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謎の少女(習作)
作:六角オセロ



俺は公園の真ん中で立ち止まった。
その謎の少女は、ウドの大木のように大きかった。その少女は公園の片隅で、
「ほ〜〜〜、ほほほほほほ。」と、笑っていた・・・

その声に驚いた鳩が2羽、飛び去った。
しばらく静寂が流れた。冬から起こされたばかりの春風が公園の花を、くすぐるように揺らしていた。
それから、その謎の少女は突然上空を見上げ、そして・・・
またしても、
「ほ〜〜〜、ほほほほほほ。」と笑うのであった。
なんなんだろう・・・あたまが変なのかな・・・それとも、芝居の稽古とか・・
少女は両手を広げると、またしても、
「ほ〜〜〜、ほほほほほほ。」と笑うのであった。
いったい、なんなんだろう?

「やっぱり変なんだな。」立ち去ろうとしたとき、
「お待ちなさい!」少女がこちらを見た。
「えっ、俺のこと?」
「そうです。あなたわたしのこと、変って言ったでしょう、今!」
「いいえ。」
「言いました。ちゃんと聞こえたんだから。」
聞こえた?そんなはずがない。つぶやいただけなのに、20メートルくらいも離れたところから聞こえるわけがない。
「いいえ。」
すると少女は突然、笑いながら言った。
「ちゃんと、顔に書いてあります。」
「・・・すごい聴力だね。」
「聴力ではありません。木や草花が教えてくれたのです。」
「木や草花が・・・えっ、ほんと?」
「ええ。」
「じゃあ、君は木や草花と喋れるんだ?」
「ええ。」
「ほんとぉ?」
すると少女は、胸元から、なにやら光る名刺のようなものを取り出し、
「国際植物会話協会 IPA の超常能力技能者認定書です。チタンでできてます。」
「・・・つまり、、超能力者ってこと。」
「そうとも言います。」
「すっごいじゃん!」
その謎の少女は、元の位置に戻り、またも、
「ほ〜〜〜、ほほほほほほ」と笑いはじめた。
俺は、そろりそろり近寄って行き、静かに尋ねた。
「なんなの、その笑い声は?」

「これですか?」
「・・・それは、言えません。秘密なんです。」
そう言うと、謎の少女は去って行った。

帰宅しても、俺は謎の少女のことが気になってしかたなかった。
あの笑い声は何なんだろう?秘密とは何なんだろう?

次の日、昨日とほぼ同じ時刻の午後2時に、俺は公園の同じ場所に立っていた。
無職なので、金は無いが時間だけはあった。ようするに暇なのだ。
明日から五月の連休だというのに、俺はいったい何をやっているんだろう・・・
あんパンをかじり、それから煙草をふかしながら30分待っても彼女は現れなかった。
俺は、彼女のいた場所に行った。ひょっとしたら何かがあるかもしれない。そう思った。
彼女のいる場所に立ってみても、べつだん変なものは発見できなかった。
近くのベンチに座って周りを眺めていると、美奈子から電話が掛かってきた。
「どうしてるの?」
「べつに・・・」
「今、どこ?」
「麻布北公園。」
「今、駅前なの」
「・・・逢いたいの?」
「ちょっとね」
「今、行くよ。」
俺は、自転車で駅に向かった。
彼女は、いつもの英会話スクールの前で待っていた。
「待った?」
「別に」
「仕事じゃないの?・・さぼり?」

「仕事中なのよ。打ち合わせで来てるの。」
彼女はテレビ番組の製作をやっていた。
「有名な人が来るの?」
「アメリカ人、ハリウッドスターよ。な〜んて嘘、ニューヨークのテレビ報道製作会社の人。取材に日本に来てるの。」
「で、英語堪能の君が。」
「社長は日本人なの。Ryuji Production っていう会社なんだけど、知ってる?」
「・・どっかで聞いたことあるような名前だけど、どこで会うの?」
「セントラルホテルのロビー」

俺達は、セントラルホテルに向かって歩き始めた。
彼女は前を見ながら、
「友人が塾をやってるんだけど、数学の講師を欲しがってるの。数学の講師は少ないから、時給3千円でいいって言ってるんだけど、やってみない?」
「・・・塾の講師・・・そうねえ・・・」
「どうせ、わけのわかんない方程式で遊んでいるんでしょう?」
「ナビエ・ストークスの方程式。遊んでるわけじゃないよ。」
「そうかなあ。」
「100万ドル、約1憶円の賞金が掛かっているんだ。」
数学の講師のことを話しててるうちに、セントラルホテルに到着した。
駅から、10分ほどのところにあった。
「じゃあ、頑張って。」
「仕事が終わったら、電話するね。」
「講師、考えとくよ。」
「無理しなくてもいいのよ。じゃあね。」
「わかった。See You !」

