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バニーとコスプレと学園祭と
作:鷹嶺 綺羅


「コスプレ喫茶?」
 そのいかがわしさ満載の名前に、私は眉をひそめた。
「そう」
 何でもない。という顔で頷くのは未亜。
 場所はいつもの教室。
「文化祭の出し物で、そんないかがわしいものやっていいの?」
「にゃあ。美奈子ちゃんったらアタマ固すぎ」
「だけど」
 煮え切らない。納得できない。
 昨日、私が休んでいる間のHRで学園祭の出し物が決められたことは知っている。
 だけど、それが何でコスプレ喫茶なんだろう。
「発案は男子生徒が?」
「ううん?女子」
「女子!?」
 驚いた。
「何?みんなコスプレ願望でもあるの!?」
「というかさぁ……風俗から離れなさいって。美奈子ちゃん」
「だ、だけど……」
「せっかくの文化祭だし、みんなハメ外したいんだよ。部活やってる子達はほとんど参加出来ないでしょう?しかも、一年だから下働きばっかり。だったら、自分達も楽しめることしたいって思って当然でしょ?」
「成る程」
 確かにそうだ。
 報道部の私達だってカメラ片手にあちこち回らなくちゃいけない。
 芸能人の子達は仕事がほとんどだからまぁ、いいとしても、普通科で部活が出し物をしない生徒や、帰宅部の生徒達だってせっかくの学園祭、楽しみたいよね。
 ……それにしても、なぜ?

 文化祭前日。
 トレーラーで運び込まれたコスプレの衣装が並ぶのは、トレーラーの荷室に作られた更衣室。
 そこに立って、コスプレ喫茶が選ばれた理由がわかった気がした。
 下手なイベントするより、お金がかからない。
 いろんな衣装を着られることで自分が楽しめる。
 そういうことだ。

「未亜……よくこんなに集めたわね」
 近くに下がっていたナース服を手にしてみる。
 別にスカートが短いワケじゃないし、ヘンに透けているわけでもない。
 むしろしっかりした作りだ。
「へへっ。おばあちゃんにお願いして、衣装屋から借りてきたんだよ」
「じゃ、これ全部」
「そっ。撮影用の貸衣装……ヘンなお店で売っているのとは違うからね?」
「成る程ねぇ」
 感心する私の周囲では、クラスの女子が黄色い声を上げながら衣装を物色している。
 中にはルシフェルさんや瀬戸さんの姿も。
「一日、お休みいただいていますし」と瀬戸さんは楽しげに衣装を選んでいるし、
「学園祭ってイベント自体初めてだから」とルシフェルさんも張り切っている様子。
 学園祭に参加するな。という意味じゃないけど、この二人は心配だ。
「で、でも。瀬戸さん、事務所が許可してくれたの?」
「はい。あまりきわどいのはダメといわれましたから、おとなしめの衣装で」
 そう言って取り出したのは袴の衣装。
 なんだか似合いそう。
「へえ?さすがに写真撮影とかしてるだけあって、目は確かだね」
「ふふっ……これなら」
 ―――胸、目立ちませんし。
 ポツリと瀬戸さんがそう言った気がした。
 うん。聞かなかったことにしよう。

 一方のルシフェルさん。
「……」
 困った顔をして何度も衣装を替えている。
「どうしたの?気に入ったのなかった?」
「LLサイズがないの」
「LL?」
 ルシフェルさん、そんなに太っているように見えない。
 凄くグラマーなんですけど……?
「Lサイズだと胸が収まらなくてボタンが飛ぶ可能性が」

 ビリッ!

 布を引き裂く音があちこちで聞こえた。
 室内に凄まじい殺気がみなぎる!
 はっきり怖い!
「な……なんだか、みんな凄まじい顔してるんですけど?大丈夫?」
「……き、気のせいです」
 瀬戸さんは冷たい口調でそう言って、破けた袴を別なものと取り替えている。よく見ると、ほとんどの女子が同じように別な衣装を探していた。
「……着物、持ってこようかなぁ」
 何も気づかなかったのか、平気な顔でぼやくルシフェルさん。それが一番正解かも。

