婚約破棄して!!~お嬢様のお戯れ~
少々長くなっておりますが、どうぞ最後までお願いします
「あ〜うんざりですわ。」
私は言った。
窓から見えるのは広がる庭、そこに一面に生える芝生。
中央には噴水、所々に花畑
着ている服は絹製、食べているはやたら美味しい(らしい)サンドイッチ
皆様、御覧くださいこのベタ過ぎる金持ち学校な雰囲気
人によっては何がうんざりなのか一生わからないだろう
でも、私は知っている
一見微笑ましい友達付き合いには一々何かしらのお金が絡む意図があって、何かあるとすぐ金で解決、そんなこの学校の裏側を
これでうんざりしないほうが可笑しい
大体、スマホはともかくインターネットは高校になってからってどこの情報音痴を育てるつもりだ!
門限は5時、チェーン店なんて看板も見たことがない。買い物は全部使用人がやる。通学は車だからトキメキどころか外気すら無い。
そんな私にはつい最近ようやくスマホをゲットして、大衆文化というものとふれあうようになっていた
(あ〜こんな風にくだらないこと考えているぐらいなら、例のサイトでも見ますかね)
私が特にハマっているのは、インターネット小説と呼ばれるもの。
これはサラリーマンや学生など、一般の作家では無い方が暇を縫って書いているらしい
その中でも私は「ムーンライトノベル」というサイトが気に入っている
このサイトは女性向けの・・・はい、少しエッチな作品を集めているサイトでその中でも私はBLというジャンルが気に入っている
まあ、他のも堅物の私の許嫁に飽々してるから読むけど
そう、私は高校生にしてようやく真理に目覚め、腐女子となったのだ!
どれどれ、今日は・・・
(そうよ、騎士様!そこで王子さまを押し倒すの!!そう、で脱がすのよ!!」
「・・・変態」
冷たい声が突き刺さった
「え、嘘。なんで分かったの!?紗絵子。」
「否定しなさいよ!!」
当たり前じゃない!私は真理を知る者、腐女子よ!?恥ずかしがる必要などないのよ!?我が同士(オンライン上)をそんな風に言うなどユルサナイ!!
・・・はあ、はあ
この紗絵子という女子、私達の学校にスポーツ特待として編入してきた私の友人で私にこの素晴らしい大衆文化というものを教えてくれたのだが、どうにも私の趣味を理解できないらしい
全くどうしようもない奴だ
「大体、あんた、このサイト十八禁じゃないの!見つかったら没収されるわよ!?」
そう言うと彼女は無慈悲にも私のスマホを奪っていく
ああ、私の神器が・・・
失意の中にモソモソと高級サンドイッチを咀嚼する
「全く、どうして腐女子化なんてしてしまったのかしら。私の入学当初はいかにも純粋無垢なお嬢様だったのに・・・」
そんなしょうもない事を言いながら、彼女はしばらくスマホの画面をパチパチすると
「私たちはこういうの読んでればいいのよ!」
そう言いながら私にスマホを差し出してきた
そこには「悪役令嬢」「婚約破棄」の文字が
あらすじを読むと、「乙女ゲー」とやらの世界に転生し、婚約を破棄されてしまった令嬢が世間の荒波に揉まれながらも元婚約者に復讐を果たすというお話らしい
「なかなか面白そうね」
「王道なのだけれど・・・」
その夜は寝付くことが出来なかった
昼休みに紗絵子に教えてもらった「婚約破棄モノ」というジョンルの小説
私はそれに完全にハマってしまっていた
婚約という、ある意味で私達の決められている人生の象徴ともいうべきものから解き放たれ、街に飛び出すとそこに広がっているのは可能性という名の希望だ!
多少の困難はあれど、そんなものは気にしなくていいのだ
私はその夜、ひたすらに「婚約破棄モノ」を読み漁った
「というわけで、悪役令嬢になりたい!!」
「何がといわけなの?このドン・キホーテ!」
紗絵子から昨日よりさらに冷たい声が突き刺さった
今日の昼食はインドカレーだ
・・・おかしいな?カレー食べてるのに震えそうだよ?
