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「真由ちゃん、まさか神戸でも夜な夜な遅くまで飲んでるんじゃないでしょうね」そう言って眉間にしわを寄せつつも叔母が温かいお茶を出してくれた。「まさか、めったにお酒飲まへんし、遊びまわる時間も気持ちの余裕もないって」とぱたぱたと顔の前で手を振って真由はきっぱりと否定したが「叔父さんと同じで真由ちゃんも強いから」と半分信じていないような口調だった。 叔母は元教師で、時間や節度には人一倍厳しい。真由が昨夜帰宅したのは一時近くなってからで、普段の叔父夫婦の生活ならすでに熟睡している時間帯であった。毎日きっちり二十二時に就寝、五時には起床し、ウォーキングをする。従兄弟たちも進学や結婚で家を出るまではこの規則をしっかり守っていたらしい。家の中も彼女の人柄がよく現れていて、無駄なくきちんと整理され掃除も完璧なまでに行き届いている。子どもの頃は年に一度くらいしか会わないこの遠方の親戚が堅苦しくて苦手だったが、今となっては真由を一番心配し、家族として小言も言うありがたい人たちであった。
「お母さんのお墓参りはちゃんと行ってる?」「お彼岸には必ず。あ、でも三月に行ったときは綺麗に掃除してお花も新しかったから、先に誰か来てたみたい。尼崎の叔母ちゃんかなあ?」「尼崎の叔母ちゃんにもちゃんと連絡してる?」「うん、今の病院に採用決まったときも報告したよ。喜んでくれた」
真由の母は四人兄弟の長子で、東京に住む叔父以外に、神戸、尼崎に叔母がいる。真由の母は真由が医学部二年生のときに癌で亡くなったが、以来、真由の親代わりとして叔父、叔母たちが何かと真由を手助けしてくれているのだった。母が入院したときも、真由は大学で岡山に住んでいたためほとんどの世話は神戸と尼崎に住む叔母が交代で務めてくれていた。特に尼崎に住んでいる叔母は母と歳も近く一番仲の良い姉妹だったようで、墓参りや真由へのこまめな連絡などを絶やさないのであった。
叔父夫婦と昼食をとり、仕事のことや日々の生活のことなどひとしきり話をすると、思い出したように叔父が「真由ちゃん、今も病院は行ってるの?」と訊ねた。「うん。急患とかでどうしても行けないとき以外は」「そう。無理するんじゃないよ」それだけだったが、叔父が絶えず自分の体を気遣ってくれていることは痛いほど感じた。
たまには遊びにいらっしゃいと叔父夫婦に温かく見送られて真由は東京を後にした。
自宅に戻ると真由は着替えもせずに真っ先にCDをかけた。三月に発売されたJAMANIAの新アルバム。しばらく床にぺたりと座り込んでゆったりと全身を音楽に身を浸しながら、昨夜のライブを思い出していた。感動的な一夜だったと思う。あの時間はまさに異世界で、贅沢の極みのようだった。ずっとあんな時間が過ごせればいいのに。ずっとあの空間にいたい。今日程を調整中ということならツアーで彼らが神戸へやってくるのはきっと夏以降になるだろう。それまであのような時の過ごし方はできないのだと思うと寂しい一方で、たまにしかないからこその幸せなのだとも思った。
プレイヤーが有薗の曲を鳴らし始めたとき、真由は心臓をきゅっと絞られるような思いがし、身をかがめて胸を力いっぱい押さえた。しばらく身じろぎもせず、そうしていた。
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