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辺境の老騎士 作者:支援BIS

第6章 フューザリオン

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第4話 双子の虹(後編)


 4

 あれは四年前のことだ。
 テルシア家を致仕し放浪の旅に出たバルドは、ゲリアドラの実の粉をそれと知らずに吸い込み、意識を失って倒れた。
 そのままであれば悪魔の虫たちの苗床となって死ぬという世にもおぞましい目に遭うところだった。
 そのバルドを助け、薬を与えてくれたのが、この老婆(ろうば)だった。
 老婆はゲリアドラの恐ろしさをバルドに教え、二人はその群生地を地下茎ごと焼き払ったのだ。
 その後ひと月ほどのあいだ二人は一緒に旅をした。
 その間に教えられた薬草の知識はバルドの旅を大いに助けた。

 その老婆がなぜここにいるのか。
 ここで何をしていたのか。
 ジュルチャガはザリアと呼んでいるが、二人はどういう知り合いなのか。
 聞きたいことはいくらもあるが、今はそれどころではない。
 何しろ小屋の中はひどい状態だ。
 降る雨にさらされるよりはましかもしれないが、子どもたちは四日間以上もこの中で生活していたのだろうか。
 とにかく風を入れ、汚れたものを片付け、奇麗にしなくてはならない。

 幸い、近くに川があった。
 あんな大惨事の直後だというのに、流れる水は美しい。
 小屋を掃除し、ザリアの体を拭き、服を着せ替えた。
 その次は子どもたちだ。
 聞けば四日間、ろくに食事も取っていない。
 小屋の中の食べ物を食べ尽くしたあとは、畑の跡地に行って野菜の焼けかすを掘っては食べていたらしい。
 まだ熱のこもる場所で歩き回ったから、足の裏が焼けただれている。

 まずは、川で魚を()ってスープを作って食べさせた。
 バルドとカーズはもくもくと働いた。
 ジュルチャガは一番よく動いた。
 それはいつも通りといえばいつも通りなのだが、何かしらひどく一生懸命に子どもたちの面倒をみている気がした。
 忙しく動き回り、手を動かしながらも、ジュルチャガは子どもたちに優しく声を掛けた。
 小屋の中で薪を燃やしたが、幸い子どもたちは火を怖がらなかった。
 子どもたちはジュルチャガに懐き、その夜はジュルチャガにすがりつくようにして寝た。
 途中で老婆は意識を取り戻して少しスープを飲んだが、そのまままた寝た。
 ジュルチャガはカーズの馬に載せた荷物の中から薬草を出し、すりつぶして湯に溶いて老婆に飲ませた。
 半分寝ながらも老婆はそれを飲んだ。

 翌朝早く、老婆は目を覚ました。
 覚ましたどころではない。
 ひどく衰弱していると思われたのに、何事もなかったかのように起き上がると、小屋を出て周囲の様子を見て回ったのだ。
 老婆が小屋を出る気配にバルドは目を覚ました。
 ジュルチャガは目を覚ましていたが、子どもたちを起こさないためか、寝たままにこっとバルドに笑った。
 カーズの姿はない。
 食料の調達にでも行ったのだろう。
 バルドは起き上がって小屋を出た。
 雨は夜にやんだはずだが、また小雨が降りだしていた。
 老婆は、小屋の横にあった畑の焼け跡を探って、焼け残った野菜の様子を見ていた。

「やあ。
 今度はあんたに助けられたねえ」

 しわがれてはいるが、力のある声で老婆は言った。





 5

 老婆の名がザリアで、ジュルチャガが少年の時期に二人で旅をしていたらしいことまでは話を聞けた。
 子どもたちが起きてからは話をするどころではなかった。
 子どもというのは、どうしてこんなに元気なのだろう。
 親も村も失った直後であっても、内からあふれでる生命の力は()みはしないのだ。
 食事を作り食べるあいだも子どもたちはずっと元気だった。
 足を洗って薬草を塗って縛っているのだが、歩くなと言い聞かせても歩き回ることをやめはしない。