「で?未亜はどうするの?」
「私?私はぁ、普通のにしろって念を押されてて……」
「御婆様から?」
「南雲先生から。ヘンな服着るな。間違いがあったらどうするって。もう♪南雲先生ったらヤキモチ焼きなんだから♪」
 にやけ顔で鼻歌を歌う未亜が選んだのは―――メイド服。
 まぁ、問題ない……かなぁ。私もそうしておこうかな?
 スカート長いし、喫茶店だしね。
「あっ!美奈子ちゃんは他もね?」
 突然の言葉に、私は驚いて未亜を見た。
「えっ?」
「ほらぁ。昨日、くじ引きしたでしょう?」
「私してない」
「かわりに私がしてあげた」
「……あのね」
「でね?クジに当たった人は、衣装5回変えるからね?」
「それ―――私のこと?」
「当然。えっと、ナースに婦警にメイドに着物、袴ってとこかな?」
 衣装を漁る未亜がいろいろと物色しながら独り言のように言った。
「そ、その程度なら悪くないけどさ」
「あっ!バニーがあった!」
「こらっ!」
「えーっ!?かわいいのに!」
 私とルシフェルさんを見た未亜。
 突然、大声で、
「美奈子ちゃん、ルシフェルさん!一生のお願い!」
 というなり、両手を合わせてきた。
「な、何よ?」
 もう警戒するしかない。
 この子が「一生のお願い」する時はやましいことがある時ばかりなんだから!
「い・や!」
「即答してくれたね」
「だって!」私はたまらずに答えた。
「なんかすっごくイヤな予感がするんだもん!」
「えーっ!?こういう時でしか味わえないことなのにぃ!」
「味わいたくない!」
「バニーしてバニー!」
「な、何考えてんのよ!私、いつから11PMやることになったの!?」
「美奈子ちゃん……今いくつ?」
「とにかく!絶対、絶対にイヤ!」
「美奈子ぉ。もったいないよ」横からの声は山羽さん。
「真理の言う通り!」
「そうそう!」
 みんな、こういう時は結託早いんだから!
 気がつけば私とルシフェルさん。更衣室に押し込められちゃった!
 出して!出しなさい!未亜!
「バニーしてくれたら出してあげる♪」
 ……未亜。覚えてなさいよ!?
「どうするの?」
 水着みたいな黒くて頼りない衣装を手に困った顔をするルシフェルさんの問いかけに、
「ハァッ……しかたないわ。別に男子に見せるわけでもなし」
「旅の恥は掻き捨て?」
「使い方が違うけど、似たようなものかな」
「?」
「一時の恥―――の方が正しい」

 結局、私達はやりたくないけどバニーガールの衣装を着た。
 というか着せられた。
 絶対セクハラだと思う。

 網のストッキングに何だか普通じゃないレオタード着て……これ、トイレどうするの?
 蝶ネクタイ付きの付け襟とカフスをつけて……燕尾服みたいの羽織って、んでウサギの耳をかたどったヘアバンドつけて終わり。
 ……そう。終わり。

「私……人生終わっちゃいそう」
「は……恥ずかしいね……これ」
 ルシフェルさんもたまらずそう言うけど、
「そうでしょう?」
 といった私、思わず絶句。

 身体測定でその肌は見たけど、こういうエッチな衣装をつけると全く印象は違ってくる。
 レオタードからはちきれんばかりの胸。くびれたウェスト。形のいいお尻。
 なにより、何とか胸を隠そうと恥じらうルシフェルさんの仕草が……。
「……」
 私、女なのにみとれてしまった。
 あ、あまりにエッチすぎます!隊長!
 ……何故に隊長?
 ダメだ。私、かなり取り乱しているな。でも、そうか。男の子が女の子に見とれるって、こういう感じなんだな。多分。

 でも、この衣装が絶対エッチだということだけは確かだ!
 しかも、それを私も着ているんだよ!?


「終わったぁ!?」

「お、終わった!」
「じゃ、ご開帳ぉ!」
 バッ!
 更衣室のドアが開けられた。
 ったく―――未亜のヤツ!
 しぶしぶとルシフェルさんと一緒に更衣室を出た私達は、その場で凍り付いてしまった。


「……あのなぁ」
 少し前のことだ。
 場所は男子達の衣装合わせの場。
 そこで、かなめは頭痛を抑えながら生徒達に言った。
「何をしている?」
 カメラのシャッター音が響き渡る中、
「よーし。カワイイよ。うん。とてもカワイイ。悠理」
 かなめの前で、相手の魂すら奪い取らんばかりの勢いで一眼レフのシャッターを押しまくるのは宝条以下の物好き連中だ。
「ほ……宝条君。もうやめようよぉ」
 用意されたセットの上、何故かナース服を着せられ、半泣きでポーズをとらされているのは、女装した水瀬だった。
「うんうん。ナースはイヤかい?じゃ、次はセーラー服で行ってみようか」
「こら」
 ガンッ!
 鈍い音と共に宝条の後頭部にかなめの靴の裏がめりこんだ。
「宝条、その他大勢―――何をしている」
「A組がコスプレ喫茶をやると聞いたので、水瀬の撮影会を」
「はぁ?」
「会場、カメラ持ち込み厳禁なので、運営委員の信楽に抗議した所、『水瀬君でガマンして』といわれまして」かなめにそう言ったのはA組の男子。写真部員だった。
「だからといって―――このような不純な」
「悠理は不純じゃありません!」
 宝条は立ち上がるなり、ムキになって怒鳴った。
「不純なのは、今夜、この写真で僕がする行為です!」
「するな……うん?」
「はぁい!男子!お待たせしましたぁ!」
 女子更衣室に割り当てられたトレーラーの荷台を構成するパネルが静かに開き、信楽の声がした。
「本日のイケニエ!バニー姿の美奈子ちゃんとルシフェルちゃんでぇす!」
「なっ!?」



