娘の命が惜しかったら、今日の試合ワザと負けるんだ
「頼む…娘の声を聞かせてくれ…っ!」
「ダメだ。いいか?娘の命が惜しかったら、今日の試合ワザと負けるんだ」
「そんな…!?」
「出来ないのか?愛する一人娘の命と、サッカーの決勝戦…エースストライカーさんよ、大事な方を選ぶんだな」
「負けたら…ワザと負けたら娘は助けてくれるんだな!?」
「ああ。約束しよう」
人気のないスタジアムの通路で、俺は通話の切れた携帯をしばらく呆然と握りしめていた。娘の命とサッカーの試合だって?天秤にかけるまでもない、答えはもう決まっている。
「ゴオオオオォォォォォル!!!どうした服部!!これで前半で既にハットトリックだぁ!!」
「今日の服部くんには鬼気迫るものを感じますね」
「ええ!これで赤坂FCの勝ちが俄然確実なものとなってきました!」
その後俺は交代を告げられるまでに強引に2点をもぎ取った。これで良かったんだ…娘の顔を思い浮かべながら、俺は天を仰いだ。
「パパァ~!」
「美由紀!」
駆け寄ってくる娘を抱きかかえながら、俺は溢れる涙を堪えきれずにいた。本当に無事でよかった。やはりどう考えても、試合よりも娘の命の方が大事に決まっている。しばらくその場で再会を喜び合ったあと、後ろで見守っていた警官に頭を下げた。
「ありがとうございました…!本当に、なんとお礼を言っていいか」
「構いませんよ。誘拐犯を逮捕するのが僕らの仕事ですから。怪しいと思って正解でした」
「同僚でも友人でも、誰かが気づいてくれるだろうと…本当にありがとうございました」
「もう二度とこんな危険な賭けは止してくださいよ…オウンゴールを5回も決めちゃうなんて」