第5話 森と丘の大怪鳥
翌日。
アッシュは朝早くからジェインの店へ向かった。
目的はイャンクックの情報だ。
「あらぁ、アッシュちゃんじゃなぁい」
「どうも、ジェインさん」
「んもぅ、ママよぉ」
「はは・・・」
ジェインはいつも夜遅くまで働き、朝も早いのに、全然疲れた様子はない。
「どうしたの?イャンクックの情報かしら?」
「ええ、まぁ・・・」
(さすがにバレバレか・・・)
アッシュは『このひとの周りで悪い事はできないな』と思いながらも、いちいち事情を話さなくても理解してくれるジェインを頼もしくも思った。
「ふふん、良い情報よ。依頼は今回も村から出るわ」
ジェインが自信たっぷりに言う。
「え?集会所じゃなくて?」
アッシュはてっきり王国騎士団が取り逃がしたものが依頼としてこの村の集会所に来るものとばかり思っていた。
「ええ。今回のイャンクックは『ウォレフの森と丘』で発見されて、まだ王国騎士団は発見してないやつだから、一番近いこの村が被害を受けやすいってことで村長が依頼を出すことになったのよぉ」
「へぇ・・・確かに、『ニサカの森と丘』より近いな・・・」
(ほとんどのハンターは村長に依頼が来ることは知らないハズだ。これは上手くいけば受けられるかもしれない・・・)
「今回は、オマケしないわよぉ、これも商売だから」
「ええ。充分金を払える情報ですよ。ジェインさん」
なんだかんだ言って結局割引してくれた情報料を払い、ジェインに礼を言うとアッシュは家に戻った。
「へぇ、今回も村の依頼なんだ」
朝食を摂り終えた後、アッシュはリンにジェインの情報を話した。
「ああ・・・」
「じゃあ、今回も受けられるかもね」
「そうだな、出来れば受けたいところだ」
「いや、受ける!」
「はいはい・・・」
アッシュは『すぐにでも村長にところに行こう』とリンが急かすので、仕方なく歩きながらイャンクックとの戦闘法を伝授することにした。
「いいか、奴は耳が良いから音爆弾とかタル爆弾の爆音で怯む。これは絶対に覚えておけ」
「・・・ドスランポスのときは普通に戦ったのに、なんでイャンクックになったら小細工使うのよ?」
リンが納得いかない、といった顔をしている。
「ドスランポスまでは大体、小細工なしでなんとかなるもんなの。でも大型の竜となると、慣れないうちは罠とかが必要なの」
「・・・そんなに強いの?」
「ああ、強い。といっても、慣れればある程度どんな行動をとるかわかるようになるから、そうなったら小細工なしでも勝てる」
「へぇ・・・アッシュはわかるの?」
「もちろん」
「・・・」
ふふん、と腕を組んで偉そうにするアッシュを、リンは胡散臭そうに見る。
「まぁ、とにかく、音爆弾と小タル爆弾を渡しとくから使え」
アッシュに渡されたものをリンが眺める。
「ありがと・・・アッシュは?」
「俺は今回、道具を使わず戦う」
「なにそれ、あたしだけ小細工?」
リンが不満そうにアッシュを睨む。
「俺は慣れてるからな。なくてもいいし、お前が道具をいつ使うべきかを判断出来るか見てみたいしな」
「へぇ、試されてるわけ?」
「まぁ、そういうことだな。もちろん無理に使う必要はないぞ」
「りょーかーい」
「・・・ふてくされるなよ」
「なんのことかしら?」
リンがそっぽを向いて言う。
(なんだか子供みたいだな・・・)
そんなリンを眺めながら、アッシュが、ふっと笑う。
「・・・あ、そうそう。奴がキレているときは効かないからな」
「なんで?」
