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禁輸指定「銃」



応接室(ここ)ならゆっくり話せるでしょ、大魔術士サマ?」

「助かります、クロワーゼ殿下。宮廷儀礼は、どうも苦手で」


 二週間が過ぎ、ぼくはアーケンハイドの公宮に訪れていた。


 一度本国に帰ったエクトルテさんとエルミナさんの報告により、ぼくを介した日本及びエルフの里との交流を決定するためだ。


 本日はそのお披露目の式となる。

 正装ということでスーツ姿で貴族ちの居並ぶ謁見の間を進み、玉座に座る大公へ拝謁の儀を交わした。宮廷儀礼の指導役はオルタだ。

 オルタ、ミスティ、村長さん、そしてぼくの四人がこの公宮を訪れていた。


 その後、ぼくら四人は、実質的にこれから大公位を継承するクロワーゼさんを主な相手として、この応接室で取引の内容を話し合うことになった。

 トップ会談ということで、アーケンハイド側はエクトルテさんを含めた護衛が三名、書記官が一名、それに主役のクロワーゼさんと、非常に限定された人数しか入室していない。


「殿下なんて堅苦しいわ! クロアと呼びなさい、これから長い付き合いになるのよ!」


「い、一国の将来の指導者を軽々しく愛称では呼べませんよ」


「あら。そちらに同席してる奥さんの一人は、一国の王族だけど愛称で呼んでるんでしょ? じゃあ、私も同じように呼べるわね!」


 めちゃくちゃな理論で押し通された。やっぱりこの人苦手だ。

 助けを求めるようにエクトルテさんに視線をやると、彼女も諦めたようにふるふると首を振っていた。

 し、仕方ない。せめて交渉では呑まれないようにしないと。


「じゃあ、クロア」


「なにかしら、ツナグ!」


「……もう良いです、それで。詳しい話を詰めてしまいましょう」


 ぼくらはお互いに用意していた資料を持ち出して、顔を付き合わせる。

 記述された言語は互いに違うので、口頭での確認となる。


「まず、探索技術と魔術の交換に関してです。これは、互いに人材を派遣して学習するのが妥当かと思います。その人員の選抜をお願いします」


「と、同時にこちらの方も受け入れの準備を整えなければいけないわね。探索士組合(ダイバーズギルド)に通達しておくわ。でも、そちらはどうするの、ツナグ?」


「ぼくらの方は、エルフの里に学習施設を建造します。そこで、オルタの監督の下、バルバレアから派遣された魔術士に指導を仰ぐ形になります」


 不意に、クロアさんの目が細まる。こちらを射抜くような鋭い視線だった。


「バルバレアとの交易は結べないわ。奴隷制度を持つ国との交流は、こちらの世界では国家間で禁止されているの」


「お聞きしています。その点はご心配なく。――オルタ」


「うむ。バルバレアの代表として、このオルティミシアが返答させていただく。バルバレアは、アーケンハイドとは一切の契約を行わない。我が国は大魔術士ツナグ・タカマチ様との契約に基づき、氏に対して人員を派遣する」


 エクトルテさんから聞いていて、対応策はすでに講じている。

 バルバレアは「ぼく」個人に宮廷魔術士と資料を特定期間、有償で貸し出す。そして、ぼくが指示する労働内容として、エルフの里で教師役を務めてもらう。

 人員の二次利用、ぼくを介した一時的な派遣業を行うわけだ。

 

 貸与の対価はぼくの持つ王国の資産から支払われ、責任者はオルタと国王の直轄事業となる。日本の技術供与による産業革命の利益が王国の好景気に大きく影響を与えているので、立役者であるぼくを介した契約は、多少のことじゃ貴族も腹を探れないのだ。


 王国に影響力を持ちながら、王国に属していない、ぼくだからこそ可能なグレーな手段と言える。


「魔術の技術流出に関しては、基礎的な部分に限ってじゃが、弟である国王も認めておる。自分たちがさんざん日本の技術を享受しておるのだから当然じゃな。『道具』(アイテム)の販売も、貴国とは契約せずにエルフの里からのみ買い付ける」


「そういうわけなので、輸入品は里が転売させていただく形になります。交易はエルフの里のみとの契約になりますね、クロアさん」


「良いじゃない、ちょっと裏技って気もするけど。――となると、ツナグはやっぱり一個人でなく、相応の立場の人間として遇しなきゃいけないわ。公国にとって最重要人物ということで、国賓としてもてなさせてもらうわよ!」


「はは、お手柔らかにお願いします」


 その後、エクトルテさんが輸出予定品目とその簡単な説明を読み上げていった。

 そのうちの一つを耳にし、ぼくは手を挙げた。


「クロアさん、今の二つ前の品目は禁輸指定にしてください」

「え? ――のこと? どうして、探索には不向きだけど、狩猟には便利よ?」


 クロアさんが目を瞬かせる。その品目の名は、


 ――『銃』。


 やっぱりあったか。

 燃料となる『火硝石』(かしょうせき)の名を聞いて、もしかしたらと思っていた。硝石は黒色火薬の原料だ。製鉄技術もあるこの世界だと、すでに開発されていておかしくない。

 説明的には拳銃やライフルのようなものでなく、マスケットや火縄銃のようなものだけど。それでも、中世文明で戦争の絶えていないカトラシアには持ち込めない技術だ。


 村長さんが、眉根を寄せながら尋ねてくる。


「ツナグ殿……その、『じゅう』とは、いったいどのようなものなのです?」


「農民が少しの訓練で騎馬兵を討ち取れるようになる武器です」


「……何と。そのような武器があれば、国民がすべて兵士に変わってしまうな。他国への侵略政策を掲げ直す、馬鹿な貴族が出てきてもおかしくないのぅ」


 オルタが苦々しげに口にした。


「銃が持ち込まれると、必ず魔術を凌駕して軍事転用される。エルフの里の防衛用でもダメです。絶対に流出して複製される。全員、ここで聞いた話は忘れるように。――クロアさんたちも、断固としてカトラシアに持ち込まないでください」


「……わかったわ。私たちのせいで戦乱の時代が幕を開けた、なんてことになったら、申し訳が立たないもの。情報も流出させないように、徹底させておくわ」


 銃は、大規模な戦争の途絶えたこの世界では主流の武器ではないらしい。

 装填に手間がかかり、連発ができず、即応戦闘を迫られる探索には不向きだからだ。

 戦争から探索に経済活動が移ったアーケンハイドでも、もっぱら、貴族の趣味として狩猟に使われている程度だとか。


 そりゃそうだよね、ここには上位の兵器として『希少種』があるんだから。

 市民用の簡易な武器としても、炎上する『火硝石』を投げつけた方が手軽だ。

 軍事転用される道具(アイテム)が発見されても、探索による資源採取によってその軍事需要自体が縮小化し、無くなった、というのがこの世界の幸運なんだろう。



 とにかく、互いの世界に大きな騒乱を起こさないよう、取引品目に関しては慎重な議論が交わされた。

 最終的には、日用品を主として国民の生活の向上に役立つものが選ばれた。



 ここに、日本人であるぼくを介して、アーケンハイドとカトラシア大陸の交流が樹立したのだ。





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この世界はヒロインが強い

女性が強い世界の中で、それでもヒロインを守れる男になろうと主人公ががんばるお話です。

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