 ジュルチャガがつきっきりで面倒を見た。
 それはひどく献身的な姿だった。
 この生き残った子どもたちの世話をすることが、今のジュルチャガにとってはもっとも大切なことであるらしかった。

 子どもたちの年齢は、クインタ、セト、ユグル、ヌーバ、ミヤの順であるらしい。
 ミヤは自分が六歳であると言っているが、よくて四歳ぐらいにしかみえない。
 ほかの子どもは自分の年齢をはっきりとは知らなかった。
 辺境では珍しいことでもない。
 やがてお腹がふくれたミヤが寝た。
 するとほかの子どもたちも体を寄せ合うように寝た。
 それで、ゆっくりと話をする時間が持てた。
 バルドは初めてジュルチャガの身の上話を聞くことになった。
 いつもの雄弁さはどこかに消えうせ、ぽつりぽつりと、ジュルチャガは語った。

 ジュルチャガの村は、悪魔の実によって滅びた。
 ずいぶんひどい光景を見たようだが、ジュルチャガはあまり詳しくは語らなかった。
 逃げだして気を失って倒れたジュルチャガを見つけて、ザリアが助けた。
 バルドのときと同じようなものだ。
 ザリアは山に火を掛け、村とゲリアドラを焼き払った。
 うなされて寝ていたジュルチャガが覚えているのは、ザリアの背に負われて運ばれて行ったこと、遠くで何かが燃える気配だ。

 山から山へと旅をしながら、ザリアはジュルチャガに生きていくすべを教えた。
 時々人と出会って薬を売って何かを買うこともあったが、あまり人と会わない暮らしだった。
 数年間を共にしたあと、ザリアはこんなことを言うようになった。

「あんたには生きていくやり方と、いろんな知恵を教え込んだ。
 だけどあたしには教えられないことがある。
 それは人との付き合い方だ。
 あんたは人間の世界で生きていかなくちゃならない」

 ジュルチャガは人の世界に興味があった。
 いつかザリアと別れて人の世界に行くんだという思いが固まったころ、ザリアはある行き倒れの男を助けた。
 ザリアはその男は悪党だが純なところもあり、生きていく力の強い人間だと感じた。
 それでその男にジュルチャガを託した。
 その男はザリアとの約束を守り、ジュルチャガに自分の持つ最高のわざを教え込んだ。
 つまり、盗みのわざである。
 また、男は口先三寸で物を売りつけたり相手を言いくるめたりすることも得意であった。
 そうしたわざを、ジュルチャガはつるりと飲み込んでみせた。
 男はひどく感心した。
 男自身口もたち足も速かっただけに、ジュルチャガの資弁捷疾(しべんしようしつ)類いまれなることに驚倒した。
 そこで男は、俺は一流の盗賊だが、お前は歴史に名を残す大盗賊になれるぞ、とジュルチャガを褒めた。
 人に褒められるということのなかったジュルチャガは、大盗賊になれるという予言をこの上なく誇らしく受け止めた。
 男は騎士にからまれた娘を助けようとして騎士に斬り殺された。
 だまし討ちそのもののやりかたで。
 ジュルチャガは、騎士、すなわち貴族から盗む盗賊になった。
 それだけではない。
 ジュルチャガは、貴族のやり口というものを学んだ。
 もう二度と裏をかかれることのないように。

