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異世界マッチメーカー - 異世界の仲人 -


 その後の話し合いで、春村会長から今後の方針が了承された。

 エルフの里の銀器は、春村物産の経営する藤巻市のデパートで展示会を開くとともに、主に富裕層に向けて一般販売されることが決定する。


 エルフの里が継続的な販売網を持ち、自活することが出来るのだ。


 同時に、販売の管理を春村物産のみが行うことは在庫の入手経路等、各方面で責任問題が発生することが懸念された。

 そのため、日本ではぼくと角田社長が表立って、エルフの銀器を一般販売網に乗せるブランドを立ち上げる。


 エルフの銀製品ブランド――『Elvish』の発足だ。


 各種登記等の調整は、武田さんが便宜を図ってくれることになった。

 表立った問題点は無いけど、お金の流れを突き詰めていくと、どうしても異世界に流れる行き先不明のお金が発生するからだ。金銭の消費自体は日本で行われるから経済的には見かけ上不審な点は無くても、事務処理を間違うと異世界の存在が露呈しかねない。

 そこで、武田さんの協力および監督の下でブランド立ち上げを行うこととなった。



「この世界では銀が安価ということなら、我が春村物産でも銀を仕入れたいところだが。銀の相場が値崩れしては、元も子もないでな」


「そうですね、春村会長。素材自体は流通に乗せない方がいいでしょう。現代では鋳潰される心配の無い、銀食器等の形で頒布しないと。新たな銀山が発見されたのかとでも疑われたら、繋句の存在が世間にバレかねない」


 春村会長のぼやきに、社長が重々しくうなずく。

 はっは、と軽く笑って春村会長は手を振った。


「心配せんでも、繋句くんに危険が及ぶようなことはせんよ。ただまぁ、逆は可能だな。鉄を仕入れてこの里に卸すくらいは我が社で協力しよう。この里での消費量くらいなら、たかが知れておるだろう」


「溶解はぼくの魔術で可能ですね。この村の炉も、消えない熱源を設置しましょう。ただ、冶金(やきん)は専門外なので、鍛冶師のクダンさんにお願いすることになりそうですけど」


 ぼくがそう言い添えると、隣に座っていた村長さんが笑顔になった。


「それはありがたい。薪のために木材を切り出さなくて良くなります。話に聞いた限りでは、鉄の精錬には大量の燃料を使用すると聞いておりましたので」


「伝導率の高い銀が豊富に使えて、繋句の火や雷の魔術があるなら、この村にも電線や電灯を配置したいところですね。銀線を作る冶金技術が必要なので、まだ数年はかかるでしょうが。日本の工学系の技術書を見繕ってきましょう」


「技術を見学するなら業者や町工場を紹介してもいいわよ? 電気が使えるようになれば、工業機械を売ってる販売業者も市内にあったはずだから、そっちにも顔が利くわ」


 社長と武田さんによって、現実的な里の改革案が次々に飛び出してくる。

 春村会長、武田さん、角田社長。この三人が揃うと、この中世じみた異世界の、ファンタジーなエルフの里があっという間に近代化されていきそうだ。

 社会的な権力って恐ろしい。

 数年もしたら、この世界にオール電化なエルフの里が爆誕するかもしれない。




「……あの、エッケルト村長とロアルドさんに、お話があるのですが」


 ミスティたちの用意した昼の会食の席で、武田さんが改まってそんな話題を切り出した。


「はい、何でしょう、タケダ様?」

「ご子息のロアルドさんと私が交際させていただくことになったのはご承知のことと存じますが、実は私の実家は地域でそれなりの権勢を持つ家でして。跡継ぎが必要なため、私は嫁入りすることができないのです」


 武田さんの実家は、藤巻市の有権者層を取りまとめる支配者の家系だ。

 一人娘として地盤は武田さんに受け継がれているが、先代である親は存命だ。家の意思として、武田さんの次に地盤を受け継ぐ跡継ぎは是が非でも欲しいだろう。


 武田さんの話を聞いた村長さんは、深くうなずいた。


「ふむ。ロアルド、お前の気持ちとしてはどうだね?」


「難しいところです……本音を言えば、すべてを捨てて婿入りしたくもあります。逆に、タケダ様がすべてを捨てて私についてきてくださるのならば、身一つで迎え入れる意思は固まっています。しかし、お互いに家を捨てられないとなると……」


「ならば、ロアルド。家長の権限でお前を当家の跡取りから外そう。村長職については、私はまだしばらく現役でいるつもりだし、何なら他の家から次の候補を育てても良い」


「よろしいのですか、父上!?」

「ええ!? それでいいんですか、エッケルトさん!?」


 あっさりと決断する村長さんに、二人は仰天した顔をしていた。

 特に、話を切り出した武田さんは平静を装いながらも、戸惑いが顔に浮かんでいる。


「良いのです。この里は皆様のおかげでこれから発展していくでしょう。ですが、その舵取りをする栄誉を受けるのは我が家でなくとも良い。我が子の幸せに比べれば、自己満足のような栄誉など些細なことです」