「いやだって、許嫁あれじゃん!?」
「ああ〜、あんた許嫁好きじゃないもんね」
私の許嫁は英夢と言い地味めな感じでいつも本を読んでいる。
別に悪いやつでは無い。嫌いなわけでもない。
だが面白みもないので無関心なだけで
「で、親は大っ嫌いじゃん!!?最低じゃん!!!?」
「ああ、それは弁護の余地が無い」
うちの親は先にも述べたとおり典型的な堅物で私達の間でも今時珍しいくらい娘にうるさい文部省謹製教育ペアレンツなのだ
「だからもうこれは婚約破棄されて、親に追い出されて、婚約という楔からも解き放たれ、希望溢れる冒険へと飛び立ち、あの堅物許嫁と、文部省謹製教育ペアレンツに、絶望を植え付けるのよ!!!!!?」
「話聞けよ!?だいたいそれは隣の芝生が青いだけよ!!?」
なんか紗絵子が疲れているようだが気にしない
そんなことより、彼女にはやってもらいたいことがあるのだ
「私に協力しなさい!!これは名誉なことよ!!?」
「あんた十分悪役令嬢の素質あるわよこの馬鹿!!?」
よし、協力者一人を獲得!
この作戦、名づけて「婚約を(K)破棄(H)させよう(S)大作戦(略称KHS作戦)」を実行するにはもう一人協力者が必要だ
そう、それは乙女ゲーでいうところの「ヒロイン」だ
当然、あいつを嫌いな人や全く仲が良くない人には任せられない(そもそもいじめを受けてもらうという時点で人道的に多大な問題がある気がするが)
因みに紗栄子に打診したところ、ふざけるなと一蹴された
そんなわけで、身近な人でアイツに悪感情を抱いていない、できれば好意を抱いている人を探している
「松田さんは?」
紗絵子が提案する
松田さんはクラス1のスタイル持ちだが気が弱くそして女子に妬まれているといういかにもイジメが発生しそうな環境にいる
でも・・・
「却下、気が弱いからイジメで傷ついちゃうも知れないしそれ以前に彼女は男子生徒にかなりの人気がある。あんなヤツにやるには勿体ない」
「何様よアンタ」
はっ、夕凪様だコラ
はて、他に・・・
居た
凄くピッタリなのが
「珠樹さんだ!」
珠樹さんは私と同じクラスの・・・ロリッ子?で、部活が同じため結構親しくして貰っている
アイツと良く話しているし、微妙にえ・・・被虐願望が有るようなので、これほど良い人材は居なかった
何より、ジミに気が強いのでアイツが本気になっても断れるだろう
と、言うわけで
「ごめん、珠樹さん」
私は部活の始まる前に珠樹さんに話しかけた
何処からともなく冷気が流れ込んでいる気がするが気にしない
「何?」
可愛らしく首を傾ける珠樹さん
凄く可愛い
女でも落ちそうだ
こんなに可愛い珠樹さんにあんな男を押し付けるとか・・・どんな性悪だよ
あっ、そっか!私は今悪役令嬢、悪役令嬢悪役令嬢悪役令嬢悪役令嬢アクヤクレイジョウ!!!
「私にイジメられて頂けませんか?」
あれ?なんか口調までおかしな?
「!?喜んで!!」
なんか反応おかしいけど良し
「おい!悩めよ!多少でも良いから悩めよ!」
あっ、そこに隠れてたんだ、紗栄子
ようやく協力者集めが整った
一週間も経っていない気がするのは気にしないでほしい
だって、憧れるじゃん、大衆文化のあふれる街
私は今、一刻でも惜しい心境なのだ
さて、では具体的にどうすれば婚約を破棄され、その楽園に旅立てるのか
これは小説を参考にしてシナリオを組んでいる
1、ある程度ヒロインと婚約を破棄する人(以下 主人公)を仲良くして
2、その上で悪役令嬢がヒロインをイジメて
3、そしてそれを周囲に密告される
これで婚約破棄の完成です!
