第9話 単純な言葉
ニナが家の中に入って来た時、アッシュは調合をしている最中だった。
アッシュは彼女の存在にはすぐ気づいたが、敢えて気づかないフリをして作業を続けた。
腰を降ろし、黙々と調合を続けるアッシュの前でニナが立ち止まる。
「アッシュさん・・・」
小さい声でニナが呼ぶが、アッシュは少しも反応を見せず、調合を続ける。
「アッシュさんっ!」
もう一度、今度は少し怒りを含んだ口調でアッシュの名を呼ぶと、彼はゆっくりと顔を上げた。
その冷たい視線は『今、お前に構っている暇はない』ということを語っているようだった。
ニナは、ぞっとして一瞬怯んだが、アッシュには聞きたいことがある。
「・・・なんで、リンちゃんをリオレウスの討伐に行かせたんですか?」
予想したとおりの質問に、アッシュはため息を吐きたい気持ちだった。
何も反応がないことがわかると、ニナはその場に正座して真剣な表情でアッシュを見つめた。
ニナが聞きたいことの中には、もう一つ『なぜアッシュは行かないのか』というのがあるハズだが、彼女はそれを口に出さない。
「・・・」
しばらく黙ったまま、アッシュは作業を続け、ニナはそんな彼を睨むように見つめ続けた。
「昨日・・・」
不意に、アッシュが口を開いた。
ニナは突然のことにハッとしたが、一言も聞き漏らすまいとするようにアッシュの言葉に耳を傾けた。
「昨日、イャンクックの討伐を終えた後、俺たちはリオレウスと遭遇しました」
アッシュは昔のことでも語るかのように喋りながら、そんな自分を疑った。
話す気になったのは、ニナが納得のいく話を聞くまで帰るつもりがなさそうだったから、ではない。
本人は気づいていないが彼自身、相談する相手が欲しかったのだ。
イャンクック討伐の後、ガンドウィル達と合流し、リオレウスと対峙したこと。
その戦闘で、強大な敵が相手ではリンを守りきれる自信が無くなったこと。
リンに『ハンターを辞めろ』と言って家を追い出したこと。
そして、今日になってリンがリオレウス討伐へ向かったという話を聞いたこと。
アッシュは調合の作業をしつつ、淡々と話していった。
だが、アッシュはその話の中で自分が火傷を負っていることと、戦闘中にガンドウィルが犠牲になったことを話さなかった。
アッシュが全て話し終えると、ニナは黙り込んで俯いてしまっていた。
少ししてニナが急に顔をあげ、アッシュを見つめた。
「なんで・・・」
「・・・」
「なんで『辞めろ』なんて言ったんですか!?」
ニナが立ち上がり怒鳴るが、それは覚悟していたことだった。
「それって、アッシュさんに見えない場所でなら死んじゃっても良いってことですか!?」
アッシュはその質問に答えない。
「ああ、だから事情を知ってるのに助けに行かないんですね!?」
睨んだまま、ニナは怒りを隠そうともせず早口でまくし立てる。
アッシュは今までに彼女がこんなに怒ったところを見たことがなかった。
「私、アッシュさんの事、勘違いしてたみたいです!見損ないました!」
言ってニナは踵を返し、出て行こうとする。
が、怒りを滲ませながら数歩足を踏み出すと、ピタリと止まった。
「・・・そんな事言われたリンちゃんの気持ち、考えてみなかったんですか?」
ニナは言ってからアッシュに向き直る。
アッシュはというと『考えなかったわけではない』と自分に言い聞かせるが、本当にそうか自信がなかった。
「きっとリンちゃん、アッシュさんが何でそんなことを言ったのか、何となくでもわかったと思いますよ?」
アッシュは『そうだろうか』と自分に問う。返ってきた答えは『多分そうだ』だった。
「急にそんなこと言われて、リンちゃんだったらどうします?辞めろって言われて、辞めます?」
また考える。答えは『辞めるハズがない』だ。
(いや、それ以前にリンがハンターになった目的はもしかしたらリオレウスを倒すことだったのかも知れないんだ・・・!)