 ザリアは、自分のことについては多くを語らなかった。
 薬草や野菜を調べながら辺境の山野をめぐり歩いてこの地に着いたらしい。
 この森の南端近くにはいくつもの村があったという。
 いずれも辺境をさまよってたどり着いた旅人が、身を寄せ合うようにしてできた村だ。
 この村の場合、村にザリアが来たというより、ザリアが野菜や薬草を育てている場所に人が集まり、村のようになったらしい。
 子どもまでいれても三十二人という小さな村だったが。
 ゲリアドラの実の粉に冒されたのは、別のどこかの村だったようだ。
 すでに悪魔の虫たちは人間たちを苗床に増え広がり、粉をまき散らして辺り一帯を滅ぼしかけていた。
 気付くのがあまりに遅すぎた。
 強い風の吹くこの時期にゲリアドラの粉が舞い散れば、どれほど被害が広がるかも分からない。
 だが火を付けたのは錯乱した村人だったらしい。
 ザリアは火を調整することもできず、ただ子どもたちを守ってこの小屋に閉じこもるしかなかったという。
 特別なわざを使って小屋と子どもたちは守り通したものの、力尽きて倒れてしまったのだ。




 6

 子どもたちは、バルドとカーズとジュルチャガが食事の前に手のひらを組んで目を閉じるのを見て、不思議がった。
 神様と食べ物に感謝の祈りをささげてるんだよ、とジュルチャガが言い聞かせると、子どもたちもまねするようになった。
 子どもの回復力というものは大したもので、六日もたつとやけどの跡も癒えてきた。
 あと二、三日したら出発することができるだろう。
 ずっと南のほうに下れば、人が住んでいる地域もある。
 ジュルチャガの見立てでは、ヒマヤの港まで行っても五十からせいぜい六十刻里のはずだという。
 ただしそれは直線距離であって、実際に進む距離はそれより多い。
 老人と子どもを連れてでは一日に二、三刻里しか進めないかもしれないが、とにかく焼け野原では不便すぎるし危険すぎる。
 この辺りはもともと野獣の非常に多い地域なのだ。
 樹海を出てからバルドたちも何度も襲われた。
 ここには住めない。
 いったいどうしてこんな所に小さいとはいえ村が成り立っていたのか不思議なほどである。
 いずれにしても、すべてが焼け落ちてしまった今、ここに住むことはできない。
 そこで、子どもたちを連れて南のほうに行くことにした。

 ところが、この話を聞いた子どもたちが、反対の声を上げた。
 絶対にこの地を離れないという。
 ザリアによると、この子の親たちは、この地に着けた幸運をひどく感謝していて、ここは神様が自分たちにお与えくださった土地だと信じ切っていたという。
 そして困ったことに、ザリア自身も、自分はこの地でやることがあるから離れる気はない、と言い出した。
 子どもたちはできれば連れて行ってほしいが、子どもたち自身がどうでも動かないようなら、あたしが面倒をみるよ、というのだ。

「バルド。
 ジュルチャガ。
 なに、大丈夫さ。
 あんたたちが思ってるより、ここはずっと暮らしやすい。
 安心して出発しな。
 あんたたちのおかげで、子どもたちは生き延びられた。
 ありがとよ」

 つまりザリアは、自分と子どもたちを置いて旅に出るように、とバルドたちに言っているのだ。
 それを聞いて、子どもたちは不安そうな目つきでジュルチャガを見た。

「に、兄ちゃん。
 行くのか?」

「おにーちゃん。
 行っちゃうの?」

「行っちゃだめ!」

 子どもたちは騒ぎ出し、ついには泣きながらジュルチャガにしがみついた。
 ごくわずかな時間ではあったが、ジュルチャガは子どもたちに心を開き、誠心誠意その面倒をみた。
 子どもは敏感である。
 今やジュルチャガは、子どもたちにとってなくてはならない庇護者であった。
 生きていくための唯一の希望といってもよい。
 そのジュルチャガが自分たちを置いて旅立ってしまうと知り、子どもたちは泣いてすがったのだ。
 ジュルチャガは、馬鹿だなあ、お前たちを置いて行くわけないだろ、と言って子どもたちを抱きしめた。

「旦那。
 わりーんだけどさ。
 おいらの旅はここまでらしいや」

 子どもたちをあわれむジュルチャガの気持ちを、バルドは尊いと思った。
 ジュルチャガはこの子たちを置いては行かないと決めたようだ。
 それもジュルチャガの運命かもしれない。
 ジュルチャガの村はゲリアドラに滅ぼされた。
 それをジュルチャガはどうすることもできなかった。
 愛しき者、大切な者は、すべて消え去ったのだ。
 だが今目の前に同じ目に遭った子どもたちがいて、手を伸ばせば救うことができるのだ。
 なるほど。
 ジュルチャガは、この子たちを置いては行かないだろう。

