挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
シュトラント王国異聞 〜雪解けの魔女と呪われし王〜 作者:山本 風碧
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

15/22

15 突然の解雇

 ティナはできあがった魔法薬を手に、廊下を歩いていた。
(ヴィルは――男の子なの?)
 あれからティナは、ひたすらそのことを考えながらプエラリアを摘み続け、籠から溢れるくらいになった材料を手に王宮へと戻った。久々の故郷の景色も、ほとんどティナは覚えていなかった。
 帰ってから、大量のプエラリアと大量のウミナナフシから大量の魔法薬を生成した。しかし、散々生成を繰り返したせいで身体が覚えていたのかもしれないけれど、魔法薬を作った手順も一切覚えていない。嫌いなウミナナフシを大量にすりつぶしたことさえ覚えがない。それくらいティナの頭の中はヴィルの正体の事でいっぱいだった。
 ようやく頭が働きだしたのが、夕刻、女王に呼びつけられてからのこと。まるで魔法薬の生成が終わるのを見ていたかのように迎えがやって来た。
「急いで下さい」
 後ろから案内役――衛兵のリオに促され、回廊を女王の部屋まで歩く。
 疲れもあるし、明日では駄目かと訴えてみたけれど、あっさり却下された。ティナの行動は読まれていたのかもしれない。
 疲れ云々は言い訳だった。正直なところは、今すぐヴィルの部屋に行って、どういう事なのかと問いたかった。だが、先に王女に面会したいと頼んでみても無下に断られる。
 それならば、女王に聞くまでとティナは頭を切り替えた。真実を知るためには、少しでもまともな頭で対面したいと、ティナは持っている情報を必死で頭から引き出した。
 しかし、
(もしヴィルが男の子なら、なんで隠さなきゃいけなかったの? 私が、魔女だから? じゃあ、あのおとぎ話は?)
 少し考えれば色々な事が繋がっていきそうなのに、混乱しているせいで、ティナの頭はまるで使い物にならない。
 ティナはげんこつで頭を殴ってみるけれども、目の奥が白く光っただけで、いい考えは全く浮かばない。
(ええと、王子が生まれないのは魔女がいけにえとしてさらうから……つまり、もし、ヴィルが女の子の姿をしているのなら、それは魔女にさらわれたくないから、なのよね? そして、洪水を起こしたくないからだってこと……)
 ヴィルがおとぎ話に過剰に反応するのは、自らがそれに運命を縛られていたからなのか。
 じゃあ、魔女はさらったりしないし、洪水を起こしたりしないと説得すれば、王家の人間はヴィルを王子に戻してくれるのだろうか。
(あれ? でも、もし魔女をそんな風に恐れているのなら、なんで私をここに呼んだのかしら。だって、私だって魔女の端くれだし。男だとばれてしまえば洪水になってしまうのよね? そんな危ない事をする? 私が落ちこぼれだから安心してるのかしら? あ、それから、あの魔法薬の効能って――)
 沸き上がる疑問に、微かな違和感と焦燥感を覚えたところで、ティナは女王の部屋の前に辿り着く。
(分からない事は、聞くしか無いわよね)
 調べられるところは調べる。しかし、こればかりはどうしようもなさそうだった。なにより、ここ半年は控えるようにはしていたけれど、人に質問するのはティナの得意中の得意だ。
 ティナは、とある覚悟を持って、部屋の扉の前に立った。

 ◆

 部屋の四隅には燭台が置いてある。しかし、以前訪ねた時と違って蝋燭の火は女王の背側にある分しか灯されていない。暗い上に逆光となっていた。そのため、ティナは部屋の人物の表情が全く読めない。逆に自らの表情は相手からはよく見えるのかもしれない、そう思って、ティナは少し落ち着かない気分になる。
 微かに見える頬の辺りの輪郭が痩けて見えたのは、暗いせいだろうか。久々に対面した女王は少しやつれたように思えた。だが、ティナが入室し礼をとるとすぐににこやかに口を開く。
「突然ですが、明日であなたを解雇する事にしました」
 あまりに柔らかな声に、ティナは最初言葉の意味を理解ができなかった。
「え――」
「今まで本当に助かりました。おかげでヴィルヘルミナの身体も随分丈夫になった事ですし、無事に婿をとる事ができそうです」
「は、え、あの、"婿"って」
「あの子は女王になるのですから、嫁ぐことはできませんからね」
 当たり前のように"嫁ぐ"などという言葉が出て来て、ティナは部屋の前で考えていた率直な質問を引っ込めて、代わりに今浮かんだ質問を叫んだ。
「あ、あの、ヴィルヘルミナ様は、"男の方"と結婚されるのですか!」
「当たり前でしょう」
 呆れるような声でさらりと認められて、ティナは驚愕する。
「え、でも、だって、王女殿下は男の方では――」
 女王はぷっと吹き出すと、口を扇で覆った。
「ティナ。あなたは何か壮大な勘違いをしているようだけど」
「勘違い? いえ、でも、殿下のお言葉や声は、男の方のようですし、それにっ……」
 ティナはヴィルと過ごした時間を思い出しながら反論する。しかし途中でヴィルの胸と腕の硬さを思い出し、一気に頭に血が上る。女王はティナの表情から何かを察したのか、困ったように微笑んだ。
「体つきの事は、昔からあの子もすごく悩んでいるのよ、子供のようだって。だからあまり言わないであげてね」
 女王はくすくすと笑って続けたけれども、ティナは納得いかなかった。自らが子供体型で悩むティナにとって、あれは子供とは言えないような気がしたのだ。
 しかし女王も譲らない。ティナが確信を得ているわけではない事を知っているのだろうか、丁寧にティナの持つ疑いを晴らそうとした。
「最初に言ったでしょう? あの子をより女性らしくするお薬を作って欲しいと。あの薬を飲めば、ヴィルヘルミナもより美しさを増すでしょうし、心も身体も女性らしくなって、より魅力的になるでしょう。これで私もやっと安心できます」
「殿下は……今でも十分魅力的な方です」
「ありがとう。でもね、ティナ。より良い相手を得る為には努力は怠れないでしょう。あの子を愛してくれる男性のために、より素晴らしい女性であって欲しいと思うの。それがあの子の幸せに繋がると私は信じているのですよ」
「幸せって――殿下のお気持ちは少しは汲んでいただけるのでしょうか。殿下は、相手を選べないと苦しんでおられました」
 ティナはしつこくたてついた。女王がティナとの会話を厭うているのが伝わったけれど、彼女は気まずさを堪えて女王をじっと見つめた。狭い世界に押し込められたヴィルが、幸せだとは到底思えなかったのだ。
 女王はそんなティナを見つめ、やがて鬱陶しそうにため息をついたあとに口を開いた。
「それはあの子がまだ相手をよく知らないから、不安の方が大きいだけです。私も若い頃はそうでした。しかし、結婚してから知る愛もあります。――なにより、民の幸せが私たち王族の何よりの幸せなのです。王族に生まれた以上、民の為の犠牲は当たり前です。普遍的な幸せとは比べられないのですよ」
 暗に『庶民は口出しするな』そういう風に言われたような気がして、ティナはそれ以上の反抗を諦める。
 女王はほっと息をつくと、そこで部屋の隅に控えていたライムントに命じた。
「では、あとの打ち合わせはお前に任せます。そうね、報酬は弾んでやりなさい」
 ライムントは慇懃な態度でティナに向き直ると、ティナを彼女の自室へと促した。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