マヤ文明の裏事情2
カレンダー作りをやめてから早数千年が過ぎたある日のこと。地球は大きな経済発展を成し遂げ、人々が幸せになり始めた頃、マヤ暦のことがちらほらと報道されつつあった。そんなある日。
「なあ、俺たちもなんだか有名人ってやつじゃないか?」
「おまえなあ……誰のせいだと思ってる、こんな大騒ぎになってるの。おまえがカレンダー作りやめろって言ったから俺はやめたんだぞ。それをなんだ、すっかり有名人だなんて気取って」
「ええっ、俺のせいかよ。おまえが二日酔いしてもうやめたって言ったじゃねえかよ」
「もうどっちでもいいよ……書き続けたほうが賢明かな。どうだろう……。でもなあ、ここまで来ちゃったら今更書き始めて発掘されましたなんて、洒落にならんしなあ」
ぱっとしない会話を繰り返しているのは例によってあのときの二人だ。そう、XとY。彼らはマヤ文明の栄えたメキシコ南東部に地下室を作って生活していた。ちゃんとテレビだってある。ずいぶんと現代っ子の暮らしになった。ちゃっかり炊飯器なんて置いて電気を使う生活をしている。
「また書き始めるつもりか? やめとけ、書かないほうがいいと思うぜ」
「何で」Xは卵かけご飯を食べながら訊いた。メキシコ南東部に卵かけご飯があること自体が少し怪しいのだが。「何で書かないほうがいいんだ」
「だってさ、今頃書いたって人類ががっかりするだけだ」
「人類って、おまえも人類だろ」
少し突っ込むと、卵かけご飯のお茶碗を流しに投げ入れてからテレビに目を映した。ユーロ100円割れ目前などというのは彼らにはよく分からない。
「ユーロって、何だろうな。うまいものかな」
Yは興味深そうにXに訊いた。すると、驚くなかれXはすらすらと答えた。
「ユーロってのは、1993年にヨーロッパ連合、つまりEUが発足した後、EU加盟国のなかで2002年から流通が始まった通貨のことだ。別に食いもんじゃない」
「へえ、なんでおまえそんなこと知ってるんだよ」
つらつらと述べた言葉にはゆるぎないものがあった。Xは密かに勉強をしていた。少なくとも、Yよりは頭脳明晰だという自負までしている。
「とにかく、作るか作らないかは別として、ちょっと怪しくなってきた世界情勢を見るのも悪くはない」
「へっ、くだらん、カレンダーなんて。仲間の遺志を継いでそんなに頑張るか。まったく、おまえのそういうところ、蕁麻疹がでるほど嫌いだ」
「まあそう思っているならそれでいいさ。俺だっておまえよりは頭がいいと自負してるからな」
「頭悪くて悪かったな。なんじゃい、今日のおまえ。卵にクスリでも入ってたか」
Yは勢いでそう言うと、テレビのスイッチを切った。Xは鼻で笑うと、立ち上がって言った。
「すまないな、これから俺は出掛ける。この時代の最先端、原子力発電所でも見に行って来る。テレビのスイッチを切ってくれて感謝するよ」
「おいおい、ちょっと待て。原発ぐらい俺も知ってる。ついていかせろ」
「俺は除線作業に行くんだぜ、これから日本まで。俺だって何かしら協力がしたい。日本の大地震が心配なんだよ」
それは色々な意味を込めてXが言ったことだった。すると、それを察知したかのように再び地面に座った。そしてそっぽを向く。
「あー、どうせ俺は協力できない駄目男ですよーだ」
「そうだ、その通りだ。だからおまえは来るなと俺は仄めかした」
「行って来いよ、畜生、ああもうっ。帰ってくるな、おまえなんかっ」
Xは支度を済ませると、肩掛け鞄を持って天井のダクトへ登った。結構な地下に部屋があるので、そのまま地上に上がることは不可能なのだ。
「おう、帰ってこないかもしれないから」
そう言ってダクトの格子扉を閉めようとしたとき、Yが声をあげた。Xは再び格子扉を開けると下を覗いた。「おいどうした」
「別に、帰ってきてほしいわけじゃないんだからな。だけど、できれば帰って来いよ」
「おまえにツンデレやられても、気持ち悪いだけだ。それじゃあな」
そう言うとダクトの中に消えていった。一人取り残されたYは、テレビを再びつけてアニメを見始めた。ニュースなど興味がないといった感じだ。
「大事だけどな、ニュースもな。よし、憶えておこう、1993年にEU発足で、2002年にユーロ流通開始だったかな。ヨーロッパか……きれいなんだろうな」
そして二度とカレンダーをつくろうとはしなかった。Y自信計算が苦手だった。
数年経って、Xが帰宅した。
「ただいま」
「お邪魔します」
Yが耳慣れぬ声を聞いたのはそのときだった。驚いて横たわっていた身体を起こすと、美しい日本人女性が隣に立っていた。
「ごめん、お先にリア充だ」
「てめえ……俺がここで寂しく生活している間にリア充になりやがってっ。バルス、おまえなんかバルスだ、ふざけんなよっ」
そう言って彼らは同居を始めた。しばらくYは居辛い状況が続いたとのこと。
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