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この、小さな勲章を
作:夢村



第8話 希少種


それは、あまりにも想像を絶する出来事だった。

絶体絶命の状況。主役が登場するにはこの上ないタイミングで現れたのは、不気味な口調の大男と飛竜との戦闘には無理がありそうな初老の男だったのだから。

「な、なんだ?あんたら・・・」

パグフィは、きっとリオレウスも話すことが出来れば同じような事を言ったであろうことを口にする。

「あらぁ、助けに来たのに、『なんだ』とは失礼ねぇ」

ジェインは頬に手のひらを当て、体をくねくねさせながら言う。

その、クックシリーズと呼ばれるピンク色主体(しかもなぜか普通のものより濃い)の防具一式(頭以外)を身にまとった姿はあまりにも・・・。

(こ、こいつぁ・・・キツイ・・・!)

パグフィはなんとかそれを声に出さずに飲み込んだ。

「あ、あの・・・」

ただでさえ毒で体力が失われてきているリンは、更に悩みの種が増えたようで先程よりもめまいが酷くなった気がした。

『気持ちは嬉しいんですけど』とリンが言おうとしたその時。

「ギィァアアアァァァ!!」

突如として現れた二人を目障りに思ったリオレウスが火球を放つ。

「おわぁっ!?」

「やだ!?ちょっとぉ!!」

ジェインとクリフは一瞬狼狽うろたえながらも即座に反応し、崖から飛び降りる。

二人が立っていた場所が火球の爆発で削られ、粉々になった石が飛び散った。

ドォォォン!と重量を感じさせる音をあげてジェインとクリフが着地する。

「んもう、少しくらい待てないのかしらねぇ」

などと愚痴りながらも、ジェインは巨体である本人が楕円だえん形に丸まったらこのくらいだろうか、と思うほど巨大なハンマーを、クリフは別段巨大でもないが身軽なライトボウガンを構える。

リンよりも小柄なクリフがジェインの隣にいると、まるで親分と子分のようだった。

とにかく、どうやらこの予想外な乱入者達は簡単に帰る気はないようだ。

「リンちゃ〜ん。目、瞑っててねぇ」

「・・・え?」

片手でポーチから何かを取り出していたジェインは、リンの了承も得ないうちに玉のような物を投げた。

「閃光玉だ!」

パグフィの声に反応し、同時にリンも閃光玉から目を逸らして強く閉じる。

リオレウスはそれが何かわからず、火球で焼こうかどうか迷っているように眺めていた。

ドシュウゥッッ!

物が爆発し、それと同時に蒸発したような音を出しながら、閃光玉が破裂する。

「グギャァアアアアァァァッ!?」

それを直視していたリオレウスが怯む。

飛竜とはいえ、閃光玉を直視すればしばらく物も見えないはずだ。

リンは目を瞑ってもなお、感じる光に顔をしかめていたが、少しして何かの音に気がついた。

ゆっくりと目を開ける。

まだ少し眩しいと感じる景色の中、ブォンブォンと何かの音が聞こえる。

その音はジェインが立っていた位置から聴こえた。

「ら〜ら〜らら〜♪」

「げっ!?」

パグフィが不吉な物をみたかのような声を出す。

それもそのはず、ジェインは歌いながら巨大なハンマーを振り回し、自分も回転しながらジリジリとリオレウスに近づいていた。

色んな意味で現実離れした光景だった。

「必殺!愛のぉっ!島ぁ流しぃぃぃあああぁぁぁぁっ!」

ドォッゴオオオオォォォン!!

回転していたジェインは意味不明な呪文を唱えながら、目をつぶされてフラフラしていたリオレウスの頬に遠心力を利用したハンマーの強烈な一撃をお見舞いする。

ズドォォォォォ・・・!!