そんなことにすら考えが回らなかった自分に呆れる。
ニナは黙ったまま、またアッシュに背を向けて歩き出す。
あと数歩で家から出る、というところでニナはまた足をピタリと止めた。
それから怒りが冷めたのか、深呼吸をして肩の力を抜く。
少しの間、躊躇うように体を揺すっていたが、やがて肩越しにチラッとアッシュを見た。
「あの・・・アッシュさん。リンちゃんを助けに、行きます、よね?」
振り返り、自信なさげにおずおずと尋ねる。
なんだかさっきまでの勢いが嘘のようだった。が、アッシュにはなんとなくその仕草の方が先程までのニナよりはよほど彼女らしいと思えた。
「ええ」
拍子抜けしたアッシュがフッと笑ってから答える。
「本当ですか!?よかった!じゃあ、ほらっ!そんなことしてないで、早く!」
ニナはさっきまで怒っていたのが嘘のようにパァッと顔を明るくし、調合をするために腰を降ろしたままのアッシュの手を掴み、引っ張る。
しかし、パグフィ達のように大柄ではないアッシュとはいえ、巨大な大剣を持つほどの力の持ち主だ。
ニナが必死に唸りながら腕を引っ張るが、ほとんど動かない。
「い、いや、これを調合しないことには・・・」
「は〜や〜く〜!!」
アッシュが説得しようとするが、ニナは聞かず、腕を引っ張って催促するばかりだった。
「なんだか楽しそうだな」
突然、入口の方から聞きなれた声が響いた。
「えっ!?」
その声にアッシュよりも一瞬早くニナが反応し、物凄い勢いで振り返る。
視線の先には二人が予想したとおり、その言葉の主であるディールが立っていた。
「よっ」
「ディール・・・?」
アッシュが確かめるようにその名を呼ぶ。
ディールはアッシュにとって歳も近いことからお互いに呼び捨てで話が出来る人物だった。
「邪魔するぞい」
続けて、村長が家の中に入ってきた。
「村長まで・・・どうしたんですか?」
アッシュがそう尋ねたときにはニナは掴んでいた腕から手を離し、落ち着かない様子でオロオロとしていた。
「ふむ、ちょっとお主に用があっての」
村長が長いあご髭を触りながら言う。
「用・・・?」
訝しそうに見るアッシュに、村長が切り出す。
「悪いが話は聞かせてもらったぞ。お主、リオレウスの討伐に行くんじゃな?」
言われて、アッシュは『いつから聞いてたんだ?』と疑問に感じたが、『ええ』と頷いた。
「実はお前が昨日のこと話してた頃からいたんだ」
ディールが悪びれた様子もなく言って、笑う。
(マジか・・・)
「まぁ、気にするでない。ほれ」
言って、村長は懐から小さな壺を取出し、アッシュに手渡す。
「なんですか?これ」
壺は封がされていたが、揺らして音がしないことから固形物ではなさそうだった。
「秘薬じゃ。お主、火傷を負っとるじゃろ。そこに塗るといい」
「えっ・・・?」
アッシュは村長の言葉に耳を疑った。
昨日はリオレウスとの戦闘を回避した後は家に戻り、誰とも逢っていない。
だから、アッシュが火傷を負っているなんてわかるはずがなかった。
『村長は心が読めるのか?』と勘ぐり始めた時、当の本人は、ほっほっほと笑いだした。
「いや、実はな、お主のところのアイルーが大慌てで何かを探して回っていたようじゃったんで、呼び止めて話を聞いたんじゃよ」
そう言われて、アッシュは納得した。
ペケには、秘薬の材料を探して欲しいと頼んでいたのだ。
「お主は確か調合が苦手と聞いておったからの、ワシが代わりに調合をしておいた。ああ、アイルーの方は疲れておったようじゃから家で休ませておる」
村長が言う通り、アッシュは調合が苦手だし、元々秘薬は成功率の低い物なので、ちょっとした賭けではあった。
アッシュは礼を言い、早速秘薬を火傷した箇所に塗ることにした。
その火傷を見た途端、村長とディールは顔をしかめ、ニナはそれを見る前に顔を背けた。
アッシュは触るだけで痛むのを耐えながら、秘薬を塗り、それを終えると、ふぅと息を吐いて額の汗を拭う。
