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テーブルの上から食器もカトラリーもすっかり片付けられて、二つのグラスとキャンドル、おしぼりがあるきりで広々となると有薗はそこへ小さな紙袋をひょいと載せた。ポートタワーで待ち合わせたときからずっと、肩に斜めにかけたショルダーバッグとは別にぶら提げていたものである。なぜそれを?という風に真由がきょとんとしていると「開けてみて」とどうぞと手を向けて真由を促した。真由がその袋を手にしてみると、中にさらに小さな紙袋が二つ入っている。「どっち?」と訊いても「お好きな方をどうぞ」と言われ、よくわからないまま、とりあえず突っ込んだ左手に触れた方を選んで開けてみると、なにやらこまごまと詰まっている。「出してみていい?」と袋の中身をテーブルに並べてみると計十一個のご当地人形のストラップやキーホルダーだった。「ツアーのお土産。KOUが娘のためにって買ってるのを見て思いついた」「私に?」「真由さんのコレクター魂くすぐるかなと思って」「ほんとに?嬉しい、くすぐられるっ」自分への土産だと言われてあらためて見直すと、それぞれに地方の名物を表した衣裳をまとった小さな人形たちが個性を放ち、かわいくてたまらない。「こそばくって変な声が出そう」きゅっと目をつむってぷるぷると小刻みに頭を震わせて真由は喜びを目一杯はじけさせた。「めっちゃありがとう。早速一個、ケータイに着けよう。超キュート」そう言ってはしゃぎ気味にバッグから携帯電話を取り出すと、メール着信のランプが点っている。誰だろうと何の気なしに画面を開くと美樹からだった。「今日男の人と手つないでセンター街歩いてなかった?彼氏?詳細情報求む」と端的な文章に目を走らせると思わず「おやおや」と声が出た。もしや緊急の連絡かと気に掛けた有薗が「どうしたの、病院から?」と訊くのに「違う」とだけ言ってぱたっと画面を閉じてしまうと、早速台紙からはがしてコシヒカリのコスチュームの人形を付けて「じゃーん」と大げさに有薗に披露した。「何そのケータイ、色々付いてるね。若い子ほどいっぱい付けるんだよね」「永遠の十九歳ですから」と笑って、これはハリウッド映画のキャラ、地球儀、幸運を招くと友人にもらった水晶、犬、キリン、そして新入りコシヒカリ、とひとつひとつ説明した。「地球儀?確か玄関にもなかったっけ?」「よく覚えていますね。地球儀が好き。でもみんな掌サイズくらいのちっこいの。全部でいくつあるのかわからない」「僕も地球儀好きでよく眺めてる。くるくるっと回して、指でぴっと押さえたところに旅行に行ってみたいな。実際にはそんな真似できないんだけどさ。ときどき地球儀眺めて世界中旅した気分になる」「地球儀って夢があるよね」「そう思う?僕もだ」地球儀にロマンを覚える共通の感覚に二人は微笑みあった。「こんなにたくさん、ありがとう。ソノさんが、これを買う一瞬だけでも私のことを思い出してくれてるっていう事実が、とんでもなく嬉しい」人形をすべて戻すと、その紙袋を大事そうに両手で包んで胸に抱くように押し当てながら真由はそう言って優しく微笑んだ。「ツアーはまだ残ってるから、その分はまたいつかね」と有薗はさらに嬉しいことを約束してくれる。
「もうひとつも開けてみて」と催促されてようやく真由は人形の詰まった紙袋をテーブルに置くと、もうひとつの袋を手にした。「こっちはなんだろう?」今度は、あり合せの紙袋などでなくちゃんと店でラッピングされたものらしい。「開けていいの?」と確認してから中身を出してみると、紙製ながらも重厚そうな小箱である。「誕生日プレゼント」とにこりとする有薗に真由は一旦手を止めて「すごく嬉しい。お土産も十分すぎるほど嬉しいのに」と胸が熱くなる。しかし有薗は相変わらず落ち着き払っていて、にこにこしながら黙って仕草だけで箱を開けるように促す。箱に納められているのはボルドーのボディが美しい万年筆で「これってめっちゃいいやつじゃないん?恐れ多くてもらえないよ」と思いがけない誕生祝に無邪気に喜んでいた真由もさすがに冷静にならざるをえないほど、ひとめで高級品とわかる一本である。「どうして?万年筆なんか使わないかな」大いにためらいがありつつも、自分がプレゼントを喜んでいないと余計な不安を与えるのも本意でなく、真由は「ペン先は?」と訊ねた。「F」「うわ。色も形もペン先も、すべてが好み」といよいよ真由は正直に驚きを表した。「良かった。ペン先で迷ったんだよね」「細字が好きなの。だから持ってるのはみんなF」「みんなって言うほど持ってるんだ?」「ほどでもないかな。モンブランとセーラー、ノーブランドのが二本。万年筆好きです。万年筆で字を書くと気が引き締まるような感じがして好き」真由が万年筆を愛用していること、細字を好むこと、何より自分の選択がぴったり彼女の趣味にそぐうことに有薗は胸をなでおろすとともに心底嬉しそうだ。「好き。これはもう文句なく好き」半ばうっとりするように真由はペンを見つめながらも、やはりまだ受け取るには躊躇して「もったいないよ、私なんかに」と呟いた。「真由さんが受け取らなかったら捨てちゃうよ。もっともったいないよ?」「ソノさんが使えばいいじゃない」「僕がこんな赤いの?」「女友達にあげるとか」「いーや、こんなに万年筆を喜んでくれて、そしてきっと愛して使ってくれる人はあなたのほかにいない。それにもっとよくペンを見てよ」そう言われて真由はペンをくるくる回してみて「あっ」と小さく声をあげた。ペン軸に「MAYU」とネームが入っている。これはもう、真由だけの真由のためのペンである。それを見届けて「誕生日おめでとう」とあらためて有薗は祝福してくれるのだが、真由の方はまだ戸惑いの方が大きい。それでもようやくなんとか「ありがとう」とか細い声でうつむき加減に返事をすると「もっと嬉しそうな顔してほしいな」と彼の手が伸びてきてひょいと指先であごを持ち上げられた。そこでようやく真由はまっすぐに有薗を見つめた。「嬉しいの、もんのすごく嬉しいの。だけどこんないい物もらっちゃって気後れがする」「素直に受け取りなさい。僕が悲しくなる」と今度は彼の手が真由のほおにそっと優しく触れる。笑え、笑えとばかりに頬をついついと持ち上げながら、その手の持ち主は穏やかに微笑をたたえている。「ねえ、JAMANIAってファンレター届いたりする?」「何、突然。時々あるよ。ファンレターって言うより、『音楽を始めました、どうやったら楽器がうまくなりますか』的相談が多くて困るんだけど」「じゃあちゃんと読んでるんだ」「全部読んでるよ。残念ながら返事は書かないけどね」「それってファンクラブ宛?事務所宛?」「どっちでも。JAMANIA宛とわかるものならちゃんと僕らの手元にくる。なんで?」「このペンで、心を込めてお手紙を書きます。ライブの感想とか」「ほんとに?」「最初の文字は、ソノさんに宛てて書きたい」「やった!それってすげえ嬉しいよ。楽しみに待ってる。必ず見つけて読むよ」真由がまっすぐに有薗の顔を見つめてようやくゆったりと微笑んだ。「ソノさん、本当にありがとう」
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