無防備にその攻撃を受けたリオレウスは呻くことも出来ずに体勢を崩し、殴られた方向へ倒れる。

「なっ・・・!?」

そのあまりにも想像を絶する光景にパグフィが口を開き、突っ込むのも間に合わないといった様子で呆然としていた。

ただ、何よりも驚愕きょうがくしたのは、この突如乱入したオカマが、散々苦戦していたリオレウスをいとも容易たやすくダウンさせたことだというのは確かだった。

「どう?トカゲちゃん!私のハンマーの威力は!?」

先制をとったことで得意気な表情のジェインが余裕を見せる。

「そうだ!アンタらは確か、村にいた・・・どうしてこんなところに来たんだ!?危険だって聞かなかったのか!?」

なんとか質問が出来る程度には落ち着いたパグフィが問う。

「どうしてって、私たちも昔はハンターやってたからぁ・・・」

「リオレウスなんて大物、ハンター時代に拝めなかったもんでなぁ、ジェインが入手したって情報を聞いて二人で話してたらハンター魂に火がついちまったってわけよ」

続けてクリフが説明し、ジェインがそれに頷く。

「はっ?ハンター・・・?」

二人が元ハンターだとは知らなかったパグフィが目を丸くする。

(村で見かけた時から変わってる奴らだとは思ったが・・・)

「そういう事。ある程度の事情はニナちゃんから聞いたわ。二人くらい加わっても問題ないでしょ?」

「あ、ああ」

確かに、現役ではないとはいえ、いまの攻撃を見た限りでは加勢としては問題ない。

「さぁて、それじゃ・・・」

「ジェイン!!」

クリフの声に反応したジェインがリオレウスに目を向けると、眼をつぶされた火竜は倒れた状態でジェインがいると判断した方向に口を開いていた。

火球を放つ一瞬前にジェインが跳んで避ける。

「危ないわねぇ!」

ゆっくりと起き上がり、頭を振るリオレウスを睨むジェインを見て、パグフィは悠長に会話をしている場合ではないことに気づく。

(そ、そうだ!こんなこと話してる場合じゃねぇ!)