流石に塗った瞬間に全快、というわけではないが、大分楽になった。
「さて、アッシュよ。少し話をしてもいいか?」
村長に言われ、アッシュは頷いた。
「ええ。・・・調合を続けながらでもいいですか?」
その言葉を聞き、村長は改めてアッシュが調合しているものを見た。
「ほう、これは・・・」
それが何か理解した村長は『続けながらで構わんぞ』と了承し、アッシュは調合を続けることにした。
「お主が戦おうとしとるリオレウスじゃが、奴は人間に対して相当な恨みをもっておるようじゃ」
村長の言葉に、三人は何があったのか大体の推測をしてみた。
「まぁ、実際に何があったかまでは知らんが、聞いた話では最近あやつに襲われた近隣の村にはリオレウスに手を出した者はおらんかったそうじゃ」
(つまり、それ以前から村や街を襲っていた可能性もあるってことか)
アッシュがそんなことを考えていると、ディールが口を開いた。
「じゃあ、もし奴がこの村を見つけたら、まず襲って来ると思って間違いないってことか?」
「そうじゃ」
村長が躊躇わず答えると、いつもは楽観的なディールも『そうか』と面白くなさそうに言い、ニナの表情からは、さっと血の気が引く。
村長は押し黙り、辺りには時計の時を刻む音と、アッシュが調合をする時に生じる音しか聞こえなくなる。
場違いな程心地よい風が吹き、カーテンが揺れる。
少しして、昨日と同じように遠くから子供達のはしゃぐ声が聞こえた。
今日は何をして遊んでいるのかはわからないが、無邪気に走り回っているようだった。
アッシュはそれを、昨日とはまた違った思いで聞いていた。
調合が成功し、アッシュは出来上がった物を床に置く。
「成功したか」
「ええ」
アッシュは、ふぅと息を吐くと村長を見据えた。
「アッシュよ。今、村には流れ者も含め、多くのハンターがおるが皆リオレウスに臆して見て見ぬフリをするばかりじゃ」
村長は『嘆かわしい』とでも言わんばかりに首を振る。
「もし、お主らが失敗すれば、もうリオレウスに挑もうとする者はおらんじゃろうと思っておる。ワシも、もうこの歳じゃ。まともに戦うことも出来ん・・・」
悔しそうに床に視線を落とし、黙ったかと思うとすぐに顔を上げた。
「アッシュよ、この村を救ってやってはくれんか!?」
懇願するように言って、村長は頭を下げる。
少しの間、全員が黙っていた。
アッシュは村のために戦い、勝利し、村長に『よくやった』と賞賛され、勲章でも受け取る自分の姿を想像しようとして、失敗した。
「村長。申し訳ありませんが、その頼みは聞けません」
「・・・!!」
断られたことが予想外だったのか、村長が目を丸くする。
ニナも何か言いたそうだったが、その前にディールが口を開いた。
「でも、リオレウスの討伐には行くんだろ?」
自分で答えをわかっているくせに質問をし、アッシュはそれに頷く。
「ま、そういうことだな」
嬉しそうにディールが言って、笑う。
「ど、どういうことですか?」
ニナが質問すると、ディールは彼女と村長を交互に見ながら話す。
「こいつは村を守るつもりはないけど、リオレウスは討伐しに行く。無事成功すりゃ、村が救われるわけだ。そうだろ?」
そういって村長に問いかける。
「う、うむ。そうじゃが・・・」
納得できない様子で村長が頷くと、ディールが続ける。
「こいつはな『自分は村を救う英雄なんて似合わない』って思ってるんだよ。だろ?」
今度はアッシュに尋ねる。
「そういうことです。そんな大それたこと任務抱えてたらプレッシャーで戦えませんよ」
アッシュは冗談のように笑って言ってみせる。
「ふぅむ・・・ワシも多くの者を見てきたが、お主もなかなか変わっておるのぅ」
村長は少し腑に落ちない様子だったが、可笑しそうにアッシュを見た。
「それに、『救います』なんて名言しても、どうなるかはやってみないとわからないですから。それなら、何も言わずにやれるだけやってみないと・・・」