「知らん。きっと怒りのパワーだ」
「・・・」
「まぁ、とにかく、怒ってるときは見た目でわかるから、いっぺんみとくといい」
「見たくないなぁ、『怪鳥』でしょ?」
「ああ、ジェ・・・」
アッシュは『ジェインさんの鳥バージョンみたいなもんだ』といおうとして、止めた。
「なに?」
「・・・なんでもない」
(聞かれたら殺される・・・)
「・・・変なの」
しばらく喋りながら歩いていると、村長の家が見えてきた。
「そんちょ〜」
リンが手を振って、椅子に座ってうとうとしていた村長を呼ぶ。
「ん・・・おお、アッシュとリンか。どうした?イャンクックの依頼か?」
「は、はぁ・・・」
(なんだかこうバレバレだと、村中にバレてるんじゃないかって思えてくるな・・・)
「すごい、村長。なんでわかるの?」
「お前達の考えることなんぞお見通しじゃい」
村長が、ほっほっほと笑う。
「へぇ〜」
『歳をとると人の心でも読めるのかしら』などと思いつつ、リンが感心する。
「そ、そうですか・・・」
「それで、その依頼書だけど・・・今ある?」
「ほっほっほ、あるぞい」
村長がさっ、と依頼書を差し出す。
「おおっ」
アッシュが歓声ともつかない声をあげる。
「やった!受けられる!」
同時にリンも声をあげる。
「ほっほっほ」
ここまで来れば他のハンター達に依頼をとられることはないが、なんとなく急いで依頼を受けると、早速『ウォレフの森と丘』に行く事にした。
二人は、『ウォレフの森と丘』に到着し、テントを張った。
「よし、これでいいわね」
「ああ、じゃあ早速イャンクックを捜すとするか」
そういうと、二人は離れないようにしながら丘の方へ行くことにした。
「やっぱり、分担するっていうのはダメなの?」
リンが問う。
「ああ、敵に気づかれずに知らせる方法がないからな。それに、気づかれた後でも知らせる前にやられる可能性もあるしな」
「・・・あたしが?」
リンがむっとした顔で言う。
「いや、俺だって可能性はなくはない。慣れてるからって、『絶対』なんてないしな」
「あら、意外と謙虚なのね」
「大人なんだよ」
アッシュは、フフンと笑う。
「はいはい・・・」
それからしばらく歩く。
「・・・やっぱり、すぐには見つからないのかなぁ」
「デカいから、結構見つかりやすいんだけどな・・・」
二人が辺りを見渡しても、アプトノスがのんびりと草を食べていたり、ぼーっとしていたりするばかりで、イャンクックの姿は見当たらない。
「・・・どっかほかの場所に行った可能性は?」
「さぁなぁ、モンスターの考えることなんてわからないしな」
「・・・まぁ、捜すしかないか」
リンが、はぁとため息を吐く。
「・・・!」
その時、アッシュは遠くから大きな羽音が近づいて来ることに気が付いた。
「・・・!?」
遅れて、リンもそれに気付く。
「・・・」
初めての飛竜クラスのモンスターとの戦闘を前にしてか、リンの表情はいつになく真剣になった。
バサッバサッ、と大きな羽音が移動する。
「・・・向こうだ!いくぞ!」
言うと、アッシュは駆け出した。
「あっ、アッシュ?!」
リンもそれに続く。
バサッバサッ、ドスン。
二人は、少し走ると、丁度地面に着地したイャンクックを見つけた。
「いた!」
「クォックォックォックォッ・・・」
イャンクックが笑っているとも思えるように唸りながら、辺りを見回す。
「・・・!」
イャンクックが二人の存在に気付く。
「リン、気を付けろ!来るぞ!」
「う、うん!」
(ひぇぇ、顔コワッ!)
