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  透明の向こう側 作者:
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 有薗が体を離したかと思うと、彼の手はゴソゴソと布団の中を探って真由の手を掴み出し、そっと彼女の手の甲に口づけた。真由はさっきとは異なる種類の心臓の高鳴りを覚えた。繊細そうだといつも目を引かれる彼の指が、今、自分の指先を包み込んでいる。伝わってくるのは繊細さなどではなく、とてつもない温かさ。彼の指は、視覚にも触覚にも強烈なまでに大人の匂いを突きつけてくる。刺激的な匂いに惑わされ、否応なく指先に全神経を集中させられる。突然襲った極度の緊張にこらえ切れず真由はぎゅっと固く目を閉じた。と、ふとその指先が真由の手を離れた。ほっと緊張の糸が緩むが、再び布団の中でその指はさまよい、しばらくすると「柔らかい・・・」と真由の胸にそっと触れた。「あれ、この悪いお手手は何してるのかな?」そう言いつつ、真由は彼の手をつねるでも掴んで離すでもなくなすがまままだ。悪いお手手、と言われてもふふっと小さく笑うだけで有薗は構わず真由の胸をすっぽり包み込むようにしてその大きさや感触を楽しんでいるようだった。「結構大きい」と正直な感想を漏らすのには「邪魔なばっかりですよ。よかったら分けて差し上げます」と冗談を返す余裕さえある。魅惑の指先が視界から消えた瞬間から真由はいつもの穏やかな有薗への弛緩に支配されている。「いらない。こうやって触ってる方がいい」と言って顔を布団の中に突っ込み、乳房の間に顔をうずめながらきゅうと真由の体に巻きついた。「ソノさんてバイセクシャル?」思いがけず女の肉体に興味を示した有薗に対して真由は戸惑うよりも素朴な疑問が勝る。「そんなカテゴライズは無意味だと思うな」とそっけなく答える有薗の声は布団の中の人肌の温もりを加えていつも以上にしっとりとふくらみを増している。「でも私なんて色気ないでしょう」「やっぱり真由さんは鈍感だ」と有薗は肩をゆすって笑った。あなたはとても魅力的な人なんだよ。そう言ってやっても良いのだが、言ってもどうせ自分じゃ気付かないんだろう、言ってわかるくらいなら最初から他人に尋ねはしまい。まして一緒に寝ようと男をベッドに誘うなんて無防備もいいとこだ。彼女の鈍感さと無頓着さが妙にいとおしい。これまで真由は女性らしさをあまり感じさせないすがすがしさで有薗の心に侵入してきたが、今とびきりのかわいらしさを発見した、と有薗は思った。でもそのことも本人には内緒だ、とも思った。「男か女かなんて関係ないよ。魅力的な人には惹かれちゃう」「ずいぶんな博愛主義者ね」「お喋りは無用だよ」と言うと顔をばふっと布団から出し、真由の上に覆いかぶさる形にり、有薗が唇を重ねようと顔を近づけると、真由はあからさま顔をそむけた。行き場をなくした有薗の唇は真由の頬や首筋を吸った。手は、すでにトレーナーの裾から滑り込んで直接乳房に到達していた。不思議なほど、真由は何の抵抗もしなかった。有薗の手が肌や乳房をまさぐるのには嫌な風でもないのにキスを避けるのは、ちょっとしたたわむれくらいは許してもそれ以上の男の欲情を許さぬ意思か。動きを止めて、覆いかぶさる状態で上から真由を眺めてみたが、そこには格別恥じらうでもなくいつもどおり、いや、いつも以上に醒めた表情の真由がいた。本当は怒っているのかな、と思ったとき、巻きついてきた真由の両腕に押し込められるように有薗は再び胸元に顔を埋めた。有薗が思い切ってトレーナーを脱がそうとすると思いがけずきっぱりと強い口調で「明るいのはいや!」と真由の言葉が静かな夜を裂いた。明かりと言ってもベッドサイドの小さなライトが一番照明度を落としたわずかな光を放っているのみで寝室はほの暗い程度だったが、体と腕を目いっぱい伸ばして有薗はそのスイッチを切った。
 暗闇でも十分わかるほど、真由の肌は白くキメ細やかだった。しかもその肌がしっとりと湿り気を帯びて有薗の体に吸い付いてくる。
 何度か、唇を奪おうとしたが、必ずすっと避けられた。何度目かに指で真由のふっくらした下唇を柔らかになぞりながら「なぜ?」とだけ訊いた。
「愛のないキスはしない主義なの」
 それはまさに、今自分たちのしていることを「愛のない」行為だと言っているのだった。少し、胸が痛んだ。
 冷たい言葉を放つくせに、真由の肌は一層その湿り気を増してしっとりと有薗の肌に吸い寄せられるように張り付いてくる。腕や脚はますます彼を誘うようにからみついてくる。
 有薗がすうすうと寝息を立て始めたのを確認しても、真由はしばらくはまんじりともせず彼の寝顔を眺めいっていた。鼻筋のすっと通った人だな、などと冷静に観察していた。ようやく、彼が本当に眠りに落ちたと自信が持てたとき、真由はそっとベッドを抜け出してそこらにちらばっている脱ぎ捨てたものを拾うとリビングへ抱えてゆき、身に着けた。テーブルのペットボトルから水を一口飲み、タバコに火をつけた。
 何の気なしに「一緒に寝よう」と誘ったのは自分の方だった。彼がゲイだからと安心していたのか?それとも、JAMANIAのSONOに抱かれてみたかった?
 どちらも違う。真由にとってセックスは必ずしも愛情表現ではない。だから、どうでも良かった。彼が本当に女に、もしくは自分に無関心でただ朝まで一緒に眠るだけだったとしても良かったし、抱かれても何も変わらない。それがJAMANIAのSONOであろうと、有薗という一人の男だろうと答えは一緒だった。ベッドに誘うことに、何の計算も働いてはいない。抱き合う結果に転んだ今も、真由の心に相手に対して新しい感情が芽生えることはない。
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不透明人間


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