第27話
……ナンダ……コレハ
「果竪さんっ!」
海璃が慌てて果竪へと駆け寄る。
果竪はグッタリとしていて動かない。
「果竪さん、しっかりしてっ!」
必死に叫ぶ海璃達を目玉は呆然と見つめる。
コレハナンダ……ドウシテカラダウバエナイ
目玉は混乱していた。
確かに自分の放った攻撃は果竪を貫いた。
手応えはあった。
だが、体を奪う事が出来ないのだ。
ドウシテ……ドウシテダナゼダドウシテウバエナイ
どれだけ果竪の体に入り込もうとしてもすり抜けてしまう。
マサカコノオンナ……カラダナイ?
「え?」
――カラダナイ?
――体がない?
ソウダ、ナイ、スリヌケル、デモナゼ?
この女は確かに此処に存在する。
カラダカラダカラダヨコセ
目玉は混乱しつつも体を求める。
そうだ、体だ。早く体を得なければ。
混乱と欲望、それは目玉を焦らせる。
そして目玉は海璃へと目を向けた。
カラダカラダカラダ
「くっ!」
目玉が海璃を捕える。
カラダヲヨコセ
殺す対象である海璃の体を奪おうとする目玉。
一直線に自分のもとに飛んでくる目玉に海璃は鈴を鳴らそうとするが間に合わない。
奪われる
覚悟した時だった。
「消えろゲス」
果竪の唇から放たれた言葉に海璃は目をあける。
見れば果竪の瞳は開き、しっかりと目玉を睨付けていた。
そして――
「ギャァァァァァァァァァァァァァッ!」
目玉に突き刺さる一本の触手。
その触手は果竪の肩から生えていた。
目玉が断末魔をあげながら消滅する。
それと同じくして、辺りの空気が一気に和らぐ。
あれほど禍々しかった気配は一気に消え、まるで聖域のように澄み切る空気。
それに思わず酔いしれそうになりながらも、聞こえてきた声にハッと我に返る。
「ふん……ゲスが粋がるからだ」
「か、果竪さん?」
口調も顔つきも変わった果竪に海璃が恐る恐る声を掛ける。
「何か用か?」
「え、あ、あの……」
「別にお前を助けたわけじゃない。ただ勝手に人の寝床を荒らそうとした馬鹿に制裁しただけだ」
「は、はぁ……って、寝床?」
寝床って……寝床だろうか?
「そうだ。寝床だ」
果竪の顔をしたその存在はクスリと不敵な笑みを浮かべた。
「……あの、寝床って何処ですか?」
「は?お前は目も見えないのか?お前の目の前にいるだろう」
「目の前って……まさか、果竪さん?!」
「そうだが?」
海璃は呆然とする。
果竪が寝床って……。
「ったく、今度は起すなよ」
そう言うと、果竪ではない別の誰かがさっさと目を閉じる。
「ま、待って!果竪さんはっ」
「俺が寝れば目覚めるさ。ああ、怪我の治療はしてやれよ?でないと、体に戻れなくなるからな」
そう言うと、今度こそ相手は眠ってしまった。
「ど、どうしたらいいの?」
途方にくれる海璃の質問に答えてくれるものは居なかった。
ヒタヒタ
ヒタヒタ
それはまるで妖精のような、それでいておぼつかない足取りで彼女は目的の場所へと向かう
そうしてようやく辿り着いた場所は王宮の外れの外れにある離宮
彼女はゆっくりとドアを押し開き中へと滑り込んだ
まるで踊るように裸足の足で長い廊下を進む
ヒタヒタ
ヒタヒタ
そして辿り着いた先は両開きの扉
触れれば壊れてしまいそうなほど繊細でほっそりとした手で扉を押し開ける
彼女はにっこりと笑った
ミ~ツケタ
そして立ち止まる。
奴らは気付いていない。
いや、気付いている暇がないのだ。
それほどのダメージを向こうは負ったのだから。
馬鹿な人達
愚かな人達
手を出してはいけない相手に喧嘩を売った報いだ
でもそれでもまだ自分達への支配は緩まない
それでも構わない
これが最初で最後だとしても、こうしてここに来る事が出来たのだから
月白色の髪の長い髪を靡かせながら、彼女は部屋の奥にある寝台へと歩いて行く
神秘的な美貌が暗い部屋に明かりを灯す
蠱惑的な肢体から放たれる色香、そして幻想的なまでの美しさに部屋に飾られている花が恥ずかしそうに閉じてしまう
寝台の横には、蛍花と呼ばれる少女が疲れたのか眠っていた
それを見てまたにっこりとする
そうして彼女は寝台へと近寄った
「カジュ」
それはお兄様に教えて貰った名前。
お兄様が心の中で何度も呼ぶのを聞いて覚えた。
カじゅ
彼女は笑う。
とても綺麗で、とても可愛らしい
そして凄く綺麗な魂だ
「カジュ、果じゅ、メヲあけて」
たどたどしい口調で彼女は今も眠り続ける果竪に願う。
あれからずっと眠ってしまった果竪。
蛍花以外の誰をも拒むように、誰も彼女に触れられない。
そう――自分も
「カジュ、果ジュ」
ああ、この身が酷く厭わしい。
どうして自分ではないのだろう?
どうして自分は果竪を抱き締められないのだろう?
拒まないで
受け入れて
でないと私は消えてしまう
「果ジュ、果竪」
果竪の中から漏れ出す力が私を目覚めさせてくれた
奴らの傀儡として生きてきた自分
昔から自分の意思など何も無かった
いや、意思はあったが口に出す事は出来なかった
口に出せば殴られる
意思を表わせば酷い虐待を受けた
そうしていつしか心を閉じ込めて生きてきた
物心着く前から洗脳され、心を封じられ生きてきた自分
全ては兄を堕とすために
奴らの願いを叶えるために
そんな自分をお兄様は共に堕ちる事で助けようとしてくれた
でも、果竪は堕ちた自分を引き上げようとしてくれた
無意識でも構わない
果竪の傍に居ると苦しくない、辛くない
「か竪」
ああ、もう時間がない
彼女は願う。
「ワタシタチを捨てナイデ」
貴方に捨てられたらどうしていいか分からない
だから捨てないで
捨てられたらきっとワタシタチハコワレテシマウカラ
そして……彼女――寵姫の姿はその場からかき消すように消えた。
え~~、今回は色々と出てきました。
果竪を寝床にしている謎の存在やら寵姫やら。
特に寵姫は果竪への妄愛が出てきたというか……ふっ、どんどん執着していきますよ、彼女はvv
さて、次回もよろしくお願いしますvv
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