「しかし! 家の跡継ぎはどうするのですか! この家を途絶えさせても良いと!?」


「かまわんよ。重要なのは家ではない、里だ。そして里は救われた。思い残すこともあるまい。……ロアルド、お前がミスティの相手が決まるまで村内での縁談を避けていたのはわかっている。これからは、我ら家族に遠慮せず、自分と伴侶の幸せを探しなさい」


「父上……」

「エッケルトさん……ありがとうございます」


 二人は無言で、微笑むエッケルトさんに頭を下げた。

 その目に涙が光っていたのを、同席した誰もが見ていた。



「……繋句が、ミスティさんに婿入りして村長に就く、というのはどうだ?」



 突然、角田社長がとんでもないことを言い出した。


「社長!? 突然何を!?」

「おお! それは良いですな、実現すれば我が里にとっても願ったり叶ったりです!」


「繋句、お前、どのみちこの村で結婚するんだろ。今すぐ仕事をやめるわけでなし、親っさんは繋句に定食屋を継いでもらおうとは思ってないし。万事丸く収まるじゃねぇか」


「ぼくに、そんな重要な役が勤まるかどうか……」


「実務は村の者に任せてもよろしいのですよ、ツナグ殿。気負うことはありません」


 村長さんが気を和らげるように言ってくれる。

 周りは春村会長や武田さんも含めて後押ししてくれているが、どうもからかい半分のような軽い空気だ。言い出した社長自身もにやにやと笑っている。

 ぼくは諦めて、肩の力を抜いた。


「……もし、村の中で適切な人が見つからなかったら、良いですよ。考えて見ます」


「私とシャクナ姉さんが支えるわよ、ツナグ!」

「あらら。あたしも将来の村長の奥さんかい。ま、村の皆も見知った仲だし、悪い方向には転がらないだろうさ」


 二人はうきうきと将来の展望を語りだした。

 まぁ、エルフの里だから実際には村長職に就くのはミスティなんだろうけど。日本とこの里の橋渡しをして、実務を勉強するのも悪くは無いかもしれない。


「……ただ、武田さんの方はどうするんです? ロアルドさんの戸籍がないと、婿入りしようにも籍は入れられませんよ?」


「大丈夫、その辺は何としてでも市の住民票を勝ち取るから。ただ、両親に紹介するときに地元の勤め先が必要になると思うのよね。――そこで、角田社長にお願いがあるのだけど」


「うわ。何となく、話が読めました」


 社長がぎくりと顔をこわばらせる。その反応を見て、武田さんはにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。


「ロアルドさんを、角田古物商で雇ってくれない? 新規ブランドと既存事業の掛け持ちで、社長も人手が欲しいところでしょ?」


「確かに人手は足りないんですがね……ロアルドさんは、日本語が読めないでしょう? いわば語学を含めた研修生扱いだ。失礼ながら、即戦力として雇うには難しいですよ、武田副市長」


「大丈夫、私もつけるから。私が入社して指導すれば、実務面での穴は埋まるし、人脈も増えて、角田古物商と新ブランドの繁栄は約束されたも同然よ?」


「私もつける……って、今の仕事はどうするんですか、副市長!?」


 思わず社長が叫んだ。

 ちょっと待って欲しい。話が恐ろしい方向に進んでいる気がする。

 顔を青ざめさせる社長に、武田さんはけらけらと笑いながら言った。


「退職するわ。もちろん、すぐには無理だけどね? ――後任には、私に服従してる腹心の部下を就けさせるわ。市長や議会と同じく、私の言うとおりにしか動かないから、私が退職しても公権力への影響力は薄れないわよ。ご心配なく!」