「なぁ!二人のどっちでもいい!解毒薬をもってないか!?リンが毒くらっちまったんだ!」

パグフィは言って、リオレウスがジェインを狙っている間に盾を拾いに走る。

毒に蝕まれているリンは少しずつ顔色が悪くなってきている。状況はあまり良いとは言えない。

「解毒薬!?あるぜ!」

ライトボウガンでリオレウスに拡散弾を撃ち込みながらクリフが言う。

拡散弾はリオレウスの右翼に着弾すると、少しして一回、二回と連鎖的に続けて三回爆発。

どうやら、先程パグフィの窮地きゅうちを救ったのは、クリフのこの弾のようだった。

「良かった!早くリンに渡してくれ!」

「ああ!」

パグフィは盾を拾うと、眼が回復したリオレウスの攻撃を『いやぁ〜ん』とオカマ走りで必死なのか余裕なのかわからない声をあげながら回避するジェインの加勢に走る。

その途中で、パグフィはクリフが背中に何かを背負っているのを見た。

クリフはライトボウガンを手に持っていたが、その背中にはもう一つ別のボウガンのようなものがあった。

普通、ボウガンを二つも持つハンターはいない。

ライトボウガンとは言え、片手で扱える代物でもないのであまり意味がない。

それが何のためにあるのか問い掛けたかったが、今はそんな暇はないと判断し、余計なことは考えないようにする。

「ちょ、ちょっとぉ!いくらなんでも怒りすぎよ!大人げないんじゃないのぉ!?」

ジェインは流石に一人だけ集中して狙われて余裕がなくなってきたのか、表情が引きつっていた。

「少し待ってろ!今行く!」

パグフィが励ますように言ってジェインとリオレウスに駆け寄って行った。



「エッ、ホッ!・・・ッハァ!ハァ!!」

クリフは大した距離でもないのに、苦しそうにリンに駆け寄ると、肩で息をしながらポーチを探り、解毒薬を取り出す。

「ほ、ほら、よっ!」

リンより倒れそうな表情でクリフが瓶を差し出す。やはりリオレウスと戦うには無理がありそうだった。

「クリフさん、ありがとう」

リンは弱弱しく微笑んで瓶を受け取ると、すぐにフタを外して解毒薬を飲む。

とても美味しいものではないが、しょうがなく苦い表情で飲み込むと、少し楽になった気がした。

とにかく、これでもう大丈夫だろう。

「よし!それじゃ、いっちょやるか!」

呼吸を整えたクリフが真剣だがどこか楽しそうな表情で言う。

「・・・うん!」

そして、二人もリオレウス目掛けて走り出した。




「ぅおぉぉぉっ!?」

地声で雄叫びのような悲鳴をあげながらジェインが宙を舞う。

リオレウスがジェインを鼻先で持ち上げ、放り投げていたのだった。

流石にこの険しい状況ではオカマにもなっていられないようだ。

宙で手足をばたつかせるながらもハンマーを離さないジェイン目がけ、リオレウスが一歩踏み出し、頭突きをくらわす。

「ぬぐぉぉっ!!」

ジェインは素晴らしいほどの反応で咄嗟にハンマーを盾がわりに防御するが、耐え切れずに吹っ飛び、岩の壁に叩きつけられる。

更に火球を放とうとするリオレウスの腹部にパグフィが突きを放つ。

ガンランスは腹部にヒット。更にトリガーを引いて爆撃するが、リオレウスはほとんど怯まず、狙いをパグフィに変えて火球を放つ。

「ちっ!」

少しくらいはリオレウスが怯むことを期待していたパグフィは舌打ちをしながらも即座に防御。盾に触れた瞬間、火球が爆音をあげる。

近距離では衝撃の重さも違うようで、完全には耐え切れずパグフィは二、三歩後退る。

熱風で気分が悪くなりそうだったが、顔をしかめている暇はない。すぐに距離をとらなければ追撃をくらってしまう。

「くらいやがれ!」

クリフがリオレウスをボウガンの射程に捉え、気合と共に射撃。

ボウガンから放たれた貫通弾がリオレウスの右翼に刺さる。

貫通弾は通常弾より強力で、草食竜の身体くらいなら貫通するといわれているが、流石に火竜の硬い翼膜を貫くことは出来ない。

クリフはこの弾の仰々しい名前を変更して欲しいとギルドに訴えたい衝動に駆られるが、拡散弾は元々高価であまり数がなく、既に撃ち尽くしてしまったためにこれで持たせるしかない。

「じいさん、翼じゃダメだ!頭を狙ってくれ!」

「うるせぇ!誰がじいさんだ!」

パグフィの言葉を無視して翼を狙い続けるクリフの横から、両手に提げるように双剣を構えたリンが高速でリオレウスに駆け寄り、流れるような動きでリオレウスの脚を斬りつけ、攻撃を受けないようにそのまま走って距離をとる。

リンの動きにリオレウスが気をとられるが、早すぎて攻撃が間に合わず、眼で追っていたところをパグフィが胴体に向けて爆撃。

リンを狙うのは無理だと思ったのか、リオレウスは全身を動かし、尻尾でパグフィを払う。

「ぐぉっ!!」

パグフィは直ぐに受身をとるが、思った通りリオレウスは火球で追い討ちをかけていた。

(ちくしょうっ!こいつはこれしかねぇのかよ!?)

心の中で毒づくが、受身をとった後ですぐには動けないため、有効な攻撃ではあった。

パグフィの目の前に火球が迫る。

同時に、視界の端に何かが近づいて来ることに気づいた。

(何だ!?仲間か!?モンスターか!?)

・・・いや、オカマだ!!

「そおぉぉれぇぇぇっ!!」

ボゴォォォォン!!

突如横から飛び出したジェインが火球をハンマーで超過激なゲートボールでもやるかのように弾き飛ばした。

「よくもやってくれたわね!ほら、あなた!反撃開始よ!!」

ジェインはハンマーを構えたまま、背後のパグフィに喝を入れるように言う。

先程の攻撃で鎧が汚れ、ところどころ傷がついているが、まだ充分動けるようだ。

「あ、ああ・・・!」

(もうこいつは何でもありそうだな)

「ギヤァァアアアアァァァッ!!」

リオレウスは少し離れた場所からボウガンを撃ち続けていたクリフに突進。

「ぐぉぉっ!!」

元々体力のないクリフは避けきれずに直撃を受けると、そのまま吹っ飛んで地面を転がる。

「クリフさん!」

リオレウスは背後から駆け寄り斬りかかろうとしたリンを捉え、巨大な尾で払う。

「うぁっ!!」

リンが耐え切れずに吹っ飛ばされると、リオレウスはすぐにパグフィ達を睨む。

「いくぜぇぇっ!!」

武器を構え、疾走する二人めがけてリオレウスが火球を放ち、二人はそれを左右に分かれて避けると同時にそのまま飛び掛る。

火竜は首を鞭のようにしならせて空中でガンランスを構えるパグフィを払うと、一瞬遅れて跳んでいたお陰で攻撃を回避できたジェインのハンマーが首元に振り落とされる。

ズドォォォォン!!