イャンクックの奇怪な顔に、リンが怯む。というか、ちょっとひいていた。
「クェェェェッッッ!」
イャンクックが羽を広げ、敵と判断したアッシュ達を威嚇する。
「リン、俺は右に回る!お前は左だ!」
「了解っ!」
(ええっと・・・)
走りながら、リンはアッシュの言う『俺達の戦闘スタイル』とやらを思い出していた。
「ねぇ、アッシュ。あたし達もガンドウィル達みたいに二人一緒に動いた方がいいの?」
家で休養をとっていた頃、リンはアッシュに尋ねた。
「ん?どうした?急に」
アッシュは珍しいものでも見たような顔をして言う。
「いや、この前・・・さ、あたしが周りに注意しなかったせいで、あんなことになっちゃったじゃない・・・?」
リンは色々な事を思い出してか、複雑な表情になった。
「・・・」
アッシュはそれを肯定も否定もせず、黙って聞いていた。
「だからね・・・」
リンはそこまで言って詰まる。
(まぁ、言わんとせんことはわかる)
アッシュは『足手まといになりたくないのだろう』とリンの心境をなんとなく理解した。
「・・・まぁ、なんだ。俺達の場合、二人で固まって動くのはあまり良くない」
「・・・え?なんで?」
リンは『意外だ』といった表情をして聞いた。
「あの二人の場合、攻撃と防御のどちらか極端な武器を持っているから、ああいった形で戦える。けど、俺達の場合は防御に回る人間がいない」
「なるほど・・・」
リンが納得した様子で頷く。
「俺達の場合は、どちらかというと逆だな。二人とも離れてたほうがいい」
「え?じゃあ・・・」
『この前みたいな戦い方?』と聞きたそうなリンを、アッシュが説明を続けることで止める。
「いや、だからといってこの前みたいに完全にバラバラに動くんじゃないぞ。二対一の状態で、出来れば敵を挟んだ俺とリンの位置が直線になるのがいい」
「『常にどっちかが敵の背後をとる』ってことね」
「そういうことだ」
リンが頭の中でイメージしているのか、下を向いてうんうんと頷く。
「で、隙を見つけたら攻撃だ」
「うん。・・・他には?」
「他には・・・ないな」
「・・・え?」
アッシュがあまりにもさらっというので、リンは呆気にとられた。
「作戦ってのはあんまり練りすぎると個人の判断で行動がしにくくなる。ってのが俺の考え方だ。だから、余計なことは言わない。・・・ただ」
「『深追いはするな』でしょ?」
「ああ」
「了解」
(背後をとって隙を見て攻撃、ね)
リンは考えを整理すると、アッシュの方に向いたイャンクックの背後に回った。
「クァァァァッ!!」
イャンクックがアッシュをクチバシでつつこうと跳び掛る。
「はっ!!」
アッシュはそれを余裕すら感じられる動きで右に避ける。
(目の前にいるからって噛み付くってわけじゃないのね・・・)
リンは、イャンクックの背後を維持し、焦らずに敵の行動を観察する。
「!」
イャンクックが今度はしっぽを大きく振ってアッシュを攻撃しようとする。
「っ!」
ガァァン!!
その攻撃を、アッシュは大剣を盾にして防ぐ。
「ぉおらぁっ!!」
攻撃を凌ぐと、大剣を水平に振って脚を斬りつける。
シュッ!
「っ!かすっただけか!」
イャンクックはアッシュの攻撃を前方に跳ぶことで回避した。
「だぁぁぁぁっ!!」
ザシュッ!!
「ッ!?」
着地した後で隙があると判断し、近い位置にいたリンがイャンクックの脚の数歩前で回転、脚を斬り付けると、すぐにバックステップで距離をとる。
「クァァァァァッ!!」
思ったとおり、リンを狙ってきたイャンクックが、噛み付こうと首を伸ばす。
「はっ!!」
リンはそれをさらに後ろに跳ぶことで回避する。
「おぉぉぉぉぉぉっっっっ!!」
アッシュが駆け寄り、イャンクックの右翼を思いきり斬り付ける。
ザシュッ!!
(よし!今度は良い当たりだ!!)
イャンクックの右翼から血が吹き出る。
これでもう、飛べたとしても遠くまで逃げることは出来ないだろう。
(この調子ならいけるかも・・・!)
リンは初めて飛竜クラスのモンスターを討伐出来るかもしれないということに高揚しつつ、それを抑えながらイャンクックの周りを円を描くように移動する。
(焦るなよ、リン)
イャンクックとの戦闘に慣れているとはいえ、少なからず緊張をしているアッシュがリンの姿を確認しながら思う。
イャンクックは、今度はアッシュの方を向こうとしている。
(!・・・チャンス!)
アッシュに跳び掛かると予想して、リンが剣を構え、走り寄る。
「リン、フェイントだ!気を付けろ!」
「・・・え?」
イャンクックは、ゆっくりとアッシュの方を向くと見せかけて後ろに近づいてきたリンを睨み、尻尾で攻撃しようとしてきた。
「!?」
リンは即座に止まるが、今から後ろに跳んでも間に合わない。
(避けられない・・・!)
リンは咄嗟に『下手に避けようとすると直撃をくらう可能性がある』と判断。
更に、双剣は防御に向かず、下手をすると折られる可能性があるので使えない。
衝撃!
