矢代和樹の多忙なる生活〜《入学という名の新たなるスタート》編〜PDFで表示縦書き表示RDF


気の向くままに書いた小説なので、どうぞ笑ってやって下さい。
矢代和樹の多忙なる生活〜《入学という名の新たなるスタート》編〜
作:イヌズキノネコ


 俺の名前は矢代 和樹(やしろ かずき)。3月20日生まれのうお座で、血液型はA型。歳は15で、青春のど真ん中にいる。

 今日俺は四ノ宮学園に入学する。目の前にそびえる門をくぐれば、俺の新たな生活が幕を上げる。

 この陽気な日を俺がどれだけ待ちわびたことか……。きっとみんなにはわかってもらえまい。
 今までの生活は、周りから痛い目で見られて肩身の狭い思いで過ごしてきた。でも、だが、しかし、そんな日々とも今日でお別れ。なぜなら、この学校は俺の住んでいる街から二駅離れた場所にあるのだから。と、これだけ言ってもみんなには分からないかもしれない。簡単に言うと、俺の知り合いがここにはほどんどいないため、俺を軽蔑する者がいないのだよ。

「フフフ……アハハハハ!!」

 失敬。いきなり笑い出して済まない。だが、こんな嬉しい日に笑わずに居られるかよ!
 では、続けて……。

「アハハハハハハハハハ!!」

「ねぇ、カズキ」

「アハハハハハハハハハ!!」

「カズキ?」

「アハハハハハハハハハハ!!」

「カズキってば!」

「アハハハハ…………へぇ?」

 俺の名前を誰かが呼ぶ。俺は慌てて振り返った。そこには春木 代美(はるき よみ)の姿が……。

 春木 代美。8月11日生まれのしし座で、血液型は0型。彼女は俺の隣近所に住む知人で、いわゆる幼馴染というやつだ。彼女の名前は代美だが、みんなは彼女をキヨミと呼ぶ。

 俺はキヨミの姿を見て、厄介な存在がいた事を思い出した。

 そういえば、こいつも同じ学校に通うんだった……。
 でもこんな時間になぜ? 今6時半だぞ! 
 嬉しくて早起きした俺ならともかく、なんでお前がいるんだよ!

 色々な疑問は浮かんだが、とりあえず平静を装って俺はキヨミに挨拶をした。

「お、おはよう……キヨミ」

「おはよう、カズキ。ねぇ、朝から一体どうしたの?」

「ああ……あれね。えっと……」

「ん?」

「あ、そうそう! 実はアニ○浜口の考案した『笑って健康になる体操』を今日から実演する事にしたんだよ」

「そうなの?」

「そうなんです」

 俺は苦し紛れの言い訳をして、自分の首が閉まっていくのを感じた。

「そっかぁ〜。でも、それっておかしいよね?」

「うぅ……」

 確かに、こんな場所で、こんな時間に、そんな体操しているのはおかしい。
 いつにも増して、鋭いツッコミを入れるじゃないか、キヨミさんよ!

「だって、『アハハハハ』じゃなくて『ワッハッハ』だよ」

 おかしいって……そこですか!?

「でも、まさかカズキも体操してるなんて……」

 カズキも? なに、その助詞の使い方は。

「実は私も最近始めたんだよね。こんな身近に仲間がいたなんて思わなかった」

 俺も思わなかったよ! こんな体操やっている奴が本当にいるなんて!

「そしたら、明日から私もここで……」

「ま、待て! 早まるな、キヨミ! いいか、こんな場所で体操なんてやるもんじゃないぞ。ここを通る住民の皆さんがいるんだから、そんな事ここでやっていたら迷惑になる」

「そっかぁ……。じゃあ、校庭で」

「ノー! NO! それもダメだ!」

「どうして?」

「えっと、それはだな……。そうだ! 校庭はみんなで使う場所だろ? そこを独り占めしたら悪いじゃないか」

「私とカズキの2人なら独り占めにならないわよ?」

「それでもダメだ! どちらかが遅刻したら、独り占めになるだろ?」

「ああ〜、そっか」

「うんうん。そういうわけで、体操をやるのは別の場所にしよう。といっても、今のところ目ぼしい場所もないし、朝の体操はしばらくお休みだな」

 自分で言っていてアレだが、今後この体操をする気なんてない! これは神に誓う!