「グギェッ!?」

(これは、良い手ごたえね!!)

ジェインが手ごたえを感じた通り、リオレウスは苦しそうな表情で呻く。

ジェインは着地して、更にハンマーを横に振って脚を狙うが、それより前にリオレウスが地面に向けて火球を放ったために、爆発に巻き込まれ吹き飛ばされる。

「ぬおぉぉっ!?」

地面を転がっていたジェインが体勢を立て直し、反動を利用して後方に飛んでいたリオレウスが着地すると、全員が距離をとった状態になった。

「皆、平気か!?」

パグフィの声にそれぞれが体に異常がないか確かめるようにして返事をする。

ダメージの大きそうだったジェインも、ポーチから回復薬を取り出して飲み干すと『大丈夫だ』といった視線を送る。

(それにしても・・・)

パグフィはリオレウスを見る。

(オカマの攻撃が効いたのか、大分動きが鈍ってるな。この調子なら、大タル爆弾を使わずにいけるかもな・・・)

仲間が増え、形勢が有利になってきたことで希望が見えてきた。

どうやらそれは皆同じようで、ジェインに至っては大物を仕留めることが出来るかも知れないということに気分が高揚しているようだった。

焦らないようにしながら、それぞれに顔を見合せて頷くと、一斉に動き出した。

まずはクリフが貫通弾を撃つ。

リオレウスは顔面を狙われれば首を動かし避けるだろうが、クリフの狙いは敢えて翼だ。

翼に直撃を受けてもリオレウスは依然として怯まず、当然のように翼膜に穴は空かない。

しかし、牽制けんせいとしては充分注意をくことが出来た。続けて正面からパグフィとジェインが、今度は最初から二手に分かれて疾走。

不利と判断したのか、リオレウスは空に逃げようと翼を大きく羽ばたかせる。

(させない!)

不意に、リオレウスの死角から姿を現したリンの双剣が、首を斬り付ける。

「ギャアアァァ!?」

予想もしていなかった攻撃に、リオレウスが驚いたように首を反らせて呻くと、パグフィ達が攻撃出来る範囲まで近づいた。

「これでもくらってろ!」

元々、頭を地面すれすれまで下げていたリオレウスの口に、パグフィがガンランスを突き出す。

しかし、口内に刃が刺さるかというところでリオレウスは刃を牙で受け止めた。

パグフィは構わずそのままトリガーを引いて爆撃。爆音とともにリオレウスの口内が爆煙で溢れる。

「まだまだいくわよぉ!!」

リオレウスが苦しそうに爆煙を吐き出しているところを、ジェインが物凄い勢いでハンマーを横に振り、顔面を殴り飛ばす。

ドオォォォン!というその音を聴いただけでその攻撃のダメージを物語っていた。


勝てる!!