俺は公園に戻った。いつもの公園に、謎の少女は来ていた。
俺は、自転車を降り、静かに彼女に近づいて行った。
「こんにちは。」
彼女は、振り向くと、微笑みながら、
「あら、あなたでしたか。」
と言い。軽くおじぎをした。
「今日も、植物と、お喋りをしてるんですか?」
「ええ・・・」
「今日は、どんなことを?」
「いつも冗談ばかりなんですよ。」
「植物が、冗談を・・・」
「つまらない冗談なんですけど。」
「どんな冗談なんですか?」
「たとえば・・・あなたは花よりも美しい。とか、」
「・・なるほど。」
「わたしが笑うと、彼女達は競い合って冗談を言うんです。」
「それは面白いですね。」
「あっそうか!だから笑っていたんんだね。」
「実はそうなんです。」
あまりにも理由が簡単だったので、俺は思わず「な〜んだ。」と言った。

「花達は冗談を言いながら笑っていますが、寂しいのです。なぜなら、すぐに散ってしまうからです。だから、わたしは笑って彼女達を慰めるのです。」
「・・・」
「今、あなたの隣の木が、あなたを知っていると言っています。」
「・・この木がですか?」
「ええ、あなたはよくここに来て、ブランコの前のベンチに座り、本を読んでるそうです。」
確かに俺は、ときどきここに来て、数学の本やノートを読んでいた。
でもそれは、彼女自信が直接見ていたのかも知れない。
「・・君が見てたんじゃないの?」
「信じてくれないようですね。・・さようなら!」
どうやら彼女を怒らせてしまったらしい。彼女は去って行った。
彼女が立ち去ると、急に花達が静かになったような気がした。

家に戻っても、俺は謎の少女のことを考えていた。
どうしたら、彼女の言ってることを証明できるのだろう・・・

次の朝、美奈子から電話があった。
「麻布北公園って知ってる?」
「ああ知ってるよ。いつも行ってるとこだから。」
「今日、面白いことをやるんだ。」
「どんなこと?」
「テレビの撮影、特別番組なんだけど・・」
「どんな番組なの?」
「植物と会話できる少女の番組なの。」

「植物と会話できる少女・・・俺知ってるよ、その少女。」
「ほんと?」
「うん、深くは知らないけど、180センチくらいの大きな少女だろ。で、何時頃からやるの?」
「たぶん、10時頃だと思う。」
「分かった、絶対に行くよ。」

公園に入り、自転車を止め、腕時計を見ると、ちょうど10時だった。
ブランコの隣のベンチに、美奈子と謎の少女が座っているのが分かった。ベンチの前には男が一人立っていた。
向こう側のベンチの前には、取材スタッフと思われる男が2人が立っていた。
なにか近づきがたい雰囲気だったので、俺は自転車を降りると、遠くの位置で彼等を眺めることにした。

仕事中の美奈子を見るのは初めてだった。なんだか、きびきびしていて、いつもの美奈子とは違う美奈子だった。
「保土ヶ谷さん、オーケーです。」

撮影が始まるようだった。
「ほどがや・・・ Ryuji Production ・・・思い出した、ルポライターの保土ヶ谷龍次だ!」
いつも、「ひゃひゃひゃあ〜〜、おもしろいっす!」と笑いながらルポしてる、有名な社会派のルポライターの、保土ヶ谷龍次だ。
でも、なぜ彼が、政治家キラーで有名なルポライターの保土ヶ谷りゅうじが、畑違いの超能力というエキセントリックな取材に来ているのだろう。

俺は、彼の「ひゃひゃひゃあ〜〜、おもしろいっす!」を生で聞きたくなって、彼の声が聞こえるほどの距離まで接近した。

彼は微笑みながら質問を始めた。
「小耳にはさんだんですけど、、18歳なんですってね。」
「ええ、」少女は、多少緊張してるみたいだった。
「いやあ、、実は僕も昔は18歳だったんですよ。はははははははは、まいったまいった。」
彼は大声で笑い始めた。みんなもつられて笑い始めた。俺は、ちっとも面白いとは思わなかった。
「小耳に挟んだんですけど、超能力者なんですってね。」
「小耳に挟むなんて、器用なんですねえ。」
「ひゃひゃひゃあ〜〜、おもしろいっす!」
でた〜〜〜〜! 俺は思わず感動した。俺は、あとでサインをしてもらうために、カバンからノートを取り出した。

