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貴方に笑顔という名の花束を


 日曜の昼下がり、ぼくはベル・エ・キップ一階のスタッフ控え室(バックヤード)をノックした。


「もしもーし。みんな、ここで準備してるって聞いたんだけど……?」

「――きゃあっ!」


 室内を覗き込んだぼくの目に飛び込んできたのは、純白の下着姿の女性陣だった。

 失礼しました!

「ごめん、みんな! 確認してから入るべきだった!」

 慌てて回れ右して、部屋から出る。

 やや置いて、ドアが少しだけ開けられ、隙間からミスティが赤らんだ顔を覗かせた。


「……お待たせ、ツナグ。入っても、良いよ?」


 危ない危ない。衣装の着替え中に飛び込むところだった。

 室内に入ったぼくの目に入ってきたのは、勢ぞろいした女性陣の純白の下着姿だった。


「って、何で衣装を着てないのさ!?」


 回れ右するぼくの背中に、女性陣のからかいの声が飛ぶ。

「あははー。ツナグ、引っかかったー」

「まったく。ツナグに見せる分には、全然構わないんだよ、あたしたちは?」

「えへへ。はだかじゃないですもーん」

「ふむ。師の慌てる姿が見られて、良しとしようかの?」


 はめられた。

 いや、確かに最初はぼくの不注意だけど。まさかこんな返しをしてくるなんて。

 気を取り直して、衣装を着てもらったことを確認して、今度こそ入室する。


「まぁ、この衣装って身体の線が出るから、大した違いもないんだけどねぇ」


 シャクナさんは、そう言いながら衣装で強調された一際豊かな胸を押さえた。

 四人の衣装はチアリーダーのような、身体にぴたりと沿うノースリーブの意匠で作られていた。下はタイトスカートに薄いストッキングを履いてるようだけど、それぞれ滑らかな質感の脚線美が艶かしい。

 確かに扇情的な格好だ。

 コンパニオンだから不思議は無いのかもしれないけど、ミスティとシャクナさんの場合はその反則的な胸部が強調されるだけでデザインを官能的なものに変えてしまう。


 二人の胸に視線が行くぼくの様子に、オルタとアルマがそのスレンダーな胸を手で押さえながら、しょぼーんとうつむいていた。


「ええい! 胸だけ出ているのが偉いから何じゃ! この世界も師も残酷じゃ!」

「ほ、ほら。二人とも。きっとこれから育つから!」


 慌てて二人をなだめる。

 そうは言っても、オルタとアルマも、未成熟で健康的な色気が弾んでるんだけどね。


「……でも、複雑だなぁ。皆のそんな姿が、たくさんの男性に見られるなんて」

「おや。嫉妬してくれてるのかい?」

「ツナグが止めろって言うなら、今からでも止めるよ?」


 頬をかくぼくに、シャクナさんとミスティが豊かな膨らみを押し付けからかってくる。

 四方八方から柔らかい感触にくるまれ、ぼくは思い切り慌てた。

 まったく、もう!


