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陽キャの闇と陰キャの光

作者: 衣谷強

ありま氷炎様主催『第七回月餅企画』参加作品です。


かなり前にお気に入りの方の活動報告から企画を知り、まだ時間あるわー、余裕だわー、とあれこれ考えているうちに、企画当日という体たらく……。

小学校の頃の夏休みの宿題と同じ状態になりました。

……まるで成長していない。


陽キャ男子と陰キャ女子のお話です。

よろしければお読みください。

 陽キャ。

 隣のクラスの桧原ひのはらを評するならそれが一番しっくりくる。

 金髪ロン毛。

 着崩した制服。

 ピアスやジャラジャラしたアクセサリー。

 デカい声とオーバーリアクション。

 何かと口にするウェーイ。

 男同士でつるむ時は馬鹿話。

 女の子には軽薄なからみ。

 私とは全く別世界の生き物。

 なのに。


「……あんたも落ち込むのね」

「!?」


 校舎裏のベンチ。

 存在すら知らない生徒も多いこの場所は、人とあまり関わりたくない私のお気に入りの場所だ。

 昼休みにそこで過ごそうと思っていたのに、何故か陽キャのはずの桧原がうつむいて、溜息を吐き続けているのだ。

 たっぷり十五分。

 今日の昼ご飯がパンで良かった。

 人と関わりたくないと思ってはいるけど、流石にこれは気になる。


「お、忍野おしの!? な、何でこんなところに!?」

「そこ、私のお気に入りだから」

「あ、あぁ、ごめ……、悪かったなっ☆ オレっちの膝で良ければ座ってイイぜっ☆」

「今更キャラ作っても手遅れだから」

「……だよな」


 濡れたゴールデンレトリバー。

 そんな姿が思い浮かぶほど、しょんぼりする桧原。

 ここまで普段とのギャップが激しいと、何があったのか興味が湧く。


「何があったの?」

「……」


 黙り込む桧原。

 それならそれでいい。

 別に無理に聞き出したいほど興味がある訳でもない。

 陽キャの悩みなんて、きっと私には理解できないから。


「言いたくないならいいけど」

「……聞いてくれるか?」

「いいよ」


 普段からは想像できない小さな声に、私は耳を澄ませる。


「……オレさ、グループで仲いいコと付き合いたくてアプローチしたら、オレみたいな軽い奴は友達にはいいけど彼氏には無理って笑って言われたんだ」

「わかる」

「うぐ……。女の子ってやっぱりそう思うのかな」

「私は友達にも無理だけど」

「……」

「で?」


 何故か黙り込む桧原の先を促す。


「……うん。それでオレ、どうしたらいいかわからなくなって……。このノリじゃないとオレろくに話せないし……」

「あんた友達いっぱいいるんだから、相談すればいいじゃない」

「いや、こういうの言ったら引かれるじゃん……。今のグループから弾かれたら、オレ生きていけないよ……」

「へぇ……」


 陽キャって無敵だと思ってた。

 同じノリで楽しめる、明るい仲間。

 落ち込む奴がいても仲間が笑い飛ばして、またうるさく騒ぐんだと思ってた。

 でも桧原は人並みに傷付き、相談もできず一人で抱えている。

 ちょっとがっかりして、ちょっと安心した。


「陽キャってみんな太陽みたいな奴だと思ってたけど、あんたは月なんだね」

「え?」

「周りの光を反射して光ってるみたいに見える月」


 傷付くのが怖くて、嫌われる事を恐れる、夜の闇の中の光。

 こいつは陽キャの中でも生きていけるから、昼間に光る白い月がぴったりだ。

 ……いや、本当は太陽みたいに光り続けていられる陽キャなんていないんじゃないかな?

 みんなどこかで光の裏に陰を隠して生きてるんじゃないだろうか。


「で、その軽いノリを今すぐ変えられないって言うなら、ひとまず現状維持じゃない?」

「やっぱりそうかぁ……」

「で、二人っきりの時とかに、陽キャじゃない真剣な感じをぽろっと出したら?」

「あぁ! ギャップ萌えってやつ!? そしたら振り向いてくれるかな!?」

「いや知らんけど」

「えぇ……」


 こっちは輝きも何もない陰キャなんだ。

 桧原が月なら、私は夜の闇そのもの。

 気の利いたアドバイスを求められても困る。


「まぁまたやらかしてへこんだら、ここに来なよ。暇つぶしに話聞くからさ」

「やらかし前提!? ……うまくいったら?」

「ここに女連れ込んでイチャコラしようもんなら、ホースで水ぶっかける」

「そうじゃなくて、その、お礼とか……」

「リア充の恋バナなんて、陰キャにしたらもはや毒だよ。来なかったらそれでうまくいったと思っておくから」

「……」


 よし、話は終わりかな。

 そろそろ話し相手が誰もいない教室に戻るとするか。


「……忍野は、自分を陰キャって言うけどさ……。オレには光に見えた」

「は?」

「暗闇の中の星みたいに、進む勇気をもらえた!」

「う、うん」


 何言ってんだこいつ。


「ありがとう! 頑張ってくる!」

「お、おう。でも焦るなよ。いきなり真顔告白とかしたら引かれるからな」

「わかった!」


 元気になって走っていく桧原。

 それを見送って、私は彼の言葉を反芻はんすうしてみた。

 ……暗闇の中の星、か。

 あいつわかってないなぁ。

 星って遠いから小さく見えるだけで、太陽と同じ自分で光る星なんだけど。

 私に似合うとは思えない。

 ……でも夜の闇そのもの、なんていう厨二くさい言葉よりは、何だか私にしっくりくる気がしていた。

読了ありがとうございます。


このまま桧原がうまくいくのか、それとも玉砕して忍野の暇つぶしになるのか、それはまた別のお話……。


陽キャの中には、無理して合わせてる子もいるんじゃないかなーから生まれた話です。

私は闇よりもなお昏き陰キャなのでよくわかりませんけどね。


楽しく書かせていただきました。

ありま氷炎様、素晴らしい企画をありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 光を使う場面。 それに月と言う言葉を選んだのがセンスだと思いました。 誰しも表と裏があって光が当たるところが表だと言う。 二律背反・二人は違反。 昼ごパンが学生らしさを出してます。…
[良い点] セリフがとても深い会話劇でした! 太陽と月、星と夜空。そんな素敵ワードを、上手く会話に絡めていましたね。 とても綺麗な雰囲気にまとまっていました!
[一言] レビューから伺いました。 「暗闇の中の星」にきゅんとしました。 天体観測を時々する身としては、これは落とされます…! 生きて辿り着けないほど遠いけれど、恒星ですから。そんなものに喩えられた…
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