら言った。
「告るのか?」
「あんたには関係ない」
するとますます門脇はニヤついた。
「なんだよオレとお前の仲じゃねぇか。教えてくれてもいいだろ」
「はぁ? ふざけんな、この出歯亀」
駄目だ。コイツに何言ってもからかわれるに違いない。
もう、こんな下衆な男に分かってもらおうとも思わない。
しょうがないので最後の手段だ。私は門脇を脅すことにした。
「もういい、アンタには頼まない」
そう言って立ち去ろうとするフリをして、思い出したように言う。
「あっ、そういえばアンタ、以前に武内亜也を犯そうとしたらしいじゃない。言葉だけじゃなくてまさか本当にやるとはねぇ」
すると門脇の顔はみるみる青ざめた。
これも夕子から聞いた噂話ではあるが、コイツの様子から見てどうやら本当らしい。
「まっ、待てよ! わかったよ、面白そうだし。放課後、屋上に広野を連れてくればいいんだな」
「『面白そう』は余計だけど。おねがい」
と言いながら広野君をチラリと覗く。
あぁ、やっぱり私を見てるわけ無いか。
その日の授業は上の空だった。
何せ今回が告白の本番だから。
門脇に見透かされたのは癪だけど、もううかうかしていられない。。
努力は報われる。私はいままでの練習を思い出してイメージトレーニングを繰り返す。
今、私は「早くしなきゃ先を越される」って気持ちだけが先行している感じなのかな?
でも、もし武内亜矢とかいう女に広野君を盗られたら、2年間想い続けた私の感情はどうなってしまうの?
っていうか先を越されることはなにより嫌だった。広野君の初めての女は私なんだから。
「初めての女は」だって。……は、恥ずかしい。私、本当に今日告白するんだ。
なんだか興奮やら腹立つやらで時間はあっという間に過ぎていった。
気づいたら放課後になり、私は屋上で待っていた。
うーん、なんだかさっきからドキドキする。これって緊張してるって事だよね。坂本亜由美ともあろう者がなにやってるんだか。
あんまり緊張したんで、「人」っていう字を手のひらに書いて飲み込もうとしたが止めた。そんなものに頼ってどうする。私は私なんだから。
すると屋上のドアノブが回る音がした。その瞬間ドクンと心臓が高鳴った気がした。
ドアノブが回りきると扉が開いて二人の人影が見えてくる。
私は直視できずに俯き加減で、屋上にやってきた門脇と広野貴明をうかがった。
「おい、坂本。つれてきたぜ」
門脇はなぜか得意そうな顔をしていた。
反対に広野君の顔は心なしか少し疲れている様に見える。
私はなるべく広野君を見ないよう、門脇に話しかけた。
「ありがとう。あなたはもう帰って」
「ええーっ、これからがお楽し――」
「早く」
「っちぇ……わかったよ」
あきらかに不満そうな顔で門脇は屋上からいなくなった。
ドアが閉まる音がすると、急に静かになったような気がする。
目の前には本当に広野君がいるんだな。
何度も思い描いてきた場面だけど……あぁ、駄目だ、緊張してきた。何だか息苦しいし、手に汗をかいてきた。足震えてないよね? やっぱり「人」って書いておけばよかった。
そうやって私が色々と動揺している間に、なんと広野君から話しかけてくれた。
「何の用? 悪いけど僕、急いでいるんだ」
「えっ!?」
け、結構、冷たい感じの言葉だな。
少し予想していた言葉とは違うけど、想定内、想定内。
私は息を整えると広野君をに近づいた。
じっと彼を見つめる。
いざ告白って時に顔を見られるよう何度も彼を思い出し練習した動作。感情が高ぶっているせいか、自分の瞳が潤んでいるのがよくわかる。よし、いい傾向だ。可愛く見えるはず。
私は勇気を出して話しかけることにした。
「私、坂本亜由美といいます」
「坂本さん?」
広野君は明らかに私のことを知らないような素振りを見せた。
やっぱり広野君は覚えてなかったのかとがっかりもしたが、大丈夫。まだ描いた通りの展開の範疇を超えていない、と気を取り直した。
そして何度も練習したセリフを言う。
「広野君は私のことをよく知らないかもしれないけど、すっと前から……」
言葉が詰まって上手く続けることができない。
やっぱり練習通りにはいかない。どんどん私の顔が俯いていく。
あと一歩なのに、たった一言なのに。人に好きって伝えるのは難しい。
もう少し、もう少し……頑張れ。
「広野君が好きです。私と付き合ってください」
言葉を発した瞬間、卒倒しそうなぐらい緊張がピークになった。私は思わず、広野君から視線を外してしまった。
と同時に身体的にも精神的にも少し楽になった。
でもドキドキは止まらない。
だって、返事を聞いていないから。
私は再び視線をゆっくりと広野君へ戻す。彼の反応を見るためだ。
視界に入った広野君の反応はがっかりしたものだった。
一言で言えば無表情。
私の告白に何も感じていないようだった。
嫌な予感がする。
自分でも分かるぐらいに唇が震えてきた。
まさか、そんなはずないよね。
私にとっての長い沈黙が続く。
そして広野君は手を頭にやりながら、私から視線を逸らした。
「ごめん、今はそういうの考えられない」
そんな馬鹿な! 嘘でしょ……
イメージの中ではOK以外の答えなんてなかった。
だって、広野君言ったじゃない。
私を『魔法』で守ってくれるって!
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