と、言うわけでステップ1
ヒロインと主人公に仲良くなって頂かなければなりません
と、言うわけでシナリオ、考えました
高校で出来た友達と遊びに行きたい。
だけど家の親は知っての通り矢鱈と頭が堅い。
ここで頼れる婚約者サマ、私たちに着いてきて下さいな
よし、カンペキ。簡単なお仕事だ
これで英夢は怪しまないだろうし、親には「友人や婚約者と親睦を深める」という言い訳が効く
食堂に英夢を呼び出し、言い訳を聞かせた
彼はあっさり信用したようだった
「で、どこ行くんだ?」
英夢が訊ねてくる
「遊園地という娯楽施設をご存知ですの?」
私はたずねた
「まあ、一応は。うちも持ってるからな。そこに行きたいのか?近くの○×ランドなら招待券を持ってくるが。」
「じゃあ4枚お願いします。」
その時、英夢の顔が綻んだ、ような気がした。そして、私はゾックッとした
当日、待ち合わせ場所に紗絵子と共に遅れて向かうと珠樹さんはすでにそこにいた。予定通りだ。
「ごめんなさい、遅れましたわ。」
私はわざとあまり反省していないふうに言った
いや、ホントは無茶苦茶悪いなと思ってるよ、うん。後悔も反省もしないけど
「さて、では行きましょうか」
さて、しばらく遊んでわかった事があった
私と紗栄子は絶叫系のアトラクションがそれほど好きではないが、珠樹さんと英夢は大好きなようだ
ただ、紗栄子は「遊園地といえばアトラクション」という固定観念があるらしく、先程から多数決の結果、絶叫系ばかり行っている
だが、この施設(拷問具)の恐ろしいところは精神のみならず肉体的にも疲労を与えるという点だ
紗栄子はそもそもスポーツ特待だし、英夢も男だからか疲れを見せていないが、私や珠樹さんの様に今まで壊れ物の様に扱われてきた令嬢という人種的には、精神的な限界の前に肉体的な限界が来た
「ごめんなさい、私たちはソコのカフェテリアで少しお休みさせて頂きますわ」
そういうと、英夢が少し申し訳なさそうな顔をしていた
「悪い、少し調子に乗りすぎていたか?」
・・・一応私に言っているもののチラチラ珠樹さんに目が言っている
計画はうまく言っているようだ
「いえいえ、気にしないで下さいな」
結果論とはいえ、珠樹さんと二人きりになった
これは後でいい方向にはたらくかも知れない
「わかった、休まったら俺の電話に連絡頼む」
さて、珠樹さんには付き合って貰っているわけだし、食べ物ぐらいは奢るべきだろう
「何か食べたいものはありますか?奢りますよ」
私は彼女に訪ねた
「いいんですか!?」
一応、彼女は遠慮していた
いたのだが・・・既にメニューに目が行っているあたり、説得力がゼロである
「ごめん、その目で言っても全然遠慮しているようには見えない。」
「ふぇ!?」
彼女は顔を真っ赤にしてうつむいた
「で、なにがいい?」
「ぜん・・・いや、あの、ぜんざいでお願いします」
彼女はなんか叫ぼうとしていたが、途中からボソボソとしてしまった
「了解、ぜんざいね。」
私はぜんざいをとってくると、彼女の前においた
「紅茶も頼んどいたけど・・・合うかは微妙ね」
因みに私が買ったのはケーキだ
「気にしないで下さいな」
彼女はそう言いつつ、既にぜんざいに手を伸ばしていた
そして、驚異的なスピードで食べ始めた
私は唖然とした
そして、唖然としている間に食べ終わってしまった。
「た、食べるのはやいんだね?」
私が訊くと彼女はハッ、という顔をし、途端に顔を赤らめ
「ご、ごめんなさい。甘いものには目がないので、つい」
度重なる出血ゾーンに耐えた私の理性がここで尽きて、思わず嗜虐本能が出てしまったのは、仕方がない・・・のかもしれない
「これはいけませんねー、唐院生ともあろうものが・・・」
「ふ、ふぇ?」
その後、私は彼女はこすぐりたくった
「そう言えばさ、さっきジェットコースター?のところで、英夢とひそひそ話してましたが、何を話していたのですか?」
少し落ち着いたところで話の繋ぎ的に出した話題は、
「ふぇ?」
彼女にとっては地雷だったようだ
ただ、顔は赤くならず、どちらかというと冷や汗を流しているようだった