「まあ、そんな事は置いといて……。折角早く来たんだから、学校に入って色々と見回ろうぜ!」

「そうだね」

 そういって、俺とキヨミは記念すべき初登校を一緒に行った。学校に誰も居ない(誰にも歓迎されない)状況で。




     ◇




 ガヤガヤ……ザワザワ……

 ガヤガヤ……ザワザワ……


 さぁって、問題です。
 Q1.今俺がいる場所はどこでしょう?


 ガヤガヤ……ザワザワ……

 ガヤガヤ……ザワザワ……


 ヒント。
 ここは教室です。


 …………。

 ……。


 はい、そうです。ここは教室です。
 変な質問をしてすみませんでした。

 というわけで、俺は今教室にいる。新しい生活の舞台にいる。周りでは、高校生になり立ての生徒たちが浮き浮きした気分を抑えきれずに騒ぎ合っている。
 そんな中で俺は浮かない顔をしていた。
 
 さっきまで浮かれた気分でいたのに、どうして俺がこんな状態に陥っているのか……。その答えは俺の目の前にある。

 俺の前の席に腰をおろしている、鮮やかな栗毛の長髪にピンク色のリボンを付けた女の子。その子が不細工とか、そう言う事ではない。顔は可愛い部類に入るし、体形もすらっとしたモデル並みのスタイルをしている。
 じゃあ、何が不満なんだって?
 そりゃ……。

「ねぇ、カズキ! やっぱり校庭でやるのが一番だと思うんだけど」

 そうです、そうなんです!
 俺の新しい生活の舞台にあろうことか、俺の過去を知りつくした女がいるんです。

「ちょっと、聞いてる?」

「いや、全く」

「もう……」

 キヨミが頬を膨らませて不満漏らす。ついでに、俺も不満を言っていいですか?

「なぁ?」

「ん?」

「どうして俺と同じクラスなんだ?」

「さぁ……。あみだくじの結果とか?」

 クラス分けをあみだくじでやる学校があるわけないだろ!

「まあ……クラスは仕方ない。じゃあ、席が前後隣り合わせなのはなんでだ?」

「う〜ん。赤い糸……とか?」
 
 誰か、ペンチを貸してください。どんな物でも切れるやつ、お願いします。

「はぁ……」

「もう、そんなため息ばかりついて。これから明るい学園生活が始まるって言うのに、そんなに暗い顔してたら、いい事なんて起きないわよ」

 もうすでに良くない状態ですが、何か問題でも?

「ほ〜ら、しっかりしてよ」

 キヨミは俺の身体を揺らして、元気づけようとしてくれている。

 だけど、俺は立ち直れそうにないよ。キヨミ、お前だけでも楽しんでくれ。

「ねぇ、カズキってば!」

 俺はキヨミの声を無視して、机の上に顔をうずめた。



「ん? どうしたの?」

「え? ああ、実は友達が落ち込んでて……」

「そうなの?」

「見てください。こんな感じなんですよ」

「うわぁ〜、これは大変だ」

 キヨミが誰かと話をしている。透きとおるような声からすると結構美形だな。

「ねぇ、君?」

 そいつは馴れ馴れしく俺に触れてきやがった。しかも身体を揺すっている。

「ねぇ、大丈夫?」

 ああ。大丈夫だから、その手をどけろ!

「お〜い、聞こえてる?」

 聞こえてるよ! ああもう、そんなに揺するな!

「ねぇ? ねぇ?」

 ネチネチと気持ち悪い奴だな! 俺に声をかけるのはどこのどいつだよ!