その言葉の途中でアッシュは詰まった。
それを見てニナが嬉しそうに頷いた。
「そうですよ!そういうことですよ!」
村長とディールも肯定するように頷いていた。
「そのくらいの気持ちでいいんだよ。村のことも、リンちゃんのこともな」
「・・・そうか」
ディールの言葉に照れたように頷くと、アッシュは立ち上がった。
「よしっ」
「おっ、アッシュ。行く前に・・・おーい、お前ら、持って来てくれ」
ディールはアッシュを引き止めて入り口の方へ向けて声を張り上げた。
アッシュとニナが何事かと思っていると、二匹のアイルーが大剣を掲げて入ってきた。
「これは・・・?」
アッシュは見たことのないその大剣をまじまじと見つめた。
若葉マークを引き伸ばして柄を付けただけのような、実にシンプルなデザインのそれは、かといって安物には見えなかった。
「ふっふっふ。これはのぅ、ワシが現役の頃に使っておったこのキャサリンちゃんをディールに鍛え直させ、強化して出来上がった、そう!まさにキャサリンちゃん改・・・」
「カブレライトソードって知ってるか?あれは強力だけど鉱石自体が貴重だからな。そいつを真似てマカライト鉱石だけで作ってあるんだと」
「なるほど、だから青いのか」
アッシュは村長の言葉を遮ったディールの説明に納得する。
聞いた話では、カブレライトソードはそんな名前ではあるが、貴重であるカブレライト鉱石以外にも鉄鉱石やマカライト鉱石も使っている。
そうやって考えると、マカライト鉱石だけで作られたこの大剣も、なかなかの威力なのだろう。
『しかし』とアッシュは首を振る。
「ありがとう。・・・だけど、俺にはこいつがあるから」
そういって断ろうとする。だが、手を伸ばし、大剣に触れたところでアッシュの表情は強張った。
「その、ヒビの入った剣か?」
ディールが言うように、アッシュが長い間使ってきた大剣は、昨日のリオレウスとの戦いの時にそうなったらしく、ところどころ亀裂が走っていた。
これでは、修復も難しい。
「そいつはもう、鍛えなおしても同じものにはならねぇな」
ディールは患者に余命でも明かすかのように力無く言う。
「そう、か・・・」
同じものにはならない。その言葉はアッシュの心に虚しく響いた。
このゴーレムブレイドは、アッシュにとってただの大剣ではないのだから。
「もらってやってくれねぇかな?」
アッシュはしばらく黙っていたが、『早く持ってくれ』と言わんばかりにぷるぷると震えるアイルー達から大剣を受け取り、改めて眺める。
深い蒼色をしたその大剣は、神秘的で吸い込まれそうな錯覚を起こした。
「すまない」
アッシュのその言葉は、ディールに向けたようでもあったが、そうでないようにも聴こえた。
「そいつ、威力はカブレライトのそれには及ばないけど、充分保証するぜ。・・・こういうのもなんだけど、俺がお前のために作りたかった『武器』はこんなものじゃなかったんだぜ?」
『こんなもの』と言われたのが気に入らなかったらしく、村長が何か言いかけたが、ニナに『まぁまぁ』と宥められて止まった。
アッシュはと言うと、『何時から気付いていたんだ』と言わんばかりの表情でディールを見つめていた。
「まっ、それはまたの機会にな」
言って、ディールは笑う。
「・・・ああ、『その時』は頼む」
アッシュは村長とディールに礼を告げると、出発の準備を始めた。
その途中で村長はアッシュが手に持った瓶を訝しそうに見た。
「むっ?ちょ、ちょっと待て!アッシュ!」
村長に言われ、アッシュはピタリと手を止めた。
「どうしたんですか?」
ニナが不思議そうに聞く。
「お主、それを使うつもりか?」
村長が『信じられん』といった表情で言う。
アッシュが手に持っていたのは、強走薬と呼ばれる、一時的にだが走り続けても疲れなくなる、といった効果のあるものだった。
