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猫のこてつ
作:雷等玲也



大切な人の満面の笑顔を見たい。
僕はそのために、今、ここにいるんだ。

「心、お留守番、頼むわね」
「はぁい!」
にゃぁ…
僕は今、心ちゃんに抱かれてる。
「こてつもいってらっしゃいだって!」
「そうね。じゃぁ貴方、いってくるわね」
「あぁ、おばあさんによろしく言っといてくれ」
今日は心ちゃんのお母さんが出かける日なんだって。
あ、心ちゃんっていうのはね、僕の小さい時からの親友なんだ。今はヨウチエンというところに通っているんだって。
バタンと扉が閉まって、心ちゃんのお母さんは行ってしまった。
僕は落ちないように心ちゃんにしがみ付きながら、お腹が減ったと心ちゃんに言った。
『おなかが減ったよ』
「こてつ、おなかが減ったの?」
「心もおなかが減っただろう?ご飯にしようか」
こてつっていうのは僕の名前。僕は心ちゃんの腕の中から地面に飛び降りて黒い毛を整えた。
『早くご飯にしようよ』
そういって僕はいつもと同じ場所…心ちゃんの席の隣の席に座って待ってるんだ。
「こてつ、もう少し待っててくれよ。心、こてつのご飯を用意してくれるかい?」
「うん!」
そういって心ちゃんは冷蔵庫から僕が昨日半分食べたご飯をだした。なんだ、またそれかぁ。
『違うご飯がよかったなぁ』
「どうしたの?こてつ。早く食べたいの?」
『別にそういうわけじゃないけど…』
「今カニカマ入れてあげるから待っててね!」
ジューといい音がキッチンの奥からしてきた。きっと心ちゃんのお父さんがご飯を作ってるんだ。
僕には両親がいない。小さいころ、心ちゃんに拾われたんだ。真夏で、僕は喉が渇いて死にそうだった。汚い雑巾みたいな僕だったけど、お風呂に入って綺麗にしてもらって、それからずっとこの家にいる。たまに外に探険にでかけるけどね。
「はい!どぉぞ!」
『ありがとう』
僕はご飯を食べた。あぁ、まったく昨日と同じ味だなぁ。

僕が爪とぎで爪を研いでいた時だった。
プルルル…
電話だ。誰からだろう?心ちゃんのお父さんが出た。
「はい、もしもし。はい。…………それは本当ですか!」
「どうしたの?お父さん?」
「はい…………分かりました。すぐに向かいます。」
心ちゃんのお父さんは急いでテレビのスイッチを入れた。
【えー今日午後11時半頃、電車の衝突事故が起きました。えー…負傷者の数はまだ分からないとのことです。】
それはこの家の近くだった。
「心、よく聞きなさい。お父さんは今から現場に行ってくる。お母さんが乗ってるかもしれないからね。いいかい、誰か来ても絶対にドアを開けちゃいけないよ。鍵はお父さんが全部閉めていくから、おうちの中で大人しくこてつとあそんでなさい。分かったね?」
「うん!心、いい子にしてるよ!」
『僕もいい子にしてるよ』
心ちゃんのお父さんは満足げに微笑んだ後急いで玄関から出て行った。
「こてつ、お父さん行っちゃったね」
今日はずっと遊んでくれるって言ったのに…。心ちゃんはそういうと僕を抱きしめた。
「でもいいの。心にはこてつがいるもん。お母さんだってきっと無事だもん。」
僕の額に水滴が落ちてきた。きっと心ちゃんは泣いてるんだ。
『大丈夫、僕がいるよ。』
「こてつ、お昼寝しよっか。そうしたら時間なんてあっという間だってお母さん言ってたもの」
『うん。』
そういって心ちゃんはでかいソファに横になった。僕は心ちゃんの隣に飛び乗り、心ちゃんの涙をなめた。
「あはは、くすぐったいよ、こてつ」
そう笑いながら、どこか寂しそうに、心ちゃんは眠った。そして僕も、心ちゃんの隣で寝た。

ガタガタ。窓から大きな音が聞こえてきた。心ちゃんもその音に起きたようだ。
「な…なに…」
怖いことが嫌いな心ちゃんは涙の後が残った目を大きく見開きながら、窓を凝視していた。
プルルル
突然電話が鳴った。心ちゃんは肩をびくっと揺らしながら僕に抱きついた。
『大丈夫だよ。心ちゃん』
「こてつ…」
外はもう真っ暗で、雨が降っていた。電話の音は止まない。心ちゃんはそぉっと、電話に近づいた。その途端、ブツリと電話が止んだ。心ちゃんと僕は顔を見合わせながら、恐怖を押し隠した。2人で抱き合ってソファに座っていると、心ちゃんはまた眠ってしまった。
僕は窓についてる僕専用の出入り口から空を見上げた。空は曇っていて、不気味だった。庭には犬のゴローが小屋から不安げに空を見上げていた。僕はゴローとはあまり仲がよくなかった。
『よぉ、猫。近くで事故が起きたらしいな。しかもご主人様が巻き込まれたそうじゃねぇか』
ゴローは小さい声で話しかけてきた。
『…そうみたいだね』
『心配そうだなぁ?俺達ペットにとっちゃ、えさ係が消えるようなもんじゃねぇか。』
『僕はペットじゃない!友達だ!』
『け。言ってろ。結構大きい事故だったようだし、きっと死んでるぜ。人間が俺達の仲間を殺したお返しさ。』
そういうとゴローは顔を小屋に隠してしまった。僕は言い返そうとしたが、心ちゃんの声が聞こえてきた。
「おか…さ…」
心ちゃんの頬には涙が筋を作っていた。僕は心ちゃんのそばに寄り添って、お母さんの無事を祈りながら、眠りに落ちた。

「心…お母さんが…」
「嘘!嘘よ!いやぁぁぁ」
心ちゃんが泣いている。行かなくちゃ!






「心!おきなさい。」
「ん…ふわぁぁあ」
『まだ眠いよぉ』
うっすら目を開けると頭に包帯を巻いた心ちゃんのお母さんがいた。
「お母さん!怪我、大丈夫?」
「大丈夫よ。心配してくれてありがとうね、心。」
『僕も心配したよ』
「あら、こてつも心配してくれたのね?ありがとう」
にこりと心ちゃんのお母さんは微笑んだ。
「さぁ、3人で遊びましょう、今日は遊ぶ約束してたものね」
心ちゃんを抱きながらお母さんは言った。
「だめだよ!3人じゃなくて4人!こてつも一緒に遊ぶの!」
『僕はまだ眠いよ…ふにゃぁあ』
僕はあくびをしながら答えた。3人はそれを見ながら笑った。
「こてつはまだ眠そうだから、お母さんとお父さんで遊びましょう?」
「…うん!」
心ちゃんは満面の笑みで答えた。僕はこの顔が一番好きなんだ。

それからしばらく心ちゃんたちはトランプという遊びをしていた。僕は今から外に行って仲間と一緒に探検して来るんだ!
ねぇ、君も一緒に行ってみない?きっと楽しいよ!














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