 俺はあまりのしつこさに、顔を上げてそいつに怒鳴りつけた。

「うるせぇんだよ! 俺の睡眠の邪魔しやがって、いったいどこの…………」

「やぁ、おはよう!」

 そこにいたのは、目を疑うような清楚な雰囲気に包まれた女の子だった。

「お目覚めはいかがかな?」

 俺の頭が正常なら、ここにいる女の子は……。

「みかづき……かりん……?」

「お! 僕の名前を知ってるの?」

「そりゃ……テレビでよく見かけるから……」

 そう、俺の目の前にいるのは三日月 歌鈴(みかづき かりん)。少年のような口調と端整な顔立ちが今芸能界で話題となっている売り出し中のタレントさんだ。

「一応自己紹介するね。僕の名前は三日月 歌鈴。これからよろしく」

 そういうと、彼女は右手を差し伸べて、握手を求めてきた。俺は慌てて姿勢を正し、同じく右手を出しながら、彼女に名を名乗った。

「あ、俺は矢代 和樹。こちらこそ、よろしく」

 彼女の手を握ったとき、俺の中で何かがはじけた。


 き、きた! ついに春がきたぁ――!!
 俺の長い冬眠生活にようやく終わりが来たんだ!


 俺は彼女の事をよく知っている。
 実は、彼女の事を想うファンの一人だったりする。

 これって……運命?

 そう思いたくなるような出会い。俺の心臓は飛び出そうなくらいに激しくリズムを刻んでいた。

「和樹君だね。さっきは落ち込んでいたみたいだけど、どうしたの?」

「いえ、なんでもありません。ちょっと寝不足だっただけですから」

 俺は男らしくきっぱりと答えた。

「そうなんだぁ〜。ちょっと心配しちゃったよ」

 おお、なんてやさしい人なんだ。
 顔も知らない他人に、そんな気持ちを持てるなんて……。益々好きになるぞ、おい!

 俺は運命の出会いに酔いしれていた。

「ちょっと、カズキ〜? 私にも紹介してよ」

 一人置いてけぼりを食らっているキヨミが、不服そうに物言いをする。

「あ、ごめんごめん。すっかり忘れてた」

「もう……」

「僕の方こそ和樹君を盗っちゃったみたいで、ごめんね」

「あ、いえ……」

「それで君の名前を聞いてもいいかな?」

「あ、はい。私は春木 代美と言います」

「代美ちゃんかぁ……いい名前だね」

「あ、でもみんなはキヨミって呼ぶので、そっちで呼んでもらってもいいですか?」

「キヨミ?」

「ええ。実は昔カズキが私の名前を呼びづらいとか言いまして……」

 おいおい、せっかくいい名前だって言われたのに、それを呼びづらいと言われたエピソードなんて……。
 これを話されたら、俺のイメージダウンに繋がるんじゃねぇか!

「ちょ、ちょっとストーップ! いったい何を言い出すのかな、代美ちゃんは?」

「代美ちゃん? ちょっとカズキ、呼びなれない名前で呼ばれたら気持ち悪いんだけど」

「アハハハ。やだなぁ〜、いつもそう呼んでるじゃないですか」

「はぁ?」

「キヨミちゃん……それも可愛くて良いね」

「え? そうなんですか?」

「うん。だって、ヨミちゃんよりキヨミちゃんの方が呼びやすいし」

「で、ですよねぇ〜。ヨミなんて呼びづらいですよね」

「ちょっと、二人とも!」

「ごめん、ごめん。怒らせちゃったみたいだね。でも、冗談だから。じゃあ、これからキヨミちゃんって呼ぶね」

「はい! それじゃあ、私は……かりん丸君って呼びますね」

 おい、それはいくらなんでも失礼だろ!

「なかなかいいセンスしてるね、キヨミちゃん」

 まさかのOK!?

「でも、どうせならカリンとうきび丸の方がいいかな?」

 なぜに?

「わかりました。それじゃあ、略してカリンちゃんって呼びます」

 略してないよ〜、全然略されてないよ〜。

「じゃあ、それでお願い」

 これでいいんですか?