「・・・浮いた話でもしていたのかと思いましたが、どうやら違うようですね。」
「そ、そうなんです!ジェットコースターは絶叫マシーンの中でももっとも怖いと伺って震えていただけなんです!」
・・・なんか、頑張って主張している感があるのが気になったが、深追いはしないでおこう
「そ、そう言えば!」
今度は彼女が話題をそらすようだ
彼女はこういうとき、反撃することが多いので気を付けなければなるまい
はてさて、何をつつかれるのか
「いつも夕凪さんは、ケータイでなに見てるんですか」
「少し淫らな小説ですわ」
スルッと、反射的に答えてしまった
後悔はしていない
「ぁれ?」
彼女は小声で疑問符を浮かべている
「ムーンライトノベルというサイトで、殿方同士が淫らな行いをする素人の方が書いた小説を読んでいますの。珠樹さんも興味がおありで?」
「ぃ、いやあの」
「ほら、この作品とかがお勧めですわよ。一度ご覧になってみてわ?」
「あ、あの!」
彼女は急に大きな声でいった
どうしのだろう
「少し、周りを見てみて下さぁ」
そこで、私は周囲をみた
突き刺さる白い目
私が目を向けるたび、スッと目をそらす
「っ、コホン」
私は咳払いをして誤魔化した
その後、居心地が悪くなった私たちは英夢達と合流し、遊び通した
さて、いよいよ最終段階、私が珠樹さんをイジメる画像だ。
いかにも、これはヒドイ!という画像でなければならず、されど私自身としては正直、珠樹さんにそこまでヒドイことはしたくない
う~ん、アイツ意外と鈍感だからな、スカートめくりじゃ「イタズラだろ」ですまされそうだし、パシりだと「罰ゲームだろ」と言って終わり
「むむむむむむ」
今回ばかりは紗栄子も思い付かない様子だ
だが、私たちは珠樹さんの覚悟を見くびっていたのかもしれない
いや、むしろ見くびっていたのは変態性か
「あ、あの・・・ムチとか首輪とかじゃないんですか?」
私たちはたっぷり10秒ほど固まってしまった
勿論、ご所望の通りにするしかなかった
「夕凪!」
ああ、ようやくこの日が来た
婚約破棄の夢に歩み始めてから一週間
思えば長かった
「この写真はなんだ!」
ようやく、夢のある町へと飛び出すことができる
ようやく、あの毒親から離れることが出来る
私は自由だ
私はただの人となるのだ
「なんで何も言わないんだ!!」
ああ、紗江子。
あなたには本当にお世話になった
私はあなたのおかげで希望を見出せた
ああ、珠樹さん。
あなたには本当に迷惑をかけた
こんな男を押し付けてしまって本当に申し訳なく思っている
「なんで私にやって下さらなかったのですか!?」
ん?
おかしいな
いや、おかしくない
欲求は身内の間で収めておけという意味か
でも、もう手遅れだよ、英夢
すでに門の外にでてしまったのだから
「私めはあなたに虐められる日を今か今かと待ちわびていたのに!」
いや、まて。
お前はまともな奴だったはずだ、英夢。
決して珠樹さんのようなドえ・・・境地wにはたどり着いていないはずだ
「あらあら、英夢さん。抜け駆けは信用を失いましすわよ?そうですよね、ご主人様」
噂をすれば何とやら
今度は珠樹さんが私の後ろにメイド服を着て首輪をつけてあらわれた。ってどおしたその格好!?
「抜け駆け?ふざけるんじゃない!この写真はなんだ!その格好はなんだ!ああ、ご主人様。なぜ私を見捨てたのですか!?やはり女性でなければならないのですか?」
主人はお前だ英夢!それから地味にイエスにかけるな!失礼だろうが!
そして珠樹!お前は胸を張って踏ん反りかえるな!「私こそがご主人様にふさわしい下僕なのですわ」とかナチョラルにいうな!普通に言うな!
そして私!これを見てゾクゾクするな
そして、そこに紗江子が現れた
「・・・なにこの魔境。夕凪、あんた責任取りなさいよ。」
勇者!
うん、まあ、なんと言うか
いじめはやめよう
私は深く深くため息をついて、
「こんなはずじゃなかったんだ」
と崩れ落ちた
最後までありがとうございました
誤字脱字アドバイス等ありましたら感想によろしくお願いします