 では、わしも残ろう、とバルドは思った。
 バルドはフューザに拒否されたように感じていた。
 あのマヌーノのすみかはすでにフューザであったという。
 ところが奥に進んでフューザに上ることはできないといわれた。
 それでバルドは東にうかいしてフューザを目指そうとした。
 ところがそこでも、奇怪な草や沼に阻まれ、フューザのほうに向かうことができなかった。
 そして、まるで神々の導きを受けたかのように、この地に着いた。
 おそらく今はまだ、フューザに登るべき時期ではないのだ。
 その時が来れば、登れるだろう。
 それまで、フューザにほど近いこの辺りにとどまるのもよい。
 ただしこの場所ではだめだ。

 バルドは言った。
 子どもたちの面倒をみるのはよい。
 家を作り直すのも結構じゃ。
 わしらも手伝おう。
 じゃが、この場所はだめじゃ。
 もう少し南の、火事が及んでおらん場所に移ったほうがよい、と。

「だめさ。
 この子らはね。
 ここがいーんだ。
 父ちゃんや母ちゃんが暮らしてて、いっぱい思い出のある、この場所がいいんだ。
 ここを離れていい所を見つけてもね。
 だめなんだ。
 ほんとはあそこにいたかった、って。
 ずーっと、ずうっと、そう思う。
 いつまでたっても、その気持ちは消えないんだ」

「お兄ちゃん。
 行かないの?」

「ここに残るのか」

「ああ!
 残るとも。
 残って、おいらは。
 おいらは、お前たちの本当の兄ちゃんになるっ」

 子どもたちは、口々に、兄ちゃん、お兄ちゃんと言いながら、あらためてジュルチャガにしがみついた。

「よしよし。
 大丈夫だ。
 確かにここには何にもない。
 みいんな焼けちまった。
 それがどうした。
 なければ作ればいい。
 ここに村を作るんだ」

「ふぇふぇふぇ。
 するとお前が村長(むらおさ)というわけかの、ジュルチャガ」

 ザリアの言葉に、ジュルチャガがびっくりしたような目をした。

「む、村長?
 おいらが?」

 子どもたちがまた口々に、むらおさ、兄ちゃんむらおさ、と言い出した。

「い、いや。
 おいら、そんなのできないよ。
 だっておいら、盗賊だぜ。
 どろぼーなんだぜ。
 泥棒が村長になったなんて話、聞いたこともないや。
 村長が要るんなら、ザリアがやってくれよ」

「こりゃ。
 こんな年寄りをいつまでもこきつかうんじゃないよ。
 こういうことは若い元気な者がやるもんさね」

 ザリアに叱られて、ジュルチャガは周りを見回した。
 といっても子どもを村長にするわけにもいかない。
 バルドのほうも見たが、バルドは静かに首を振った。
 年寄りに頼るなと、今言われたばかりなのだ。
 カーズのほうも見たが、すぐに視線を外した。
 この男ほど村長に向かない人間もいない。