超能力の番組だと、必ず立証実験があるはずだ。
俺は、それを待った。
30分過ぎても、保土ヶ谷龍次のインタビューは続いていた。謎の少女は少し飽きてきているように見えた。
近くの美奈子が手でサインを送った。
「オーケーです。」
インタビューが終わると、少女は帰って行った。
「あれ?」
立証実験は無かった。
全員帰ろうとしたので、俺は慌てて保土谷氏に駆け寄った。
「すみません。保土ヶ谷さん、あなたのファンなんです。サインをお願いします。」
保土ヶ谷氏は、きょとんとした様子で、俺を見ると、
「ああ、いいですよ。」と言って、愛想良くサインをしてくれた。
美奈子が駆け寄ってきた。
「この人、わたしの友人なんです。」
と言った。彼は俺の顔を見ると、
「ああ、そうなんですか。」と、笑顔で答えた。

家に帰ると、美奈子から電話が掛かってきた。
「明日も超能力少女の取材なのよ。」
「えっ、また!?」
「そうなの。なんでも、日本には植物と話せる超能力者が56人いるとかで、ぜんぶ取材するんだって。」
「えっ、56人もいるの!?」
「不思議よね。そんなにいるなんて。」
「どうなってるの?」
「来月の15日夜7時に特番があるから、見て。」
「ああ、見るよ。」

予定通り、15日の夜7時に特別番組は始まった。
番組は、少女達のインタビューから始まり、保土ヶ谷氏が解説するかたちで進行して行った。
解説によると、世界中で植物と話せる人間が増えているとかで、実際その人達は話せるということらしいのだが、それよりもなぜ突然に、こんなに大勢の植物と話せる人間がでてきたのかを探求する番組になっていた。科学者の解説によると、植物の大幅な減少で、植物の人間への同化が始まっっているということであった。不思議なことに、超能力者の全員が花粉症であった。
番組は、2時間で終わった。

その日の深夜、ドアのチャイムが鳴った。時計を見ると1時半だった。ドアを開けると、美奈子が立っていた。酔っていた。美奈子は右手を上げながら、
「は〜〜〜〜い!」と言って、俺の部屋に入ってきた。
「なんだよ、今ごろ。」
「わたし、酔っぱらっちゃった〜〜〜。」
「みれば分かるよ。」
「泊めて〜〜〜〜。」
美奈子は、そのまま俺のベッドに転がった。
「なんだ、こいつ。」
それは、いつもの美奈子のパターンだった。
ベッドはセミダブルだったが、こんな酒臭いやつと寝られたもんじゃない。俺は仕方なく床の上に毛布1枚で寝た。

「昨日は、だいぶ酔ってたようだけど。」
「保土ヶ谷氏と仕事の仲間と飲んだの。」
「昨日の番組、面白かったよ。」
「そうかしら。」
「俺、花粉症だけど、大丈夫かなあ。」
「ひょっとしたら、あなたも植物と話せるようになるかもよ。」
今日は土曜日で、美奈子は休みだった。
その日の午後、俺達は麻布北公園に行った。謎の少女の姿は無かった。
美奈子は桜の木を見ながら言った。
「わたしも桜と話せたらいいなあ。」

1年後、俺と美奈子は結婚した。そして、植物と話せる人間は約10倍になっていた。
20年後、世界の半数の人々が植物と話せる人間になっていた。
50年後、世界中の全ての人間が植物と話せるようになった。
その頃、なぜか人間の寿命は、樹木のように長くなっていた。
100年後、植物の減少による二酸化炭素の増加で、植物の動物への同化、つまり動物の植物化が細胞レベルで始まった。不思議なことに、他の動物の植物化は無かった。どうやら植物は人間のDNAだけをターゲットにしているようだった。
やがて人々は、足から根が生え、腕や頭から葉が生え出し、二酸化炭素を吸い光合成によって酸素を吐き出す、完全に植物化した新しい生命になった。

俺はイチョウの木になり、俺の隣には桜の木になった美奈子がいた。
132歳になった美奈子が呟いた。

「保土ヶ谷さんと飲みに行きたいなあ。」

謎の少女は、大きなウドの木になり、ときどき思い出したように大きな声で笑っていた。
「ほ〜〜〜、ほほほほほほ。」

《 完 》








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