「―――えっ?」
 私は何が起きたかわからなかった。
 場所はトレーラーの中だったはず。
 それなのに、なんで片側が開いていて、男子が呆然としてこっちを見るなり、
「うぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!」
 凄まじい雄叫びをあげた。
「なっ!?何っ!?」
 思わずルシフェルさんと抱き合ってしまった。
 その横で、いつの間にかメイド服に着替えた未亜がマイク片手に言ってくれた。
「はぁい!お触りなしですよぉ?写真は一枚500円から撮影オッケー!」
 ま、まさか!?
「にゃあ。衣装代とかいろいろあってねぇ」
 未亜はニヤニヤ笑いながら言った。
「ここでの稼ぎは全員で有効に活用してあげるから♪」
「なっ、なっ!?」
 顔から火が出るほど恥ずかしかった。
 男子のイヤらしい視線をイヤでも感じる。
 カメラの砲列が一斉にフラッシュを焚くし!

「貴様らぁ!」
 福井先生が凄まじい怒鳴り声をあげた。
「な、何をしているか!」
「撮影会を続行中です!」
 モータードライブも壊れろ!と言わんばかりにカメラを構える写真部員達の一人が叫んだ。
「こ……これはスゴイ!」

 撮影される身にもなってよ!
 私は心底そう思った。

「全員座れ!―――いや、立て!」
 よく見たら、男子全員(水瀬君と宝条君以外)……何故か体育館座り。
「何をしてる貴様!」
 福井先生が一人の生徒の胸ぐらを掴みあげたら、その生徒が叫んだ。
「立ってます!」
 同じように座っている男子生徒全員が頷いた。
「座ってるって……?」
 福井先生、その意味がわかったらしい(私はわかりたくない!)。もうこれ以上ない位の形相で霊刃を抜いた。
「校庭走れ!いいか!?死んでも走れ!私が許可するまで止まった者は殺す!」
 男子、前屈みのまま、何度もこっちを振り返りながら走っていった。

「さぁ。セーラー服の次は禁断のスク水だ!」
 ……誰か宝条君も止めてあげて。

「ちぇっ。かなめちゃん、余計なことして」
 そうぼやくのは当然未亜だけど、何!?みんなグルだったの!?
「えへへっ。昨日のクジ、当選者はプラスワンのコスしてもらうことになってたんだ」
「それがこれ!?」
「そう。スゴイねぇ。美奈子ちゃん。あのルシフェルちゃんのナイスバディと張り合えるんだもん」
「そんなことどうでもいい!」
 私は怒鳴った。
「どうせ、あんたが首謀者でしょう!?」
「当然♪」
 言い残して未亜はトレーラーから逃げ出した。
「安心して!お金は前払いでしっかりもらってあるから♪」
「何が安心しろなのよ!?待ちなさい未亜!」
 私は自分の姿も考えずに未亜の後を追った。
 未亜が逃げ出した場所。
 それは―――校長室だった。


 私と未亜が南雲先生と一緒に、校長先生にこってり叱られている間に、実はもう一つ、騒ぎがあった。

 何でも、ルシフェルのバニー姿を水瀬君が“カワイイ”と褒めたのが、瀬戸さんの怒りに触れた。負けてたまるかというわけで、瀬戸さんがとった手段は……。

「だから瀬戸さんやめなって!」
「わ、私だって!」
「胸!胸が!」
「胸がどうしたっていうんですか!」
「レオタードがたるんじゃってるよ!」
「ありえませんっ!」

“あまりにミジメすぎる”
 本人としては不本意だろうけど、端から見れば正しい意見により、女子生徒全員で何とか瀬戸さんを止めようとして失敗。
 結局、白ダスキ姿の水瀬君が決死隊となって更衣室に突撃。
 説得の末、何とか事なきを得た。
 ……まぁ。
 水瀬君にだけ見られたんだから、瀬戸さん。それでよかったんじゃない?

 ちなみに、これを知ったのは、女子更衣室に入り込んだことだけを知った福井先生にぼこぼこにされた水瀬君が校長室へ連れてこられたから。
 水瀬君。ご愁傷様。

 結果。
 バニー姿こそやらずに済んだけど、この騒ぎが話題となって翌日の喫茶は大盛況。
 私とルシフェルさんは袴姿で喫茶のウェイトレスを楽しめたからよかったと思うことにする。
 売り上げもかなりあったことだし……未亜。後で絶対おごりなさいよ!?

 














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