「これが、どうかしたか?」
理解出来ない様子のディールが村長に尋ねる。
しかし、村長が口を開く前にアッシュがそれを遮った。
「少しでも早く着きたいですから」
「じゃが・・・」
「大丈夫ですよ」
アッシュは言うが、ニナとディールにはそもそもが何の話なのかもわからない。
それに構わず、アッシュは続けた。
「大丈夫、俺はこんなことで死にませんよ」
さらっと言ったその言葉は、それでも何か違和感のようなものを感じ、三人の耳に冗談のようには聞こえなかった。
準備を終え、外へ出て、三人は家の入り口を背にしてアッシュを送る形になった。
「アッシュ。村長じゃないけど、その剣に名前付けなくていいのか?そんな剣、他じゃないだろうから名前がないんだ」
ディールに言われ、アッシュは少し考えてみた。
ちなみに村長が挙手しながら『キャサリンちゃん』を連呼していた。が、無視した。
「マカライト鉱石で出来てるんだから、マカライトソードでいいんじゃないか?」
正直、アッシュは自分のネーミングセンスを疑いかけたが、『カブレライトソードよりはカッコいいかもな』とも思った。
「ははっ、シンプルでいいな」
ディールが笑い、ニナも頷いていた。
だが、『キャサリンちゃん』を連呼していた村長だけは、それを聞いた瞬間『キャサ・・・』の辺りで急に止まり、絶望のどん底に突き落とされたような表情になっていた。が、無視した。
「さて、長々と話して悪かったな」
ディールが言うが、アッシュは首を振る。
「いや、皆と話さなかったら、気持ちが整理出来ないままだったからな」
アッシュは『そんなんじゃ足手纏いになりかねない』と続ける。
「そうか。じゃあ、リンちゃんに会って、何て言うか決まったか?」
「・・・」
言われてアッシュは逡巡した。
それを見て『やっぱりな』とディールは笑う。
「アッシュ。いいことを教えてやる。難しく考えるな。お前が本当に伝えたいことだけ言えばいいんだよ」
「本当に伝えたいこと・・・」
アッシュは反芻してみる。
「なんにしたってそうだろ?難しく考えてると余計わかんなくなるんだよ。お前がその剣をマカライトソードって名づけたみたいに、シンプルでいいんだよ」
その言葉にアッシュは『そうか』と呟く。
「ああ、わかった。・・・ありがとうな、ディール」
「ははっ、んなことで礼なんてよせって、気持ち悪ぃ」
ディールは笑い、アッシュも『気持ち悪いとはなんだ』と言って、笑う。
「・・・よし。じゃあ、行って来る」
アッシュが力強く言うと、ディールとニナは頷き、少し遅れて村長も頷いた。
「おう。じゃあな」
「気をつけてな」
「いってらっしゃい。アッシュさん」
そしてアッシュは三人に背を向け、走り出した。
(俺が村を救う、か)
アッシュは平原を駆けながら村長が言った言葉を思い出していた。
(そんな気はさらさらない。でも・・・)
『でも、大切な人達は守りたいな』と、そう思った。
地平線まで見えるほどに広い平原をひたすら走っていると、少しずつ疲労を感じ出した。
しばらく走り、疲労が溜まってきたと感じると、アッシュは強走薬の瓶を取り出し、一気に飲み干した。
瞬間、疲労が一気に消え、走る足に力が漲る。
スピードを更に上げ、走る。
(天気が悪くなってきたな)
空は先程まで晴天だったはずが、少しずつ曇りだしている。
(雨になる前に着きたいところだな)
雨の中を走るのは精神的に辛いものがあるし、足元もとられやすくなる。
少し焦る自分を抑えながら、アッシュは走り続けた。
(パグフィ、リン。無事であってくれ!)
長く続く平原を、アッシュは駆け抜ける。
村にいる仲間、共に戦った仲間を守るために。
そして、無鉄砲でわがままで、優しくて涙もろい相棒に自分の本当の気持ちを伝えるために。
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