 二人のぶっ飛んだ会話に俺はしばし混乱した。正直カリンちゃんの事をこのまま好きで居続けられるのかも疑わしくなった。
 俺とキヨミとカリンちゃんはその後も話が弾み、学校が終わる頃には慣れ親しんだ仲のようになっていた。




     ◇




「ただいま〜」

 帰宅した俺は、玄関から家族に向かって帰りの合図を鳴らす。

「……」

 しかし、誰からの応答もなく、ただ虚しくなっただけ。そんな気持ちを抱えて、俺はそそくさと自分の部屋に駆け込んだ。


 部屋に入ると制服を脱ぎ棄てて、部屋着用に使用している中学校のジャージに身を包んだ。そして、ベッドの上に倒れこんだ俺は今日の出来事を振り返っていた。

 新しい学園生活。
 キヨミと同じクラスになった不運な運命。
 そこに現れた救世主。
 
 不安はあるが、楽しくなりそうな予感がする。
 俺は天井を眺めながら、これからの生活に希望を見出していた。


『カズキ!』


 明日はどんな事があるんだろうか? それを考えるだけで顔がにやけてくる。


『カズキ!』


 カリンちゃんと同じクラスなんだから、これからもっと仲良くなって……。


『部屋にいるのはわかってるのよ! カズキ、返事しなさい!』


 ゆくゆくは恋人? いや、そんな……でも、ありえなくないなぁ。


『カズキ! 返事しないなら、あの事ばらすわよ!』


 今までずっと無視を続けてきたが、もうそろそろ限界だな。

 俺はベッドから身体を起こすと、部屋に設置されている唯一の窓を開けた。


 ガラガラガラ……


「カズキが小学校6年生か7年生のころぉぅ!!」

「うるせぇよ、キヨミ!」

「あ、やっと出てきた」

 窓から見える視界に、俺と同じように窓から身を乗り出しているキヨミの姿があった。 
 実は、キヨミと俺の家は隣り合って並んでおり、俺とキヨミの部屋は丁度向かい合う形になっている。そのため、お互いの部屋の窓を開けると、どちらからでも部屋を覗くことができ、こうやって会話をする事も可能なのだ。

「ったく。そんなに大声出さなくても、ちゃんと来るから安心しろ!」

「了解であります」

「で、俺を呼んだ理由は?」

「あ、そうそう。あのね……」

「うんうん」

「えっとね……」

「うん」

「そういう事なの」

「…………。何が?」

「だから、そういう事なの」


 …………。
 皆さん、今ので何かわかりましたか?


「キヨミ」

「なに?」

「用件がないなら帰るな」

「あ、ちょっと!」

「じゃあ!」

「ちょっと待ってって! 今思い出すから!」

 俺は窓枠に手をかけて閉める態勢を整えたが、キヨミが思い出すまでしばらく待ってあげる事にした。


「う〜んと……あ!」

「思い出したか」

「ううん」

「やっぱり閉める」

「ああ〜ちょっと待って下さいよ、旦那」

「何だよ。どうせ思い出せないんだろ? まあ思い出したところで、ロクでもない話なのはわかっているが……」

「ロクでもない話……あっ! 思い出した!」

 おいおい……。

「あのね――」

「キヨミ、実は俺ロクでもない話は聞かない主義なんだ。というわけで――」

「ま、待ってって!」

「何だよ! ロクでもない話なんだろ、どうせ」

「いえいえ、そんな事は無きにしも非ず」

 そんな事はない事もない?
 ……って、やっぱりロクでもない話じゃないかよ!