「ぐっ!」
右腕と肩で尻尾の攻撃を受けるが、耐えきれず飛ばされる。
「っ!」
いなす様にして少し体をひいていたリンは、大したダメージは受けず、空中で左に一回転すると、地面に手をつき、受け身をとった。
地面に茂った雑草が土埃とともに舞い上がる。
「まだだ!来るぞ!」
「!」
アッシュの声にリンがはっとすると、イャンクックはリンに向き直っていた。
「クァァァァッ!!」
イャンクックが跳び掛かる。
リンはそれを右に跳び、二度ほど転がって回避する。
その光景ばかりに気をとられていたアッシュは、リンが無事だとわかると、ほっとした。
が、すぐに自分が攻撃のチャンスを逃したことに気づく。
(・・・くそっ!何やってるんだ俺は!!)
気を取り直し、武器を構える。
二人とも、先程のように距離を保ちながらイャンクックを挟んでほぼ直線。
イャンクックの周りを武器を構えた状態でじりじりと動き回る。だが、自分達からは仕掛けない。
イャンクックも自分の後ろにもう一人が回りこんでいることに気づいているようで、首をしきりに動かして二人の動きを確認している。
「クァァァァァッッッ!!」
しばらくその状態でいると、痺れを切らしたイャンクックがアッシュに向けて口から火を放つ。
(!・・・火を吐くの?!)
リンはそんな情報は知らなかったので、少し驚くが、すぐに気を持ち直す。
アッシュが火を回避するのと同じくらいのタイミングで、リンが音爆弾を取り出す。
(・・・使うか!?)
アッシュは何をするか理解し、すぐにリンの近くまで走る。
「こっちよ!」
リンがイャンクックに向けて声をあげる。
「!」
それに反応したのか、イャンクックはリンに向き直る。と、同時にリンは音爆弾をイャンクックの顔面に投げつける。
「くらえっ!」
キィィィィィィィィン!
「グェェェェッッッ!!」
イャンクックが音爆弾の快音に驚き体をのけぞらせ、両翼を万歳でもするかのように広げて硬直する。
「いくぞ!リン!」
リンの前に駆け寄ったアッシュが大剣を構え、イャンクック目掛けて走る。
「ええ!」
リンが少し遅れてそれに続く。
「ぅぉおおおおおっっ!!」
アッシュがイャンクックの無防備な腹部を斬り付ける。
ザシュッッ!!
(流石に硬いな・・・!)
アッシュの攻撃は腹部に直撃したが、致命傷になるほど深い傷にはならなかった。
「まだまだぁっ!!」
アッシュは地面に叩き付けた大剣を斜めにして柄の部分だけを動かし、イャンクックの左脚を刺すとそれを軸に右に移動。大きく回転する。
「だぁぁぁっ!!」
アッシュの地を這う大剣を跳び越え、リンが肩の後ろに両手の剣を構え、腹部を縦に斬り付ける。
ザザッッ!!
「おぉらぁぁぁぁっっっ!!」
続けて、回転していたアッシュがイャンクックの左脚の右側で止まり、回転の勢いを残したままの大剣を振り上げ、右翼を斬りつける。
それとほぼ同時のタイミングで、着地したあと体勢を整えたリンが回転し、腹部をさらに斬りつける。
ドシュッッッッッ!!
ザザッ!ザザァッッ!!
大剣はイャンクックの翼膜を半分ほど裂いて止まり、リンの攻撃はイャンクックの腹部に四箇所の傷をつけた。
「ッ・・・ッグェェェェェッッ!!」
今まで時が止まっていたかのように、イャンクックが悲鳴をあげる。
アッシュが右に移動し、翼膜に刺さった大剣を引き抜きながら距離をとる。
リンも回転を止めると左に跳び、イャンクックの方を向いてバックステップで距離をとる。
数日前の戦闘が嘘のような連携だった。
そして、二人とも充分に距離をとると、同じ事を考えた。
(勝てる!)
その時。
「グアァァァ!グアァァァッッッ!」
イャンクックは両翼を広げ、駄々をこねるように飛び跳ねる。
「!」
それを止めると、くちばしから火が漏れ出すほど呼吸が荒くなり、目付きは正気を失ったと思われるほどに鋭くなった。
「リン、キレたぞ!気を付けろよ!」
「りょ、了解っ!」
リンは初めて見る大型モンスターの怒る姿に驚いたか、またはイャンクックの形相に狼狽してか、少し怯んだ。
「グアァァァッッッ!!」
イャンクックが、がむしゃらにアッシュに突っ込む。
「うぉっ?!」
アッシュがそれをイャンクックの右側に跳ぶことで回避する、が。
「グワァッ!」
イャンクックは首だけを動かして敵を睨むと、アッシュに向け火を吹いた。
「!」
ボォッ!