誰もがそう思った。

油断していなかったといえば嘘になる。

だが、誰も予想していなかった。

ジェインに殴られたことで、自分の方へ向かってきたリオレウスの下顎を斬り上げたリンの一撃が戦局を大きく変えることになるとは・・・。





世界の至るところで伝えられている昔話で、こういったものがある。

その昔、とはいっても既に『人』が存在した時代。

その時代には『龍』と呼ばれる存在があった。

後に様々な飛竜の祖先とも言われるこの龍は、計り知れぬほどの長い体で、翼もなしに自由に空を舞った。

このころ、人と龍は争うことなく共存していた。

人の子供を背に乗せ、自由に空を舞う龍の姿に、邪心などなかった。

しかし、ある日のことだった。

物珍しそうに龍を触る人の子供が、龍の『下顎のある箇所に触れた』。

すると、今まで邪気のかけらもみせず、穏やかだった龍は怒り狂い、人の子供を喰い殺してしまったという。




もちろん、これは昔話であって、真実は定かではない。

それでも、たしかに『それ』が存在するという話はあった。

現在、多くの種類、数千とも数万ともいわれる飛竜が存在するにも関わらず、『それ』を持つ者は極々稀といわれ、リオレウスには『それ』が存在するとされていた。

とはいっても、それは百頭のうち一頭にあるかないか程度であって、多くのハンターはそのこと自体をしらない。

だから、誰もそんなことを気にしなくて当然だった。

しかし、このリオレウスには『それ』・・・『逆鱗げきりん』があった。

咄嗟に放ったリンの攻撃が、まさか『逆鱗』に触れるとは、誰も考えなかった。






「―――ァァアアアアアアァァァッッッ!!!」

大地が震えるようなリオレウスの咆哮。

今までのものとはどこかが違う。

威嚇するためではない。と、全員が直感的に感じていた。

むしろ、苦しんでいるようにも見える。

並々ならぬその形相と、あまりの気迫に近くにいた三人は後退らずにはいられなかった。

得体の知れない悪寒が背中を走り、嫌な汗が流れる。

(恐怖・・・?怖い、の?)

不意に、リンの視界にリオレウスの尻尾が物凄い勢いで振られるのが見えた。

いや、正確には見えてはいなかった。

視認できたのは目の前に尻尾が迫った時だった。

(はや、い・・・!!)

防御どころか、少しも動くことが出来ずに直撃を受けたリンが高速でほとんど放物線を描かずに吹っ飛ぶ。

「がっ・・あ・・・っ」

物凄い勢いで岩の壁に叩きつけられたリンは、そのまま地面に倒れ、起き上がることはなかった。

「なっ・・・」

何が起こったのか、理解しているはずなのに信じられないパグフィが言葉にならない声を出す。

「ぼさっとするな!!」

クリフの声にパグフィがハッとすると、距離をとっていたはずなのにいつの間にか目の前にリオレウスの姿があった。

「危ない!!」

ドンッ!

ジェインがパグフィを突き飛ばし、代わりにリオレウスの突進を受ける。

「っぉおおぉぉぉぉぉっ!!?」

パグフィよりも一回り以上は大きい巨体の持ち主であるジェインが、その重量を無視するかのように軽々と突き飛ばされる。

「おい、どうなって、やがるんだ・・・」

誰にも聞き取れないような声でパグフィが呟く。

先程、苦しそうにも見えたリオレウスは、今はもう苦しそうでも、怒り狂ってもいない。

むしろ、冷静さを取り戻しているようにも見える。

ただ、確実に異常だといえるのは、凄まじいほどの殺気。

錯覚か、リオレウスの周りの空間が青黒く歪んで見える。

見るものにはそれが殺意を表しているように思えた。

ゆっくりと、次の獲物を探すように眼を移動させる。

そして、その眼がパグフィを捉えた。









(倒さなきゃ・・・)

徐々に暗くなっていく視界の中、リンはなんとか意識を保とうとしていた。

だが、どんどん意識は朦朧もうろうとしてくる。

なぜかはわからない。だが、その時リンの頭に朝のある出来事が蘇った。





それはリンが集会所へ向かう途中だった。

二人のハンターが話をしているのが聞こえた。

盗み聞きするつもりもなかったが、それが自分たちのことだとわかったリンは、ピタリと足を止めた。

内容は、依頼書も出回らない内にリオレウスを討伐しようとして失敗し、あまつさえ死人が出た自分たちのパーティを嘲笑うものだった。




あのハンター達に何がわかっただろう。

そもそも、リオレウスと対峙したそれ自体が偶然だったこと。

死人が出たのは討伐しようとしたからではなく、戦闘を回避する際に仲間を庇った心優しい戦士が犠牲になったこと。

リオレウスに臆して見てみぬフリをするだけの者達に、それを笑う権利などあるのだろうか。

その時、絶対にリオレウスを倒そうと思った。

誇り高き戦士の名誉のために。

胸を張って『大切だ』と言える仲間のために。







(倒すんだ・・・リオレウスを・・・)

リンの意思とは裏腹に、意識はどんどん遠のいていく。

いつの間にか、晴れていた空は曇天どんてんに変わり、今にも雨が降り出しそうだった。

それはまるで、リン達の未来を暗示しているようで不吉だった。

(アッシュ・・・)

立ち上がることも出来ず、とうとうリンは目を閉じ、意識が暗闇の中へ沈んでいくのを感じた。












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