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  透明の向こう側 作者:
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 終電を逃すほど遅くなるんじゃないよと釘を刺されて真由は六本木に向かった。
 ライブハウスへ行くには、六本木の駅に着いたのが少し早すぎた。適当に時間をつぶそうと付近をぶらぶらしていたところへ電話が鳴った。「今リハ済んだとこなんだけど、どうかな、ほんとに真由さん来てくれてるのかなと思って」と有薗からだった。自分がライブへ来ることをこんなにもこの人は楽しみにしてくれていたのかとのぼせる思いで六本木の駅付近にいることを伝えると「じゃあちょっとライブ前にお茶でもしようよ、待ってて」というなり電話は切れた。彼の気軽さと行動力がますます嬉しい。ライブハウスは駅から徒歩だと十分ほどのところにあり、実際、十分ほどしたらぴったり測ったように有薗が姿を見せた。「嬉しいな、真由さんが東京までライブに来てくれるなんて」その言葉を十分裏付けるだけのにこやかな表情に真由は少々戸惑いながら「東京に用事もあったから」とややつっけんどんに答えると「仕事?」と心配そうに聞き返された。東京の叔父に四月から仕事が始まったことをちゃんと報告しておきたくて来たのだと答えながら適当にコーヒースタンドを見つけ、二人はそこへ入った。「こんなところだと、ライブに来るファンに見つかっちゃわないんですか?大丈夫なんですか?」と真由は大いに不安だが「大丈夫だよ、心配しすぎ。僕はそんなに有名じゃないから」と有薗は笑い飛ばした。「ライブ終わったら、またこの店で待ち合わせしよう。少し待たせちゃうと思うけど」「ライブの余韻に浸ってます。ライブ、楽しみにしてますよ」「がんばるよ!」と有薗はぐっと力強くこぶしを顔の前で握り「後でたっぷり感想聞くよ」と得意のウインクをして見せる。よほど今日のライブに自信があるらしい。休日の六本木は神戸では考えられないほどの人の多さだった。神戸もそれなりに都会だと思っているが、東京へ来るとただの田舎に思えてしまうから不思議だ。あまりの人いきれにくらくらする思いだ。
 有薗の携帯電話が鳴り、小声で手短に話して電話を切ると「どこに行っちゃったんだって叱られちゃった。そろそろ行こうか。こっちから誘っといてごめんね」と申し訳なさそうに眉を下げながら席を立った。ライブハウスへ向かって歩いていると、真由と同じ、CDについていた招待状を持った若い男女がいた。「あの人たちもライブ行くみたい」と真由がそっとそちらを指差すと「あの招待状ね、全部のCDに入ってるわけじゃないんだよ。真由さんが当たったって聞いてびっくりしたくらい」と有薗が説明した。「え、そうなんだ。私の友達も入ってたって言ってたから、みんな入ってるのかと思った。でもそうですよね、買った人全員に当たってたらライブハウスに入りきらないですもんね」「招待状が外れた人にはコースターが付いてる筈だよ。東京へ来れない人にはそっちの方が嬉しいかもね。実用的でしょう」「いやにサービス精神旺盛なCDね」と真由がぷっと小さく噴出すと「初めて全曲オリジナルだし、メンバーも脂が乗ってきて、思い入れがあるわけですよ、それなりに」と有薗はまじめくさって答えた。「なるほど。それは、聴くほうも気を引き締めなくちゃ」と真由は表情をきっと締めつつ「ほんといいアルバムだと思いました。だから東京まで来る気にもなった」と率直に誉めた。叔父に会いに来たと言いつつ、やはり本題はJAMANIAのライブだとつい本音を漏らしてしまったことに真由自身は気付かず、有薗はそっと笑顔をほころばせた。
 ライブハウスの直前で有薗は「僕はこっちから行くから、じゃあ後で。目いっぱい楽しんで!」とひらひらと手を振って真由と別れた。ライブハウスにはすでに大勢のファンが詰め掛けていた。みな、CDに同梱されていた招待状を手にしている。開場までまだまだ時間があるのにもうこんなに?と真由は目を丸くした。しばらくしてようやく入場のための列ができ始め、真由もそこに並んだ。それからさらに三十分程してようやく開場され、入り口で招待状をチケットに引き換えて中へ入った。ライブがいよいよ始まる時刻が近づくと客はますます増え、すし詰めと言ってよいほどの混雑を呈した。比較的早くから並んでいた真由は自然、かなりステージに近い場所にいて、容赦なく後ろから押され、観客たちの期待と興奮が体に直に伝わってきた。こんなに客がぎっしり詰まって狭い空間でライブを楽しむのは久しぶりだった。静かなジャズバーか、指定席のホールコンサートしか最近は行っていない真由には熱気がほとばしる場所自体がわくわくと楽しかった。
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