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新しい仕事



「燭台、ですか?」


「そうなんだよな。用意できるか、繋句?」


 突然、上司である角田社長に相談され、ぼくは目を丸めた。


 事の発端はこうだ。

 主な取引先である春村物産のトップ、春村会長からの仲介で、ぼくらが営業するエルフの里の銀食器ブランド『Elvish』には新しい取引先が増えた。


 その新規取引先の一つである新興の高級ホテルから、結婚式場で使う銀の燭台を用立てられないか、という相談が回って来たのだ。


 どうやら、かなり上流階級の使う式場で、新郎新婦から披露宴会場に設置する道具を古美術品で統一して欲しいという、強いリクエストの変更があったらしい。

 とは言え式場は広く、招待客も多い大規模な式だ。

 テーブルの数も多く、その上に設置する統一された意匠の燭台は、急には揃わない。


 そこで、銀製の古美術を大量販売するぼくらのブランドに相談されたのだ。


「もし注文を受けてくれるなら、式で使う銀食器もすべてレンタルか買取を検討してくれるらしい。どっちにしてもまとまった額になるから、ぜひ受けたいところなんだが」


「でも、社長。今から里で作って揃えるのは間に合わないんでしょう?」


「そうなんだよ。だから、オルタ嬢ちゃんに頼めないか?」


 ああ、なるほど。

 ぼくは事務所の中を見渡し、販売の里中さんに聞こえないよう小声で確認した。


「……王宮の在庫を貸してもらうんですね。もしくは、王国の市場で仕入れるとか」


「そういうことだ、頼んでもらえるか?」


「わかりました。確認してみます」


 オルタは今朝方、王宮の研究室に戻ったはずだ。

 今頃は蒸気機関の開発を続けているだろう。彼女の研究室には直通の(ポータル)が開通しているので、相談は簡単にできる。


「一応、里の関係者の意見もあると心強いですね。ロアルドさんも一緒に行ってもらって良いですか?」


「ロアルドさんは今日は休みだぞ。武田副市長の実家に挨拶に行くとか言ってたな」


 武田さんもロアルドさんとの結婚を目指して、着々と準備中らしい。

 遠からず、二人もその式場を使いそうだなぁ。


「なら、ミスティを連れて行って良いですか。今日はシャクナさんと店番ですよね」

「おう、そうだな。里中には断っておくから、よろしく頼む」


 この時間なら、お客さんも少ないし商品の清掃でもしてる頃かな?



*******



 休憩していたミスティを捕まえて、里を経由してオルタの研究室に向かう。


 社長の相談をそのまま話してみると、オルタは意外にも難色を示した。



「銀……の燭台、のぅ。しかも卓上用の大型の。王宮の倉庫にあったかのぅ?」


「王宮の食事会とかで使ったりするでしょ、オルタ?」



 ミスティが不思議そうに、腕を組むオルタに尋ねる。

 王宮では夜会も設宴も多く行われてるイメージがあるから、すぐに揃いそうだけど。


「いや、鉄製のものなら贈るほどあるんじゃがの。安い銀の燭台なぞ、中級か下級貴族の屋敷にしか無いのではなかろうか」


「しまった、そうか。鉄の方が価値が高いから、廉価な銀製のものは逆に無いのか」


 迂闊だった。

 王様の住む王宮だけに、備品も最高級のものを揃えているんだろう。

 大陸では庶民的な銀製の、かつ高級な燭台、という矛盾する代物は置いてないようだ。


「市中で有り物をかき集めれば早いが、意匠が揃わんでは意味が無さそうじゃな」

「そうだね。それに装飾性も無さそうだし、ちょっと寂しいかな」

「今すぐ貴族たちに命じて、王都の各別邸の燭台を供出させる、という手段もあるが? 師と妾の権力ならば、集めさせるのは雑作も無かろう」


 うーん。あんまり強引な手段は使いたくないな。

 ただでさえオルタの素顔は貴族たちに好感を持たれてないのに、今の彼女は無理を通して王国の仕組みを改革しようとしている最中だ。

 開発中の蒸気機関や作物の栽培で利権関係のぎくしゃくがあるところに、余計な強権を発動して反感を買いたくない。


 オルタもそれを自覚しているのか、ぼくが苦笑するとそれ以上勧めては来なかった。


「しかし、困ったな。オルタの伝手がダメとなるともう、里と王都の鍛冶師たちに一斉に発注するしか方法が無いかな?」


「まぁ、それが現実的じゃな。しかし、統一された装飾入りとなると時間がかかろうて」


 人海戦術を使っても時間に余裕は無さそうだ。

 結婚式場の方も、届けました。式に使いました。とは行かないだろうから、相手の品質チェックの期間を考えると、なるべく早急に揃えたい。



「うーん。……あ、遺跡は!?」



 ふと、ミスティがそんなことを言い出した。


「遺跡? 銀食器の保管されてた、エルフの里の都市遺跡?」


「そうよ、ツナグ。あそこなら、同じ装飾の銀の燭台も残ってるんじゃない?」


 なるほど。

 エルフの里から近い、大森林の中の都市遺跡は相当な規模だ。

 市民階級だけでなく、統治する権力者階級の遺産が残っていても不思議じゃない。


「ミスティよ。遺跡の倉庫には食器類しかないと聞いておったが、宴用のものも置いてあるのかの?」


「無かったはずだけど、あれだけ広い遺跡なら、倉庫が一つとは限らないでしょ。それに大きな屋敷なんかを探せば、数が揃うかもしれないし」


「そうだね。とりあえず発注はしておいて、試しに探してみるのはアリかもね」


 見つかった場合は在庫がダブつくことになるけど、一時的にぼくが買い取って会社に卸せば問題は無いか。使い道の無い王国での資産は、それくらいは持ってるし。

 ぼくらが日本で販売する新商品として、卸元である里に買い取ってもらうのも良い。


 とにかく、この降って湧いた急場をしのげれば何とかなるだろう。

 久しぶりに遺跡探索と行ってみようか。



「遺跡の中には魔物が出るでしょ? 私もついていくわよ、ツナグ!」


「ふむふむ。ならば、妾も行こうかの。師より伝授された制御魔術を実戦で試さねば。新魔術の創造は無理じゃが、どれだけ使い勝手が向上したのか確認せねばの」



 ミスティとオルタが素早く名乗りを挙げた。

 エルフの里で一番の風の精霊魔術士と、王国最高峰の魔術士が同行する遺跡探索。

 ぼくの魔術も合わせて、恐ろしい力押しになりそうだ。


 ミスティ自身が森や遺跡に慣れた狩人だし、里のエルフにも頼んで着いてきてもらえば、怖いものはそうそう無いと思う。



 そうと決まれば、まずは村長さんに相談しようかな。






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この世界はヒロインが強い

女性が強い世界の中で、それでもヒロインを守れる男になろうと主人公ががんばるお話です。

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