火は、アッシュが回避した後に右手で背後の地面に突き刺した大剣に当たった。
(え・・・?予想してたの?!)
リンは、アッシュがイャンクックと戦い慣れているという事を改めて知った。
(『ちょっとカッコいいかも』なんて思ってしまった・・・)
そんなリンの心境を知らないアッシュは、大剣を引き抜くと距離をとるため一旦武器をしまう、と。
「あっづ?!」
(・・・)
熱をもった大剣に背中を仰け反らせて苦しむアッシュを、幻滅した目で見る。
「グワァァァァッ!!」
イャンクックが体勢を立て直すと、今度はリンに向かってきた。
「うわっ?!」
首を振り、ものすごい形相で火を撒き散らしながら走り寄ってくるイャンクックを見て、一瞬動くのが遅れる。
(えっと・・・こっちだ!)
リンはイャンクックが左右交互に首を振っているのを見て、自分にあたる数歩前で左に火を吐くのを確認すると、左へ回避した。
「来いっ!」
回避した後、先程アッシュにしたようにこちらを向くと判断し、背後に向き直って構える。
しかし、そんなリンにはお構い無しに、イャンクックは数歩走るとバランスを崩し、地面に倒れた。
「・・・」
リンが固まったまま頬を赤くする。
振り返ると、アッシュがニヤニヤしていた。
「な・・・何よっ!文句あるの?!」
リンが恥ずかしさを紛らわせるために怒鳴る。
「いえいえ、滅相も無い」
棒読みで答えるアッシュを思い切り睨み付ける。
(絶対、後で殴る)
そんな二人のやりとりに気付かないイャンクックは起き上がると、二人に向き直る。
「ほ、ほら!行くわよバカアッシュ!」
「そうだな。・・・最後まで油断するなよ」
すぐに気を取り直し、構える。
今、二人は敵を挟んだ状態ではない。こういった場合は、左右に分かれて回避する。
立ち位置からして、リンが右、アッシュが左に避けることになる。
「グアァァァッッッ!」
避けられるという判断も出来ないのか、それともそうするしかないのか、イャンクックは比較的近くにいるリンに突進する。
(火を吐きながらじゃない。ってことは・・・)
リンは今度こそ、回避したら首だけこちらに向け、火を吐くと予想する。
「はっ!」
右に避ける。回避成功。
(あれは、さっきと同じ方法で来るな・・・)
リンと同じ事を予想していたアッシュは、間合いを詰める。
「・・・!」
イャンクックは思った通り首をくるっと回転させ、リンを睨むと火を吐いた。
「遅いっ!」
それを予想していたリンは難なくそれを回避する。
その瞬間。
ザシュッッッ!!
「グェェェェッッ?!」
イャンクックが凄い形相で鳴き声をあげ、のめるように倒れる。
「え?え?」
リンが困惑してイャンクックを見る。と、アッシュがイャンクックの尻尾を斬り落としていた。
「グ、グァァァァッ・・・」
「!」
見ると、イャンクックは明らかに衰弱しており、目には先程までの鋭さはなくなっていた。
「まだ終わってないぞ!気を抜くな!」
「う、うん!」
アッシュが言う様に、イャンクックは衰弱してはいるものの、まだ諦めてはいなかった。
「グァァァァッ!グァァァァッ!!」
すぐに起き上がると、敵の姿も確認せず、周辺に火を吐く。
「え・・・?!」
リンはその行動を理解できず、戸惑う。
(・・・もう終わるな)
アッシュはそう確信した。
「グァァァッッ!グァァァァッ!!」
イャンクックはひたすら火を吐き続ける。無駄な抵抗とわかっても何とか生きようと必死なのだろう。
「・・・」
リンはそんなイャンクックの姿を見て躊躇っているのか、動かない。
(同情はしない・・・殺すも殺されるもお互い様だからな)
アッシュは心の中で語りかける。
非情と思われるかもしれないが、ハンターの世界とはそういうものだ。
「来い!せめて次の一撃で終わらせてやる!」
アッシュは叫ぶ。すると、言葉が通じたのかはわからないが、イャンクックはアッシュに狙いを定めると、決心したように突進する。
「グァァァァァァァァァッッッッ!!!」
「ぅおおおおおおおおおっっっっ!!!」
