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シュトラント王国異聞 〜雪解けの魔女と呪われし王〜 作者:山本 風碧
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10 まるではじめての恋のよう

 簡素な食事を済ませ、実験の続きをする為にエプロンを付けたところで、ヴィルが再び入室して来た。
 ティナは黄色く光るユーレカを弄びながら、なんとなく尋ねた。先ほどの光景が頭に残っていたのだろうか、妙に気になったのだ。
「……ヴィルはいつもあんな食事を食べてるの?」
 ヴィルはティナの言葉の意図を理解できなかったようで首を傾げる。
「海のものが珍しかったか?」
「うん、それもあるけれど……冷えているから」
「ティナは冷えていないものを食べていたのか?」
 ティナは頷く。
「ええ。もちろんあんなに凝った料理じゃないけれど。ただお肉を焼いただけのものとかだったし。でも、油が滴って、火傷するくらいに熱くて。すごくいい匂いで、すごく美味しいの。それに、家族皆で食卓を囲んで食べていたし。ヴィルは一人で寂しくないの?」
「私は慣れている。けれど、つまり……お前は寂しいのだな?」
 すぐに本音を言い当てられて、ティナは黙り込む。
 確かに寂しかった。ここに来てひと月が過ぎたけれど、家族からは手紙の一通も届かない。こちらは近況を知らせる短い手紙を、覚えたての字で書いているのだけれど、返事が来ないのだ。そこにはアエナの固い意思が感じられる。きっと、あの時に突き放したように、ティナの仕事がうまくいくまでは連絡を取らないつもりなのだ。
「それにしても美味しそうだな。ヒルデガルドの料理は」
 ヴィルはティナの様子を気にする事無く、続けて話題を振った。ティナは微笑んで答える。故郷の事を話すのは、懐かしくてほっとした。
「他にもたくさん美味しいものがあるわ。前に言ったユーレカの蜂蜜漬けもだし、ほら、おみやげに渡した木イチゴのジャムも」
「そういえばまだあれは開けてない」
 少々申し訳なさそうにヴィルは言う。
「ええ? 勿体ない!」
「だってジャムだろう。腐らないし、それにどうやって食べるのだ? パンに塗るのか?」
「うん、パンに塗ってもいいし、ビスケットに挟んでも美味しいの。紅茶に混ぜてもいい、使い方はたくさんあるのよ?」
「じゃあ、教えてくれ」
「おやつに食べるといいわよ、ライムントに温かい紅茶を用意してもらって」
「頼んでおく。――そうだな、せっかくだ。一緒に食べようか」
 ヴィルは頷くと、ティナを見て僅かに微笑んだ。その笑顔があまりに柔らかくて美しくて、またもやティナは動揺した。
(な、なんでこんなにドキドキしてるの、私! 相手は女の子なのに!)
 まるではじめての恋のようだ。そう思いついてしまってティナは余計に焦った。村の年頃の娘が、たまに訪ねて来る旅人を熱い視線で見つめているのを、幼いティナは不思議に思っていたけれど、今、彼女たちの気持ちが何となくわかるのだ。なぜか惹き付けられて目が離せない。
 いや、しかし、相手は――女性。そこを考えると自分への不信感が急激に膨れ上がる。
(ちがーう! これは、憧れよ、憧れ! ほら、素敵過ぎるから、私もこんな風になりたいっていう……っ)
 ティナは妙な方向に進みそうな想いを必死で否定した。
「どうかしたか? そんなに見られると穴があきそうだ」
 やがて、ヴィルは不思議そうに首を傾げた。
 ティナは思わず飛び上がり、慌てて視線をそらすと、誤摩化すように手元のユーレカを見つめた。話題を変えないと――必死で頭を働かせ、そしてふと思いついた考えを口に出す。
「あ、ユーレカの皮も余ってるし、今度蜂蜜漬け作ってみようかな。……でも、蜂蜜、手に入るかしら」
「じゃあ、それもライムントに頼んでおこう」
 ヴィルが浮かべたのはやはり先ほどと変わらず柔らかい笑顔だった。人を刺しそうなほどに鋭かった眼差しはどこか甘いものへと変わり、別の意味でティナの胸を刺した。最初の冷たく固い印象がどんどん溶けてなくなって行くのが分かり、ティナは俯いて赤くなっていく頬を亜麻色のくせ毛で隠した。
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