奥様(予定)たちとの会議
「そう。そういうことだったの」
あらかたの事情を説明した後、ミスティは虚ろな目でぼくを見た。
良くない。これ、良くない。
「まぁ……放っとけないよねぇ。ツナグの性格なら。あたしたちもお姫様の気持ちはよくわかるし、仕方ないんじゃないかい? 後は、ミスティの気持ち次第だね」
「ミスティ……怒ってる?」
ミスティは不意に悲しそうな笑顔をした後、ふるふると力なく首を振った。
今にも泣き出しそうに顔を歪め、嗚咽をこらえるようにうつむく。
「ツナグは……やっぱり、人族の、方が、良い……?」
「そんなことは無いよ。ぼくが一番に考えてるのはミスティだもの。彼女を……その、抱きしめたのだって。勢いと言うより、周囲に傷つくきみの姿と重なって見えたからで……」
「……ほんと……?」
「本当だよ」
ミスティの唇に、自分の唇を重ね合わせる。目を剥くミスティの手を取り、ぼくは自分の心臓に彼女の手を当てさせた。
「ぼくの手は緊張で冷えてない。ぼくの胸は、きみと触れ合ってどきどきしてる。口で言うよりわかりやすいよね、大好きだよ、ミスティ」
「うん。私も大好き……っ!」
ミスティはぼくの肩に手を回し、抱きついてくる。ぼくはその身体をぎゅっと抱きしめる。彼女の頬に、耐え切れずに溢れた涙が伝った。
「あのね。私、ツナグに奥さんが増えるのは平気なの。でもね……人族の方が良くて、エルフ族はやっぱり種族が違うからダメだって、ツナグに捨てられたらどうしようって……わた、私……ふぇ……」
捨てたりしないよ。でも、そう思わせたのはぼくの責任だ。
ぼくは覚悟を決めて、彼女にお願いをした。
「ミスティ。あと半年でぼくは十八になるんだよ。そうしたら……ぼくの子どもを産んでくれる?」
いつも断っていたけど、ぼくからこうして口に出すのは初めてだ。
ミスティは驚いた顔をして、そして涙ながらに幸せそうに相好を崩した。
「……うんっ!」
「……あたしも、期待して良いのかねぇ?」
にやにやと、シャクナさんが横からぼくの肩を抱いてきた。
あはは。そうなりますよね。
「がんばります」
「どんな風にこの身体に触れてくれるのか。楽しみだね、旦那様?」
シャクナさんは妖艶にその爆乳をぼくの肩に押し付け、いたずらっぽく微笑んだ。
そのやり取りに、泣いていたミスティも思わず笑顔がこぼれる。
「ご、ご主人様ぁ。その、わたしもぉ……」
「「アルマにはまだ早い」」
ぼくと奥さん二人の声が重なり、アルマはその場にひざから崩れ落ちた。
ごめんね、アルマ。気持ちは嬉しいけど、きみの歳だとぼくは犯罪者になるんだ。
犯罪者と言えば、もう一人。
新しく増えた、あからさまに若作りなお姫様をどうしようかと言う問題が持ち上がる。
「その……我が師よ。エルフ族と抱き合って、師は平気なのかの?」
「うん。平気だよ? アルマは、まだ年齢が幼いからダメだってだけで。……そう言えば、オルタの歳はいくつなの?」
「と、歳? ……お、お、乙女の秘密……ということで堪忍ならんかのぅ?」
オルタはぎくりと気まずそうにそっぽを向いた。
弟であるバルバレア国王はそう若そうに見えなかった。ということは、姉であるオルタも相応の年齢と言うことである。
見た目は美少女中学生なのに。
ロリバ……いや、彼女の名誉のために、これ以上は聞くまい。
「ま、魔力の大きい人間は、肉体の成長と老化が遅いのじゃ! 師も、魔法を受け継いだのが最近じゃから変化が無いだけで、これからどんどん老化が遅れていくのじゃぞ!」
そう言えば、人族の寿命の話をしてたときにミスティがそんなことを話してたっけ。
寿命が長くなるのか。近しい人が先に逝くのは、少し嫌だな。
ミスティもシャクナさんも、美味しいものをたくさん食べて長生きして欲しい。
「長い若さを孤独に生きるのは苦痛じゃ……じゃが、師と夫婦になれれば、互いにその寂しさを癒せるじゃろう。それもあって、妾の伴侶は師以外におらぬのじゃ」
なるほどね。
まぁ、年齢的には結婚も問題ないということで納得しよう。
もしかしたら、遠い将来、ぼくの傍に残るのは彼女になるのかもしれない。
そうなると、この縁は軽い気持ちでつながれたものじゃないということだ。
「わかったよ。これからよろしくね、オルタ」
「う、うむ。ミステリカとシャクナと言うたかの? 歳は妾が一番上じゃが、三人の中では妾が一番新参者じゃ。どうか、よしなに受け入れて欲しい」
「うん、ミスティでいいわ。私もオルタって呼ぶから」
「国との付き合いって面でも、寿命って面でも、ツナグの一番重要な人になるかもしれないからねぇ。あたしからもよろしくお願いするよ、オルタ。……でも、お姫様扱いはしないからね?」
二人はぼくから離れ、オルタと手を結ぶ。
二人は友好的だったけど、オルタの様子はまだぎこちなかった。エルフ族に対する価値観的な抵抗は根深いものがあるんだろうな。
まぁ、一緒にいればそのうち慣れてくれるだろう。
オルタは、言いにくそうに疑問を口にした。
「その……師は、妾やエルフ族の容姿を疎まぬだけでなく……もしかして、その、好んでおられるのかの?」
「ああ、うん。そうよ。ツナグの世界――日本だと、美しさの基準が真逆なんだって」
「あたしらは、際立った美人らしいよ。あんたもそうだろうね、オルタ」
「な――び、美人!? 妾がか!?」
驚愕に目を回すオルタ。
まぁ、エルフ族相手に抵抗感を見せているところに、そんな事実を突きつけられたら驚きもするよね。
「本当だよ。ぼくの目には、シャクナさんはスタイル抜群の美人に見えるし、ミスティとオルタは掛け値なしの絶世の美少女に見える。日本だと、引く手あまたでもてはやされるんじゃないかな?」
「び……美少女……? 疎まれるどころか、もてはやされるとは……世界の違いとは、なんと度し難きことか……?」
口で言っても、いまいちピンと来てないようだ。
まぁ、この後、実際に連れてってみれば納得してくれるかな。
そうと決まれば、向こうで村長さんたちと話してる社長たちにも相談しないとね。