「ねぇ、アッシュ」
イャンクックを討伐した後、二人はその場に座っていた。
「ん?」
「あたし達、間違ってないよね?」
少しの間。
「どう思う?」
「え?」
「俺の考えがお前の考えじゃない。お前が『間違ってる』と思っているなら、ハンターをやめた方が良い」
「・・・酷い言い方」
「・・・悪い」
沈黙。
(もし、あたし達が・・・いや、ハンターがイャンクックを討伐しなかったら、村に被害が出てたかもしれないのよね・・・)
そう思うリンの脳裏に、昔の光景が蘇る。
「・・・っ」
「・・・答えはでたか?」
アッシュの問いに、リンは答えない。
「・・・」
リンは、必死に生きようとしたイャンクックの死骸を見つめる。
しかし、その眼に『無念』といった想いは感じられなかった。
「わかんない」
「・・・」
「わかんないけど、多分、これでいいんだよ」
「・・・そうか」
アッシュはしたを向いて、ふっと笑う。
「うん、あたしが迷っても何も変わんないもんね。やるって決めた以上は最後までやる」
リンは自分に言い聞かせるように言う。
「・・・よし!リン!」
言ってアッシュは立ち上がり小手の防具を外すと、さっと手を上げる
「!」
「討伐完了後の『いつものやつ』だ。この前は出来なかったけどな」
「うん!」
リンも小手の防具を外し、アッシュに駆け寄る。
ボスッ!
「ごへっ?!」
リンに小手を外してない手で腹を殴られたアッシュが奇怪な悲鳴をあげる。
「さっきの『お礼』よ」
「ね、根に持つなぁ・・・」
気を取り直し、アッシュが困ったような顔をして、また手を上げる。
それをみてリンが、ふふっと笑うと、アッシュの手を小手を外した手で叩いた。
パァン!
二人はハイタッチし、お互いの顔を見ると、なんだか可笑しくなって笑った。
少し休憩すると、近くのアイルーに頼んで写真を撮ってもらうことにした。
「・・・アッシュ、なんで顔隠すの?」
リンがいうように、アッシュはさり気なく顔を隠していた。
「ふふん、俺ほどの美男だと世界の女性が黙って・・・」
「ああ、やっぱりいい」
リンはアッシュの言葉を遮るが、もちろんそれが本当の意味だとは思っていない。
(そういえば、前も顔隠してたっけ・・・)
この前、集会所で見たアッシュの写真を思い出しながら、その理由を考える。しかし、わからないのでやめた。
「いた!おぉ〜い!アッシュ〜!」
「?」
そろそろ帰ろうかと思っていた時、声に気づいたアッシュ達が遠くから近づいてくる人影を見つめる。
「あれ?パグフィじゃない?」
リンが言うように、声の主はパグフィだった。
「ガンドウィルもいるな」
確かに、パグフィの後ろを重そうな大剣を背負ったガンドウィルが追いかけるように走っていた。
「どうしたんだろ?」
「さぁなぁ」
「はぁ、はぁ、お、おま・・・えら」
パグフィは、二人の前までたどり着くと、肩で息をしながら何かを伝えようとしていた。
「どうしたんだ・・・?」
「お前達、早く逃げろ!」
遅れてやってきたガンドウィルが叫ぶ。
「え、何・・・?」
何の事かさっぱりわからないリンが、ガンドウィルを訝しそうに見つめる。
「け、今朝、情報が入った」
パグフィが呼吸を整えながら喋る。
「情報?」
「も、もう村の近く、まで来てやがった。目撃情報があったんだよ!リオ・・・」
バサッバサッバサッ。
パグフィの言葉を遮って、大きな羽音が近づいてくる。
「え・・・?」
羽音に気づいた四人が空を見上げると、そこには悠然と空を漂う飛竜の姿があった。
「リオレウス・・・!」
「・・・来やがったか」
パグフィは額に走ってきたこととは別の汗を掻いていた。
バサッバサッバサッ。
恐怖を呼ぶ飛竜の羽音が段々大きくなると、その音は空が悲鳴をあげているようにも聞こえてくる。
「グオオオォォォッ!」
咆哮。
「!」
イャンクックの鳴き声などとは比べ物にならない迫力に、全員が緊張する。
バサッバサッ・・・ドスン。
草木をざわめかせ、愚かな四人のハンター達を見下ろしながら大地に『空の王』が降り立った。 |