ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
 
※このお話は「ネムリヒメ。」およびムーンライトノベルズの「ネムリヒメ。の恋」の更に続編にあたるお話です。本編を読まれていない方には唐突に感じる箇所もあるかもしれませんので、よろしければ本編の「ネムリヒメ。」等も併せてお楽しみいただけましたら幸いです。

※同棲している大人カップルの恋愛話になりますので15禁以下の性描写や、赤裸々で甘甘で読んでいるほうが恥ずかしくなるような恋愛描写ばかりです。苦手な方にはきつい内容になると思いますので、大丈夫そうな方のみこの先をお読みください…。

※長編ですので、個人サイト内にキャラ紹介のコーナーを設置しました。必要な方はご利用ください。
 
第1章
序~朝の風景~
 さて、想いを重ねてから二年と少々。目覚めるまで待っていたひとりの人物と、現実の世界を生きることとなったネムリヒメの、その後の日常はと言いますと――。


 春眠暁を覚えず。失礼ながら最早「姫」と呼ぶのもおこがましい年齢の女性だが、オヒメサマのように朝食の匂いに包まれ、長い黒髪を絡ませながら布団にくるまり、それでもしぶとく眠りを継続しようとしていた。その耳に響くのは――。

「いっつまで寝てんだよ!」

 一体何年の間、繰り返してきたのだろうか、それでも繰り返される光景と台詞。そう思うとこの「彼」は、実は非常に気の長い男ではないだろうか……などと寝ぼけた頭で考えている女、一夜イチヤの布団は、その声の主である青年、源二によってはぎ取られた。
 羽毛布団から現れた女の姿は、温かい地方の春ということもあり、キャミソールにショーツといった下着姿の出で立ちである。
「朝からうっさいなあ……」
と起こしてもらったくせに面倒臭そうに言いながら、折り畳まれた白い四肢がしなやかに伸びていく。次の誕生日で三十路を迎えるといっても、周りからは美人と噂されるその女性の肌は意外と染みも少なく、何より年齢の割には擦れていない純情な内面が彼女を若く見せているのだろうと思われる。

 そしてその艶かしい女の肢体を目の前にしても、二十歳になったばかりのこの青年が眉一つ動かさないのは、彼女が彼の保護者代わりであり、長年こうして朝の死闘を繰り広げてきたから――だけではなく、昨晩彼女とこの自分のベッドの上でまぐわっていたから、というのが最たる理由であろう。
 そう。天涯孤独であった二人は、年は幾分離れており、口約束だけのものとも言えるが、いわゆる「婚約者」という関係にあった。このような口喧嘩は日常茶飯事だが、れっきとした恋仲にあるのだ。


 説明すると、そもそも身寄りのない小学生の源二を遠縁の一夜が引き取ったことによって、この二人の関係は始まった。孤独な二人は出会った時から「家族」となり、彼女が彼を成人まで後見人として庇護してきた。
 実際のところ、美人だが面倒臭がりで浮世離れしたところのある一夜を、しっかり者の少年である源二が世話を焼いていた部分が大きいが、彼は孤独の闇から彼女に救われた。二人は運命共同体のように生きていたが、やがて少年が青年へと成長し、気が付けば自然な流れで男女の関係となってしまっていた。互いでなければ嫌だと、他の誰にも二人の関係を壊して欲しくないと二人共にある時気付いたのであった。

 保護者でも婚約者でも同じ「家族」であるが、意味がまるで異なる。ただ同居人と体の関係だけ結んでいたいとは思わなかった。この相手以外と暮らす気はない、他の誰にもそれをさせない、この相手と家庭を築きたい。それを確約する為に、彼はまだ若かったものの婚姻と言う手段を選んだのであった。いわば、相手を大切に思うゆえの社会的なけじめであった。
 何より二人は再び一人きりになることを恐れていた。そういった関係を結ぶことで、今度は自分たちが新しい家族を作り出せる。子を為し、喜びが増え、真に孤独から解放されるかもしれない。
 家族を失い「寂しい」と思い続けてきた気持ちから不安も大きかったが、二人は人以上にその願望を強く持っているのかもしれなかった。

「……だるい、ねむい、仕事行きたくないー」
 二人の関係の説明はその辺りにしておき、女……一夜はかったるそうにそう言うと、未だベッドの上で寝返りを打っている。
「ああそう。そんっなに行きたくねえなら仕事もやめちまえ」
 源二はいつもの文句に付き合う気にもなれず、そう乱暴に吐き捨てて部屋を出て行こうとしたが、それを聞いた一夜がむくりと熊の子のように起き上がる。
「じゃあ、源二くん養ってくれるのー?」
 「君」づけをする時はろくなことを考えていないな、ということは長年の付き合いで彼にも分かっている。自堕落で仕事を張り切っているとは到底見えないこの三十路女が、このまま本気で自分を働かせ悠々自適な生活に逃げかねないと思った源二は、彼女をぎろりと睨みつけた。
「……それで俺たちが食っていけると思うならな」
 彼も悔しいところであるが、まだ未成年のうちに婚約をしている。すぐに社会人となれるわけでもなく、安定した生活を手に入れるため四年制の大学を卒業して大企業または公務員あたりに就職したいと言うビジョンを持ち、今の大学に通っている。
 高校に入学した頃からそんなことを考えていたという源二。成人を迎え、大学も二年目を迎えた今は流石に惚れた女の金で学校へ行かせてもらうつもりもなく、毎日アルバイトに明け暮れ学費や生活費を稼いでいる次第である。
 一夜もまた大企業のキャリアウーマンというわけではなく、この不況に困窮している財団法人勤めであるため、どうにか微々たる貯蓄をしながら生活している状況だ。
 二人で将来、本気で家庭を築くつもりならば、少なくとも源二が社会に出るまでは一夜も貯金のひとつでもしておかねばならない。――二人の現状は、婚約者同士の甘い同棲生活といえども、非常にシビアなものであった。

