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魔術学院1年目
014 星暦549年 萌葱の月 4日 夜
大切なモノを守るのには、どんなに強固な金庫や鍵よりも、情報管理が重要だ。

例えば。
とある大商人は、結婚するに際し『誰にも破れない』と評判の非常に高価な金庫を購入した。
その日の終わりにはこのニュースは王都の裏社会に広がっていて、2日後にはこの大商人の新妻が隣国1の、希少な宝石を数多く扱う宝石商の一人娘であるという事実が調べあげられて公然の秘密となっていた。

この『誰にも破れない』金庫は新妻が越して来てひと月も経たぬ間に、盗まれた。
金庫ごと。

因みに、この金庫の中に入っていたネックレスやブレスレットの幾つかは俺がすり替えたガラス製の偽物であったのは、俺と盗賊シーフギルドの長だけが知る秘密だ。

どんなに複雑な構造をしていようと全てが見通せ、魔術の枷も外せる俺に開けない金庫は拝見したことがない。そして俺が開けなくても、金庫とは何らかの方法によって必ず破壊することができるものだ。

つまり、『誰にも破れない』金庫なんてプロの注意を集め、盗まれる可能性を高めるだけだ。

大切なモノを守りたけてば、まずはその存在の情報そのものを隠匿するのが一番だ。
次善策としては、そのモノの置き場所を誰にも知られないようにする。
金庫を買うなんて、高価なモノの存在を明らかにする上に場所まで特定してしまうからかなり愚かな行動だ。
金庫を買うことで守れるのは親族や隣人と言ったような素人に対してのみだ。プロ相手には徹底した情報管理以上の手段はないと俺は思っている。

だから寮の俺の部屋には大切なものは置いていない。盗られて困るものもないから鍵すら掛けていない。

そんな俺の部屋に、図書館から帰ってきたら盗賊シーフギルドからの召喚状が置いてあった。

俺用の召喚状。
左手の薬指に穴のあいた手袋。

ギルドのメンバーには各々特定の召喚サインが決まっている。
罠の可能性を下げる為に長と彼の直接の部下しか知らないけど。

一応ギルドは抜けたことになっているんだからこの手袋を捨てて知らぬふりをしても報復はされないだろうが・・・。
関係が少し悪化するだろうな。

折角の裏社会とのコネは比較的良好なまま保っておきたかったので・・・とりあえず出向いてみることにした。

さり気無く、街へちょっと飲みに行くかのように寮を出る。
今の時期だったら長の部屋は『かえるの王』の下だ。
とりあえず酒屋に入って今日のルートの設定を確認する。

今日のルート担当は『赤』なのか、誰の目に触れないルートはやたらと複雑だった。
あのおっさんは凝り性だからなぁ。
明日の授業もあるから、あまり時間をかけたくないんだけどね。

それでも機密保持は何よりも大切だ。特に自分の情報なら。

1刻近くかけて、長の部屋に忍び込む。
「どうせなら休養日の前にして欲しかったんですけどね。魔術学院の授業は朝が早いんですよ。」

ゆったりとお茶を楽しんでいた長がカップを上げて頷いて見せた。
「来たか。」

来ると思って呼んだ癖に。

「実は、最近禁呪を行う者が下町にいるようだ。術者を見つけ、止めて欲しい。」


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