第11話 「私の王子様」
私は白馬の王子様を信じてる。
そりゃあ、”まんま”王子様がいないことはずいぶん前から知ってる。
でも、私には王子様がいる。
あの人は他の男とは違う。絶対。
いつもの変わらない高校生活の昼休みだった。
すべてが私の計画通り進んでいたはずなのに……
それなのに友人のくだらない一言から私の計画は狂いだした。
「ねえ、亜由美。聞いた? またあの子やったらしいよ」
夕子はなんだか嬉しそうに話している。
小柄でポニーテールが似合ういい子なんだけど、この手の話題に彼女は目がなく、時々ウンザリすることがある。
私は心の中でため息をつきながら、適当に合わせてやる。
「誰が? 何を?」
「2組の武内亜也が、例のごとく男のためにリスカしたんだって!」
「ふーん。別に今日に始まったことじゃないし。私興味ないな」
くだらない世間話なんて別に聞きたくなかった。
私はそろそろ決行しようとしていた計画があり、そのことで頭が一杯だった。
彼女は少しつまらなそうな顔をした。
「そう言わずにさぁー、続きも聞いてよ、ねっ、ねっ」
こうなると夕子は止められない。ホントに楽しそうにポニーテールが揺れてるなぁ。私は観念して聞くことにした。
「はいはい。で、今度の相手は誰?」
「えーっとねぇ……」
「早く言って」
するとは夕子はもったいぶって間をおいた後答えた。
「今度の相手は同じクラスの広野貴明らしいよ」
「ふーん……って、ええっ!?」
「どうしたの?」
「今、広野貴明って言わなかった?」
「言ったよ」
いや、ありえないし!!
それは私にとって青天の霹靂。
私は急に余裕が無くなり、一瞬平衡感覚を失ったようにクラクラした。
「ほ、本当なのそれ!?」
「うん。だって病院に救急車で広野君と武内亜也が一緒に入っていくところを見た人がいるんだって」
そんな場面目撃したのは誰だよ!
私は夕子の両肩を掴むと前後に揺らしながら詰問する。
「それは誰? だれ? ダレ?」
「ちょ、ちょっと、亜由美、落ち着いて」
「答えなさいっ!」
「わ、わ、わかったから離して! に、2組の門脇君だよ!」
門脇だって? あの馬鹿でうだつのあがらない、あの門脇!?
私は冷静に判断しようと頭の中で整理し、必死にこの事実の粗をさがす。
「でも、たまたま広野君が武内亜也のリスカ現場に居合わせていたのかも」
「ないない。だって最近あの2人放課後よく一緒にいるって話だよ♪」
「はぁ!?」
私の気持ちをよそに夕子は楽しそうに即答した。わずかな望みをあっさりと断ち切ったのだ。
「夕子」
「なに、亜由……え?」
私は夕子を睨みつけながら彼女の頬を軽く叩く。
彼女の頬からベチベチという音を聞きながら私は質問した。
「誰がそれを見たって?」
「だ、だから門脇君だって……なんか、亜由美怖いよ」
「それってホントなのかどうだか。門脇っていい加減なヤツだし」
「亜由美、なんだか目つき悪い……」
そんな事実、絶対信じない。
だって私の王子様は広野貴明なんだから。
ある事があって、私は彼にふさわしい女になろうと努力をしてきた。
髪の長い人が好みだって聞いたからロングにしたし、またある時は頭のいい女の子が好きだって聞いたから、勉強をがんばって学年トップ。
見た目も大事だと思って雑誌で研究し、おしゃれにも気を使った。それ以外にも私は彼に好かれようと自分にできるあらゆる努力を惜しまない。
その結果、私に声をかけてくる男はいくらでもいるぐらい(実際にいるし)魅力的な女になったと思う。それだけじゃなくて、彼と付き合った時に困らないように男と付き合う練習もした。(もちろん大事な部分はとってあるけど)
「ところでさぁ――君とはどうなの?」
「なんでよりによによって……」
あのどんな男でも付いて行くような軽い女、武内亜也と彼が付き合ってるの?
きっと広野君は武内亜也に騙されたに違いない。
そこまで考えて慌てて否定する。
ううん、そんなはずない。広野君がそんな簡単に騙されるわけないよ。
――って私は何を信じたら良いの?
「ちょっと、亜由美?」
「あぁ、ウソ、ウソ。はいはい、捏造、捏造」
自分でもよくわからなくなった。
分からないなら、とりあえずは現実逃避しよう。うんうん。
「亜由美、私の話、聞いてる?」
「え? 何?」
「今何も聞いてなかったでしょ」
「あはは……」
やばっ、夕子の話全然聞いてなかった。
今の私には彼女の与太話を聞いてる余裕はない。
でも、自分の動揺を知られるのは嫌なのでとりあえず謝る事にした。
「ごめんごめん、何だっけ?」
「だからぁ、土屋君とはどうなのよ?」
土屋? 誰だっけ? うーん……あっ。
そういえば土屋って、私が一週間前に別れた『練習男』のことだ。
「別れた」
それを聞いた夕子は一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐにまずいと思ったのか、残念そうな表情へと変化した。
「残念〜。 2人はいい感じだと思ってたのに」
っていうか絶対思ってないだろ。このゴシップ好きが。
いやいや、はっきり言ってそんな事はどうでもいい。
私がこれだけ動揺しているのには理由がある。
一つは広野君が他の女と付き合ってるかもしれない事実。
でもこれは私が告白すれば済む問題。だって、彼は絶対私を選んでくれるはずだから。
そしてもう一つの理由が告白時期に関係していた。
実は練習男、土屋と別れた私は準備期間を経て2,3日中には広野君に告白するつもりだったのだ。タイミングが悪すぎる。私はこういうことがキッチリ進まないと気になるタイプなのだ。
「じゃあ、今日は私が亜由美を慰めてあげるね」
「夕子。何を勘違いしているのかしらないけど、振ったの私だから」
「ええっ!!」
驚く夕子を横目に私はある結論に達していた。
「亜由美、それってどういう事? 私に詳しく教え――」
「ごめん、夕子。私、用事おもいだしたから」
私は勢い良く椅子から立ち上がり、教室を飛び出す。
行く先はもちろん門脇がいるクラス。
彼が武内亜也と付き合ってるはずがない。
そう、真相を確かめなくては! |