 ということを十も年下の学生に指摘され、「……はあーーい」と一夜は今日も渋々返事をしながらベッドから立ち上がる。
「分かったら早くメシ食え」
 そう言って源二は自身の部屋から出て行った。一夜はその広い背中をぼうっと見送る。
 中学生の時から運動部に所属し、未だに同好会の仲間と身体を動かし、アルバイトも肉体労働などこなす源二は背の高いことも相まって体格がよく、彼に言い寄っていた女の子の数も思えば顔もそれなりに整っている部類に入るだろう。
 そのうえ、若いくせにこれだけ気が利いて面倒見もよい男だ。昔から一夜にはぶっきら棒で容赦がない態度の源二ではあるが、婚約者と言う関係からか年齢によるものなのか、最近は角も若干取れて視野も広がったように感じる。
 ――いったい、何者だよ……。
 そのうえ当人は自身の評価には無頓着で、自覚も無いらしい。余りのいい奴ぶりに、一夜は改めて空恐ろしさまで感じてしまう。
 それだけの男が、どうして十も年上の自分などにここまで優しくするのか、「惚れた」と言って見捨てないでいてくれるのか、一夜には何年経っても不思議に思えるのであった。
 ――自分の方が早く年を取るのに、もう大台に乗るというのに。
 一夜はそんなことを考えながら、彼女もまた部屋を出て行き様、眠っていたベッドの上を思わず振り返る。そして、昨夜此処で起こった甘い出来事を思い出す。

 ……あれほどつんけんした態度を取っている彼であるが、夜の営みの際は驚くほど優しく一夜に接してくる。甘い言葉を囁くタイプでもなく、照れからか冷たい命令口調を使うが、触れる長い手指のひとつひとつの動きや仕草が、一夜を心から慈しんでいると彼女にも伝わってくる。もう、若い娘でもないのに、まるで壊れ物を扱うように。
 何かを恐れているのだろうか。それともそういった性分であろうか。一夜にも分からないが、彼は自信のある体力のままに彼女の要求に丹念に時間を掛けて応え続ける。無論、彼自身も時に要求を突きつけてくることもあり、彼女もそれに応えているが。
 どうして己などにこんなに優しいのかと一夜の抱く不思議は尽きないが、婚姻を前提とした関係となった以上疑っても仕方が無く、今はそれに甘んじている毎日であった。
 だが彼とのそうした日々も夜の時間も、決して嫌なものではなかった。寧ろひとつひとつが尊くて、毎日が驚くほど幸せであった。それを通り越していっそ、不安になるほどに。

 ――変な、ヤツだなー……。

 一夜は源二の癖を真似て頭をがりがりと掻くと、昨夜の情事の現場から自室で着替えるべく立ち去っていった。
 彼のベッドの方が一夜のものよりも若干大きいというのもあるが、「狭い」と言われながらもそのぬくもりが心地よくて、終わった後のけだるさに包まれて眠ってしまうということもよくあった。源二もぶつぶつと言うものの、一夜を邪険に追い出すことも無く、そのまま腕に抱えて眠ってくれる。
 勿論、完璧と見られる彼への不満も一夜にはある。もう少し恋人らしい言葉のひとつでもあってよいのではないかとか、彼は身体を良く動かすから、行為の後、情緒無くあっという間に眠ってしまう上に眠りが深いとか(それで一夜は朝が弱いのだが)。
 しかし結局、そうした寄り添う時の安心感に、むず痒いような心地良いような妙な気分にさせられてしまうのだ。

 全ては「婚約者」であるのだから、そういうものだと割り切って幸せに胡坐をかいてしまえばよいのだが、源二以外の男性と関係を結んだことのない一夜は、恥ずかしながらこれが初めての恋愛ということもあり、生まれて初めて手にした「幸福」に、二年経った今も色々と戸惑ってしまうのであった。
 そして自分の部屋でキャミソールを脱ぎ捨てれば、外気に晒された乳房が揺れる。その間にぽつりぽつりと見える赤い痣。いつもではないが、昨日は刻まれた。これも彼の「嗜好」のひとつなのだろうか。一夜には知る由もないが、時々彼に遊ばれている。

 ――唇を押し当てられ、生暖かい感触が切ない痛みに変わる。その相反する感触は、甘い痺れを伴い、それをきわどい場所に何度も繰り返されれば、高く鼻にかかった悲鳴も自然に上がってしまうものである。
 そのうえ「これ」は、このように跡として残るもの。彼に所有され、愛された証のような、紅い花びら。肌を重ねていた己の淫らな様子を、冷静になった朝にこうして証拠として突きつけられてしまう。これを隠して仕事に行くのだ。
 何度経験してもやはりむず痒い。おかしな罪悪感と羞恥を味わいながら、一夜は下着を身につけると出勤用のカットソーを着た。

 早めに起こしてもらった甲斐があり、一夜が部屋を出ればまだ朝の七時十五分。八時に出勤すれば間に合う場所に住んでいる彼女は、化粧や身支度には時間を掛けていないので、朝食を食べる時間も十分にある。
 家から大学に通う源二は、一限目に授業が入っている日はもう家に居ないはずなのだが、本日は二限目から始まるのか、まだリビングで新聞などを読んでいた。
 

◇拍手&簡易メッセ◇

個人サイト>「碧落の砂時計」TOPへ


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。