「で、でもやっぱり。
 元泥棒が村長じゃ、まずいんじゃないかなあ」

 そう言うジュルチャガに、子どもたちが次々に呼び掛けた。

「オレだって、どろぼーぐらい、したことあるぞっ」

「あたいもある!」

「あたしもがんばるっ」

「うそついたことある」

「おれもっ」

「俺は殺し屋だった」

 最後のはカーズである。
 たまに口を開いたかと思えば、とんでもないことを言い出した。
 さすがに子どもたちも、ちょっとおびえた目で見ている。

「ま、まあ確かに騎士ってのは、人を殺すのが仕事みたいなもんだけどさ。
 そんなふうに言うもんじゃないよ、カーズ。
 子どもたちが怖がってるじゃないか」

「怖かった」

「カーズ、こあい」

 ジュルチャガがうまくごまかした。
 それから少し押し問答があったあと、結局ジュルチャガが村長を引き受けることになった。
 となると、村の名前を決めなくてはならんのう、とバルドは言った。
 こんなわずかな人数で村であるといっても何になるだろう。
 だが新しく何かを始めるときには、名を付け、ここは村であると言ってしまったほうがよい。
 物事はそうして始まるものなのだ。
 意外にも、ジュルチャガはすぐに、そんならいい名前がある、と言った。

「えへへへへ。
 おいらたちの村に、ぴったりの名前があるんだ。
 さあっ。
 命名するぞ。
 神々よ、聞き届けたまえ。
 ここに我ら、村を作る。
 その名は、フューザリオン!
 すべての神々よ。
 ここに集いてフューザリオンの誕生を神々の記録に刻みたまえ。
 しかしてその前途を祝福したまえ!」

 みんな拍手してうれしそうに笑った。
 子どもたちも、意味を分かってか分からずにか、ふゅーざりおん、ふゅーざりおん、むら、むら、とはしゃいでいる。

 バルドはあきれ、感心した。
 フューザリオン。
 なんという気宇壮大な名付けか。

 王のことをエリオンあるいはイリオンと呼ぶのは、アリオン、つまり(いだ)くもの、という言葉に由来する。
 王とは民を(いだ)きいつくしむものであるからだ。

 フューザリオンという言葉を語義通りに受け止めれば、〈フューザが(いだ)くもの〉という意味になる。
 村の名前だとすれば、〈フューザに(いだ)かれし村〉という意味になるだろう。

 だが(いだ)かれる者はまた(いだ)き返す者でもある。
 ゆえにフューザリオンという言葉は、フューザに抱かれるものという意味であると同時に、フューザを抱き返すものをも意味している。
 フューザを抱き返すだけの巨大さを備えている、ということである。

 すなわち、フューザリオンという名は、霊峰フューザを抱え込むほどの巨人を思い起こさせる。
 あるいは、フューザに君臨しその高き山頂から世界を睥睨(へいげい)する大神を彷彿(ほうふつ)とさせる。
 老人二人、大人二人、子ども五人のこの村ともいえないちっぽけな村が、まるで世界の中心だと宣言しているかのようではないか。
 なんとも豪儀で雄大な名付けである。

 自分で宣言しておいて、その言葉に照れたらしいジュルチャガは、小屋の外に出た。
 降り続けた雨がやっと終わり、辺りは奇麗に晴れ上がっている。

「あああああっ!
 み、みんなっ。
 外に出てみてっっ」

 ジュルチャガが大声を出している。
 何事かと一同は外に出た。
 ジュルチャガがフューザのほうを指さしている。
 みんな息を飲んだ。

 視界を埋め尽くしてその広大な裾野を広げる大フューザ。
 その横に巨大な虹が出ている。
 くっきりと、すべての色を(あざ)らかに浮かび上がらせて。
 見たこともないほど大きな虹なのであるが、驚くべきことに、その下側にも映し絵のように小さな虹が出ている。
 二重の虹だ。
 神々が約束事をするとき、虹を描いてそれに約束の文言を刻む。
 これほど大きいしかも二重の虹を描くとは、神々はどんな大きな約束をしたのだろう。

「あっちにもあるー」

 ミヤの言葉に振り向いた一同は、今度こそ声を失った。
 村の南には広大な平野が広がっているが、その南から南東にかけては大きな山脈が遠望される。
 その山々に足を下ろして巨大な虹が天空にある。
 その虹も二重である。

 天の一角と天の一角で、対峙(たいじ)するかのように立ち上る二つの二重の虹。
 奇瑞(きずい)である。
 この神々からの贈り物を、時間のたつのも忘れて一同は見つめた。




10月19日「祝福の大地(前編)」に続く
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