「……ツナグ。私たちに、勇気をちょうだい」


 不意に、ミスティがそんなつぶやきを漏らした。

 ぼくを左右から抱きしめる二人の身体は、微かな緊張に強張っている。見ると、オルタとアルマの表情にもぎこちなさが見えた。

 怖いんだ。自分の姿を、人前に晒すのが。


 ぼくはそっと、二人の身体を抱き寄せた。


「他の男性には見せたくないくらい、自慢の奥さんたちだよ。胸を張って行っておいで」

「……うん」

「見てておくれよ、ツナグ」


 二人がぼくに口付けをし、身体を離す。

 ぼくは立ち尽くすオルタとアルマに歩み寄り、二人の身体を同じように抱きしめた。


「二人とも、ぼくが見てるからね」

「う、うむ」

「……っ、行ってきますです!」


 そろそろイベントの開演予定時間だ。

 四人は晴れやかな表情で、控え室の扉を開ける。

 部屋を出る間際、オルタが照れくさそうに、はにかみながら言った。


「師よ。――妾たちは今から、この世界に受け入れられて参るよ」



*******



 イベントの内容は、通信関係のプロモーションだった。

 ステージ上に設置されたプロジェクタを使用した、携帯の夏や秋の新機種の紹介から、新型タブレットの仕様説明など。

 メーカーから販売代理店まで数社の営業が美形どころを引き連れて参加していた。


 ミスティたちの役割は舞台の袖に控え、キャスター付きの展示台などを入れ替えたり、パネルの交換などを行ったりするアシスタントだ。


 舞台を横断するたびに、その艶やかな肢体が客の眼を惹きつけている。

 すらりと長い足、細く引き締まった腰、主張する胸、そしてつややかな美しい金髪に彩られた美貌。オルタの化粧品で耳を隠した彼女たちのプロポーションは、男性のみならず女性からも羨望のまなざしを浴びている。


 代理店各社も自前の美人営業を引き連れていたけれど、脇役であるアシスタントたちが輝きすぎていて、かわいそうなくらい目立っていなかった。

 ステージを歩く彼女たちの華やかさを前に、若干青ざめていたくらいだ。


 途中、ステージ上を移動するミスティが、人だかりの奥にいるぼくを見つけて小さく手を振ってくる。周囲の男性も女性も自分に向けられたものと騒いでいたけれど、真実を知るぼくは照れくさく縮こまるばかりだ。

 老若男女に家族連れ。イベント目当ての休日のビジネスマンから、デパートに立ち寄った買い物客まで。

 人々を魅了する絶世の美女たちに、ぼくが愛情を寄せられているのだと思うと、何だか誇らしい気持ちにもなる。


 商品や新サービスの紹介が終わり、来場者に景品を配る時間がやってきた。


 各社営業の手伝いで彼女たち四人も粗品を配っていたけれど、来場者のほとんどは異世界の美女・美少女コンパニオンたちに群がっていた。


 ミスティやシャクナさんは元より、オルタもアルマも大いに客に囲まれていた。

 爛漫なアルマの前には小学生のような可愛らしさと愛嬌に子どもや家族連れが並び――

 神秘的な容姿のオルタの前には、男女問わず学生や大人たちが群れを成していた。


 他の種族から容姿を蔑まれてきたミスティ。

 体つきを認められずに孤独を抱いたシャクナさん。

 奴隷として家族を奪われ虐げられてきたアルマ。

 王族に生まれながら、周囲との差に自分を隠し、偽り続けてきたオルタ。


 今、そんな彼女たちに共通していることは、たった一つだけ。

 四人とも、はつらつとした笑顔でお客さんたちに向き合っていることだ。


 その姿の、何と堂々たることか。


 四人は明るい笑顔を浮かべ、大勢の客に囲まれながら充実していた。

 お客さんの目を盗んでぼくに微笑みかけてくる四人を、笑顔で見守る。


 ふと、懐に入れていたスマホが鳴った。

 社長からの電話だ。


「――はい、社長」

『繋句か? 新しい仕事を任せたいんだが、行ってくれるか。詳細はメールする』


 ぼくは一言うなずき、通話を切った。

 このイベント会場には笑顔が溢れている。今日という日の終わりに、たくさんの笑顔を生んだ彼女たちに迎えられ、ぼくは自分の居場所に帰るだろう。

 そんな、ほんの少しだけ先の未来を考えると、ぼくの胸に幸せな感情が灯る。


 さぁ、幸せなこれからを楽しみにして、仕事に戻ろう。



 今日は誰と、どんな人と出会うのかな――?

 






これにて二章王国編の完結となります。

読んでくださってありがとうございます。


三章は日常回をしばらく挟んで、まさかのダンジョン編の予定です。

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この世界はヒロインが強い

女性が強い世界の中で、それでもヒロインを守れる男になろうと主人公ががんばるお話です。

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