「で、話と言うのは――」

 窓を閉めるタイミングを逃した俺は、結局キヨミの話を聞くことになった。

「あのね、場所がついに決まったの!」

「場所?」

「そう、体操をする場所」

 ああ……そういえば、今朝そんな話をしていたような……。

「で、場所は学校の体育館。勝手に借りるわけじゃなくて、学園長先生の許可をもらっているから安心ていいよ」

 いや、全然安心できないんですけど。むしろ、不安で先が見えません。

「開始時刻は午前7時」

 朝から笑い声がこだまする学校って不吉なんですが……。

「カズキも来てね! じゃあ、そういうことで」

「ちょっと待っ……て、て、おい! 言うだけ言って帰るなんて卑怯じゃねえかよ!」

 俺は閉め切られた窓に向って声を荒げた。どうやら参加拒否は認められないらしい。
 俺はため息を漏らしながら、明日が来ない事を真摯に願った。





     ◇




 ピーポーピーポーピーポ……


 俺の眠りを妨げる音が聞こえてくる。


 ピーポーピーポーピーポ……


 朝から聞きたくない音だ。だからと言って無視する事も出来ん。

 俺は布団から手を伸ばして、携帯電話を手に持った。


 ピッ!!


「はい、こちらは矢代 和樹です。おかけになった電話は現在……」

『おはよー、カズキ!』

「……誰でしょうか?」

『私だよ、わ・た・し』

「私さんですね。すみませんが、俺の知り合いにそんな人は――」

『違うわよ! キヨミだよ!』

「キヨミさんですかぁ?」

『そうで〜す』

「残念ながら俺の知り合いにキヨミはいません」

『えぇぇぇ!?』

「実は俺の知り合いに一人だけキヨミという名の女の子がいたのですが、先日黄泉よみの国にお帰りになられました。ですので、現在俺の知り合いにキヨミと名乗る女性は存在しないのです」

『そうだったんですか……ヨミに変えられたんですね』

「はい」

『私は本名が代美というんですよ』

「そうなんですか?」

『はい、ですから私があなたの知り合いだと……って、カズキ! こんな小芝居はどうでもいいの! それより今どこにいるの?』

「家にいるが……」

『それじゃあ今すぐ支度して、出てきて』

「どこに?」

『学校によ! 7時集合って言ったでしょ?』

「いや、待て。今何時だ」

『5時』

「はえぇよ!! まだ2時間もあるじゃないか!」

『だって私……もう着いちゃったんだもん』

「はぁ?」

『あとね――もしも〜し、和樹君? おはよ〜う』

「か、カリンちゃん?」

『二度寝なんてしたらダメだからな。早く来て!』

 おいおい、カリンちゃんまで体操に参加させる気なのかよ!
 キヨミの奴……侮れん。

『というわけで、カリンちゃんも来てるから急いでね。じゃあ!』

「ちょっと! ……って、もう切れてるし」

 通話の切れた電話を片手に、俺は布団の中で行くべきなのか、行くべきでないのかを悩んだ。

 正直行きたくはない。だけど、カリンちゃんがいる。
 うわぁ〜悩むぞ! どうする、俺!

 数分間の葛藤の末、俺は結局行くことを決めた。

 まさかこれからも続くんじゃないのか?

 暗雲の立ち込める未来にやる気を削られながら、俺はさっさと身支度を済ませた。


 家を出た俺は、駅までの道を走っている。こんな朝っぱらからランニングしてる人なんて、近所の老夫婦か犬の散歩をしている人くらいだ。
 俺は自分の不運を嘆いて、ふと空を見上げた。

 太陽の淡い炎が澄み切った空を朱色に染めている。綺麗なんだけど、どこかせつない、そんな感じのする空だった。まさに俺にピッタリ……。
 この後、一面青に塗られる空の事を思うと、この瞬間が今しか見られない事に気が付く。

 今生きている俺も同じなのかもしれない。
 この瞬間は今しかないモノ。この先どんな事があっても取り返しのつかないモノ。
 そう考えると、キヨミのわがままに付き合うのもたまにいいのかもしれないと思えてくる。

「こういうのも、いいのかもな」

 つぶやく声は、朝焼けの空に消えていった。


 俺は今走っている。青春のど真ん中を走っている。
 新しく始まる今日に向かって、微かな希望を胸に走り続ける。



 《入学という名の新たなるスタート》編 完







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