 武田さんは、どこまでも武田さんだった。ぼくらの市の実質的な女王様だ。

 これからは影で市政を牛耳る気満々らしい。

 職場をともにするぼくらはまだしも、将来的には夫婦になるだろうロアルドさんの苦労が偲ばれる。本人は熱愛してるから、苦労なんてものともしないだろうけど。


「私は万難を排して、日本でもこの村でも結婚式を挙げるわ。――この村での式のときは、繋句くんに仲人さんをやってもらおうかしらね?」


 武田さんは片目を瞑り、ぼくに笑顔を投げかけた。

 仲人って、既婚者がするもんじゃないでしょうか? ぼく、まだ未婚ですけど。

 でも、将来への希望に満ちたみんなの表情を見ていると、そんな小さなことを口にする気は薄れた。


 まぁ、がんばろっかな。



*******



 今後の方針は午後のうちに村長さんから村のエルフたちに発表され、その夜は宴が催された。

 春村会長と武田さんは逗留期間を延ばし、夜までこの村に滞在して宴に参加した。

 帰りは社長が車で送るらしい。運転手だから果実酒が飲めない、とぼやいていた。


 社長は二人を送った後、またこの村に帰ってきて、仕事が慌しくなる前に村の女性のラナさんと、二人でゆっくりと一夜を過ごすそうだ。

 武田さんに将来のことを相談すべきじゃないかと進言したけれど、社長の場合はラナさんの方が日本への移住を望んでいないらしい。お互いの仲によっては、ぼくと同じように日本とこの村を往復する生活を選ぶのかもしれない。


 日本社会でのエルフの経済活動の足がかりとなるぼくらのブランドは、村のエルフから大きな期待を寄せられていて、ぼくは次々と勧められるお酒を断るのに精一杯だった。


 人ごみを抜け出して、誰もいない場所でこっそりと一息つく。

 夜空を眺めながら、この激動の一週間を思い返していた。


 おじいさんと出会い、魔法を託されて、異世界を訪れた。

 ミスティと出会い、シャクナさんと出会い、エルフたちと出会った。

 この世界に生きるエルフたちの窮地を助けるため、ぼくはぼくの知っている人たちを頼った。

 角田社長。春村会長。武田さん。

 エルフたちの里は死蔵していた銀器を資産に変えて、将来的には銀細工を生産することで村の糧を得て、発展していくだろう。


「サルトルージおじいさん……ぼくは、貴方の望む大魔術士に、近づけましたか……?」


 誰もいない夜空に向かって、ぼくは一人で尋ねる。

 周りの人がいなければ、ぼく自身に救えるものはたかが知れているのだ。

 ぼくもまた、周りの温かい人たちに守られている。



「あ、見つけた。ツナグ!」

「なーに、こんなところで一人で黄昏てるんだい?」

「ミスティ。シャクナさん」


 二人は料理も持たず、手ぶらでやってきた。ぼくを探していたのかもしれない。

 ミスティがぼくに抱きつき、シャクナさんが後ろからぼくを抱きしめる。美少女と美女にサンドイッチされて、ぼくはさっきまでの心情を吐露した。


「……ぼく一人の力なんて、ちっぽけだなぁ……って思ってね」


「え、ツナグはすごいわよ?」


 ぼくは、きょとりと目を瞬かせた。

 ぼくに、あの三人のような社会的な実力はないのだけど。

 戸惑うぼくに、ミスティはなんの衒いもなく笑いかける。


「だって、あの方々を里と結び付けてくれたのは、ツナグの力じゃない。私にはできないわ。人に任せたり頼るのを、何も出来ないと言うのは違うよ。何かを出来る人に信頼されて、力を借りられるのは本人の立派な実力だって、お父様も言ってたもの」


「ツナグ」


 ささやいたのは、シャクナさんだった。


「あんたはあたしたちに、夢を見せてくれた。まるで御伽噺のように、里の未来が拓かれたんだよ。あのお客人たちも、この世界に夢を見てやってきたんだろうさ。人に夢を見せられて、それを現実に叶えられるのは、あんたの世界じゃ魔法とは言わないのかい?」


「参ったな。……ぼくは、本物の魔法使いですか?」


「そうだよ」

「そうよ!」


 二人が身体を摺り寄せてくる。柔らかい感触に包まれ、二人の体温を感じながら、ぼくは穏やかな気持ちに満たされて二人に言った。



「ミスティ。シャクナさん。――結婚しましょう」



 二人はぼくの顔を見た。驚きと、嬉しさと、何を改めて言っているのかという戸惑いと。

 そんな表情を浮かべる二人が愛おしくて、ぼくは精一杯の言葉を紡いだ。


「二人を幸せにします。これからも、ぼくを支えてください」


 二人の返事は、ぼくへの口付けだった。交互に二人の柔らかな唇がぼくに優しく押し付けられる。


「ありがとう。大好きよ、ツナグ!」

「あたしがどれだけ惚れてるか、たっぷり実感してもらわないとね!」



「ぼくも、二人が大好きだよ」



 エルフの里はその夜、いつまでも賑わいに満ちていた。

 異世界の片隅の、小さな里には、大きな幸福が満ちていた。









これにて一章終了です。

次章はこれから(予約投稿時点から)書き溜めますが、ハーレムメンバーが増えてもっと絡み合う感じにはなると思います。

可愛い獣耳奴隷も出したいな。

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この世界はヒロインが強い

女性が強い世界の中で、それでもヒロインを守れる男になろうと主人公ががんばるお話です。

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